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第2章:やっぱりむかつくのでもう一度ぶん殴りますね
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リオが庭の散策を終えてサロンに辿り着く。
中に入ると、そこには制服姿のアレミアとファラが先に来て居て、静かにカップを傾けていた。
リオは驚いて目を見張っていた。
彼女に気が付いたファラが、優しく微笑みながら声をかける。
「おはよう、リオさん。待ってたのよ」
リオはためらいながらソファに腰を下ろし、紅茶が給仕される様子を眺めていた。
「……ファラさん?
『待ってた』って、どいうことかしら」
ファラが微笑みながら応える。
「なんとなく、あなたならこの時間にサロンに来るような気がしていたの。
――それで、ちゃんと話し合えたの?」
「そうね。ミルスとはそれなりに、距離を縮められたような気がするわ。
でもこの関係をなんと呼んだらいいのか。
その答えがまだ、自分の中にはみつからないみたい」
アレミアが静かに微笑んでリオに尋ねる。
「あら、あなたとミルスは夫婦なのよ?
その関係は『夫婦』で構わないのではなくて?」
リオが弱々しい微笑みを浮かべてカップに手を伸ばす。
「出会って間もない男子から、突然『もう俺たちは夫婦だ、拒否権もない』なんて言われたのよ?
すぐに納得なんてできないわ。
両親が居なくなって心の整理もつかないうちから、色んな事が起こり過ぎよ。
私の心の中は、何一つ整理がついてないの」
言い終わり、静かに紅茶を口に含む――リオの鼻腔を、茶葉の香りがくすぐっていく。
アレミアが微笑ましそうにリオに語りかける。
「朝だからかしら?
あれほど我の強いリオさんに、こんな弱い一面があるだなんて。
早起きはしてみるものね」
ファラも含み笑いを隠さずにうなずいた。
「ふふ……本当ね。
新しい義娘として迎えてくれた陛下を前にして『私はリオ・マーベリックよ』と啖呵を切って見せた、あのリオさんと同一人物とは思えないわね」
リオはあの時の事を思い返し、わずかに頬を染めた。
一国の王を前に『あんたの息子を夫とは認めていない』と、公然と言い放ったのだ。
礼儀も何も知らない、平民の小娘だから出来た事ではある。
とはいえ、それを笑って流してくれた国王の度量に感謝するしかなかった。
「陛下には、いつかお詫びをしないといけないわね」
「心配しなくても大丈夫よ。
陛下は一国の王であると同時に、あなたの義父でもあるんだもの。
あなたの事情も理解しているし、心の整理が付くまで待ってくださる度量は持ってらっしゃるわ」
アレミアもそっと言葉を添える。
「私たちも新しい義妹として、あなたを歓迎しているのよ?
困ったことや悩みがあれば、いつでも気兼ねなく相談してくれて構わないわ」
義妹と言われ、リオは心が温かくなったような気がしていた。
目の前にいるこの二人は、自分の義姉なのだという実感が、ようやく少しだけ感じられたのだ。
「……ファラさんとアレミアさんは、番に選ばれた時に心の整理をどうつけたんですか?」
ファラが静かな声で応える。
「私たちは『巫女探しの儀』で選ばれたの。
その儀式に参加する時点で、番として選ばれても構わないという覚悟が出来ていた。
そこがリオさんとは違う所ね。
あなたはあの日、突然創竜神様から番として認められてしまった。
知識も覚悟もないうちに番として認められたあなたが混乱してしまうのは、仕方がないわ」
ためらいがちにリオが切り出す。
「……実際に番として選ばれてから、戸惑ったり幻滅したりはしませんでしたか?」
アレミアが優しい笑みを浮かべながら応える。
「ヤンク様は見た目通り、表も裏もない方だったわ。
だから戸惑うことも、幻滅する事もなかった。
私はその事に関しては、恵まれていたわね」
ファラが苦笑を浮かべながら応える。
「私は、己を見失っていくエルミナ様を妻として支えることが出来なかった。
その事を恥じることはあるわね。
でも、きっといつかは立ち直ってくださると、固く信じても居たの。
だから幻滅まではしていないと思うわ。
――リオさんは、戸惑ったり幻滅したりしているの?」
「……最初は『なんだこの腑抜けた男は』と思っていたの。
だから夫と認めることが出来なかった。
でも今は、夫として認めても構わない――そう思ってる自分が居るみたい。
そんな自分に戸惑っているとは言えるかしら。
それに昨晩、ミルスから私の事を妻として認めていると言われたわ。
そのことも、私はまだ戸惑って整理できていないみたい」
ファラが優しい眼差しでリオを見つめた。
「自分が『ひとりの女性』として見られることに、まだ慣れていないのかしら?」
リオが頬を染めて、小さくうなずいた。
「有り体に言えばそうなりますかね。
――というか、私の年齢でそれに慣れていたら、逆に怖くありませんか?」
「ふふ……確かにそうかもね。
女性として見られることも、男性として見ることも慣れてない。
それで戸惑うのは仕方ないわね」
「……ファラさんとアレミアさんが『女性』として見られ始めたときは、どうしたんですか?
それはいつ頃でした?」
ファラが嬉しそうな笑顔で応える。
「あら、それを聞いちゃう?
そうねぇ、たとえば私は――」
早朝から中々にディープで赤裸々な話題が語られ、リオは顔を真っ赤にして真剣に耳を傾けた。
中に入ると、そこには制服姿のアレミアとファラが先に来て居て、静かにカップを傾けていた。
リオは驚いて目を見張っていた。
彼女に気が付いたファラが、優しく微笑みながら声をかける。
「おはよう、リオさん。待ってたのよ」
リオはためらいながらソファに腰を下ろし、紅茶が給仕される様子を眺めていた。
「……ファラさん?
『待ってた』って、どいうことかしら」
ファラが微笑みながら応える。
「なんとなく、あなたならこの時間にサロンに来るような気がしていたの。
――それで、ちゃんと話し合えたの?」
「そうね。ミルスとはそれなりに、距離を縮められたような気がするわ。
でもこの関係をなんと呼んだらいいのか。
その答えがまだ、自分の中にはみつからないみたい」
アレミアが静かに微笑んでリオに尋ねる。
「あら、あなたとミルスは夫婦なのよ?
その関係は『夫婦』で構わないのではなくて?」
リオが弱々しい微笑みを浮かべてカップに手を伸ばす。
「出会って間もない男子から、突然『もう俺たちは夫婦だ、拒否権もない』なんて言われたのよ?
すぐに納得なんてできないわ。
両親が居なくなって心の整理もつかないうちから、色んな事が起こり過ぎよ。
私の心の中は、何一つ整理がついてないの」
言い終わり、静かに紅茶を口に含む――リオの鼻腔を、茶葉の香りがくすぐっていく。
アレミアが微笑ましそうにリオに語りかける。
「朝だからかしら?
あれほど我の強いリオさんに、こんな弱い一面があるだなんて。
早起きはしてみるものね」
ファラも含み笑いを隠さずにうなずいた。
「ふふ……本当ね。
新しい義娘として迎えてくれた陛下を前にして『私はリオ・マーベリックよ』と啖呵を切って見せた、あのリオさんと同一人物とは思えないわね」
リオはあの時の事を思い返し、わずかに頬を染めた。
一国の王を前に『あんたの息子を夫とは認めていない』と、公然と言い放ったのだ。
礼儀も何も知らない、平民の小娘だから出来た事ではある。
とはいえ、それを笑って流してくれた国王の度量に感謝するしかなかった。
「陛下には、いつかお詫びをしないといけないわね」
「心配しなくても大丈夫よ。
陛下は一国の王であると同時に、あなたの義父でもあるんだもの。
あなたの事情も理解しているし、心の整理が付くまで待ってくださる度量は持ってらっしゃるわ」
アレミアもそっと言葉を添える。
「私たちも新しい義妹として、あなたを歓迎しているのよ?
困ったことや悩みがあれば、いつでも気兼ねなく相談してくれて構わないわ」
義妹と言われ、リオは心が温かくなったような気がしていた。
目の前にいるこの二人は、自分の義姉なのだという実感が、ようやく少しだけ感じられたのだ。
「……ファラさんとアレミアさんは、番に選ばれた時に心の整理をどうつけたんですか?」
ファラが静かな声で応える。
「私たちは『巫女探しの儀』で選ばれたの。
その儀式に参加する時点で、番として選ばれても構わないという覚悟が出来ていた。
そこがリオさんとは違う所ね。
あなたはあの日、突然創竜神様から番として認められてしまった。
知識も覚悟もないうちに番として認められたあなたが混乱してしまうのは、仕方がないわ」
ためらいがちにリオが切り出す。
「……実際に番として選ばれてから、戸惑ったり幻滅したりはしませんでしたか?」
アレミアが優しい笑みを浮かべながら応える。
「ヤンク様は見た目通り、表も裏もない方だったわ。
だから戸惑うことも、幻滅する事もなかった。
私はその事に関しては、恵まれていたわね」
ファラが苦笑を浮かべながら応える。
「私は、己を見失っていくエルミナ様を妻として支えることが出来なかった。
その事を恥じることはあるわね。
でも、きっといつかは立ち直ってくださると、固く信じても居たの。
だから幻滅まではしていないと思うわ。
――リオさんは、戸惑ったり幻滅したりしているの?」
「……最初は『なんだこの腑抜けた男は』と思っていたの。
だから夫と認めることが出来なかった。
でも今は、夫として認めても構わない――そう思ってる自分が居るみたい。
そんな自分に戸惑っているとは言えるかしら。
それに昨晩、ミルスから私の事を妻として認めていると言われたわ。
そのことも、私はまだ戸惑って整理できていないみたい」
ファラが優しい眼差しでリオを見つめた。
「自分が『ひとりの女性』として見られることに、まだ慣れていないのかしら?」
リオが頬を染めて、小さくうなずいた。
「有り体に言えばそうなりますかね。
――というか、私の年齢でそれに慣れていたら、逆に怖くありませんか?」
「ふふ……確かにそうかもね。
女性として見られることも、男性として見ることも慣れてない。
それで戸惑うのは仕方ないわね」
「……ファラさんとアレミアさんが『女性』として見られ始めたときは、どうしたんですか?
それはいつ頃でした?」
ファラが嬉しそうな笑顔で応える。
「あら、それを聞いちゃう?
そうねぇ、たとえば私は――」
早朝から中々にディープで赤裸々な話題が語られ、リオは顔を真っ赤にして真剣に耳を傾けた。
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