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132.ペテル共和国(2)

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 宿に戻り、夕食の時間になった。

 私たちは食堂に集まり、大きなテーブルを囲んでいた。

 ユルゲン伯父様以外の全員が、そろって食事を食べ進めている。

 私は疑問に思って告げる。

「ユルゲン伯父様は、どうしたんだろう?」

 ライナー様が食事をしながら応える。

「まだ眠っているようだったよ。
 食事は後で、別にとるんだろう」

 そっか、そんなにお疲れなのか。


 みんなが昼間の散策を、笑いながら話していた。

 私も、昼間のことをヴァルター様に尋ねる。

「見張られてるって、どういうことですか?」

 談笑していたみんなの動きが止まった。

 注目を集める中、ヴァルター様が静かに応える。

「おそらくヴィークスの町からですが、ずっと視線を感じていました。
 殿下たちではなく、マリオン様をずっと見ているようでした」

 サイ兄様が、真剣な眼差しで口を開く。

「それは、『マリーが狙われている』と言いたいのか」

「それはわかりません。
 ですが、監視されているのは間違いないと思います」

 私はライナー様を見た――驚いてる様子がない。

「ライナー様も、気付いていたんですか?」

 彼は微笑みを浮かべながらうなずいた。

「気づいていたよ。
 だが、近づいてくる様子はないようだ。
 とはいえ、警戒するに越したことはないからね」

 私は、『なるだけみんなから離れないように』と、忠告を受けた。

 みんなにも、『そのつもりで動くといい』と、ライナー様は言っていた。

 オリヴァー殿下がライナー様に尋ねる。

「目的はなんだ?
 なぜ俺たちではなく、マリオンなんだ?」

 ライナー様は肩をすくめて応える。

「さすがにそこまでは、まだわからないな」


 その場でみんなが話し合いを行った。

 私の周りには、常に男子が数人付くようにしよう、ということになった。

 女子たちも、なるだけ離れないようにしよう、と言いあっていた。

 みんな、私のために申し訳ないな。

 でも相手が誰なのか、何を考えてるのかわからないし。

 できる自衛策を、取っていくしかないか。




****

 とある場所の一室で、二人の男が向き合って座っていた。

 二人とも、立派な貴族のスーツを着た初老の男性だ。

 片方の男性が告げる。

「例の娘が、この町に到着したらしい」

「準備は出来ている。あとは手筈通りに進めよう」

「『あいつ』は短期だからな。あまり待たせるなよ?」

「ああ、わかっている」

 そう言って片方の男性が立ち上がり、部屋から出て行った。


 残された男性はグラスを手に取り、ブランデーを注ぎ込んだ。

 ゆっくりと香りを味わいながら、喉の奥に流し込んでいく。

「『あいつ』のわがままにも困ったものだ。
 少しは追われている自覚を持ってもらいたいものだが」

 独り言をつぶやきながら、静かに酒を喉に流し込む。

 男性にとって、『その人物』は利用価値の高い人間だった。

 だがレブナント王国の諜報部からかくまうのも限度がある。

 あまり派手に動いて欲しくないのが本音だ。

 それでも危険を冒すのは、これが成功すれば充分な見返りが得られるからだ。

 長年求めていたものを、ようやく得る機会だ。

 確かに、見逃す手はないだろう。

 その娘の母親に、帝国は滅ぼされたようなものだった。

 娘を使って意趣返しができると考えれば、少しは『胸がすく』というものだ。


 ブランデーを飲み干したあと、残った男性も立ち上がり、ゆっくりと部屋を後にした。




****

 ペテル共和国に到着してから、二日が経過した。

 オリヴァー殿下は公務で飛び回る毎日だ。

 遊ぶ暇がないことを、夕食の席で嘆いていた。

 ライナー様はオリヴァー殿下と一緒に行動していたので、宿を留守にする事が多かった。

 私たちは外出を控え、宿で過ごしていた。

 だけど三日目になって、さすがに退屈してきたらしい。

 朝食の席で、マーセル殿下が告げる。

「そろそろ町を見物に行ってもいいんじゃないか」

 サイ兄様は、気が進まないみたいだ。

「マリーに何かあったら、どうするつもりだ?」

 マーセル殿下が応える。

「離れて行動させなければ、問題はないだろう?
 護衛の魔術騎士だって付いてる。
 それにこのままじゃ、ここまで足を運んだ意味がない」

 それはその通りなんだけど。

 みんなの不満もたまってる。

 私が自分の行動に気を付ければ、問題はないはずだよね。

「サイ兄様、大丈夫ですよ。
 魔術騎士が十名と、戦える男子が七人ですよ?
 私もみんなから離れないよう、気を付けますから」

 私の言葉で、サイ兄様も納得した様だった。


 それからは毎日、旧帝都をあちこち見て回った。

 商店街以外にも、文化遺産や美術館などを巡り、異国の文化を楽しんだ。

 私の周囲には女子三人と、最低でも男子四人が付くようになっていた。

 ヴァルターが言うには『まだ監視されています』とのことだった。

 私は食卓に戻ってきたユルゲン伯父様にも相談した。

 彼はいつものように緩やかに微笑みながら『みんなと一緒に行動してれば大丈夫だよ』と応えた。


 一週間目になり、夕食の席でオリヴァー殿下が話を切り出す。

「明日は、みんなで夜会に出席しよう」

 私は驚いて尋ねる。

「夜会ですか? 子供が参加しても大丈夫なんですか?」

 そりゃあ、『準備はしておいて欲しい』と言われてるけど。

 オリヴァー殿下がうなずいた。

「先方から『ご友人も一緒に参加されてはどうか』と言い出されてな。
 それに、俺だけみんなと別行動してばかりでは、寂しいじゃないか」

 確かにこの一週間、オリヴァー殿下だけが公務で別行動だ。

 マーセル殿下も、どこか寂しそうにしていた。

 オリヴァー殿下が言葉を続ける。

「俺は明後日から、隣町の視察に行く。
 一週間ほどで戻るが、その間は会えなくなるからな。
 この調子だと、俺一人が『のけもの』だ」

 私がそれに応える。

「私たちも、一緒に隣町に行けばいいんじゃないですか?」

 オリヴァー殿下が、困ったように微笑んだ。

「マリオンは狙われているんだろう?
 うかつに動くのは危ない。
 ここは在外公館のそばだし、この国で一番安全な場所だ。
 ここから離れないようにしておいたほうがいい」

 その言葉に、みんながうなずいた。

 私はしょんぼりとした気持ちで応える。

「なんだか、私がみんなの足を引っ張ってるみたいで、申し訳ないです……」

 サイ兄様が手を伸ばしてきて、私の頭を撫でた。

「お前が気に病むことじゃない。気にするな」

 スウェード様も明るく告げる。

「そうそう! 悪いのは狙ってきてる奴だからな!」

 サニーは私の背中を撫でながら告げる。

「私たちがそばに居るから、大丈夫よ」

 マーセル殿下が声を上げる。

「じゃあ兄上の思い出作りに、明日はみんなで夜会出席だな!」

 みんなが賛同の声を上げ、夜会出席が決定された。

 夜会かー。私にとって、初めての社交界だ。

 巧く振る舞えるかなぁ?
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