番の巫女・改訂版~神様?!突然伴侶になれと言われても困るんですが?!~

みつまめ つぼみ

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第3章:嫉妬って怖いんですね

20.

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 ――春爛漫。その言葉が、春の風と共に空気に満ちていた。

 そんな季節の昼下がり、シルバーフォレスト王立学院高等部の校庭は昨年までと空気が違った。

 元気に駆けまわる生徒たちが、大きな声で呼びかけ合う。

「今度こそ当てろよ!」

「任せとけ!」

 男子生徒たちに対して、赤い髪の少女が応える。

「あら、さっきからそればっかりね。
 たまには有言実行してみたら?」

 布で出来た球を使った、玉避け遊びドッジボールだ。

 布球を投げ合い、避け損ねたら退場する。

 最後まで退場せずに済んだ者が勝者という、シンプルな遊びだった。

 今月に入って、一人の少女が持ち込んだ庶民の遊びだ。

 貴族子女ばかりが通うこの学院では物珍しく映り、またたく間に男子たちの間に広まった。

 生徒たちは、いくつかのグループに分かれて遊びに興じていた。

 男子に混じって、女子の姿もちらほら見える。

 男子の投げつける球を制服のまま、スカートを翻して華麗に避けて見せる。

 赤い髪の少女は、この遊びが得意だった。

「ああくそっ! また外した!」

 退場者が控える外野に布球が渡り、再び赤い髪の少女が狙われる。

 赤い髪の少女が、今度は布球を正面から受け止めて見せた。

「なんだよ! 避けるだけじゃなくて、受け止める事も出来るのかよ!」

 男子の驚愕の声に、赤い髪の少女は得意げに笑って見せる。

「あんな甘い球、受け止めてくださいと言ってるようなものよ?」

 赤い髪の少女が手首のスナップを利かせて男子最後の一人に鋭く球を投げつけた。

 事前予測した弾道よりわずかに軌道がずれ、避け損ねた男子の背中に球が当たった。

 球を当てられた男子が、心から悔しそうに地面を蹴った。

「くっそー、今日もリオが勝者かー」

 赤い髪の少女――リオが笑顔で応える。

「レオナルドも最後までよく粘ったわ。
 あなたは筋がいいわよ?」

 リオが最後まで残っていた男子――レオナルドの背中を勢いよく叩いた。

「いってぇ! そういう時までスナップ利かせなくていいんだよ!」

「あはは! ごめんね!
 ――そろそろ戻らないと昼休みが終わるわね。
 みんな、戻りましょうか!」

 生徒たちが声を上げて、ぞろぞろとリオに続いた。




****





****

 リオを先頭に、数人の女子と多数の男子が群れを成し、校庭から引き揚げて行く。

 そんなリオたちの前を、十人ほどの女子の集団が道を塞いだ。

「ちょっとあなた、誰だか知らないけれど!
 未婚の貴族子女がそうベタベタと異性に近付くのは破廉恥よ?!
 恥を知りなさい!」

 集団の中で先頭付近に居た金髪の少女が、顔をしかめてリオにけたたましく怒鳴りつけた。

 彼女の視線の先――そこには、親し気にリオの肩に乗せられたレオナルドの手がある。

 それをリオは確認してから、改めて怒鳴りつけてきた金髪の少女に顔を向け、小首をかしげた。

「あなたこそ誰かしら?
 私はあなたのことを知らないのだけれど、会ったことある?
 もしかしてレオナルドの友達?」

 金髪の少女は、さらに興奮して声を荒げる。

「エルトロ侯爵子息であるレオナルド様を呼び捨てにするなど、あなたに常識と言うものはないのかしら?!
 とにかく! 今すぐその方から離れなさい!
 身分違いという言葉すら知らないなんて、初等教育からやり直した方がよろしくてよ?!」

 リオは少女の言葉を無視してレオナルドに振り返り、尋ねる。

「ねぇレオナルド、あの子、あなたの知り合い?」

 レオナルドは肩をすくめ、目をつぶって首を横に振る。

「いーや、全く。顔も名前も知らん」

 リオのそばに居る生徒たちはニヤニヤと笑みを浮かべ、黙って状況を楽しんでいるようだ。

 その空気がさらにに癪に障ったのか、金髪の少女は顔を真っ赤にして絶句してしまった。

「――あなたは下がって。私が直接話を付けます」

 道を塞いでいた女子集団――その一番奥に控えていた女子生徒が、声を上げて最前列まで歩を進めた。

 艶やかな長い白金色の髪を縦巻きに巻き上げ、その双眸に強い矜持を湛えたている。

 高位貴族の気品をまとった少女が、リオたちの前に姿を現した。
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