愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ

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 私はエドガーのフードの奥を見据えて告げる。

「……その顔の痣、それも魔物の呪いですわね?
 とても強くて禍々しい呪い。
 どこでそのようなものをお受けになったの?」

 エドガーはスッと顔を背け、窓の外を見て応える。

「あんたが気にする事じゃない。
 それと、なるだけ顔はみないでくれ。
 これでも気にしてるんだ」

「そう……ごめんなさいね、気になってしまって。
 でも、言いたくないなら構わないわ。
 あなたはエドガー・トラントフ、旅の戦士。
 それだけわかっていれば、私には充分ですもの」




****

 宿場町に辿り着くと、私たちは馬車を降りた。

 目立たないように隣国へ行かなければいけない。

 公爵家の馬車なんて、使える訳がなかった。

 ここからは歩いて国境へ向かわないと。

 私は御者に笑顔で告げる。

「ここまでありがとう。元気でね」

 御者が涙を隠すように、帽子を目深まぶかにかぶって応える。

「お嬢様も、どうかご健勝で」


 去っていく馬車を見送ると、エドガーが私に告げる。

「早速で悪いが、夜通し歩くぞ。
 遅かれ早かれ、あんたには追手がかかる。
 今のうちに、距離を稼げるだけ稼ぐ」

「そうね、マティアス殿下なら、それぐらいするわね。
 そうと決まれば、歩きましょうか!」

 私が勢いよく歩きだした途端、襟を掴まれて引き戻された。

「……そっちじゃない。
 ヴィンタークローネはあっちだ」

 ため息をついたエドガーが先導する背中を、私は顔を真っ赤にして付いて行った。




****

 翌日の明け方、私たちは街道から少し外れた森の中に居た。

 木陰に隠れるように、木の根を枕にして横になる。

 毛布にくるまる私に、エドガーが告げる。

「あんた、十五歳だろう?
 俺と二人旅なんかして、不安にならないのか?」

「あら、私を襲いたくなってしまったの?
 それなら先に言ってくれるかしら。
 結界魔法を発動しておかないといけないわ」

「ククク……しっかりしてるな。
 オーケー、わかってるならそれでいい。
 自分の身は極力、自分で守ってくれ。
 あんたが守りを固めていれば、その間に俺が賊を潰して回る」

 私は楽しそうなエドガーを見て、ぼんやりと告げる。

「……エドガーって、十八歳くらいよね、たぶん。
 ラインハルト殿下も、生きておられたら十八歳だったの。
 殿下もあなたくらい、背が高くおなりだったのかしら」

 エドガーが言いづらそうに私に応える。

「……死んだ人間のことなど、もう忘れてしまえ。
 お前も死に引きずり込まれるぞ」

 私はニコリと微笑んで応える。

「あら、ラインハルト殿下のことを覚えている人間は、一人でも多い方が良いわ。
 たったひとり、魔王城で裏切られて息絶えた殿下の冥福を祈るぐらい、するべきだと思うの。
 クラウス殿下たちには、いつか報いを与えたいところよね。
 やられっぱなしじゃ、ラインハルト殿下も浮かばれないわ」

 エドガーは木の根元に腰を下ろし、つまらなそうに鼻を鳴らす。

「フン……報いなど、どうやって与えるというんだ」

「ラインハルト殿下と同じ目に遭わせるのが一番よね。
 でも、信じる仲間が居ないクラウス殿下たちに、仲間から裏切られる思いを味わわせるのは不可能ね。
 何か、他にないのかしら……」

 エドガーはうつむいて、何かを考えこんでいるようだった。

「……くだらない事など考えてないで、今のうちに寝ておけ。
 日が高くなったらまた歩く。
 それまできっちり休んでおけ」

「はいはい、わかったわよ」

 私はエドガーに見守られながら、ゆっくりと目を閉じた。
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