81 / 102
第4章:温かい家庭
81.アウレウス王との謁見
しおりを挟む
アウレウス王国の王都に到着した私たちは、すぐさま王城に向かった。
私とジュリアス、ユルゲン兄様の三人で、アウレウス王への謁見を願い出る。
王城で私たちが案内されたのは、意外なことに小さな軍議室だった。
軍議室には、まだ私たちしか来ていない。
私たちを案内した兵士は、扉の外で待機しているようだ。
ジュリアスが困惑しながらつぶやく。
「隣国の使節を招き入れる場所じゃありません。
いったいどうなってるんだ」
通常、国王への謁見なら風通しの良い広間に通される。
それがいきなり密閉した軍議室だ。
この中の会話は、外に漏れることがない。
お茶を出す気配すらない。
『これから内緒話をします』と言っているようなもの。
ユルゲン兄様が、のんきな顔で私に告げる。
「中々にきな臭いねぇ。
ヒルダ、君はこれからどんな話になると予想する?」
私は考えを巡らせながら応える。
「そうですね……。
『王族を奪還するまで、手を出さないで欲しい』と来るか。
あるいは――」
私の言葉の途中で、背後の重たい扉が開いた。
扉から現れたのは、アウレウス王族の装束に身を包んだ男性。
これが国王、フィリップ・アウレウスだろう。
そのいかめしい顔つきは軍人さながらだった。
鋭い目つきは肉食獣のようにギラギラとしている。
その体はよく鍛え上げられていた。
たぶん、戦場でも先陣を駆けるタイプの王だろう。
私たちは立ち上がり、国王に礼を取る。
「レブナント王国より和平使節としてまいりました。
グランツ伯爵夫人、ヒルデガルト・フォン・ファルケンシュタインでございます」
アウレウス王がうなずいて応える。
「国王のフィリップ・アウレウスだ。
まぁ座ってくれ。
早速、話をしよう」
私たちは国王が座るのを確認してから、改めて腰を下ろす。
軍議室の鉄の扉が閉め切られ、中の話は外に届かなくなった。
室内に居るのは国王と私たちだけだ。
アウレウス王が口火を切る。
「片目の精霊眼、特等級魔導士と聞いてはいるが。
こんな若い淑女が和平使節とは、我が国も随分と甘く見られたものだな」
アウレウス王の侮る視線が私を射抜いていた。
だけど、その表情は精彩が欠けているように見える。
『心配ごとがある』、そんな顔だ。
私は淑女の笑みを浮かべて応える。
「それは勘違い、というものですわ。
我々はアウレウスとエシュヴィアの緊張状態を解消するために、この場に居ます。
そのためならば、この身を賭す覚悟くらいは、できてましてよ?」
「その身を賭す、ね……」
値踏みをするような眼差しで、アウレウス王は私に応えた。
『お前のような小娘に何ができる』と言わんばかりだ。
私は微笑を崩さずに応える。
「アウレウス王、謁見の間ではなく、この部屋に私たちを招きましたね?
陛下は我々に頼みごとがあったのではありませんか?
そう、例えば――『エシュヴィアに誘拐されたアンナ王女を極秘裏に奪還する』、とか」
私の言葉で、アウレウス王が目を見開いて驚いていた。
「……なぜ、そう思った」
「王族がさらわれた、という噂話を小耳にはさんだだけですわ」
アウレウス王には『家族を奪われた怒り』より、『大切な人の身を案じる』気配が強かった。
アウレウスの王族で国王がその身を案じるとしたら――。
さらわれたのは、屈強な軍人である息子たちではなく、まだ幼いアンナ王女だろう。
そしてアウレウス王の願いが、アンナ王女を秘密裏に奪還することなら、話が早い。
私たちが代わりにアンナ王女を無事に奪還すればいい。
それでアウレウスには報復を諦め、矛を収めてもらう。
「――そのお約束を頂けるなら、必ず我々が王女を取り戻してみせましょう」
これがお互いの最善。
アウレウス王は愛娘を取り戻し、体面を保つことができる。
レブナントは無駄に国力を疲弊させずに済む。
アウレウス王の私を見る目が変わっていく。
ギラギラとした警戒する目付きが、娘を心配する父親のものへと変貌していった。
「……君は『自分ならば娘を無事に取り戻せる』と、そう言うのだな?」
「我々なら、アウレウスの人間が潜り込むより、遥かにたやすくエシュヴィアに入れます。
奪還した王女は、連れてきた使用人に紛れ込ませれば、隠すのも簡単でしょう。
問題は、王女が今どこに居るのか。お心当たりはございますか?」
アウレウス王がうなずいて応える。
「奴らとしても、アンナをさらった事実は極力伏せておきたいはずだ。
奴らの最善は『我々が理由なく攻め入り、それを返り討ちにする』ものだろうからな。
自分たちの挑発行為が、人目に触れることないようにしているだろう」
私はユルゲン兄様を見て告げる。
「兄様、この場合で一番可能性が高い場所は、どこだと思いますか?」
兄様は自分の顎を指でつまみながら応える。
「そうだねぇ……現地で調査した方がいいものではあるけれど」
今回は恐らく、宰相の独断である可能性が高いだろう。
こんな野蛮な手を、穏健なエシュヴィア公王が許すとは思えない。
ならば、宰相の息がかかった場所だ。
「――エシュヴィアに入り次第、ピックアップしてしらみつぶしかな」
私はその言葉にうなずき、アウレウス王を見て告げる。
「我々がその場所からアンナ王女を奪還し、使節団に潜伏させてアウレウスに帰国させる。
その後、アウレウス王はエシュヴィア公王と秘密会談を設け、緊張状態を解いてもらう。
――こんなプランでよろしいですか?」
アウレウス王はしばらく考えたあと、私の目を見てうなずいた。
「アンナが無事に戻ってくるならば、我々も矛を収めよう。
宰相の独断ならば、それを公王に知らせれば、お互いが納得もできよう」
「わかりました。では、そのようにいたしましょう」
アウレウス王は「では、よろしく頼む」と言い残し、軍議室を後にした。
****
王城から宿に向かう馬車の中、ユルゲン兄様は頬を緩ませていた。
「いやぁ期待以上だね、君は。
私が告げた不確定な噂話ひとつから、事態をここまで持って来れるなんて」
まったく光明が見えなかった緊張状態の解消。
それに確かな道筋が見えた。
確かにこれは、はるかな前進だ。
私はユルゲン兄様の言葉に、苦笑で応える。
「その『噂話ひとつ』が値千金だっただけですわ」
両国が必死に隠したがっている情報。
その噂をこの短期間で入手すること、それ自体が難しかったはず。
やっぱりユルゲン兄様は、腕利きの諜報員なのだろう。
兄様が笑顔のまま私に応える。
「アウレウス王と実際に交渉をしたのは君だ。
もう少し自信を持っていいよ」
そうは言うけど、たぶんユルゲン兄様が交渉をしても、同じ結果を得られた気がする。
あるいはレブナント王国宰相、ルドルフ兄様でも、同じだっただろう。
私がそう伝えると、ユルゲン兄様が楽しそうに微笑んだ。
「私は諜報部、目立つことはできないし、したくない。
兄上は今、別件で手が離せないからね」
ああ、それで自分から発言をしなかったのか。
諜報員が国外交渉で率先して動いて、名前や顔が知れ渡ると困るんだな。
私は今後の予定をユルゲン兄様に確認する。
「では早速、明日この国を出発しましょう。
エシュヴィアに着き次第、兄様には情報を集めて頂きます。
情報がつかめ次第、奪還作戦を立案し実行する。
――これでよろしいですか?」
ユルゲン兄様がうなずいた。
「連れて来ている部下を駆使すれば、一、二週間で絞り込みができると思う。
それまで君は、のんびりしてるといい」
私は黙ってうなずいた。
『のんびり』なんて言われても、そんな空気じゃないよね。
王女はまだ十二歳、さらわれてから三週間以上経過してる。
私は自分にできることを探してやってみるか。
ジュリアスがぽつりとつぶやく。
「必要なら、いつでも手伝いますからね」
私は微笑んで、「ありがとう」とジュリアスの手を握った。
私とジュリアス、ユルゲン兄様の三人で、アウレウス王への謁見を願い出る。
王城で私たちが案内されたのは、意外なことに小さな軍議室だった。
軍議室には、まだ私たちしか来ていない。
私たちを案内した兵士は、扉の外で待機しているようだ。
ジュリアスが困惑しながらつぶやく。
「隣国の使節を招き入れる場所じゃありません。
いったいどうなってるんだ」
通常、国王への謁見なら風通しの良い広間に通される。
それがいきなり密閉した軍議室だ。
この中の会話は、外に漏れることがない。
お茶を出す気配すらない。
『これから内緒話をします』と言っているようなもの。
ユルゲン兄様が、のんきな顔で私に告げる。
「中々にきな臭いねぇ。
ヒルダ、君はこれからどんな話になると予想する?」
私は考えを巡らせながら応える。
「そうですね……。
『王族を奪還するまで、手を出さないで欲しい』と来るか。
あるいは――」
私の言葉の途中で、背後の重たい扉が開いた。
扉から現れたのは、アウレウス王族の装束に身を包んだ男性。
これが国王、フィリップ・アウレウスだろう。
そのいかめしい顔つきは軍人さながらだった。
鋭い目つきは肉食獣のようにギラギラとしている。
その体はよく鍛え上げられていた。
たぶん、戦場でも先陣を駆けるタイプの王だろう。
私たちは立ち上がり、国王に礼を取る。
「レブナント王国より和平使節としてまいりました。
グランツ伯爵夫人、ヒルデガルト・フォン・ファルケンシュタインでございます」
アウレウス王がうなずいて応える。
「国王のフィリップ・アウレウスだ。
まぁ座ってくれ。
早速、話をしよう」
私たちは国王が座るのを確認してから、改めて腰を下ろす。
軍議室の鉄の扉が閉め切られ、中の話は外に届かなくなった。
室内に居るのは国王と私たちだけだ。
アウレウス王が口火を切る。
「片目の精霊眼、特等級魔導士と聞いてはいるが。
こんな若い淑女が和平使節とは、我が国も随分と甘く見られたものだな」
アウレウス王の侮る視線が私を射抜いていた。
だけど、その表情は精彩が欠けているように見える。
『心配ごとがある』、そんな顔だ。
私は淑女の笑みを浮かべて応える。
「それは勘違い、というものですわ。
我々はアウレウスとエシュヴィアの緊張状態を解消するために、この場に居ます。
そのためならば、この身を賭す覚悟くらいは、できてましてよ?」
「その身を賭す、ね……」
値踏みをするような眼差しで、アウレウス王は私に応えた。
『お前のような小娘に何ができる』と言わんばかりだ。
私は微笑を崩さずに応える。
「アウレウス王、謁見の間ではなく、この部屋に私たちを招きましたね?
陛下は我々に頼みごとがあったのではありませんか?
そう、例えば――『エシュヴィアに誘拐されたアンナ王女を極秘裏に奪還する』、とか」
私の言葉で、アウレウス王が目を見開いて驚いていた。
「……なぜ、そう思った」
「王族がさらわれた、という噂話を小耳にはさんだだけですわ」
アウレウス王には『家族を奪われた怒り』より、『大切な人の身を案じる』気配が強かった。
アウレウスの王族で国王がその身を案じるとしたら――。
さらわれたのは、屈強な軍人である息子たちではなく、まだ幼いアンナ王女だろう。
そしてアウレウス王の願いが、アンナ王女を秘密裏に奪還することなら、話が早い。
私たちが代わりにアンナ王女を無事に奪還すればいい。
それでアウレウスには報復を諦め、矛を収めてもらう。
「――そのお約束を頂けるなら、必ず我々が王女を取り戻してみせましょう」
これがお互いの最善。
アウレウス王は愛娘を取り戻し、体面を保つことができる。
レブナントは無駄に国力を疲弊させずに済む。
アウレウス王の私を見る目が変わっていく。
ギラギラとした警戒する目付きが、娘を心配する父親のものへと変貌していった。
「……君は『自分ならば娘を無事に取り戻せる』と、そう言うのだな?」
「我々なら、アウレウスの人間が潜り込むより、遥かにたやすくエシュヴィアに入れます。
奪還した王女は、連れてきた使用人に紛れ込ませれば、隠すのも簡単でしょう。
問題は、王女が今どこに居るのか。お心当たりはございますか?」
アウレウス王がうなずいて応える。
「奴らとしても、アンナをさらった事実は極力伏せておきたいはずだ。
奴らの最善は『我々が理由なく攻め入り、それを返り討ちにする』ものだろうからな。
自分たちの挑発行為が、人目に触れることないようにしているだろう」
私はユルゲン兄様を見て告げる。
「兄様、この場合で一番可能性が高い場所は、どこだと思いますか?」
兄様は自分の顎を指でつまみながら応える。
「そうだねぇ……現地で調査した方がいいものではあるけれど」
今回は恐らく、宰相の独断である可能性が高いだろう。
こんな野蛮な手を、穏健なエシュヴィア公王が許すとは思えない。
ならば、宰相の息がかかった場所だ。
「――エシュヴィアに入り次第、ピックアップしてしらみつぶしかな」
私はその言葉にうなずき、アウレウス王を見て告げる。
「我々がその場所からアンナ王女を奪還し、使節団に潜伏させてアウレウスに帰国させる。
その後、アウレウス王はエシュヴィア公王と秘密会談を設け、緊張状態を解いてもらう。
――こんなプランでよろしいですか?」
アウレウス王はしばらく考えたあと、私の目を見てうなずいた。
「アンナが無事に戻ってくるならば、我々も矛を収めよう。
宰相の独断ならば、それを公王に知らせれば、お互いが納得もできよう」
「わかりました。では、そのようにいたしましょう」
アウレウス王は「では、よろしく頼む」と言い残し、軍議室を後にした。
****
王城から宿に向かう馬車の中、ユルゲン兄様は頬を緩ませていた。
「いやぁ期待以上だね、君は。
私が告げた不確定な噂話ひとつから、事態をここまで持って来れるなんて」
まったく光明が見えなかった緊張状態の解消。
それに確かな道筋が見えた。
確かにこれは、はるかな前進だ。
私はユルゲン兄様の言葉に、苦笑で応える。
「その『噂話ひとつ』が値千金だっただけですわ」
両国が必死に隠したがっている情報。
その噂をこの短期間で入手すること、それ自体が難しかったはず。
やっぱりユルゲン兄様は、腕利きの諜報員なのだろう。
兄様が笑顔のまま私に応える。
「アウレウス王と実際に交渉をしたのは君だ。
もう少し自信を持っていいよ」
そうは言うけど、たぶんユルゲン兄様が交渉をしても、同じ結果を得られた気がする。
あるいはレブナント王国宰相、ルドルフ兄様でも、同じだっただろう。
私がそう伝えると、ユルゲン兄様が楽しそうに微笑んだ。
「私は諜報部、目立つことはできないし、したくない。
兄上は今、別件で手が離せないからね」
ああ、それで自分から発言をしなかったのか。
諜報員が国外交渉で率先して動いて、名前や顔が知れ渡ると困るんだな。
私は今後の予定をユルゲン兄様に確認する。
「では早速、明日この国を出発しましょう。
エシュヴィアに着き次第、兄様には情報を集めて頂きます。
情報がつかめ次第、奪還作戦を立案し実行する。
――これでよろしいですか?」
ユルゲン兄様がうなずいた。
「連れて来ている部下を駆使すれば、一、二週間で絞り込みができると思う。
それまで君は、のんびりしてるといい」
私は黙ってうなずいた。
『のんびり』なんて言われても、そんな空気じゃないよね。
王女はまだ十二歳、さらわれてから三週間以上経過してる。
私は自分にできることを探してやってみるか。
ジュリアスがぽつりとつぶやく。
「必要なら、いつでも手伝いますからね」
私は微笑んで、「ありがとう」とジュリアスの手を握った。
10
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる