上 下
52 / 102
第3章:金色の輝き

52.困った人たち

しおりを挟む
「つーかーれーまーしーたー」

 私は自分の部屋に戻ってすぐに、着替えもせずにベッドに倒れ込んでいた。

 苦笑いするウルリケに立たせてもらい、部屋着に着替える。

 ミルクティーを入れてもらい、それでようやく一息ついていた。

「なぜファルケンシュタインの男性陣は、ああも個性的なんですか?!」

 お父様にルドルフ兄様、そしてライナー様。

 誰も彼も、一筋縄じゃいかない人たちだ。

 この調子だと、ユルゲン様も曲者なんだろうなぁ。

 そんな一族に名を連ねることになるジュリアス。

 こういう時は、彼の徹底したマイペースぶりが頼もしい。

 だけどルドルフ兄様もライナー様も、私にとっては危険な存在。

 ジュリアスは私を守るために、どんな無茶でもやってしまいそうだ。

 なるだけ本家には近寄らない方が良いだろう。

 ……ライナー様か。

 今夜のダンスの様子は、招待客を経由して噂が広まっていくはず。

 婚約早々に横恋慕されるとか、格好の話題だ。

 頭の痛い問題だなぁ。




****

 翌朝、朝食の席でお父様に尋ねてみる。

「ねぇお父様。
 私たちの婚姻は、いつ頃を考えているのですか」

 お父様は少し考えてから応える。

「今は一年後くらいをめどに、と考えているよ」

 と、いうことは余裕があるのかな。

「卒業後すぐに、ではないのですね?」

 お父様がうなずいた。

 結婚したら、お父様はグランツ領伯爵の爵位をジュリアスに譲るつもりらしい。

 卒業後に半年ぐらいをかけて、領地経営を引き継ぐ予定だとか。

 実際にどのくらい時間がかかるかは、ジュリアスの才覚次第だろう。

 つまりジュリアスが領主としてやっていけると判断したら、結婚にゴーサインが出る。

 案外、気が早いのかな?

「でもそうなると、お父様は無爵になってしまいますわね。
 どう過ごされるおつもりなのですか?」

 お父様が楽しそうに微笑んだ。

「お前には私の魔術、そのノウハウをすべて託そうと思っている。
 その後はお前たちや孫たちに囲まれて、のんびりと余生を過ごすさ」

「では学院の最高責任者は、どうなるのですか?
 そちらも引退されるのでしょうか」

 お父様がうなずいた。

 慣例では、グランツ領伯爵が学院の最高責任者を任されるらしい。

 つまり、結婚後はジュリアスが引き継ぐことになる。

 学院を守護する結界はしばらくの間、お父様がサポートしてくれるそうだ。

 だけど私やジュリアスに、そちらのノウハウも伝えるつもりらしい。

 ジュリアスは領地経営と学院経営を見ないといけないから大変だ。

 となると、なるだけ私もサポートしていった方が良いだろう。

 最高責任者のやることなんて、それほど多くはないらしいけど。

 ほとんどは学院の役員たちが話し合いで決めるそうだ。

 役員が決めたことを承認するのが、最高責任者の主な業務なのだとか。

 お父様が私に告げる。

「お前は卒業後、どうするつもりだい?」

「フランツ殿下から、『傍仕えになれ』と言われてます。
 ですからジュリアスと一緒に、卒業後すぐに宮廷魔導士になると思いますわ」

 お父様がうなずいて応える。

「お前たちは優秀だ。
 最初はジュリアスが大変かもしれないが、お前がサポートに回ってやるといい。
 新人の宮廷魔導士なら、任される仕事も大したことはないけどね」

 これで、私とジュリアスの結婚プランがはっきりした。

 つまり、あと一年間はライナー様をしのがないといけない。

 このことは、お父様に相談しておくべきかなぁ。

 でもまだダンスを一曲踊っただけ。

 様子見するしか、ないんだろうな。


 私はお父様にハグをしてから、ジュリアスが待つ馬車へと向かった。




****

 学院では早速、夜会の噂が出回ってるようだった。

 情報通のエマが楽しそうに教えてくれる。

「やっぱりライナー様のこと、かなり噂になってるよー」

 そんなに話題性があるのか、あの人。

 厄介だなぁ。

 クラウが心配そうに私に告げる。

「次の夜会はどうするの?
 下手をすると、ライナー様もお見えになるわよ」

 今度の夜会はクラウの知人から誘われたものだ。

 私も貴族として生きると決めた以上、人脈作りは欠かせない。

 だから積極的に社交場に出ようと決めていた。

 今週末も、お茶会に誘われてるし。

「もちろん夜会には参加しますわよ?
 それに、ライナー様ひとりを捌けないようでは、淑女は務まりませんでしょう?」

「そう……でも本当に気を付けてね?」

 心配そうなクラウの言葉に、私は微笑みで応える。

「ええ、ありがとうクラウ。
 大丈夫、気を付けますわ」




****

 午後の魔術授業の時間になった。

 整列するみんなの前で、お父様が告げる。

「授業の前に、シュテルンの今後の予定を伝えておく」

 来月から、『特別課外授業』を行うらしい。

 目的は『実戦経験を積むこと』。

 つまり、危険を伴う遠征を行うと宣言された。

 対象者は定期試験で落第しなかった生徒たち。

 そして特別課外授業はグランツの正式なカリキュラムではないので、参加は任意らしい。

 特別課外授業の結果は、成績として記録されない、ということだ。

 それでも実戦経験を積みたい人間だけが、参加を希望することになる。

 私はお父様に尋ねる。

「いきなり実戦経験なんて、大丈夫なんですか?」

 シュテルンには、第一王子であるフランツ殿下が居る。

 下手なことはできないはずだ。

 お父様がうなずいて応える。

 なんでも、バックアップ――予備戦力を連れて行く予定らしい。

 王国軍から予備戦力を派遣して、殿下や他の生徒たちの身を守ってくれる。

 とはいえ、任せきりでは実戦経験を積むことができない。

 あくまでも予備戦力は『いざというとき』の備えだと強調された。

 原則は『自力で対処するように』とのことだ。

 実戦経験――お父様がシュテルンを作った、一番の理由かもしれない。

 特別課外授業を行う余裕がある生徒を選抜し、学生の内から経験を積ませる。

 そんな生徒たちは優秀な人間が多いはず。

 彼らに学院では得られない学びを与え、さらなる進歩を促すつもりなんだ。

 なるほど、『エリート中のエリート』は伊達じゃないってことか。


 お父様がみんなの顔を見回してうなずいた。

怖気おじけづく者はいないようだね。
 では皆、そのつもりで勉学に励みなさい。
 ――では授業を開始する」


 私たちは指定された鍛錬を行いながら、特別課外授業について話し合っていた。

「殿下は今回の話、ご存じでしたか?」

「いや? 俺も初耳だ。
 だが実戦を踏まえた護衛となると、予備戦力は魔術騎士団だろうな。
 あいつらの対応力は国内随一だ」

 通常の騎士団は≪身体強化≫に特化して鍛え上げられれている。

 強いけど、対応力という点では兵士と大差がない。

 だけど魔術騎士団は≪身体強化≫をはじめ、多数の魔術を扱える騎士たちだ。

 様々な戦局に対応できるように鍛え上げられているらしい。

 魔術に秀でた騎士なんて、貴族の中でも一握り。

 騎士団とは言うけど、人数自体は少ないらしい。

 それでも『国内の精鋭部隊』と呼ばれる戦力を保持している。

 それが彼ら、レブナント魔術騎士団だ。

 魔術騎士団か。嫌な予感がする。

「まさか、ライナー様が来る、なんてことはありませんわよね」

 フランツ殿下がのんきに応える。

「あいつは部隊長だぞ?
 生徒の課外授業についてくるほど、暇じゃないだろ」

 クラウが不安気に告げる。

「でもあの方、何をされるかわからないもの。
 油断は出来ないわよ?」

 杞憂であって欲しいなぁ。

 ――神様、お願いします!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

竜人の王である夫に運命の番が見つかったので離婚されました。結局再婚いたしますが。

重田いの
恋愛
竜人族は少子化に焦っていた。彼らは卵で産まれるのだが、その卵はなかなか孵化しないのだ。 少子化を食い止める鍵はたったひとつ! 運命の番様である! 番様と番うと、竜人族であっても卵ではなく子供が産まれる。悲劇を回避できるのだ……。 そして今日、王妃ファニアミリアの夫、王レヴニールに運命の番が見つかった。 離婚された王妃が、結局元サヤ再婚するまでのすったもんだのお話。 翼と角としっぽが生えてるタイプの竜人なので苦手な方はお気をつけて~。

処理中です...