愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ

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 愛しの第一王子殿下が魔王討伐に赴かれてから、三年が経過した。

 私はもう十五歳、成人して婚姻もできる年齢になった。

 だけどあの方は、まだ帰られないのかな。

 社交シーズンで夜会続きの私は、今夜は王宮で開かれる舞踏会に出席していた。

 今夜もあの男が、私に嫌らしい笑みを浮かべて近寄ってくる。

「アリシア嬢、兄上のお帰りをまだ待っておられるのか」

 私はマティアス殿下に微笑みも返さずに応える。

「悪いかしら? 魔王くらい、あの方たちはすぐに倒して戻ってこられますわ」

 この国、ゴルテンファル王国の第一王子にして剣士でもあるクラウス殿下。

 聖神様に認められた聖女アネット。

 宮廷屈指の魔導士ルーカス・ミュラー伯爵。

 そして隣国ヴィンタークローネ王国からも応援を呼び寄せている。

 彼の国で随一の剣の腕を持つ第一王子、ラインハルト殿下だ。

 これだけのメンバーがそろっていて、魔王くらい倒せなければ嘘というものだろう。

 マティアス殿下がニヤリと口角を上げた。

「いつ帰還するかもわからない兄上のことなど忘れ、私と婚約を結び直してはどうだ。
 あなたの父上、ローゼンガルテン公爵からも、前向きに検討していると返答をもらっている。
 あとはあなたの意思次第だ」

 私は手を触れてこようとするマティアス殿下からサッと身をかわし、淑女の微笑で応える。

「申し訳ありません、マティアス殿下。
 それとこれとは『話が別』というものですわ。
 公爵家の娘として、婚約者の帰りを待つことこそが正しい姿だと認識しておりますの」

 早い話が『あんたは趣味じゃないからお断り』ということだ。

 こんな神経質で嫌味ったらしい人と婚姻しようだなんて、世界がひっくり返っても考えられない。

 お父様ったら、勝手に婚約の話を進めようだなんて酷い話ね。

 マティアス殿下が、私の目の前で「チッ」と舌打ちをした――そういうところですわ。殿下を整理的に受け付けないのは。

 小さく息をついて、お父様に文句を言おうとホールを見渡す。

 お父様は遠くから私を眺めていて、困ったように眉をひそめて微笑んでいた。

 ……マティアス殿下から、無理やり話を飲まされかけている、というところかしら。

 確かに、今のゴルテンファル王家で唯一残った王子ですものね。

 クラウス殿下が戻られなければ、マティアス殿下が王家を継ぎ、次の王となる。

 そんな人の要求を跳ね除けることが、難しいのだろう。

 事情は理解するけど、お父様だって公爵家当主。

 そこはしっかりとしてほしい。

 私が大きくため息をつくのと、ホールにひとりの兵士が駆け込んでくるのが同時だった。

 兵士が声をあげながら、国王陛下に駆け寄って行く。

「ご帰還! クラウス殿下がご帰還です!」

 招待客がざわつくホールの中で、私はその言葉に胸を打たれていた。

 ――ようやく帰ってこられたのね!

 苦虫を噛み潰したようなマティアス殿下のそばで、私は心からの微笑みを浮かべていた。
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