11 / 102
第1章:精霊眼の少女
11.はじめてのお茶会(3)
しおりを挟む
ルイーゼ様がニコリと笑って告げる。
「クラウが友人と認めたなら、私たちとも友人よ。
仲良くしましょうね」
ルイーゼ様は大人びた少女だ。
同年代というより、一世代上に感じるくらい。
長い髪はカールしていて、ふわふわと柔らかい印象を受ける。
クッキーをちまちまと口に運びながら、エミリ様が告げる。
「初対面でクラウが認めるなんて、珍しいこともあるものね。この人見知りが」
エミリ様は幼い印象を持った少女だ。
おでこを出すヘアスタイルが、なおさら幼さを強調している。
アストリッド様が微笑みながら告げる。
「それも貴族になって、まだ一か月なんだって?
よくまぁクラウがそこまで気を許したね」
少し口調が荒っぽいのが特徴だろうか。
姉御肌という言葉が良く似合う。
私はおずおずと告げる。
「みなさま……いえ、わたくしも驚いてまして。
夢じゃないかと、まだ疑ってるくらいなんです」
私ははにかみながら応えた。
ティーカップを手に取って、紅茶を一口飲む。うん、緊張で味がしない!
みんなの視線が、なぜか私の手元に集中していた。
ルイーゼ様が微笑ましそうに告げる。
「あら可愛らしい。
クラウにもこれくらい可愛げがあったらいいのにね」
可愛げ、とは。
クラウになかったら、他の誰にあるの?
クラウがルイーゼ様に告げる。
「ルイズ? 口が過ぎると後で悔いることになるわよ?」
その儚い微笑みは、どこか『圧』を感じるものだった。
あれ? なんかクラウが怖い?
エミリ様が私に顔を寄せて告げる。
「ヒルデガルト様、今のご覧になった?
クラウの本性はね、すっごく怖い子なのよ?」
エミリ様が言い終わると同時に、クラウの顔だけがグリンとエミリ様に向いた。
「ねぇエマ? 先日の夜会を覚えてる?
『豚子爵』から誰があなたを守ってあげたのか、忘れたのかしら?」
今、クラウの口から『聞いてはいけない単語』が飛び出たような?
……気のせいだよね! 緊張しすぎだ!
エミリ様が笑みをこぼしながら応える。
「感謝してるってばー。あの豚、しつこいんですもの。
人間の言葉が通じない相手ほど、困るものはないわね」
辟易したかのように両手を広げるエミリ様。
よっぽどしつこかったのかな。
クラウが儚い微笑みのまま告げる。
「その『人間の言葉が通じない豚』の相手を、一時間もしてあげたのよ?
ちゃんとお返しはしてもらいますからね」
また何か聞こえた気がする……気のせい気のせい!
エミリ様が笑いながら応える。
「何言ってるのよ。あの後、自分の親衛隊をけしかけたでしょ?
それとなく臭わせて豚を制裁したの、知ってるんだから」
ああ、神様。これは私が聞いていてもいい会話なのでしょうか。
知ってはいけないクラウの秘密が垂れ流されて行く。
エミリ様がクスクスと笑みをこぼしながら告げる。
「ほーらー。ヒルデガルト様、困っちゃってるじゃない。
初心者なんだから、もう少して加減してあげましょう?」
――は?! これじゃいけない! ここは戦場!
私はとっさに我に返り、頭が真っ白のまま口を開く。
「あの! わたくしのことは『ヒルダ』とお呼びください!」
ガゼボの時間が停止した。
みんなが唖然として私を見つめている。
――いま私、何を口走った?!
私は顔を火照らせたまま、手を必死に動かしてなんとかフォローできないかと言葉を探っていた。
だけどこのあと、どう取り繕っていいのかさっぱりわからない。
言葉を出せない私を見て、クラウたち四人が顔を見合わせ、ニコリと微笑みあっていた。
四人が一斉に私に振り向き、自分たちの顔を指さした。
「私はルイズ」
「私はエマ」
「私はリッド」
「――そして、私がクラウよ。
私たち、良い友達になれそうじゃない?」
クラウの微笑みは、まるで子供が新しいおもちゃを与えられたような印象を受けた。
新しいおもちゃ――つまり、私か。
そうか、それが本性なのかクラウ。
彼女には、逆らわないでおこう……。
****
私は乾いた笑いで紅茶を一口飲み、気分を落ち着けた。
クラウが私に告げる。
「ねぇヒルダ、あなた私たちと同い年だったわよね?
グランツはどうするの?」
この場に居る全員が、今年で十五歳になるはずだ。
私はうなずいて応える。
「グランツには、春から通うことになります。
私は初年度からカリキュラムを受けるので、みなさまとは学年違いですわね」
ガゼボの隣のテーブルから、お父様が声を上げる。
「ヒルダー! お前は編入だ! 全員同学年だよ!」
……はい?
クラウ達は現在グランツ二年生。
春からは最終学年の三年生だ。
一方私は入学前で、カリキュラムは全く受けてない。
それはつまり、いきなり最終学年のカリキュラムを受けろと?
私、一年生と二年生のカリキュラム、受けてないんだけど?!
「お父様? そのようなことは初めて耳にしましたが?
わたくし、まだ一週間しか魔術を教わっていませんわよ?」
私は呆然としながらお父様の顔を見つめた。
今から最終学年に間に合うようになんて、スパルタが極まってない?
クラウが硬い表情でお父様に告げる。
「ヴォルフガング様、さすがにそれは、いくらなんでも無謀ですわ」
無謀どころじゃないよ、それ以外の何かだよ。
他の三人も表情が硬い。
いくらなんでも勉強についてこれる訳がないってわかってるんだ。
お父様が席を立ち、クラウのお父さんたちを連れてガゼボに近づいてきた。
「ヒルダ、『アレ』を見せてごらん。それで納得してもらえるはずだ」
『アレ』? 『アレ』って今練習してる、『アレ』のこと?
「でもお父様、まだあれは人様にお見せできるような段階では――」
「いいからいいから。試しにやってみなさい」
お父様はニコニコと楽し気で、譲る様子がない。
……仕方ない、やるか。
私は席を立ち、ガゼボから三メートルほど離れた芝の上でみんなに向き直る。
深呼吸をして心を静める――風のない湖面のような心を取り戻す。
私は右手を横に突き出し、手のひらに火を生み出した。
その日をポトリと手のひらの真下に落とす――その火が見る間に大きく膨れ上がり、もう一人の私を形作った。
着ているドレスも私と全く一緒、完全な私の分身だ。
二人の私はみんなに向かって、ゆっくりと淑女の礼を取っていく。
そして腰を上げる――その途中で、もう一人の私は炎に戻って掻き消えてしまった。
「あー、やっぱり持続時間が足りませんわね」
魔力切れじゃなく、継続して術式を制御するのがとても難しいのだ。
私は自分に落胆してため息をついた後、ガゼボに向かって戻っていく。
その途中で、みんなが私を見て硬直しているのに気が付いてしまった。
お父様以外の誰もが動きを止めていた。
みんなの視線を受けて、私は考えた。
もしかして、続きがあると思われてる?
「あの、申し訳ありません。
今ので終わりです。まだ未熟でして……」
私は縮こまりながら皆に頭を下げた。
恥ずかしい……お父様の期待に応えられなかった。
みんなも呆れて声が出ないんだ。
気まずい沈黙が辺りを支配した。
その沈黙を破ったのは、鈴を転がすような声だった。
「今のは、ヒルダの魔術ですの?」
お父様がクラウに応える。
「ああそうだよ。三日前から『アレ』の練習を初めて、今はまだこの段階だ」
「は?! 『今はまだ』と言ったの?!
しかも、『三日前から』?! 嘘でしょ?!」
クラウらしくない口調だなぁ。
顔を上げると、お父様の襟首をヴィンケルマン公爵が掴み取るところだった。
ヴィンケルマン公爵が厳しい顔つきで告げる。
「今のはお前の『蜃気楼』ではないのか?! 『魔法』だろう?!
養子に取った孤児に『魔法』を教える魔導士がどこに居る!」
険悪な空気が、ガゼボを支配した。
――喧嘩しないで?!
「クラウが友人と認めたなら、私たちとも友人よ。
仲良くしましょうね」
ルイーゼ様は大人びた少女だ。
同年代というより、一世代上に感じるくらい。
長い髪はカールしていて、ふわふわと柔らかい印象を受ける。
クッキーをちまちまと口に運びながら、エミリ様が告げる。
「初対面でクラウが認めるなんて、珍しいこともあるものね。この人見知りが」
エミリ様は幼い印象を持った少女だ。
おでこを出すヘアスタイルが、なおさら幼さを強調している。
アストリッド様が微笑みながら告げる。
「それも貴族になって、まだ一か月なんだって?
よくまぁクラウがそこまで気を許したね」
少し口調が荒っぽいのが特徴だろうか。
姉御肌という言葉が良く似合う。
私はおずおずと告げる。
「みなさま……いえ、わたくしも驚いてまして。
夢じゃないかと、まだ疑ってるくらいなんです」
私ははにかみながら応えた。
ティーカップを手に取って、紅茶を一口飲む。うん、緊張で味がしない!
みんなの視線が、なぜか私の手元に集中していた。
ルイーゼ様が微笑ましそうに告げる。
「あら可愛らしい。
クラウにもこれくらい可愛げがあったらいいのにね」
可愛げ、とは。
クラウになかったら、他の誰にあるの?
クラウがルイーゼ様に告げる。
「ルイズ? 口が過ぎると後で悔いることになるわよ?」
その儚い微笑みは、どこか『圧』を感じるものだった。
あれ? なんかクラウが怖い?
エミリ様が私に顔を寄せて告げる。
「ヒルデガルト様、今のご覧になった?
クラウの本性はね、すっごく怖い子なのよ?」
エミリ様が言い終わると同時に、クラウの顔だけがグリンとエミリ様に向いた。
「ねぇエマ? 先日の夜会を覚えてる?
『豚子爵』から誰があなたを守ってあげたのか、忘れたのかしら?」
今、クラウの口から『聞いてはいけない単語』が飛び出たような?
……気のせいだよね! 緊張しすぎだ!
エミリ様が笑みをこぼしながら応える。
「感謝してるってばー。あの豚、しつこいんですもの。
人間の言葉が通じない相手ほど、困るものはないわね」
辟易したかのように両手を広げるエミリ様。
よっぽどしつこかったのかな。
クラウが儚い微笑みのまま告げる。
「その『人間の言葉が通じない豚』の相手を、一時間もしてあげたのよ?
ちゃんとお返しはしてもらいますからね」
また何か聞こえた気がする……気のせい気のせい!
エミリ様が笑いながら応える。
「何言ってるのよ。あの後、自分の親衛隊をけしかけたでしょ?
それとなく臭わせて豚を制裁したの、知ってるんだから」
ああ、神様。これは私が聞いていてもいい会話なのでしょうか。
知ってはいけないクラウの秘密が垂れ流されて行く。
エミリ様がクスクスと笑みをこぼしながら告げる。
「ほーらー。ヒルデガルト様、困っちゃってるじゃない。
初心者なんだから、もう少して加減してあげましょう?」
――は?! これじゃいけない! ここは戦場!
私はとっさに我に返り、頭が真っ白のまま口を開く。
「あの! わたくしのことは『ヒルダ』とお呼びください!」
ガゼボの時間が停止した。
みんなが唖然として私を見つめている。
――いま私、何を口走った?!
私は顔を火照らせたまま、手を必死に動かしてなんとかフォローできないかと言葉を探っていた。
だけどこのあと、どう取り繕っていいのかさっぱりわからない。
言葉を出せない私を見て、クラウたち四人が顔を見合わせ、ニコリと微笑みあっていた。
四人が一斉に私に振り向き、自分たちの顔を指さした。
「私はルイズ」
「私はエマ」
「私はリッド」
「――そして、私がクラウよ。
私たち、良い友達になれそうじゃない?」
クラウの微笑みは、まるで子供が新しいおもちゃを与えられたような印象を受けた。
新しいおもちゃ――つまり、私か。
そうか、それが本性なのかクラウ。
彼女には、逆らわないでおこう……。
****
私は乾いた笑いで紅茶を一口飲み、気分を落ち着けた。
クラウが私に告げる。
「ねぇヒルダ、あなた私たちと同い年だったわよね?
グランツはどうするの?」
この場に居る全員が、今年で十五歳になるはずだ。
私はうなずいて応える。
「グランツには、春から通うことになります。
私は初年度からカリキュラムを受けるので、みなさまとは学年違いですわね」
ガゼボの隣のテーブルから、お父様が声を上げる。
「ヒルダー! お前は編入だ! 全員同学年だよ!」
……はい?
クラウ達は現在グランツ二年生。
春からは最終学年の三年生だ。
一方私は入学前で、カリキュラムは全く受けてない。
それはつまり、いきなり最終学年のカリキュラムを受けろと?
私、一年生と二年生のカリキュラム、受けてないんだけど?!
「お父様? そのようなことは初めて耳にしましたが?
わたくし、まだ一週間しか魔術を教わっていませんわよ?」
私は呆然としながらお父様の顔を見つめた。
今から最終学年に間に合うようになんて、スパルタが極まってない?
クラウが硬い表情でお父様に告げる。
「ヴォルフガング様、さすがにそれは、いくらなんでも無謀ですわ」
無謀どころじゃないよ、それ以外の何かだよ。
他の三人も表情が硬い。
いくらなんでも勉強についてこれる訳がないってわかってるんだ。
お父様が席を立ち、クラウのお父さんたちを連れてガゼボに近づいてきた。
「ヒルダ、『アレ』を見せてごらん。それで納得してもらえるはずだ」
『アレ』? 『アレ』って今練習してる、『アレ』のこと?
「でもお父様、まだあれは人様にお見せできるような段階では――」
「いいからいいから。試しにやってみなさい」
お父様はニコニコと楽し気で、譲る様子がない。
……仕方ない、やるか。
私は席を立ち、ガゼボから三メートルほど離れた芝の上でみんなに向き直る。
深呼吸をして心を静める――風のない湖面のような心を取り戻す。
私は右手を横に突き出し、手のひらに火を生み出した。
その日をポトリと手のひらの真下に落とす――その火が見る間に大きく膨れ上がり、もう一人の私を形作った。
着ているドレスも私と全く一緒、完全な私の分身だ。
二人の私はみんなに向かって、ゆっくりと淑女の礼を取っていく。
そして腰を上げる――その途中で、もう一人の私は炎に戻って掻き消えてしまった。
「あー、やっぱり持続時間が足りませんわね」
魔力切れじゃなく、継続して術式を制御するのがとても難しいのだ。
私は自分に落胆してため息をついた後、ガゼボに向かって戻っていく。
その途中で、みんなが私を見て硬直しているのに気が付いてしまった。
お父様以外の誰もが動きを止めていた。
みんなの視線を受けて、私は考えた。
もしかして、続きがあると思われてる?
「あの、申し訳ありません。
今ので終わりです。まだ未熟でして……」
私は縮こまりながら皆に頭を下げた。
恥ずかしい……お父様の期待に応えられなかった。
みんなも呆れて声が出ないんだ。
気まずい沈黙が辺りを支配した。
その沈黙を破ったのは、鈴を転がすような声だった。
「今のは、ヒルダの魔術ですの?」
お父様がクラウに応える。
「ああそうだよ。三日前から『アレ』の練習を初めて、今はまだこの段階だ」
「は?! 『今はまだ』と言ったの?!
しかも、『三日前から』?! 嘘でしょ?!」
クラウらしくない口調だなぁ。
顔を上げると、お父様の襟首をヴィンケルマン公爵が掴み取るところだった。
ヴィンケルマン公爵が厳しい顔つきで告げる。
「今のはお前の『蜃気楼』ではないのか?! 『魔法』だろう?!
養子に取った孤児に『魔法』を教える魔導士がどこに居る!」
険悪な空気が、ガゼボを支配した。
――喧嘩しないで?!
25
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる