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第3章:金色の輝き
52.困った人たち
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「つーかーれーまーしーたー」
私は自分の部屋に戻ってすぐに、着替えもせずにベッドに倒れ込んでいた。
苦笑いするウルリケに立たせてもらい、部屋着に着替える。
ミルクティーを入れてもらい、それでようやく一息ついていた。
「なぜファルケンシュタインの男性陣は、ああも個性的なんですか?!」
お父様にルドルフ兄様、そしてライナー様。
誰も彼も、一筋縄じゃいかない人たちだ。
この調子だと、ユルゲン様も曲者なんだろうなぁ。
そんな一族に名を連ねることになるジュリアス。
こういう時は、彼の徹底したマイペースぶりが頼もしい。
だけどルドルフ兄様もライナー様も、私にとっては危険な存在。
ジュリアスは私を守るために、どんな無茶でもやってしまいそうだ。
なるだけ本家には近寄らない方が良いだろう。
……ライナー様か。
今夜のダンスの様子は、招待客を経由して噂が広まっていくはず。
婚約早々に横恋慕されるとか、格好の話題だ。
頭の痛い問題だなぁ。
****
翌朝、朝食の席でお父様に尋ねてみる。
「ねぇお父様。
私たちの婚姻は、いつ頃を考えているのですか」
お父様は少し考えてから応える。
「今は一年後くらいをめどに、と考えているよ」
と、いうことは余裕があるのかな。
「卒業後すぐに、ではないのですね?」
お父様がうなずいた。
結婚したら、お父様はグランツ領伯爵の爵位をジュリアスに譲るつもりらしい。
卒業後に半年ぐらいをかけて、領地経営を引き継ぐ予定だとか。
実際にどのくらい時間がかかるかは、ジュリアスの才覚次第だろう。
つまりジュリアスが領主としてやっていけると判断したら、結婚にゴーサインが出る。
案外、気が早いのかな?
「でもそうなると、お父様は無爵になってしまいますわね。
どう過ごされるおつもりなのですか?」
お父様が楽しそうに微笑んだ。
「お前には私の魔術、そのノウハウをすべて託そうと思っている。
その後はお前たちや孫たちに囲まれて、のんびりと余生を過ごすさ」
「では学院の最高責任者は、どうなるのですか?
そちらも引退されるのでしょうか」
お父様がうなずいた。
慣例では、グランツ領伯爵が学院の最高責任者を任されるらしい。
つまり、結婚後はジュリアスが引き継ぐことになる。
学院を守護する結界はしばらくの間、お父様がサポートしてくれるそうだ。
だけど私やジュリアスに、そちらのノウハウも伝えるつもりらしい。
ジュリアスは領地経営と学院経営を見ないといけないから大変だ。
となると、なるだけ私もサポートしていった方が良いだろう。
最高責任者のやることなんて、それほど多くはないらしいけど。
ほとんどは学院の役員たちが話し合いで決めるそうだ。
役員が決めたことを承認するのが、最高責任者の主な業務なのだとか。
お父様が私に告げる。
「お前は卒業後、どうするつもりだい?」
「フランツ殿下から、『傍仕えになれ』と言われてます。
ですからジュリアスと一緒に、卒業後すぐに宮廷魔導士になると思いますわ」
お父様がうなずいて応える。
「お前たちは優秀だ。
最初はジュリアスが大変かもしれないが、お前がサポートに回ってやるといい。
新人の宮廷魔導士なら、任される仕事も大したことはないけどね」
これで、私とジュリアスの結婚プランがはっきりした。
つまり、あと一年間はライナー様をしのがないといけない。
このことは、お父様に相談しておくべきかなぁ。
でもまだダンスを一曲踊っただけ。
様子見するしか、ないんだろうな。
私はお父様にハグをしてから、ジュリアスが待つ馬車へと向かった。
****
学院では早速、夜会の噂が出回ってるようだった。
情報通のエマが楽しそうに教えてくれる。
「やっぱりライナー様のこと、かなり噂になってるよー」
そんなに話題性があるのか、あの人。
厄介だなぁ。
クラウが心配そうに私に告げる。
「次の夜会はどうするの?
下手をすると、ライナー様もお見えになるわよ」
今度の夜会はクラウの知人から誘われたものだ。
私も貴族として生きると決めた以上、人脈作りは欠かせない。
だから積極的に社交場に出ようと決めていた。
今週末も、お茶会に誘われてるし。
「もちろん夜会には参加しますわよ?
それに、ライナー様ひとりを捌けないようでは、淑女は務まりませんでしょう?」
「そう……でも本当に気を付けてね?」
心配そうなクラウの言葉に、私は微笑みで応える。
「ええ、ありがとうクラウ。
大丈夫、気を付けますわ」
****
午後の魔術授業の時間になった。
整列するみんなの前で、お父様が告げる。
「授業の前に、シュテルンの今後の予定を伝えておく」
来月から、『特別課外授業』を行うらしい。
目的は『実戦経験を積むこと』。
つまり、危険を伴う遠征を行うと宣言された。
対象者は定期試験で落第しなかった生徒たち。
そして特別課外授業はグランツの正式なカリキュラムではないので、参加は任意らしい。
特別課外授業の結果は、成績として記録されない、ということだ。
それでも実戦経験を積みたい人間だけが、参加を希望することになる。
私はお父様に尋ねる。
「いきなり実戦経験なんて、大丈夫なんですか?」
シュテルンには、第一王子であるフランツ殿下が居る。
下手なことはできないはずだ。
お父様がうなずいて応える。
なんでも、バックアップ――予備戦力を連れて行く予定らしい。
王国軍から予備戦力を派遣して、殿下や他の生徒たちの身を守ってくれる。
とはいえ、任せきりでは実戦経験を積むことができない。
あくまでも予備戦力は『いざというとき』の備えだと強調された。
原則は『自力で対処するように』とのことだ。
実戦経験――お父様がシュテルンを作った、一番の理由かもしれない。
特別課外授業を行う余裕がある生徒を選抜し、学生の内から経験を積ませる。
そんな生徒たちは優秀な人間が多いはず。
彼らに学院では得られない学びを与え、さらなる進歩を促すつもりなんだ。
なるほど、『エリート中のエリート』は伊達じゃないってことか。
お父様がみんなの顔を見回してうなずいた。
「怖気づく者はいないようだね。
では皆、そのつもりで勉学に励みなさい。
――では授業を開始する」
私たちは指定された鍛錬を行いながら、特別課外授業について話し合っていた。
「殿下は今回の話、ご存じでしたか?」
「いや? 俺も初耳だ。
だが実戦を踏まえた護衛となると、予備戦力は魔術騎士団だろうな。
あいつらの対応力は国内随一だ」
通常の騎士団は≪身体強化≫に特化して鍛え上げられれている。
強いけど、対応力という点では兵士と大差がない。
だけど魔術騎士団は≪身体強化≫をはじめ、多数の魔術を扱える騎士たちだ。
様々な戦局に対応できるように鍛え上げられているらしい。
魔術に秀でた騎士なんて、貴族の中でも一握り。
騎士団とは言うけど、人数自体は少ないらしい。
それでも『国内の精鋭部隊』と呼ばれる戦力を保持している。
それが彼ら、レブナント魔術騎士団だ。
魔術騎士団か。嫌な予感がする。
「まさか、ライナー様が来る、なんてことはありませんわよね」
フランツ殿下がのんきに応える。
「あいつは部隊長だぞ?
生徒の課外授業についてくるほど、暇じゃないだろ」
クラウが不安気に告げる。
「でもあの方、何をされるかわからないもの。
油断は出来ないわよ?」
杞憂であって欲しいなぁ。
――神様、お願いします!
私は自分の部屋に戻ってすぐに、着替えもせずにベッドに倒れ込んでいた。
苦笑いするウルリケに立たせてもらい、部屋着に着替える。
ミルクティーを入れてもらい、それでようやく一息ついていた。
「なぜファルケンシュタインの男性陣は、ああも個性的なんですか?!」
お父様にルドルフ兄様、そしてライナー様。
誰も彼も、一筋縄じゃいかない人たちだ。
この調子だと、ユルゲン様も曲者なんだろうなぁ。
そんな一族に名を連ねることになるジュリアス。
こういう時は、彼の徹底したマイペースぶりが頼もしい。
だけどルドルフ兄様もライナー様も、私にとっては危険な存在。
ジュリアスは私を守るために、どんな無茶でもやってしまいそうだ。
なるだけ本家には近寄らない方が良いだろう。
……ライナー様か。
今夜のダンスの様子は、招待客を経由して噂が広まっていくはず。
婚約早々に横恋慕されるとか、格好の話題だ。
頭の痛い問題だなぁ。
****
翌朝、朝食の席でお父様に尋ねてみる。
「ねぇお父様。
私たちの婚姻は、いつ頃を考えているのですか」
お父様は少し考えてから応える。
「今は一年後くらいをめどに、と考えているよ」
と、いうことは余裕があるのかな。
「卒業後すぐに、ではないのですね?」
お父様がうなずいた。
結婚したら、お父様はグランツ領伯爵の爵位をジュリアスに譲るつもりらしい。
卒業後に半年ぐらいをかけて、領地経営を引き継ぐ予定だとか。
実際にどのくらい時間がかかるかは、ジュリアスの才覚次第だろう。
つまりジュリアスが領主としてやっていけると判断したら、結婚にゴーサインが出る。
案外、気が早いのかな?
「でもそうなると、お父様は無爵になってしまいますわね。
どう過ごされるおつもりなのですか?」
お父様が楽しそうに微笑んだ。
「お前には私の魔術、そのノウハウをすべて託そうと思っている。
その後はお前たちや孫たちに囲まれて、のんびりと余生を過ごすさ」
「では学院の最高責任者は、どうなるのですか?
そちらも引退されるのでしょうか」
お父様がうなずいた。
慣例では、グランツ領伯爵が学院の最高責任者を任されるらしい。
つまり、結婚後はジュリアスが引き継ぐことになる。
学院を守護する結界はしばらくの間、お父様がサポートしてくれるそうだ。
だけど私やジュリアスに、そちらのノウハウも伝えるつもりらしい。
ジュリアスは領地経営と学院経営を見ないといけないから大変だ。
となると、なるだけ私もサポートしていった方が良いだろう。
最高責任者のやることなんて、それほど多くはないらしいけど。
ほとんどは学院の役員たちが話し合いで決めるそうだ。
役員が決めたことを承認するのが、最高責任者の主な業務なのだとか。
お父様が私に告げる。
「お前は卒業後、どうするつもりだい?」
「フランツ殿下から、『傍仕えになれ』と言われてます。
ですからジュリアスと一緒に、卒業後すぐに宮廷魔導士になると思いますわ」
お父様がうなずいて応える。
「お前たちは優秀だ。
最初はジュリアスが大変かもしれないが、お前がサポートに回ってやるといい。
新人の宮廷魔導士なら、任される仕事も大したことはないけどね」
これで、私とジュリアスの結婚プランがはっきりした。
つまり、あと一年間はライナー様をしのがないといけない。
このことは、お父様に相談しておくべきかなぁ。
でもまだダンスを一曲踊っただけ。
様子見するしか、ないんだろうな。
私はお父様にハグをしてから、ジュリアスが待つ馬車へと向かった。
****
学院では早速、夜会の噂が出回ってるようだった。
情報通のエマが楽しそうに教えてくれる。
「やっぱりライナー様のこと、かなり噂になってるよー」
そんなに話題性があるのか、あの人。
厄介だなぁ。
クラウが心配そうに私に告げる。
「次の夜会はどうするの?
下手をすると、ライナー様もお見えになるわよ」
今度の夜会はクラウの知人から誘われたものだ。
私も貴族として生きると決めた以上、人脈作りは欠かせない。
だから積極的に社交場に出ようと決めていた。
今週末も、お茶会に誘われてるし。
「もちろん夜会には参加しますわよ?
それに、ライナー様ひとりを捌けないようでは、淑女は務まりませんでしょう?」
「そう……でも本当に気を付けてね?」
心配そうなクラウの言葉に、私は微笑みで応える。
「ええ、ありがとうクラウ。
大丈夫、気を付けますわ」
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午後の魔術授業の時間になった。
整列するみんなの前で、お父様が告げる。
「授業の前に、シュテルンの今後の予定を伝えておく」
来月から、『特別課外授業』を行うらしい。
目的は『実戦経験を積むこと』。
つまり、危険を伴う遠征を行うと宣言された。
対象者は定期試験で落第しなかった生徒たち。
そして特別課外授業はグランツの正式なカリキュラムではないので、参加は任意らしい。
特別課外授業の結果は、成績として記録されない、ということだ。
それでも実戦経験を積みたい人間だけが、参加を希望することになる。
私はお父様に尋ねる。
「いきなり実戦経験なんて、大丈夫なんですか?」
シュテルンには、第一王子であるフランツ殿下が居る。
下手なことはできないはずだ。
お父様がうなずいて応える。
なんでも、バックアップ――予備戦力を連れて行く予定らしい。
王国軍から予備戦力を派遣して、殿下や他の生徒たちの身を守ってくれる。
とはいえ、任せきりでは実戦経験を積むことができない。
あくまでも予備戦力は『いざというとき』の備えだと強調された。
原則は『自力で対処するように』とのことだ。
実戦経験――お父様がシュテルンを作った、一番の理由かもしれない。
特別課外授業を行う余裕がある生徒を選抜し、学生の内から経験を積ませる。
そんな生徒たちは優秀な人間が多いはず。
彼らに学院では得られない学びを与え、さらなる進歩を促すつもりなんだ。
なるほど、『エリート中のエリート』は伊達じゃないってことか。
お父様がみんなの顔を見回してうなずいた。
「怖気づく者はいないようだね。
では皆、そのつもりで勉学に励みなさい。
――では授業を開始する」
私たちは指定された鍛錬を行いながら、特別課外授業について話し合っていた。
「殿下は今回の話、ご存じでしたか?」
「いや? 俺も初耳だ。
だが実戦を踏まえた護衛となると、予備戦力は魔術騎士団だろうな。
あいつらの対応力は国内随一だ」
通常の騎士団は≪身体強化≫に特化して鍛え上げられれている。
強いけど、対応力という点では兵士と大差がない。
だけど魔術騎士団は≪身体強化≫をはじめ、多数の魔術を扱える騎士たちだ。
様々な戦局に対応できるように鍛え上げられているらしい。
魔術に秀でた騎士なんて、貴族の中でも一握り。
騎士団とは言うけど、人数自体は少ないらしい。
それでも『国内の精鋭部隊』と呼ばれる戦力を保持している。
それが彼ら、レブナント魔術騎士団だ。
魔術騎士団か。嫌な予感がする。
「まさか、ライナー様が来る、なんてことはありませんわよね」
フランツ殿下がのんきに応える。
「あいつは部隊長だぞ?
生徒の課外授業についてくるほど、暇じゃないだろ」
クラウが不安気に告げる。
「でもあの方、何をされるかわからないもの。
油断は出来ないわよ?」
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