新約・精霊眼の少女外伝~蒼玉の愛~

みつまめ つぼみ

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112.お母様の弟子(1)

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 午前中、今日もお母様の魔術授業が始まった。

「魔術の四大属性は身に付けたわね。
 じゃあ今日は古代魔法の基礎をやってみましょう」

 私は手を挙げて質問をする。

「古代魔法と魔術の違いとは、なんですか?」

 お母様は笑顔で解説をしてくれた。

 魔術や現代魔法は、自分の魔力を使う。

 古代魔法は、神様の魔力を使う。

 そこが一番の違いだそうだ。

 神様に祈りを捧げ、それが聞き届けられると、手元に魔力が集まってくる。

 それを魔法に編み上げるのが『古代魔法』なのだそうだ。

「――正直、『古代魔法の方がすっげーことができる』くらいの認識で構わないわ」

 私は目をぱちくりとしばたかせた。

 お母様、時々すっごいフランクな言葉を使うんだよなぁ。

 ニコリと微笑んだお母様が、言葉を続けていく。

 要約するとこうだ。

 どんな『結果』が欲しいかを祈りに込めてる。

 神様が『オッケー!』と思えば、祈りに応えて力を貸してくれる。

 逆に『うーん、それはちょっとなー』と思われたら、古代魔法は失敗してしまう。

 私たち『精霊眼の保持者』は、神の寵愛を受けている。

 だからその分、神様は頑張って『応じてくれようとする』んだって。

 でも無理なものは無理だから、そういう時はやっぱり古代魔法は失敗するそうだ。

「――神様との会話の仕方は、この前練習した通りよ。
 さぁ始めましょう。
 まずは火を生み出すところからよ」

 私はうなずいた。

 愛の神の気配を手繰り寄せ、『火を生み出す魔法を使う力を貸してください』と祈る。

 手元に愛の神の魔力が集まってくるので、これを編み込んで火に変えた。

 お母様が拍手をしていた。

「そう、その調子よ。
 鍛錬を積めば、祈る時間や編み込む時間が短くなっていくわ。
 瞬時に古代魔法を発動することすら可能よ」

 なるだけその状態にしておいて欲しい、とお願いされた。

 命を守る術式は、一瞬が命取りになる。

 治癒魔術を受けられない私は、その一瞬が命取りになりかねないと。

 私は小首をかしげて尋ねる。

「お母様? 私にそのような生命の危機が、訪れるのでしょうか」

「おそらくはないはずだけど、高位貴族は命を狙われることもあるの。
 王族ともなれば、より狙われやすくなるわ。
 周りが守ってくれると思うけれど、自分のみを最後に守るのは自分になる。
 できるに越したことはないのよ」

 そっかー、王族って大変なんだなー。

 命を毎日狙われるような身分なのか。

 それは考えたことがなかった。

 ちょっと王族になるプランは、考え直した方が良いのかなぁ。


 そのあと私は、水や風、土を生み出す古代魔法にも成功した。

 魔法であれば『無から生み出す』ことも簡単にできてしまう。

 魔術ではこうはいかない。

 例外は火属性くらいだと、お母様は教えてくれた。

 どこにでもある空気を操る風属性と並んで、火属性は汎用性が高いらしい。


 お母様は最後も拍手をしてくれた。

「いい感じね。古代魔法なら、あなたの強大な魔力も特に影響がないみたい」

 古代魔法は神様への祈り。

 魔法のイメージが伝われば、神様は頑張って『それっぽい力』を貸してくれるらしい。

 けれど魔術理論をベースに説得力のあるイメージで祈った方が、より良いそうだ。

 その方がより強く、確かな力を借りることができる。

「――だから、魔術理論の勉強は手を抜いてはダメよ?」

「はい、お母様!」


 そのあと私は『服を防刃材質に変える魔法』や『空中に魔力障壁を作る魔法』を教わった。

 古代魔法にも術式があり、それは『より効率的に神様にイメージを伝えるノウハウ』だそうだ。


「古代魔法はでたらめな力。
 困った時に、ふんわりとしたイメージを祈ったとしても、神が応じれば魔法になる。
 でも、便利すぎるのよね」

 余りに便利すぎて『堕落してるんじゃないか』と、お母様は不安になるそうだ。

 私にも「古代魔法に頼った生き方をしてはダメよ?」と、念を押されてしまった。

「はい、お母様!」




****

 ヒルデガルトの書斎には、養父であるヴォルフガングの姿があった。

 彼の言葉に、ヒルデガルトは驚いたように目を見開いた。

「弟子、ですか?」

 ヴォルフガングがうなずいた。

「ああ、そうだ。
 お前もそろそろ、きちんとした弟子を取っても良い頃だからね。
 他人に物事を教えるという行為は、己を高めることにもつながる有益な行為だ。
 ――最後のレッスンだね」

 ヴォルフガングがぱちりとウィンクを飛ばした。

 困惑するヒルデガルトが応える。

「今はマリーに魔術を教えるので精一杯です。
 弟子を取る余裕なんて――」

「その様子を見て判断したから、問題ないよ」

 ヴォルフガングが人の良い笑みで笑った。

 ヒルデガルトはため息をついてから、ヴォルフガングに尋ねる。

「それで、誰を弟子に取ればいいんですか?」

「ああ、全部で十名になるね。
 マリーやサイを含めたら、十二名だ」

「――多くありません?!
 初めての弟子取りですわよ?!」

 ヴォルフガングが、実に楽しそうに笑い声をあげた。

「なぁに、人数はむしろ多い方が、子供の管理は楽なんだよ。
 自分たちで勝手に遊ぶからね。
 ――先方には打診済みで、良い返事をもらっている。
 あとはお前がうなずくだけだ」

 ヒルデガルトが小さく息をついた。

「……お父様のスパルタは健在ですのね」

 ヴォルフガングが楽しそうにそれに応える。

「メンバーはお前の友人たち、その子供になる。
 招集する当日に親も集めれば、ちょっとした同窓会だ。
 客間の数が足りないから、子供たちは男女別でまとめて寝てもらうことになるだろう。
 一番大きな客間を、それ用に改装しよう。寝具の手配はもう終わっているよ」

「……その用意周到振り、本当にお父様ったら、お変わりありませんのね」

 ヒルデガルトが苦笑を浮かべた。

 ヴォルフガングはそれに笑みで応える。

「了承、で構わないね?
 ではグランツが始まる春まで二か月間、その子たちを預かる。
 誰が来るかは、あとで名簿を渡そう。
 私の話は以上だ――では、頑張るといい」

 そう言い残し、ヴォルフガングは書斎から出て行った。

 ドアが閉まるのを目で追っていたヒルデガルトは、また大きくため息をついた。

 気を取り直し、領地の執務を再開した。




****

 朝食の席でお母様が告げる。

「グランツ入学までの間、弟子を取るからそのつもりでね」

 私はびっくりしてお母様を見つめた。

「お弟子様、ですか?」

 サイ兄様も尋ねる。

「誰が来るんですか?
 春までとなると、随分と長期間ですね」

 今は一月、グランツ入学は四月初旬なので、二月から三月の間、二か月間に及ぶ。

 そんな長期間、他人と一緒に暮らしたことなんてないしなぁ。

 大丈夫かな? ちゃんとやっていける?

 お母様が私に告げる。

「そんなに不安がらなくても大丈夫よ。
 レナやララ、サンドラが居るわ。
 女子はその三人だけだけど、あの子たちが居ればマリーは安心でしょう?」

「えっ?! お弟子さんって、みんなの事なんですか?!」

 お母様がうなずいた。

「ええ、私のグランツ時代の同級生たち、その子供になるわ。
 招集当日は親も呼ぶから、少し賑やかになるわよ?」

 サイ兄様が尋ねる。

「その言い方だと、もっと居るんですね?
 他の男子は誰が来るんですか?」

「それは当日のお楽しみね。
 でも男子は全部で七名よ」

 私は思わず声を上げる。

「多くありませんか?!
 ――あ、最近客間を改装していたのは、そのためだったんですね」

 お母様が微笑んで頷いた。

「男子の面倒はサイが、女子の面倒はマリーが見てあげてね」

 私たちはお母様の言葉に、戸惑いながらうなずいた。


 お弟子さんかー。

 サニーたちが居るなら心強いけど、男子が七人も来るなんて、ちょっと不安だ。

 どうなるかなぁ?!
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