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第1章
第15話:赤竜おじさま 1
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翌日、父様と母様は文字通り『飛んで』きた。エルンストおじさまの竜騎士団が連れて来てくれたらしい。
父様と母様は、何も言わずに抱きしめてくれた。「元気な顔が見れてよかった。」と、父様は去り際に残していった。
母様は「これはあなたが持っていなさい。」と、正統な竜の巫女に継承されるペンダントを譲ってくれた。
え?! いやこれ、めちゃくちゃ大事なやつじゃないの? 本来ならドラクル国の王妃が身に着けるべきものだったはず――と、慌てて返そうとしたが「神竜様がそうおっしゃったから」と、私の手に包み込ませた。
父様と母様は、寂し気な笑みを浮かべつつ、名残惜しそうに退室していった。多忙な中、時間を縫って会いに来てくれたのだと、両親に感謝した。
両親と入れ違いに入室してきたのは、燃えるような真っ赤な髪の毛と金色の瞳を持った壮年の男性だった。はて。どちら様だったろう?
身なりは上から下まで、ほとんど真っ赤に染まっている。よっぽど赤が好きなのかな。
今、この邸宅の警備は厳重である。エルンストおじさまの私兵に加え、増員されたドラクルの武官と騎士、さらにウェルシュタインの騎士たちまで警邏に当たっている。身元の怪しい人物が中に入れるわけがないし、そもそもアリーナがそんな人物を部屋に通すわけがない。
「どちら様ですか?」
おずおずと問い質してみる。忘れてたら悪いなー、とか思いながら。
「ルカー、おいちゃんを忘れるとか悲しいだろー?」
「その声……赤竜おじさま?!」
目が点になる、とはこういうことをいうのだろう。聞き覚えのある声は、今、確かに目の前の男性から発せられた。でも赤竜おじさま、竜種だったよね……?
「私のこの姿を見せるのは初めてだったね。そう、赤竜おいちゃんだよ。」
厳つい顔とは裏腹に、チャーミングなウィンクを飛ばされてしまった。ああ、この感じ、確かに赤竜おじさまだ……。
竜種には、人間に変化する魔法もあるという。人の世では失われた、古代魔法の1つだ。そういった魔法を私はいくつか、赤竜おじさまに教えてもらったことがある。火竜の息吹もその1つだ。
「おいちゃんが教えた魔法を使って、魔力欠乏を起こしたって聞いたからさー。これはおいちゃんがなんとかしないとなーって。」
赤竜おじさまはカラカラと笑った。――え! なんとかなるの?!
「なるよー。巫女のペンダントは受け取ってるね?」
ペンダント……ああ、母様はそのために私に預けていったのか。
赤竜おじさまに促されるまま、ペンダントを着ける。そのままおじさまは何かをぶつぶつと口の中で唱え始めた。それと同時に、ペンダントトップに嵌められた石が輝きを増していく。なんだか暖かい気がする。
「暖かい」が「熱い」に変わる頃、私の部屋は赤い光に包まれていた。「もうこれ以上は身に着けていられないかも……」と思った瞬間、その熱がすべて私の体の中に飛び込んできた。
「?!」
びっくりして声も出ない。その熱が体内を駆け巡る感覚が走る。怖くなって「おじさま!」と口を開こうとした瞬間、すべての光と熱が消えた。
「……。」
ポカーンである。室内は静かに朝日を受け入れていた。遠くから鳥の鳴き声が聞こえる。さっきのは幻……?
「――どうかな? ルカ。これでもう大丈夫なはずだ。」
言われて、自分の手をまじまじと眺める。以前のような、体内から沸き起こる全能感のようなもの――魔力を感じ取れた。試しに警戒魔法を展開してみると、邸宅全域を覆うほど大きな警戒網が展開されてしまった。――室内の大きさで展開したつもりだったのに。
「さすがルカだね。おいちゃんの魔力、半分も持っていかれちゃったよ。」
カラカラと笑いながら赤竜おじさまが説明してくれた。欠乏している私の身体――魔力の器に、強制的に魔力を注ぎ込んだのだと。あまりに大きな器に、人間の自然回復力では欠乏状態から抜け出すのはほぼ不可能――途方もない年月がかかる――ということ。そして。
「深刻な魔力欠乏を起こすとね。魔力の器が反動で大きくなるんだ。だから、前と同じ感覚で魔力を使っていると大変なことになるよ。」
なるほど。それで警戒魔法を発動したとき、室内の大きさのつもりが、邸宅の敷地すべてを覆うほどの大きさになったのか。
「まぁルカのことだ。すぐに慣れるさ。」
「おいちゃんもついてるしね。」と、またカラカラと笑った。……ん? おいちゃんも『ついてる』?
「なんだ、聞いてないのかい? しばらくおいちゃんもこの家にご厄介になるよ。」
ええええええええええええ?! 聞いてません!!
父様と母様は、何も言わずに抱きしめてくれた。「元気な顔が見れてよかった。」と、父様は去り際に残していった。
母様は「これはあなたが持っていなさい。」と、正統な竜の巫女に継承されるペンダントを譲ってくれた。
え?! いやこれ、めちゃくちゃ大事なやつじゃないの? 本来ならドラクル国の王妃が身に着けるべきものだったはず――と、慌てて返そうとしたが「神竜様がそうおっしゃったから」と、私の手に包み込ませた。
父様と母様は、寂し気な笑みを浮かべつつ、名残惜しそうに退室していった。多忙な中、時間を縫って会いに来てくれたのだと、両親に感謝した。
両親と入れ違いに入室してきたのは、燃えるような真っ赤な髪の毛と金色の瞳を持った壮年の男性だった。はて。どちら様だったろう?
身なりは上から下まで、ほとんど真っ赤に染まっている。よっぽど赤が好きなのかな。
今、この邸宅の警備は厳重である。エルンストおじさまの私兵に加え、増員されたドラクルの武官と騎士、さらにウェルシュタインの騎士たちまで警邏に当たっている。身元の怪しい人物が中に入れるわけがないし、そもそもアリーナがそんな人物を部屋に通すわけがない。
「どちら様ですか?」
おずおずと問い質してみる。忘れてたら悪いなー、とか思いながら。
「ルカー、おいちゃんを忘れるとか悲しいだろー?」
「その声……赤竜おじさま?!」
目が点になる、とはこういうことをいうのだろう。聞き覚えのある声は、今、確かに目の前の男性から発せられた。でも赤竜おじさま、竜種だったよね……?
「私のこの姿を見せるのは初めてだったね。そう、赤竜おいちゃんだよ。」
厳つい顔とは裏腹に、チャーミングなウィンクを飛ばされてしまった。ああ、この感じ、確かに赤竜おじさまだ……。
竜種には、人間に変化する魔法もあるという。人の世では失われた、古代魔法の1つだ。そういった魔法を私はいくつか、赤竜おじさまに教えてもらったことがある。火竜の息吹もその1つだ。
「おいちゃんが教えた魔法を使って、魔力欠乏を起こしたって聞いたからさー。これはおいちゃんがなんとかしないとなーって。」
赤竜おじさまはカラカラと笑った。――え! なんとかなるの?!
「なるよー。巫女のペンダントは受け取ってるね?」
ペンダント……ああ、母様はそのために私に預けていったのか。
赤竜おじさまに促されるまま、ペンダントを着ける。そのままおじさまは何かをぶつぶつと口の中で唱え始めた。それと同時に、ペンダントトップに嵌められた石が輝きを増していく。なんだか暖かい気がする。
「暖かい」が「熱い」に変わる頃、私の部屋は赤い光に包まれていた。「もうこれ以上は身に着けていられないかも……」と思った瞬間、その熱がすべて私の体の中に飛び込んできた。
「?!」
びっくりして声も出ない。その熱が体内を駆け巡る感覚が走る。怖くなって「おじさま!」と口を開こうとした瞬間、すべての光と熱が消えた。
「……。」
ポカーンである。室内は静かに朝日を受け入れていた。遠くから鳥の鳴き声が聞こえる。さっきのは幻……?
「――どうかな? ルカ。これでもう大丈夫なはずだ。」
言われて、自分の手をまじまじと眺める。以前のような、体内から沸き起こる全能感のようなもの――魔力を感じ取れた。試しに警戒魔法を展開してみると、邸宅全域を覆うほど大きな警戒網が展開されてしまった。――室内の大きさで展開したつもりだったのに。
「さすがルカだね。おいちゃんの魔力、半分も持っていかれちゃったよ。」
カラカラと笑いながら赤竜おじさまが説明してくれた。欠乏している私の身体――魔力の器に、強制的に魔力を注ぎ込んだのだと。あまりに大きな器に、人間の自然回復力では欠乏状態から抜け出すのはほぼ不可能――途方もない年月がかかる――ということ。そして。
「深刻な魔力欠乏を起こすとね。魔力の器が反動で大きくなるんだ。だから、前と同じ感覚で魔力を使っていると大変なことになるよ。」
なるほど。それで警戒魔法を発動したとき、室内の大きさのつもりが、邸宅の敷地すべてを覆うほどの大きさになったのか。
「まぁルカのことだ。すぐに慣れるさ。」
「おいちゃんもついてるしね。」と、またカラカラと笑った。……ん? おいちゃんも『ついてる』?
「なんだ、聞いてないのかい? しばらくおいちゃんもこの家にご厄介になるよ。」
ええええええええええええ?! 聞いてません!!
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