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第1章
第25話:まっててアリーナ!
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夜――私たちは貴賓室に居た。
ウェルシュタイン王、エルンストおじさま、赤竜おじさま。ケビンさん。
レイスくんとニックくん、そして私である。
赤竜おじさまとウェルシュタイン王以外は鎧に身を包み、武装を帯びている。
ウェルシュタイン王が重たい口を開いた。
「王都大神殿に部隊を派遣し、捜索をしたが、アリーナ嬢の姿は未だ発見できていない。
そんな! と思わず立ち上がってしまうが、赤竜おじさまに肩を抑えられ、ゆっくりと座りなおす。
「だが、周辺の聞き込みにより、アリーナ嬢の消息が大神殿付近で途絶えているらしい、というところまでは突き止めた。」
私の手に力が入る。
「そこでだ。竜の巫女自ら現地を確認することで、何らかの手掛かりを得られないか――どうだろう。可能性はあるとお思いか。」
ウェルシュタイン王が赤竜おじさまを見て、意見を待つ。お願い、力を貸してくださいおじさま――
「――竜の巫女であれば、痕跡をたどることは可能だろう。」
ゆっくりと赤竜おじさまが口を開いた。
「竜の巫女には瘴気が見える。もしそこに魔族が潜んでいるとするならば、瘴気を目印にアリーナの元へたどり着けるはずだ。」
私にも、瘴気を目にすることはできるだろうか。いや、見つけなければならない。
「ルカ、今日これからおまえが相対しようとしているのは、300年前にこの地を襲った魔族、スヴェイシュトローム侯爵だ。当時の巫女たちが死力を尽くし、なお滅すること能わず、封印するに留まった。とても力の強い者だよ。」
侯爵――魔族にも階級があり、その中でも上位の存在。
「だが奴はまだ不完全だ。これ以上、人の命を吸収する前であれば、まだルカにも勝ち目があるだろう。」
人の命。それはアリーナのことも含まれるのだろうか。爪が手の平に食い込むのがわかる。
「むやみに戦力を投入し、犠牲者を増やしてしまえば奴の力が増す。それは、避けた方がいい。」
「騎士団の投入を待て、ということでしょうか。」
エルンストおじさまが赤竜おじさまに問いかけた。
「そうだな。そして、ルカに同行するのは、なるだけルカが心を預けられると思える人間に限るべきだ。神竜様の加護を、より得られやすいようにな。」
赤竜おじさまの目が私の顔に留まる。
「――ルカ。そこの二人の若者。それが今回おまえの選んだ者、そう思って構わないかい?」
私はゆっくりと頷いた。――レイスくんとニックくん。今この街で、私が信頼できる数少ない人たちだ。
エルンストおじさまが口を開く。
「竜騎士団から20名ほどの騎士を選抜してあります。彼らの同行を許しては頂けないでしょうか。」
「構わない。だが竜の巫女の力を持たぬものが魔族に打撃を与えることは、ほぼ不可能と思って欲しい。」
エルンストおじさまの顔に悔しさがにじみ出る。騎士団の精鋭といえど、力不足だと言われたのだ。
「今回のカギを握るのはルカ。おまえだよ。焦って無謀なことをしないよう、心しなさい。」
「――はい、おじさま。」
赤竜おじさまの目を見て、私は頷いた。
「ではいくとしよう。皆、準備はいいか。」
赤竜おじさまの声に応じて、その場の全員が立ち上がった。
「アルルカ殿下、ご武運を。」
ウェルシュタイン王が私に頭を下げる。
――行こう、アリーナを助けに。
******
「ねぇお父様。」
「――なんだいフィーネ。」
暗闇に声が木霊する。
「わたしがお願いしたお友達と、ちょっと違うみたいなの。」
「そうなのかい? おまえの言う通り、綺麗で赤い瞳の女の子だったよ?」
ちらり、と少女の目がそれを見やる。
「そうね――でも。」
「すぐに動かなくなってしまったわ。これじゃあつまらないの。」
視線の先には、壁際にうずくまる白いローブ姿の少女が居た。
ピクリとも動かなくなったそれに興味をなくした少女は、退屈そうに口を開く。
「ねぇお父様? 今度はもっと活きのいいお友達がいいわ。」
「――ああ、わかったよ。明日、また連れてくるよ。待っていておくれ。」
「嬉しい! お父様、大好きです……。」
ウェルシュタイン王、エルンストおじさま、赤竜おじさま。ケビンさん。
レイスくんとニックくん、そして私である。
赤竜おじさまとウェルシュタイン王以外は鎧に身を包み、武装を帯びている。
ウェルシュタイン王が重たい口を開いた。
「王都大神殿に部隊を派遣し、捜索をしたが、アリーナ嬢の姿は未だ発見できていない。
そんな! と思わず立ち上がってしまうが、赤竜おじさまに肩を抑えられ、ゆっくりと座りなおす。
「だが、周辺の聞き込みにより、アリーナ嬢の消息が大神殿付近で途絶えているらしい、というところまでは突き止めた。」
私の手に力が入る。
「そこでだ。竜の巫女自ら現地を確認することで、何らかの手掛かりを得られないか――どうだろう。可能性はあるとお思いか。」
ウェルシュタイン王が赤竜おじさまを見て、意見を待つ。お願い、力を貸してくださいおじさま――
「――竜の巫女であれば、痕跡をたどることは可能だろう。」
ゆっくりと赤竜おじさまが口を開いた。
「竜の巫女には瘴気が見える。もしそこに魔族が潜んでいるとするならば、瘴気を目印にアリーナの元へたどり着けるはずだ。」
私にも、瘴気を目にすることはできるだろうか。いや、見つけなければならない。
「ルカ、今日これからおまえが相対しようとしているのは、300年前にこの地を襲った魔族、スヴェイシュトローム侯爵だ。当時の巫女たちが死力を尽くし、なお滅すること能わず、封印するに留まった。とても力の強い者だよ。」
侯爵――魔族にも階級があり、その中でも上位の存在。
「だが奴はまだ不完全だ。これ以上、人の命を吸収する前であれば、まだルカにも勝ち目があるだろう。」
人の命。それはアリーナのことも含まれるのだろうか。爪が手の平に食い込むのがわかる。
「むやみに戦力を投入し、犠牲者を増やしてしまえば奴の力が増す。それは、避けた方がいい。」
「騎士団の投入を待て、ということでしょうか。」
エルンストおじさまが赤竜おじさまに問いかけた。
「そうだな。そして、ルカに同行するのは、なるだけルカが心を預けられると思える人間に限るべきだ。神竜様の加護を、より得られやすいようにな。」
赤竜おじさまの目が私の顔に留まる。
「――ルカ。そこの二人の若者。それが今回おまえの選んだ者、そう思って構わないかい?」
私はゆっくりと頷いた。――レイスくんとニックくん。今この街で、私が信頼できる数少ない人たちだ。
エルンストおじさまが口を開く。
「竜騎士団から20名ほどの騎士を選抜してあります。彼らの同行を許しては頂けないでしょうか。」
「構わない。だが竜の巫女の力を持たぬものが魔族に打撃を与えることは、ほぼ不可能と思って欲しい。」
エルンストおじさまの顔に悔しさがにじみ出る。騎士団の精鋭といえど、力不足だと言われたのだ。
「今回のカギを握るのはルカ。おまえだよ。焦って無謀なことをしないよう、心しなさい。」
「――はい、おじさま。」
赤竜おじさまの目を見て、私は頷いた。
「ではいくとしよう。皆、準備はいいか。」
赤竜おじさまの声に応じて、その場の全員が立ち上がった。
「アルルカ殿下、ご武運を。」
ウェルシュタイン王が私に頭を下げる。
――行こう、アリーナを助けに。
******
「ねぇお父様。」
「――なんだいフィーネ。」
暗闇に声が木霊する。
「わたしがお願いしたお友達と、ちょっと違うみたいなの。」
「そうなのかい? おまえの言う通り、綺麗で赤い瞳の女の子だったよ?」
ちらり、と少女の目がそれを見やる。
「そうね――でも。」
「すぐに動かなくなってしまったわ。これじゃあつまらないの。」
視線の先には、壁際にうずくまる白いローブ姿の少女が居た。
ピクリとも動かなくなったそれに興味をなくした少女は、退屈そうに口を開く。
「ねぇお父様? 今度はもっと活きのいいお友達がいいわ。」
「――ああ、わかったよ。明日、また連れてくるよ。待っていておくれ。」
「嬉しい! お父様、大好きです……。」
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