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明朝、明け方から馬車を用意して待っていると、私の前には三人の若者が姿を見せた。
一人は眠そうなルーカス殿下。
金髪碧眼の第一王子で、今年十六歳だ。
「ったく、なんで俺様がこんな朝早くに起きねばならんのだ」
不機嫌そうに愚痴をこぼすけど、集合時間から三十分は遅れてるからね?
一人は澄まし顔の女の子。たぶん同い年前後だろう。
「聖女ブリギッツです。よろしく」
私にはあんまり興味がなさそうにブリギッツが告げた。
彼女の視線はルーカス殿下に注がれている。
翡翠のような瞳を潤ませて見つめているあたり、憧れでもあるんだろうか。
最後の一人は生意気そうな青年だ。
年上なんだろうけど、慢心しているのが手に取るようにわかる。
「俺様が居るからには、お前らは何も不安に思うことはないぞ」
消去法で、こいつが伯爵令息のレナートだろう。
新進気鋭の天才魔導士って言ってたから、天狗にでもなってるのかな。
私は小さく息をついて告げる。
「全員そろったね? じゃあ馬車に乗りこんで」
「――ちょっと待て! このグループのリーダーは俺だぞ?!」
ルーカス殿下が不満気に声を上げた。
私は心底どうでもいいので、ここは譲ることにする。
「では殿下、号令と指示をどうぞ」
「うむ、では皆の者、馬車に乗りこめ! 魔王討伐に出発するぞ!」
ほんと、めんどくさい人だ。
ルーカス殿下が最初に乗りこみ、次にブリギッツが殿下の手を借りて乗りこんだ。
続いてレナートが乗りこみ、私は最後に誰の手も借りずに乗りこむ。
扉が閉まると間もなく馬車が走り始め、車内でルーカス殿下が陽気に告げる。
「次に帰ってくるときは魔王を倒した後だ! お前ら、俺の足を引っ張るなよ?!」
はいはい、殿下の活躍する場を取るなと、そういうことですね?
私は小さく息をついて、足りない睡眠時間を馬車の中で取ることにした。
****
馬車は王国の端、国境付近で降りることになった。
さすがに魔王領を馬車で旅するなんてことはできない。
魔族たちは強い魔力を持ち、独自の魔法を使って襲ってくる。
人間たちはなんとか魔族の侵攻を食い止めているけれど、何百年という長い戦いは未だに決着がついていない。
そんな魔族たちの王、魔王を倒すのが今回の旅の目的だ。
馬車を降りて歩き始めると、さっそく三人の傾向が見えてきた。
明るく自慢話を続けるルーカス殿下。
彼の話に笑顔で相槌を打つブリギッツ。
なんとかブリギッツの気を引こうと、あの手この手で話題を提供するレナート。
……こいつら、真面目に魔王を倒す気があるのか?
私は呆れながら、三人の後ろを歩いて行った。
****
魔王討伐の旅は二年に及んだ。
時には魔王領に住む人間の村を守った。
時には大量に襲い来る魔族の群れを返り討ちにした。
時には幹部級の強敵が差し向けられるのも、また返り討ちにした。
その全てを、ほとんど私が一人で処理していた。
……こいつら、使えねぇっ!
ルーカス殿下は『人間の中では』剣の腕が優れているけど、魔族に物理攻撃は通用しづらい。
人間たちは数で魔族に対抗していたけれど、このグループはたったの四人。
剣での攻撃が通用しないとわかると、ルーカス殿下はさっさと敵の前から逃げ出して私の後ろに隠れていた。
仕方なく、私は叩きこまれた剣術を駆使して魔法を絡めて魔族を倒していく。
レナートは天才魔導士と言われるだけあって、高度な魔法を使って見せることが出来た。
だけど使う魔法が大技過ぎて、一回魔法を使うと魔力切れを起こしていた。
魔族だってそれなりに数を揃えて襲ってきてる。一発の大魔法だけで戦いが終わるわけじゃない。
魔力が尽きたレナートは、敵の前から逃げ出して物陰に隠れていた。
私は習った中級魔法を連打して、魔族の数を削っていった。
ブリギッツは癒しの奇跡を使えるけど、その対象はルーカス殿下だけに限られるようだった。
レナートが必死に頼み込むと、渋々といった様子で彼の傷も『ちょっとだけ』癒してくれる。
私なんて、傷だらけの血まみれになろうとブリギッツには無視され続けた。
仕方なく習った治癒魔法で自分を治して旅を続けた。
なんなのこのグループ。魔族とまともに戦えるのは私だけじゃん!
しかも誰一人として私にお礼とか感謝とか表してこない。
まるで私が魔族を倒すのが当たり前、といった風情だ。
三か月も経つ頃には、敵が現れると三人がまとめて後ろに引っ込み防御を固め、私が一人で前に出て魔族を蹴散らしていった。
そんな長い旅路も終わりを告げ、私たちは魔王城の前に居た。
魔王城を守っていた魔族の大軍も、私一人が片付けた。
ルーカス殿下が意気揚々と告げる。
「さぁ魔王城だ! 魔王の首を取るぞ!」
殿下に応えるブリギッツとレナート。
……あの、できれば私の息が整うまで待つとか、できないんですかね。できませんか、そうですか。
私は疲れ切った身体に鞭打って、魔王城の中に入っていくルーカス殿下たちの後を追った。
一人は眠そうなルーカス殿下。
金髪碧眼の第一王子で、今年十六歳だ。
「ったく、なんで俺様がこんな朝早くに起きねばならんのだ」
不機嫌そうに愚痴をこぼすけど、集合時間から三十分は遅れてるからね?
一人は澄まし顔の女の子。たぶん同い年前後だろう。
「聖女ブリギッツです。よろしく」
私にはあんまり興味がなさそうにブリギッツが告げた。
彼女の視線はルーカス殿下に注がれている。
翡翠のような瞳を潤ませて見つめているあたり、憧れでもあるんだろうか。
最後の一人は生意気そうな青年だ。
年上なんだろうけど、慢心しているのが手に取るようにわかる。
「俺様が居るからには、お前らは何も不安に思うことはないぞ」
消去法で、こいつが伯爵令息のレナートだろう。
新進気鋭の天才魔導士って言ってたから、天狗にでもなってるのかな。
私は小さく息をついて告げる。
「全員そろったね? じゃあ馬車に乗りこんで」
「――ちょっと待て! このグループのリーダーは俺だぞ?!」
ルーカス殿下が不満気に声を上げた。
私は心底どうでもいいので、ここは譲ることにする。
「では殿下、号令と指示をどうぞ」
「うむ、では皆の者、馬車に乗りこめ! 魔王討伐に出発するぞ!」
ほんと、めんどくさい人だ。
ルーカス殿下が最初に乗りこみ、次にブリギッツが殿下の手を借りて乗りこんだ。
続いてレナートが乗りこみ、私は最後に誰の手も借りずに乗りこむ。
扉が閉まると間もなく馬車が走り始め、車内でルーカス殿下が陽気に告げる。
「次に帰ってくるときは魔王を倒した後だ! お前ら、俺の足を引っ張るなよ?!」
はいはい、殿下の活躍する場を取るなと、そういうことですね?
私は小さく息をついて、足りない睡眠時間を馬車の中で取ることにした。
****
馬車は王国の端、国境付近で降りることになった。
さすがに魔王領を馬車で旅するなんてことはできない。
魔族たちは強い魔力を持ち、独自の魔法を使って襲ってくる。
人間たちはなんとか魔族の侵攻を食い止めているけれど、何百年という長い戦いは未だに決着がついていない。
そんな魔族たちの王、魔王を倒すのが今回の旅の目的だ。
馬車を降りて歩き始めると、さっそく三人の傾向が見えてきた。
明るく自慢話を続けるルーカス殿下。
彼の話に笑顔で相槌を打つブリギッツ。
なんとかブリギッツの気を引こうと、あの手この手で話題を提供するレナート。
……こいつら、真面目に魔王を倒す気があるのか?
私は呆れながら、三人の後ろを歩いて行った。
****
魔王討伐の旅は二年に及んだ。
時には魔王領に住む人間の村を守った。
時には大量に襲い来る魔族の群れを返り討ちにした。
時には幹部級の強敵が差し向けられるのも、また返り討ちにした。
その全てを、ほとんど私が一人で処理していた。
……こいつら、使えねぇっ!
ルーカス殿下は『人間の中では』剣の腕が優れているけど、魔族に物理攻撃は通用しづらい。
人間たちは数で魔族に対抗していたけれど、このグループはたったの四人。
剣での攻撃が通用しないとわかると、ルーカス殿下はさっさと敵の前から逃げ出して私の後ろに隠れていた。
仕方なく、私は叩きこまれた剣術を駆使して魔法を絡めて魔族を倒していく。
レナートは天才魔導士と言われるだけあって、高度な魔法を使って見せることが出来た。
だけど使う魔法が大技過ぎて、一回魔法を使うと魔力切れを起こしていた。
魔族だってそれなりに数を揃えて襲ってきてる。一発の大魔法だけで戦いが終わるわけじゃない。
魔力が尽きたレナートは、敵の前から逃げ出して物陰に隠れていた。
私は習った中級魔法を連打して、魔族の数を削っていった。
ブリギッツは癒しの奇跡を使えるけど、その対象はルーカス殿下だけに限られるようだった。
レナートが必死に頼み込むと、渋々といった様子で彼の傷も『ちょっとだけ』癒してくれる。
私なんて、傷だらけの血まみれになろうとブリギッツには無視され続けた。
仕方なく習った治癒魔法で自分を治して旅を続けた。
なんなのこのグループ。魔族とまともに戦えるのは私だけじゃん!
しかも誰一人として私にお礼とか感謝とか表してこない。
まるで私が魔族を倒すのが当たり前、といった風情だ。
三か月も経つ頃には、敵が現れると三人がまとめて後ろに引っ込み防御を固め、私が一人で前に出て魔族を蹴散らしていった。
そんな長い旅路も終わりを告げ、私たちは魔王城の前に居た。
魔王城を守っていた魔族の大軍も、私一人が片付けた。
ルーカス殿下が意気揚々と告げる。
「さぁ魔王城だ! 魔王の首を取るぞ!」
殿下に応えるブリギッツとレナート。
……あの、できれば私の息が整うまで待つとか、できないんですかね。できませんか、そうですか。
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