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第1章

第3話:王様にご挨拶!

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 ――朝日が目に眩しい。今日もどうやら快晴のようだ。
 ベッドから降り、故郷の方角に向かって跪いて祈りをささげる。

『神竜様おっはよー。今日も神竜様の加護があまねく世界を照らしますように――』
『おーおはようルカ。新しい街はどうだー?』
『もう! ついたばっかりなんだからわからないよ。今日は王様と会って、そのあとは決めてなーい。』
『そうかそうか。楽しんどいでー。』

 神竜様と直接会話できる、ということはこういうことである。礼拝が即ち会話になるのだ。

 神竜様を経由して母様にも近況が伝わるので、故郷に手紙を書く必要もない。私のような巫女を大陸各地に配置できれば遠距離情報通信網も可能なのだが、残念ながら故郷の本殿以外で神託を授かれるのは私ぐらいらしい。故郷から遠く離れた土地や、信仰のない土地でこれができるのか、やったことがないのでわからない。

 エルンストおじさまを交えての朝食後、午前から陛下と謁見することにはなったのだが、あまり多くの者に顔を見られたくない、という事情もあって貴賓室に案内されることになった。物わかりの良い王様である。

「王様ってどんな人だったっけ。」

 ソファの背もたれによりかかりながら、背後に控えるアリーナに聞いてみる。父様や母様、兄様や姉様は何度かお会いしているのだが、社交嫌いの私はお会いする機会がなかった。
「温厚な方ですよ。面識のないルカ様のわがままを聞いても受け入れてくれる、海よりも深い度量をお持ちの方でもあります。」

 アリーナの視線が痛い。隣国の王の顔ぐらい知っておけ、という無言のプレッシャーを感じる。
 隣席するエルンストおじさまも苦笑を浮かべているので、内心は同じようなものなのだろう。

「陛下がいらしたようだよ。」

 エルンストおじさまに促されるまま、立ち上がる。私以外は頭を下げ、陛下を迎える。

 入室してきたのはアッシュグレイの髪に白いものがいくらか混じった、父様より年配の男性だ。優し気な鳶色の瞳が私をとらえていた。

「お待たせしたね。」
「お初にお目にかかりますウェルシュタイン王。ドラクル家第三王女、アルルカ・フェグ・マレーヌ・ドラクルです。」

 ローブの下に着ていたチュニックでカーテシーを取る。

「やあ、君がアルルカ姫だね。お初にお目にかかる。ザウルス・ロアナ・ウェルシュタインだ。君は姉君たちより母君によく似ているね。」

 柔らかい笑みで右手を差し出されたのでそっと握り返す。

 ウェルシュタイン王とドラクル王家の王女、とはいえ私は竜の巫女でもあるので、実のところ格は私の方がやや上である。

 だが格式ばったやりとりが嫌いな私がエルンストおじさま経由で「フランクにいきましょう。というかしてください。」と伝えてあるため、謁見はくだけた空気で開始された。アリーナに漂う諦観はこの際無視する。

 ウェルシュタイン王の着席に合わせてソファに座りなおす。対面がウェルシュタイン王、右手にエルンストおじさま、背後はアリーナである。

「留学の手続きはすべて済んでいるよ。3か月後から君は王立魔法学園の生徒、ということになる。今は後期課程の後半に入っているが、ガイアス公爵に言えばいつでも視察してもらって構わないよ。」

 ウェルシュタイン王立魔法学園――貴族の血が濃いものは高い魔力を持つ。それを制御し生かす教育の場として、そして小さな社交界として若い貴族たちが通う学校である、

 学生の中には一部平民も含まれる。魔力持ちは貴族に限らないからだ。有用な人材を発掘・育成する場として15歳から最大3年間のカリキュラムを受けるのである。

「君の魔力は規格外と聞いているよ――測定器を全部壊したというのは本当かい?」
「え、いや、全部という訳では……その節はご迷惑を……」

 思わずしどろもどろになってしまった。

 入学試験項目に魔力測定がある。計器に触れた者の潜在魔力を検知し、魔石の色が変わる魔道具なのだが、私が触れると破裂してしまうのだ。

 試験官も三台目の測定器が粉砕された時点で諦めたらしい。決して安くはない機材なのでドラクル王家の方で弁償することになり、父様から怒られてしまった。

 普通の人間であれば、黒い魔石が赤くなったり青くなったりするらしい。魔力が強いほど白に近づき、属性に応じて色は変化するという。なので私は自分の魔力属性を知る機会を失ってしまった。潜在魔力を見る計器なので、必死に魔力の出力を絞ったとしても意味がない、というのを悟ったのは三台目が砕かれた後だ。私のせいじゃないのに、理不尽だなぁ。

「便宜上、最上級扱い、ということにしてある。座学も優秀だったということなので問題ないだろうが――その魔力をきちんと制御できるよう、勉学に励んでほしい。」
「はい。がんばります。」

 苦笑に苦笑を返しながら不服に思う。

 遺憾ながら魔力制御は得意な方である。魔力暴走を起こしたこともない。だが、周りから見ればただの人間凶器と言われても詮のないことかもしれない。昔から馬鹿力と揶揄されたものだ。

「後のことはガイアス公爵に一任する――何かあれば頼ってもらって構わないよ。では失礼する。」
「はい。お忙しいところお時間をいただき、ありがとうございました。」

 会釈でウェルシュタイン王を見送った後に振り向き、エルンストおじさまに目を止める。

 ――午後からは早速、視察とやらにいってみましょうかね。

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