3 / 28
第1章
第3話:王様にご挨拶!
しおりを挟む
――朝日が目に眩しい。今日もどうやら快晴のようだ。
ベッドから降り、故郷の方角に向かって跪いて祈りをささげる。
『神竜様おっはよー。今日も神竜様の加護があまねく世界を照らしますように――』
『おーおはようルカ。新しい街はどうだー?』
『もう! ついたばっかりなんだからわからないよ。今日は王様と会って、そのあとは決めてなーい。』
『そうかそうか。楽しんどいでー。』
神竜様と直接会話できる、ということはこういうことである。礼拝が即ち会話になるのだ。
神竜様を経由して母様にも近況が伝わるので、故郷に手紙を書く必要もない。私のような巫女を大陸各地に配置できれば遠距離情報通信網も可能なのだが、残念ながら故郷の本殿以外で神託を授かれるのは私ぐらいらしい。故郷から遠く離れた土地や、信仰のない土地でこれができるのか、やったことがないのでわからない。
エルンストおじさまを交えての朝食後、午前から陛下と謁見することにはなったのだが、あまり多くの者に顔を見られたくない、という事情もあって貴賓室に案内されることになった。物わかりの良い王様である。
「王様ってどんな人だったっけ。」
ソファの背もたれによりかかりながら、背後に控えるアリーナに聞いてみる。父様や母様、兄様や姉様は何度かお会いしているのだが、社交嫌いの私はお会いする機会がなかった。
「温厚な方ですよ。面識のないルカ様のわがままを聞いても受け入れてくれる、海よりも深い度量をお持ちの方でもあります。」
アリーナの視線が痛い。隣国の王の顔ぐらい知っておけ、という無言のプレッシャーを感じる。
隣席するエルンストおじさまも苦笑を浮かべているので、内心は同じようなものなのだろう。
「陛下がいらしたようだよ。」
エルンストおじさまに促されるまま、立ち上がる。私以外は頭を下げ、陛下を迎える。
入室してきたのはアッシュグレイの髪に白いものがいくらか混じった、父様より年配の男性だ。優し気な鳶色の瞳が私をとらえていた。
「お待たせしたね。」
「お初にお目にかかりますウェルシュタイン王。ドラクル家第三王女、アルルカ・フェグ・マレーヌ・ドラクルです。」
ローブの下に着ていたチュニックでカーテシーを取る。
「やあ、君がアルルカ姫だね。お初にお目にかかる。ザウルス・ロアナ・ウェルシュタインだ。君は姉君たちより母君によく似ているね。」
柔らかい笑みで右手を差し出されたのでそっと握り返す。
ウェルシュタイン王とドラクル王家の王女、とはいえ私は竜の巫女でもあるので、実のところ格は私の方がやや上である。
だが格式ばったやりとりが嫌いな私がエルンストおじさま経由で「フランクにいきましょう。というかしてください。」と伝えてあるため、謁見はくだけた空気で開始された。アリーナに漂う諦観はこの際無視する。
ウェルシュタイン王の着席に合わせてソファに座りなおす。対面がウェルシュタイン王、右手にエルンストおじさま、背後はアリーナである。
「留学の手続きはすべて済んでいるよ。3か月後から君は王立魔法学園の生徒、ということになる。今は後期課程の後半に入っているが、ガイアス公爵に言えばいつでも視察してもらって構わないよ。」
ウェルシュタイン王立魔法学園――貴族の血が濃いものは高い魔力を持つ。それを制御し生かす教育の場として、そして小さな社交界として若い貴族たちが通う学校である、
学生の中には一部平民も含まれる。魔力持ちは貴族に限らないからだ。有用な人材を発掘・育成する場として15歳から最大3年間のカリキュラムを受けるのである。
「君の魔力は規格外と聞いているよ――測定器を全部壊したというのは本当かい?」
「え、いや、全部という訳では……その節はご迷惑を……」
思わずしどろもどろになってしまった。
入学試験項目に魔力測定がある。計器に触れた者の潜在魔力を検知し、魔石の色が変わる魔道具なのだが、私が触れると破裂してしまうのだ。
試験官も三台目の測定器が粉砕された時点で諦めたらしい。決して安くはない機材なのでドラクル王家の方で弁償することになり、父様から怒られてしまった。
普通の人間であれば、黒い魔石が赤くなったり青くなったりするらしい。魔力が強いほど白に近づき、属性に応じて色は変化するという。なので私は自分の魔力属性を知る機会を失ってしまった。潜在魔力を見る計器なので、必死に魔力の出力を絞ったとしても意味がない、というのを悟ったのは三台目が砕かれた後だ。私のせいじゃないのに、理不尽だなぁ。
「便宜上、最上級扱い、ということにしてある。座学も優秀だったということなので問題ないだろうが――その魔力をきちんと制御できるよう、勉学に励んでほしい。」
「はい。がんばります。」
苦笑に苦笑を返しながら不服に思う。
遺憾ながら魔力制御は得意な方である。魔力暴走を起こしたこともない。だが、周りから見ればただの人間凶器と言われても詮のないことかもしれない。昔から馬鹿力と揶揄されたものだ。
「後のことはガイアス公爵に一任する――何かあれば頼ってもらって構わないよ。では失礼する。」
「はい。お忙しいところお時間をいただき、ありがとうございました。」
会釈でウェルシュタイン王を見送った後に振り向き、エルンストおじさまに目を止める。
――午後からは早速、視察とやらにいってみましょうかね。
ベッドから降り、故郷の方角に向かって跪いて祈りをささげる。
『神竜様おっはよー。今日も神竜様の加護があまねく世界を照らしますように――』
『おーおはようルカ。新しい街はどうだー?』
『もう! ついたばっかりなんだからわからないよ。今日は王様と会って、そのあとは決めてなーい。』
『そうかそうか。楽しんどいでー。』
神竜様と直接会話できる、ということはこういうことである。礼拝が即ち会話になるのだ。
神竜様を経由して母様にも近況が伝わるので、故郷に手紙を書く必要もない。私のような巫女を大陸各地に配置できれば遠距離情報通信網も可能なのだが、残念ながら故郷の本殿以外で神託を授かれるのは私ぐらいらしい。故郷から遠く離れた土地や、信仰のない土地でこれができるのか、やったことがないのでわからない。
エルンストおじさまを交えての朝食後、午前から陛下と謁見することにはなったのだが、あまり多くの者に顔を見られたくない、という事情もあって貴賓室に案内されることになった。物わかりの良い王様である。
「王様ってどんな人だったっけ。」
ソファの背もたれによりかかりながら、背後に控えるアリーナに聞いてみる。父様や母様、兄様や姉様は何度かお会いしているのだが、社交嫌いの私はお会いする機会がなかった。
「温厚な方ですよ。面識のないルカ様のわがままを聞いても受け入れてくれる、海よりも深い度量をお持ちの方でもあります。」
アリーナの視線が痛い。隣国の王の顔ぐらい知っておけ、という無言のプレッシャーを感じる。
隣席するエルンストおじさまも苦笑を浮かべているので、内心は同じようなものなのだろう。
「陛下がいらしたようだよ。」
エルンストおじさまに促されるまま、立ち上がる。私以外は頭を下げ、陛下を迎える。
入室してきたのはアッシュグレイの髪に白いものがいくらか混じった、父様より年配の男性だ。優し気な鳶色の瞳が私をとらえていた。
「お待たせしたね。」
「お初にお目にかかりますウェルシュタイン王。ドラクル家第三王女、アルルカ・フェグ・マレーヌ・ドラクルです。」
ローブの下に着ていたチュニックでカーテシーを取る。
「やあ、君がアルルカ姫だね。お初にお目にかかる。ザウルス・ロアナ・ウェルシュタインだ。君は姉君たちより母君によく似ているね。」
柔らかい笑みで右手を差し出されたのでそっと握り返す。
ウェルシュタイン王とドラクル王家の王女、とはいえ私は竜の巫女でもあるので、実のところ格は私の方がやや上である。
だが格式ばったやりとりが嫌いな私がエルンストおじさま経由で「フランクにいきましょう。というかしてください。」と伝えてあるため、謁見はくだけた空気で開始された。アリーナに漂う諦観はこの際無視する。
ウェルシュタイン王の着席に合わせてソファに座りなおす。対面がウェルシュタイン王、右手にエルンストおじさま、背後はアリーナである。
「留学の手続きはすべて済んでいるよ。3か月後から君は王立魔法学園の生徒、ということになる。今は後期課程の後半に入っているが、ガイアス公爵に言えばいつでも視察してもらって構わないよ。」
ウェルシュタイン王立魔法学園――貴族の血が濃いものは高い魔力を持つ。それを制御し生かす教育の場として、そして小さな社交界として若い貴族たちが通う学校である、
学生の中には一部平民も含まれる。魔力持ちは貴族に限らないからだ。有用な人材を発掘・育成する場として15歳から最大3年間のカリキュラムを受けるのである。
「君の魔力は規格外と聞いているよ――測定器を全部壊したというのは本当かい?」
「え、いや、全部という訳では……その節はご迷惑を……」
思わずしどろもどろになってしまった。
入学試験項目に魔力測定がある。計器に触れた者の潜在魔力を検知し、魔石の色が変わる魔道具なのだが、私が触れると破裂してしまうのだ。
試験官も三台目の測定器が粉砕された時点で諦めたらしい。決して安くはない機材なのでドラクル王家の方で弁償することになり、父様から怒られてしまった。
普通の人間であれば、黒い魔石が赤くなったり青くなったりするらしい。魔力が強いほど白に近づき、属性に応じて色は変化するという。なので私は自分の魔力属性を知る機会を失ってしまった。潜在魔力を見る計器なので、必死に魔力の出力を絞ったとしても意味がない、というのを悟ったのは三台目が砕かれた後だ。私のせいじゃないのに、理不尽だなぁ。
「便宜上、最上級扱い、ということにしてある。座学も優秀だったということなので問題ないだろうが――その魔力をきちんと制御できるよう、勉学に励んでほしい。」
「はい。がんばります。」
苦笑に苦笑を返しながら不服に思う。
遺憾ながら魔力制御は得意な方である。魔力暴走を起こしたこともない。だが、周りから見ればただの人間凶器と言われても詮のないことかもしれない。昔から馬鹿力と揶揄されたものだ。
「後のことはガイアス公爵に一任する――何かあれば頼ってもらって構わないよ。では失礼する。」
「はい。お忙しいところお時間をいただき、ありがとうございました。」
会釈でウェルシュタイン王を見送った後に振り向き、エルンストおじさまに目を止める。
――午後からは早速、視察とやらにいってみましょうかね。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった
ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」
15歳の春。
念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。
「隊長とか面倒くさいんですけど」
S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは……
「部下は美女揃いだぞ?」
「やらせていただきます!」
こうして俺は仕方なく隊長となった。
渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。
女騎士二人は17歳。
もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。
「あの……みんな年上なんですが」
「だが美人揃いだぞ?」
「がんばります!」
とは言ったものの。
俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?
と思っていた翌日の朝。
実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた!
★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。
※2023年11月25日に書籍が発売!
イラストレーターはiltusa先生です!
※コミカライズも進行中!
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?
ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
新約・精霊眼の少女
みつまめ つぼみ
ファンタジー
孤児院で育った14歳の少女ヒルデガルトは、豊穣の神の思惑で『精霊眼』を授けられてしまう。
力を与えられた彼女の人生は、それを転機に運命の歯車が回り始める。
孤児から貴族へ転身し、貴族として強く生きる彼女を『神の試練』が待ち受ける。
可憐で凛々しい少女ヒルデガルトが、自分の運命を乗り越え『可愛いお嫁さん』という夢を叶える為に奮闘する。
頼もしい仲間たちと共に、彼女は国家を救うために動き出す。
これは、運命に導かれながらも自分の道を切り開いていく少女の物語。
----
本作は「精霊眼の少女」を再構成しリライトした作品です。
人形となった王妃に、王の後悔と懺悔は届かない
望月 或
恋愛
「どちらかが“過ち”を犯した場合、相手の伴侶に“人”を損なう程の神の『呪い』が下されよう――」
ファローダ王国の国王と王妃が事故で急逝し、急遽王太子であるリオーシュが王に即位する事となった。
まだ齢二十三の王を支える存在として早急に王妃を決める事となり、リオーシュは同い年のシルヴィス侯爵家の長女、エウロペアを指名する。
彼女はそれを承諾し、二人は若き王と王妃として助け合って支え合い、少しずつ絆を育んでいった。
そんなある日、エウロペアの妹のカトレーダが頻繁にリオーシュに会いに来るようになった。
仲睦まじい二人を遠目に眺め、心を痛めるエウロペア。
そして彼女は、リオーシュがカトレーダの肩を抱いて自分の部屋に入る姿を目撃してしまう。
神の『呪い』が発動し、エウロペアの中から、五感が、感情が、思考が次々と失われていく。
そして彼女は、動かぬ、物言わぬ“人形”となった――
※視点の切り替わりがあります。タイトルの後ろに◇は、??視点です。
※Rシーンがあるお話はタイトルの後ろに*を付けています。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる