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126.ゲームスタート(4)

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 アラン様が苦笑を浮かべて告げる。

「十二歳にして七人の男心を弄ぶ悪女か。
 大叔母上にはない、強力な逸話になりそうだ。
 きっと社交界でも、マリオン嬢は話題になるでしょう。
 風当たりは、強くなりますよ?」

 私はすまし顔でそれに応える。

「あら、みんなが私を諦めてしまえば、私は悪女にならなくて済むわよ?
 私だって『悪女だ、お姫様だ』なんて、好き好んで言われたい訳じゃないもの」

 私みたいな女は諦めて、もっと素敵な女性を探した方が建設的だと思う。

「――みんな、物好きよね。
 私なんかの、どこがそんなに良いんだか」


 私は未だに、姿見の中の自分を直視できない。

 こんなグロテスクな女の子に、女性的な魅力を感じることなんて、できる訳がない。

 女子たちが言い含めてくるから、渋々と事実を受け入れたけど。

 目標だった殿下たちから好意を寄せられるのは、素直にうれしいと思う。

 だけど実際に好意を寄せられても、その好意に応える自信が持てなかった。

 こんな男子の心を弄ぶ真似なんて、本当は不本意だ。

 だけど好意を寄せられてしまって、『チャンスが欲しい』と言われてしまった。

 それじゃあ、このぐらい公正なルールでゲームをするしかないじゃないか。


 普段は無口なアレックス様が、珍しく会話に参加してくる。

「俺たちの親は元々、ヒルデガルト先生に好意を持っていた人間ばかりだ。
 そしてマリオンは、先生の若い頃にそっくりらしいからな。
 きっと好みを受け継いでいるんだろう」

 私たちの視線がサニーに集まり、「あー、なるほど」と異口同音で納得していた。

 見つめられたサニーは平然としていた。

「私の体が『マリー大好き!』と叫んでいるのは確かね。
 みんなもそうなのかしら?」

 と、私たちの視線を受け止めながら、カップを傾けていた。




****

 その日の夜、臨時女子部屋では、いつものように私はサニーの抱き枕にされていた。

 サニーに抱き着かれながら、暗闇の中で考えにふける。


 このザフィーアでの出会いは、得難いものに思える。

 彼らとの絆は、この二か月で確かなものに成長した。

 そして私以外、みんながグランツに進学する。

 そしてオリヴァー殿下以外、全員が寄宿生だ。

 ……私も、グランツに通うべきなのだろうか。

 最近は、そればかりを考えていた。

 昼間宣言したゲームで、勝者が出なければ、私は王家に嫁ぐことが決まった。

 殿下たちが心変わりしなければ、だけど。

 王族の伴侶に、魔術の腕が求められることはない。

 だけどより『相応しい者』として、証を立てる意味でグランツを卒業することが多いらしい。

 二か月の鍛錬を越えて、私はこの魔力を活かした道を模索できる可能性が見えてきた。

 殿下たち以外が勝者になった場合にも、グランツでの経験は無駄にならないだろう。

 だけど私の魔術の腕で、エリート養成機関であるグランツを卒業できるだろうか。

 その自信は持てなかった。

 お母様が勧めるように、教養のみを修めて他家に嫁ぐ。

 そんな道も、まだ残されてる。

 ひとりで考えても答えが出ない。

 困った時の神頼み、してみようかな。

 私は愛の神の気配を手繰り寄せ、語りかける。


(――愛の神様、ちょっと進路相談をしてもいいですか?)

『ええ、いいわよ?』

(私はお母様の勧める道と、みんなと同じ道、どちらを選んだ方がいいと思いますか?)

『私から言えることはひとつだけ。
 人との縁は大切にした方が、あなたの幸福につながるわ。
 あなたがこの試練を乗り越えるためにも、縁は大切にしておきなさい』

(神の試練って奴ですか?
 あれはまだ続いてるんですか?)

『この試練を突破した時、あなたは”あなたの求める愛”を手に入れるでしょう。
 でもそれが”今のあなたが思っている愛”なのかは、これからのお楽しみね』

(『私の求める愛』って、なんでしょう?)

『言ったでしょう? それはこれからのお楽しみよ。
 あなたはこれから、いくつかの愛を知ることになる。
 その中からきっと、”あなたの求める愛”が見つかるわ』

(何人もの男性から、愛を捧げられるってことですか?
 その中から選ぶことになるんですか?
 なんだかそういうのって、好きじゃないんですけど)

『あら、もう既にそんな状態になってるじゃない。
 あなたのお友達が恋を愛に育てていけば、自然とそうなるわ』

 それはつまり、手遅れということだ。

(私に選ばれなかった男性は、どうなるんですか?)

『その想いを引きずって生きるか、切り捨てて別の愛に生きるか。
 人間の普遍的な愛の姿よ。
 気に病むようなことではないわ』


(私にはまだ、そこまで割り切ることはできないですよ)

『大丈夫よ。
 愛に不器用なヒルデガルトにもできたことだもの。
 あなたにだってできるわ』

(ほんとかなー……。
 でも愛の神様の言うことだから、きっとそういうことなのでしょうね)

『あなたがどの愛を選ぶことになるのか、楽しみに見守らせてもらうわね』


 どうやら私は、男心を弄ぶ悪女の道を選ばなきゃいけないらしい。

 そして愛の神は、そんな私の恋愛模様を見て楽しむつもりだ。

 本当に『女性の味方』なのかなぁ?

 いささか疑問である。
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