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130.第一次北方国家群視察団(2)
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私たちはシュネーヴァイス街道を無事に通過した。
最初の北方国家、ヴィークス王国の首都に辿り着いていた。
お昼前に到着した私たちは、今までと同じように宿を貸し切った。
昼食を済ませると、マーセル殿下が告げる。
「せっかくだから、全員で町を見て回らないか」
反対する者は出ず、午後から全員で町を散策することになった。
明日になればオリヴァー殿下が、公務で抜けてしまう。
全員一緒に回れるのは、到着日当日しかない、という訳だ。
護衛には魔術騎士二十名が付き従った。
王宮騎士団は、留守の宿の警備に当たった。
ユルゲン伯父様が私たちに同行し、ライナー様は宿で留守番だ。
十二名の子供の周りを、二十名の魔術騎士が護衛する。
やっぱり、あまり旅行って気分にはならないなぁ。
私は苦笑しながらつぶやく。
「王族って、随分と窮屈な生活を強いられるのね……」
私の提案した『ゲーム』では、結果次第で私も王族入りになる。
私もこんな生活を強いられることになるのか。
うーん、正直言って、嫌だなぁ。
夢を叶えるためとはいえ、その道は険しそうだ。
だけどゲームは始まってしまったのだし、そこは諦めよう。
私は赤い空を眺めながら、諦めの境地に居た。
マーセル殿下が、そんな私に笑いかける。
「なに、慣れれば気にならなくなるものだ。
そんなことより、少しでも異国情緒を味わおう」
……それもそうか。
異国に居るのは事実だし!
今、目の前にあるものを楽しんでいこう!
明るい気分になって、みんなと一緒に街並みを見ていく。
毒味役が確認した露店の食事を、みんなで口にしていく。
サニーが「やっぱり北国は味付けが濃いですわね」と感想を述べた。
ユルゲン伯父様の話だと、寒い地方は寒さに耐えるため、味付けが濃くなりがちなのだとか。
比較的穏やかな気候のレブナント王国に比べると、かなり濃い味に感じるらしい。
……しかし、やっぱり精霊眼は目立つんだな。
私は道を歩いてる間、ずっと視線を感じていた。
総勢三十人を超える団体だというのに、一番目立っていた気がする。
町往く人の視線が、誰よりも先に私に向けられるのだ。
口から思わずため息が漏れた。
ユルゲン伯父様が、私に声をかけてくる。
「じきに慣れるよ。目立つのは、どうしようもないからね」
そういうものか。
というか、慣れるしかないのか。そうか。
私はしょんぼりとしながら、みんなに混じって歩き続けた。
あちこちの建物を見ていて、あることに気付いた。
「北方国家は、レンガ造りの建物が多いみたいですね」
ユルゲン伯父さんが柔らかく笑ってうなずいた。
「そういう風土、文化なんだよ。
建築に向いた木材が手に入りにくい、というのがひとつ。
火災対策が、もう一つの理由らしいよ」
北方国家は平原が多く、森林がそれほど多くない。
それが帝国が騎兵を発達させる一因でもあったそうだ。
また、レンガの材料に向いた土壌が多いのも理由のひとつだとか。
町を火災から守る観点からも、レンガ造りが推奨されて来た歴史があるそうだ。
私はうなずきながらユルゲン伯父様の話を聞いていた。
「他国の文化というのも、面白いものなのですね」
私の言葉に、ユルゲン伯父様はにっこりと微笑んだ。
みんなも私のように、異国情緒を楽しんでるみたいだった。
ただひとり――ヴァルター様を除いて。
私はヴァルター様に尋ねる。
「どうしたのですか? なんだか緊張してません?」
「……いえ、なんでもありません」
私は小首をかしげて見つめてみた。
「……本当になんでもありませんから」
何か、気になることでもあるのかな?
オリヴァー殿下は、ザフィーアで行動できるのが嬉しいらしい。
少しはしゃいだ様子で、あちこちを見て回っていた。
「どうだマリオン、楽しんでいるか?」
「ええ、もちろんよ?」
興奮気味に笑いかけてきたオリヴァー殿下に、微笑みで言葉を返す。
彼にとっては数少ない、自由に行動できる時間だ。
小さな子供のように喜んでしまっても、仕方のないことだろう。
****
夕暮れ時になり、宿に帰りつく。
部屋で一休みした後、食堂で夕食の席に着いた。
北方の郷土料理という、牛肉と根菜をクリームで煮込んだシチューを口に運んでいく。
男子たちには「美味い!」と評判だった。
女子たちは「味が濃いですわ」と微妙な反応だ。
私たち女子の舌が繊細なのかなぁ?
それとも、成長期真っ盛りの男子たちは、栄養に飢えてるのかな。
彼らはシチューを何度もおかわりして、栄養を喉に流し込んでいた。
私はこっそり、ヴァルター様の様子を窺った。
――黙って料理を口に運んでる。
昼間のあれは、なんだったのかなー。
みんながワイワイと雑談で盛り上がっていく。
明日は丸一日自由時間で、私たちは「また町へ繰り出そう!」という話になった。
「まだ見るところが残ってるの?」
そんなに大きな町じゃない。
今日一日で、一通り見て回ったはずだけど。
マーセル殿下が、笑顔で応える。
「商店街で、土産物でも物色しようじゃないか」
私はあきれて応える。
「今からお土産を買っていたら、馬車に積み切れなくなるわよ?」
「一つや二つなら、問題あるまい?」
それで丸一日使えるとは思えないけどなぁ。
だけどマーセル殿下に、譲る気配はなさそうだ。
初めての国外旅行で興奮しているのは、マーセル殿下も同じ、ということかな。
私は小さく息をついて「わかったわ」と賛同した。
****
翌日の朝を迎えた。
オリヴァー殿下は、公務で別行動の日だ。
「……ちょっとサニー。早く起きてくれないかな」
もちろん、女子部屋になってからはサニーがきっちりと私を抱き枕にしている。
ララやレナも起き出してきて「おはようマリー」と挨拶をしてくる。
「――ちょっと?! 挨拶するなら、助けてくれてもよくない?!」
ララが嫌そうな顔をして応える。
「だって、サニーったらものすごい力でしがみついてるんだもの。
引き剥がすだけで疲れちゃうわよ」
レナがニコリと微笑んで応える。
「サニーが起きるまで待った方が、無駄な体力を使わないわよ?」
結局、私は十五分くらい必死にサニーを起こし続けることになった。
最初の北方国家、ヴィークス王国の首都に辿り着いていた。
お昼前に到着した私たちは、今までと同じように宿を貸し切った。
昼食を済ませると、マーセル殿下が告げる。
「せっかくだから、全員で町を見て回らないか」
反対する者は出ず、午後から全員で町を散策することになった。
明日になればオリヴァー殿下が、公務で抜けてしまう。
全員一緒に回れるのは、到着日当日しかない、という訳だ。
護衛には魔術騎士二十名が付き従った。
王宮騎士団は、留守の宿の警備に当たった。
ユルゲン伯父様が私たちに同行し、ライナー様は宿で留守番だ。
十二名の子供の周りを、二十名の魔術騎士が護衛する。
やっぱり、あまり旅行って気分にはならないなぁ。
私は苦笑しながらつぶやく。
「王族って、随分と窮屈な生活を強いられるのね……」
私の提案した『ゲーム』では、結果次第で私も王族入りになる。
私もこんな生活を強いられることになるのか。
うーん、正直言って、嫌だなぁ。
夢を叶えるためとはいえ、その道は険しそうだ。
だけどゲームは始まってしまったのだし、そこは諦めよう。
私は赤い空を眺めながら、諦めの境地に居た。
マーセル殿下が、そんな私に笑いかける。
「なに、慣れれば気にならなくなるものだ。
そんなことより、少しでも異国情緒を味わおう」
……それもそうか。
異国に居るのは事実だし!
今、目の前にあるものを楽しんでいこう!
明るい気分になって、みんなと一緒に街並みを見ていく。
毒味役が確認した露店の食事を、みんなで口にしていく。
サニーが「やっぱり北国は味付けが濃いですわね」と感想を述べた。
ユルゲン伯父様の話だと、寒い地方は寒さに耐えるため、味付けが濃くなりがちなのだとか。
比較的穏やかな気候のレブナント王国に比べると、かなり濃い味に感じるらしい。
……しかし、やっぱり精霊眼は目立つんだな。
私は道を歩いてる間、ずっと視線を感じていた。
総勢三十人を超える団体だというのに、一番目立っていた気がする。
町往く人の視線が、誰よりも先に私に向けられるのだ。
口から思わずため息が漏れた。
ユルゲン伯父様が、私に声をかけてくる。
「じきに慣れるよ。目立つのは、どうしようもないからね」
そういうものか。
というか、慣れるしかないのか。そうか。
私はしょんぼりとしながら、みんなに混じって歩き続けた。
あちこちの建物を見ていて、あることに気付いた。
「北方国家は、レンガ造りの建物が多いみたいですね」
ユルゲン伯父さんが柔らかく笑ってうなずいた。
「そういう風土、文化なんだよ。
建築に向いた木材が手に入りにくい、というのがひとつ。
火災対策が、もう一つの理由らしいよ」
北方国家は平原が多く、森林がそれほど多くない。
それが帝国が騎兵を発達させる一因でもあったそうだ。
また、レンガの材料に向いた土壌が多いのも理由のひとつだとか。
町を火災から守る観点からも、レンガ造りが推奨されて来た歴史があるそうだ。
私はうなずきながらユルゲン伯父様の話を聞いていた。
「他国の文化というのも、面白いものなのですね」
私の言葉に、ユルゲン伯父様はにっこりと微笑んだ。
みんなも私のように、異国情緒を楽しんでるみたいだった。
ただひとり――ヴァルター様を除いて。
私はヴァルター様に尋ねる。
「どうしたのですか? なんだか緊張してません?」
「……いえ、なんでもありません」
私は小首をかしげて見つめてみた。
「……本当になんでもありませんから」
何か、気になることでもあるのかな?
オリヴァー殿下は、ザフィーアで行動できるのが嬉しいらしい。
少しはしゃいだ様子で、あちこちを見て回っていた。
「どうだマリオン、楽しんでいるか?」
「ええ、もちろんよ?」
興奮気味に笑いかけてきたオリヴァー殿下に、微笑みで言葉を返す。
彼にとっては数少ない、自由に行動できる時間だ。
小さな子供のように喜んでしまっても、仕方のないことだろう。
****
夕暮れ時になり、宿に帰りつく。
部屋で一休みした後、食堂で夕食の席に着いた。
北方の郷土料理という、牛肉と根菜をクリームで煮込んだシチューを口に運んでいく。
男子たちには「美味い!」と評判だった。
女子たちは「味が濃いですわ」と微妙な反応だ。
私たち女子の舌が繊細なのかなぁ?
それとも、成長期真っ盛りの男子たちは、栄養に飢えてるのかな。
彼らはシチューを何度もおかわりして、栄養を喉に流し込んでいた。
私はこっそり、ヴァルター様の様子を窺った。
――黙って料理を口に運んでる。
昼間のあれは、なんだったのかなー。
みんながワイワイと雑談で盛り上がっていく。
明日は丸一日自由時間で、私たちは「また町へ繰り出そう!」という話になった。
「まだ見るところが残ってるの?」
そんなに大きな町じゃない。
今日一日で、一通り見て回ったはずだけど。
マーセル殿下が、笑顔で応える。
「商店街で、土産物でも物色しようじゃないか」
私はあきれて応える。
「今からお土産を買っていたら、馬車に積み切れなくなるわよ?」
「一つや二つなら、問題あるまい?」
それで丸一日使えるとは思えないけどなぁ。
だけどマーセル殿下に、譲る気配はなさそうだ。
初めての国外旅行で興奮しているのは、マーセル殿下も同じ、ということかな。
私は小さく息をついて「わかったわ」と賛同した。
****
翌日の朝を迎えた。
オリヴァー殿下は、公務で別行動の日だ。
「……ちょっとサニー。早く起きてくれないかな」
もちろん、女子部屋になってからはサニーがきっちりと私を抱き枕にしている。
ララやレナも起き出してきて「おはようマリー」と挨拶をしてくる。
「――ちょっと?! 挨拶するなら、助けてくれてもよくない?!」
ララが嫌そうな顔をして応える。
「だって、サニーったらものすごい力でしがみついてるんだもの。
引き剥がすだけで疲れちゃうわよ」
レナがニコリと微笑んで応える。
「サニーが起きるまで待った方が、無駄な体力を使わないわよ?」
結局、私は十五分くらい必死にサニーを起こし続けることになった。
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