上 下
19 / 28
第2章:やっぱりむかつくのでもう一度ぶん殴りますね

19.

しおりを挟む
 そろそろ朝食の時間となり、リオはサロンから引き上げ、ダイニングに向かった。

 リオがダイニングに入ると、既にミルスが先に席に着いていた。

 それを確認したリオが先に声をかける。

「おはよう、ミルス。
 まだ痛い所はある?」

「おはよう、リオ。
 すっかり治ったよ。
 だが、起きたときに既に居なくなっていたから、かなり寂しい思いはしたな」

 苦笑をしながらリオが席に着く。

「あれほど動けないとアピールしていたのに、ちゃっかり両腕で抱き着いてくるんだもの。
 そんな人から、早く逃げたかっただけよ」

 ミルスがぺろりと舌を出した。

「やはりバレていたか。
 あそこまで腕を動かすのも、相当きつかったんだがなぁ」


 朝食を口に運びながら、明るい会話が食堂に響いていた。

 その空気が新鮮で、自然とリオとミルスの顔が綻んでいく。

「ミルス殿下、僭越せんえつながら申し上げます。
 そろそろ出立しませんと、学院に間に合わなくなります」

 控えていた侍従の言葉で、ミルスが時計に目を向ける。

「おっと、うっかり時間を忘れてしまったな。
 ――さぁリオ、行こうか」

 リオが明るい笑顔でうなずき、立ち上がる。

 そのまま会話を交えながら馬車に乗り込み、車内でも会話が続いていた。


「――なんだか不思議ね。
 昨日までとすっかり世界が変わってしまったかのよう」

 ぽつりと漏らしたリオの言葉に、ミルスが笑顔を向ける。

「俺もそう感じるよ。
 少なくとも今、俺の目の前に居るのが『リオ・ウェラウルム』だという実感がある。
 だからかもしれないな」

 リオが目を見張ってミルスを見つめた。

「……私はそう名乗っても構わないのかしら」

 少し寂しそうな笑みで、ミルスが応える。

「……お前が『まだマーベリックでありたい』というなら、俺にそれを止める権利はない」

 リオは静かに首を横に振った。

「ありたいと思っている訳じゃないの。
 まだウェラウルム王家を名乗る自信がないだけよ」

「では、何の問題もない。
 お前はリオ・ウェラウルム第三王子妃。
 正真正銘、俺の妻だ。
 自信がないだなんて、リオらしくない。
 いつものお前のまま、ウェラウルムを名乗れば良い」

「……私らしく、か。
 そうね、確かにこんな態度、私らしくなかったわね。
 あなたの妻として、今日から胸を張って王家を名乗ることにするわ」

 ミルスに再び、輝かんばかりの笑顔が戻る。

「――どうだ? お前には、目の前の男が夫である実感はあるか?」

 リオが赤い瞳をしばたかせ、ミルスの瞳を見つめた。

 そして微笑みを乗せて応える。

「私はリオ・ウェラウルム。あなたの妻よ?
 ならばあなたは我が夫。
 そこに一抹の不安も在りはしないわ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

私があなたを好きだったころ

豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」 ※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】王女と駆け落ちした元旦那が二年後に帰ってきた〜謝罪すると思いきや、聖女になったお前と僕らの赤ん坊を育てたい?こんなに馬鹿だったかしら

冬月光輝
恋愛
侯爵家の令嬢、エリスの夫であるロバートは伯爵家の長男にして、デルバニア王国の第二王女アイリーンの幼馴染だった。 アイリーンは隣国の王子であるアルフォンスと婚約しているが、婚姻の儀式の当日にロバートと共に行方を眩ませてしまう。 国際規模の婚約破棄事件の裏で失意に沈むエリスだったが、同じ境遇のアルフォンスとお互いに励まし合い、元々魔法の素養があったので環境を変えようと修行をして聖女となり、王国でも重宝される存在となった。 ロバートたちが蒸発して二年後のある日、突然エリスの前に元夫が現れる。 エリスは激怒して謝罪を求めたが、彼は「アイリーンと自分の赤子を三人で育てよう」と斜め上のことを言い出した。

処理中です...