竜の巫女は拳で語る

みつまめ つぼみ

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第1章

第17話:作戦会議です!

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 私は頭の傷が治るまで、学校をお休みすることになった。その間、赤竜おじさまが魔力制御を指導してくれた。

 レイスくんとアリーナが学校に行っている間、おじさまと一緒にみっちり訓練を続けた。その甲斐あって、4日ほどで以前の7割程度の精度まで魔力を制御できるようになってきた。

 2週間も経つ頃には、魔力制御の精度は以前よりも鋭くなったくらいだ。頭の傷跡も消え去り、「これなら通学してもいいだろう。」と、赤竜おじさまの太鼓判を頂けた。


「だから、明日から久しぶりに学校に戻れるわ。」
「ルカ様、よかったですね。」

 ようやく完全復調、といったところで、今までの情報を整理したいとレイスくんに申し出ていた。

 作戦会議である。

 場所はウェルシュタイン王宮の貴賓室が選ばれた。参加者はウェルシュタイン王、エルンストおじさま、レイスくん、私、アリーナ、そして赤竜おじさまだ。


「今の状況を確認しましょう――まずは私の方から。」

 神竜様の声は未だ聞こえないこと、地脈の異常は修復されたこと、修復された地脈は完全に回復するまで長い年月が必要なこと。

「回復に年月が必要、ってどのくらいなのですか?」

 レイスくんの問いに、赤竜おじさまが「おそらく1年から5年はかかる。ブレがあるのは、不確定要素が絡むからだ。」と答えた。不確定要素については教えてくれなかった。

 かわりに、今の私の魔力は、欠乏前と同じで、全力の2割ほどしか出せていない、と教えてくれた。

 「地脈が回復すれば、神竜様の声をまた聴けるようになりますか?」という私の問いにも、赤竜おじさまは無言を貫いた。


「これでルカ様の現状はすべてですかね。では誘拐事件の顛末からです。」

 レイスくんが資料を配りつつ述べていく。

 誘拐実行犯のグループは複数いたこと、実行犯たちは何も知らされていなかったこと、王都に居た実行犯グループはすべて検挙されたこと。誘拐の被害者たちを買い付けに来る“黒いローブの男”が居たこと。

「その、黒いローブの男が主犯、ってこと?」

 私の問いに対してはレイスくんが「多分。」と言うに留まった。要するに、何もわかっていない、ということだろう。

 だが、実行犯をすべて検挙したと言い切った。つまりそれ以降、誘拐事件が発生していないということだ。

 エルンストおじさまが口を開いた。

「王都内は警邏を増やし、貧民街も範囲に入れている。主犯がこれ以上、この街で動くのは難しいだろう。」
「他の街が狙われる可能性がある、と?」

 私の問いにエルンストおじさまが頷き、続けた。

「そうですね。そして、全ての街を同時に守るのは非現実的すぎる。だが、この王都で事件が動いていた。そこには理由があると思うのです。」
「主犯の本拠地が王都にある可能性が高い、と?」

 重ねた私の問いに、エルンストおじさまはまた頷いた。

 つまり、その本拠地を探り当て、主犯を明らかにすることが当面のゴールとなる。

 現在、私や王国に及んでいる異常事態と、この誘拐事件。時期が重なるだけに、なんらかの関係がある可能性が高い。

「今はとにかく情報が足りない。各方面で調査を継続中だ。新しい情報を待ってくれ。それに、学生諸君は学業が本分なのだ。本業を疎かにしないで欲しい。以上だ。」


 帰宅後、レイスくんが珍しくぼやいた。

「結局、新しい情報待ちでしたね。私たちにできることはあまりに少ない。」
「本拠地や主犯につながる手がかりが見つかると良いんですけどね。こんな時に、頼りになる神竜様のご神託が使えないのは痛いですね。」

 アリーナも収穫のない作戦会議で疲れてしまったようだ。俯いてレイスくんのぼやきに応じている。だが不意に何かを思いついたように顔を上げた。

「あっ! あと試していない事が1つありますよ。」

 みんなの視線がアリーナに集まった。

「ルカ様が、故郷の本殿で礼拝すれば、神竜様の声を聴くことができるんじゃないでしょうか?」

 ルイスくんが顎に手を当てて応えた。

「飛竜なら往復1日の距離だし、ちょっと試すくらいはいいかもしれないな……」

 それまで黙って聞いていた赤竜おじさまが、重たい口を開いた。

「いや、それはやめておいた方がいい。敵の思うつぼだ。」
「それは、どういう……?」
「言った通りだ。ルカを今、この国から外に出してはならない。」

 私が問い直しても、赤竜おじさまの言葉は要領を得ない。

 あーもう! 少しぐらい情報を融通してくれてもいいじゃない!

 私は思わず、むくれて赤竜おじさまを睨んでしまった。

「許しておくれ、ルカ。これ以上は私から言うことができないんだ。だが、お前は竜の寵児だ。自分の直観を信じて見なさい。」

 赤竜おじさまは、申し訳なさそうに苦笑していた。



「自分の直観、か――」

 ベッドの中で天井を見上げ、赤竜おじさまの言葉を反芻してみる。

 直観を信じろ、と言われた時、脳裏をよぎったのは、「王都の大神殿」と「ニコラと名乗った青年」だった。

「大量殺人犯の本拠地が王都の大神殿で、主犯が私と同い年の青年、ってこと? そんな……さすがにそれは、無理があるなぁ。」

 もやもやとした気分のまま、その日は眠りに落ちていった。
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