竜の巫女は拳で語る

みつまめ つぼみ

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第1章

第4話:学校見学!

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「ここが学び舎かぁ」

 馬車から降りると白亜の立派な玄関が目に入る。

 今は「子爵令嬢のルカ」として来ているので、巫女のローブは邸宅に脱いできた。水色のチュニックでは在校生の中で浮いてしまうかな、と思ったのだが授業時間のため、他の生徒の姿はない。アリーナは陛下と打ち合わせがある、といって登城していったので今はいない。

「迷わないでくださいよ、ルカ“さん”。」
「迷いませんよーだ。」

 不満げに頬を膨らませてやると、相手は苦笑しながら「ちゃんとついてきてくださいね。」と付け加えられた

 同伴しているのはアレイスト・ガイアス。ガイアス公爵家次男である。父譲りの金髪と青空のような瞳を持った好青年だ。

 在校生であり、今はベージュにブラウンが彩られた制服を着ている。ネクタイの青藍が示す通り、今年度の一年生――つまり、私の1歳年上である。入学すれば上級生となる訳だ。今日は在校生代表として校内案内をしてくれることになっている。

「ではルカさん。最初に行ってみたい場所はありますか?」
「図書館! 魔導書の置いてあるところね。」

 迷いのない返答にまたしても苦笑で返されてしまう。
 いいじゃん、魔法が好きなんだから。

 来賓用の玄関をくぐり、そのまま図書館へ直行する。王立学園の図書館は、蔵書の量と質において他の追随を許さない――そう聞かされれば覗いてみたくなるのが人情というものだ。

 さすがに宮廷図書館ほどではないだろうが、ついついラインナップを確認したくなってしまう。

 あっちへまがりこっちへまがり、渡り廊下を抜けた先には、開き扉の両隣に門番が立っていた。警備が必要なほどの本が置いてある、ということだろうか。

「着きましたよ、お嬢さん?」

 アレイストくんが扉を開けてエスコートしてくれた。おずおずと入っていくと、中は思ったより広い。中央ホールが吹き抜けになっており、3階を突き抜けて本棚がそびえたっていた。

「……ねぇアレイストくん。あの中央てっぺんの本……どうやって読むの?」
「浮遊して自分で取りに行くか、ガイド魔道具が居ますのでそれを使うんですよ。ほら。」

 入り口付近には平たい板、その奥には大きめのホールケーキのような、なんともいえない魔道具が置いてある。

 アレイストくんが指に魔力を込めて板に検索条件を記述すると、ホールケーキ状の魔道具がふわりと浮き上がり本棚の最上段へ向かっていく。魔道具から触手のような手が伸びて本を数冊、頭の上に乗せ固定すると、すーっと静かに降りてきた。目の前には「王国魔術史~その裏側~」だとか「時空魔法の深淵」、さらには「賢者の石製作論」など、よくわからない本が並んでいる。

「こんな感じですね。使い方がよくわからないときは奥にいる司書に言えば代わりに操作してくれますよ。」

「アレイストくん。」
「レイスでいいですよルカさん。」
「じゃあレイスくん。これって貸し出しは――」
「貸し出しはできませんよ。ここで読んで、必要なら書き写してください。」

 ふむ。どれも知らないジャンルだが、試しに読んでみるか。

「レイスくん、私ちょっとこれ読んでくるね。お昼になったら迎えに来て。」

 言うが早いか足早に椅子に向かうとドカッと腰掛け、本――手始めに「時空魔法の深淵」に向かう。
 えっ、という仕草で硬直するレイスくんは視界から完全にシャットアウトされた。

「いきなりそんなマニアックで、誰も読まないような本を読むんですか……っていうか内容わからないでしょうに。」

 レイスくんは敢えてそういった本をチョイスしたのかもしれない。
 そんな彼の呆れ声も当然、耳には届いていない。

「では、お昼前に迎えに来ますから、ここから動かないでくださいね。では後程。」
「なるほどこんなアプローチがあるのか……面白いけど少しまどろっこしいわね。」

 一声かけてから踵を返すレイスくんの存在はこの時、完全に私の中から排除されていた。
 私は小声でぶつぶつと呟きながらパラパラとページをめくり続けていた。


******


 最後のページを捲り終え、本を閉じた。

「ふぅー。なかなか興味深い読み物だったわ。」

 独り言ちて顔を上げてから気づいたのだが、向かいの席に青年がいる。いつのまに座ったのだろうか。全く気付かなかった。

 白いシャツは上等なシルクに見えるので上流家庭――貴族出身者だろう。学園の制服には見えない。校内視察のお仲間かな?

 彼はじーっと何か興味深そうな笑みで私の顔を眺めていた。

「えーっと、私の顔に何かついてる?」
「お、やっと喋ったな。さっきから話しかけてたんだけど。」

 どうやら私服で読書している私を見つけ、話しかけていたらしい。残念ながら読書中の私は自分の世界に入り込んでしまうので、徒労に終わるのみである。

「あなたも校内視察?」
「あなた“も”ってことは、あんたもか。来季からの新入生ってことでいいんだよな?」
「そうなるわね。あなたも同じなら、同じ学年ってことになるのかしら。私はルカ。よろしくね。」
「ニコラだ。ニックでいい。ずいぶん真剣に読んでたけど、それ、理解できるのか?」

 皮肉げだが憎めない笑顔で積まれた本を指さしている。

「概要だけはね。細かく理解してる訳じゃないわ。でもどんな着眼点から、どういう理論を組み立てて仮説にたどり着き立証していくのか。とか楽しみようはあるものよ。著者独自の世界観みたいなものを覗き込む感じかしら。」

 両手を広げ肩をすくめて見せる。基礎理論を修めていないのだから、応用のその先など理解できるわけがない。

「変な奴だな、お前は。」

 対面の青年はニヤニヤと笑っている。珍動物を見つけた子供の様だ。

 少し長めに切りそろえられたカラスの濡れ羽色の髪の毛、目にかかった前髪の隙間から覗くのは、サファイアのような深い翠の瞳だ。

 顔立ちは整っている、と言えるのだろう。切れ長の目が薄く細められた。

「なぁ、あんたさえよければ一緒に――」
「ルカ、そろそろ時間ですよ。」

 割って入るように声をかけてきたのはレイスくんだった。

「あら。じゃあいきましょうか。読み終わった本はどうしたらいいかしら。」
「それなら司書に預け――読み終わったんですか? あれを?」
「ええ。なかなか有意義な時間だったわ。」

 立ち上がりつつ首だけ振り向きながら答える。「持ちますよ。」とレイスくんが横から本をさらっていってしまった。一緒に司書のところにいき、返却のやり取りも教えてもらう。

「じゃあ私はいくわねニコラくん。新学期からよろしくね。」
「……ああ。よろしくな。」

 何か言いたそうなニコラくんを後にし、レイスくんに連れられて食堂に向かうことにした。
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