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第6章:司書ですが、何か?

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 馬車が王宮に辿り着くと、その入り口に整列した兵士たちの列ができていた。

 道の両脇に兵士たちが直立して並び、王宮の前には王様とアルフレッド殿下が並んで立っている。

 なにこれ? 初めて見たぞ?

 ディララさんとヴォルフガングさんが馬車から降り、私とアイリスが続いて降りる。

 最後にお爺ちゃんがのっそりと降りると、王様がお爺ちゃんに近づいてきて握手を求めてきた。

「ラーズ王よ、ようこそいらっしゃった。今夜は一席設けてある。どうか一晩、楽しんでもらいたい」

 お爺ちゃんは渋々と王様の手を握って応える。

「チッ! 大袈裟なことをしやがって。もっと大人しくできねぇのか、お前は」

 王様とお爺ちゃんが王宮に向かって歩きだすと、並んでいた兵士たちが一斉に敬礼をした。

 ヴォルフガングさんに促され、私とアイリスがお爺ちゃんと王様の後ろに続く。その後ろから、ヴォルフガングさんとディララさんが続いた。




 広い部屋に長く楕円形のテーブルが置かれた場所に案内され、王様が指示する通りに座っていった。

 楕円形のテーブルの片方に王様とアルフレッド殿下、ヴォルフガングさんとディララさん。

 反対側にお爺ちゃんと私やアイリス。

 まるで『立場は対等』というのをアピールするかのような座り方だ。

 アイリスを見ると――ガチガチに緊張してる。そりゃそうだよね、アイリスって王宮に来るのも初めてだし。

 侍女たちが上品にお茶を給仕していくと、王様が大きな声で告げる。

「エテルナ王国ラーズ王。あなたの希望通り、グリュンフェルト王国は滅亡を免れない状況に追い込んだ。
 おそらく彼らは冬を越すことはできまい。これで満足いただけただろうか」

 お爺ちゃんが不機嫌そうに応える。

「そうか、なんとかそこまで追い込めたか。上出来だ。
 それならこっちもお前の要求にある程度は応じてやる。
 進めていた魔導教練の講師の話、承諾してやるよ」

 王様が頷いて応える。

「そこで、今夜はラーズ王を称える晩餐会を開こうと思う。
 宿泊する部屋も用意させた。どうか今夜一晩、ゆっくりと楽しんで欲しい」

 お爺ちゃんが「チッ!」と舌打ちをした。

「やることがいちいち大袈裟なんだよ。俺たちゃ平民、作法なんぞ知らねぇぞ。
 晩餐会なんぞ開かれても、恥をかくだけだろうが。
 俺ぁ構わねぇが、ヴィルマやアイリスが恥をかく真似は許さねぇぞ?」

 王様が大仰に頷いた。

「そこは配慮させていただく。参加するのはこの場に居る者のみ。
 見知った仲であれば、無作法を咎める者もおるまい。
 だが来月、戦勝を祝う夜会を予定している。
 できればそちらにも参加をして欲しい。その場で正式に、ラーズ王とヴィルヘルミーナ王女の立場を布告しようと思う」

 お爺ちゃんが苛々と不機嫌そうに告げる。

「来月ってぇと、ヴィルマの誕生日があるな。お前、何を考えてやがる?」

 王様が大仰に頷く。

「改めて提案したい。我が息子アルフレッドとの婚約をヴィルヘルミーナ王女には考えてもらえないだろうか。
 両国の更なる友好と発展を願い、ヴィルヘルミーナ王女には我が国の王妃となっていただきたい。
 ラーズ王とヴィルヘルミーナ王女の魔導は我が国の力となり、次の世代の国民たちを守ることに繋がろう」

 ――その話、まだ続いてるの?!

 お爺ちゃんがドカッと足を組み、テーブルに肘を乗せて王様を睨みだした。

「そいつぁヴィルマが望んじゃいねぇと俺ぁ伝えたはずだ。お前の耳は腐ってんのか?」

「無論、これは強制ではない。あくまでも提案。我らにとって最善の選択と信じてのことだ。
 だがどうしても応じられぬなら、別案も用意してある。そちらも聞いていただけるだろうか」

 お爺ちゃんが王様を睨み付けながら「言ってみろ」と告げた。

 王様が頷いて告げる。

「ヴィルヘルミーナ王女は来月で十七歳。結婚適齢期も真っただ中だ。
 そこで我が国から伴侶の候補を選出し、王女に引き合わせたいと思う。
 王女と婚姻したものには相応に高い地位を約束し、王女と共に我が国の力となってもらいたい。
 ――無論、相手を選ぶ権利はヴィルヘルミーナ王女にこそある。
 誰一人王女の眼鏡にかなわなければ、それで私は諦めよう」

 お爺ちゃんは王様を睨みながら少し考え、私に振り向いて告げる。

「どうするヴィルマ、お前の見合いをしたいとよ。
 結婚相手は重臣に取り立てるとまで言ってやがる。
 お前に出世させたい男が居れば、悪くない選択肢だろう」

 私は慌てて声を上げる。

「そんなこと急に言われても困るよ! いきなり結婚とかさぁ!
 それに私の誕生日って、来月中旬だよ?! たった半月後なの?!
 ドレスは?! 礼儀作法は?! 準備する時間が足りないでしょ?!」

 お爺ちゃんが私にニヤリと微笑んだ。

「なに、お前なら半月もあれば、夜会で通用する作法を身に着けることはできらぁ。
 教本を片っ端から読んで、その後に講師に矯正してもらえばいい。
 ドレスも国王共は用意を進めてるんじゃねーか? お前、前にドレスを借りたとか言ってただろう。
 ――何より、一度大勢の男どもを見て回るのも悪くねぇ。比較することで分かることもあるだろうさ」

 お爺ちゃんは乗り気?! どうしよう?!

 私が困っていると、お爺ちゃんが王様に振り向いて告げる。

「その見合いの話は受けてやろう。男どもを拒否する権利があるってぇのが気に入った」

 ――決まっちゃったー?! 私何も言ってないけど?!

 王様が満足気に頷いた

「ラーズ王の言う通り、ヴィルヘルミーナ王女のドレスは当方が用意している。
 このあと試着して頂き、調整をして欲しい。
 ではまた、晩餐会で会おう」

 お爺ちゃんが立ち上がり「行くぞ」と短く告げた。

 私とアイリスがお爺ちゃんに続き、王宮の従者が先導する先に続いて行った。




****

 ラーズたちが立ち去った後、クラールルフト国王は安堵のため息をついた。

「なんとか納得してもらえたか。だがこれからが本番だ。
 ラーズ王に我が国の魔導力を指導して頂き、防衛力の強化に努める。
 並行してヴィルヘルミーナ王女の力も、活用の道を探らねばならん。
 ラーズ王の話では、王女の魔導センスはラーズ王を超えるという。
 希代の天才と呼んでも過言ではない、奇跡のような魔導を操るラーズ王を上回る魔導センスだ。
 ――ヴォルフガングよ、お前はどう見る」

 ヴォルフガングは難しい顔をして応える。

「王女は司書という仕事に拘りがある。それ以外の人生を選ぼうとはしないだろう。
 そこを曲げようとすればラーズ王の逆鱗に触れることになる。
 ここは慎重に対応を考えていかなければならないね」

 オットー子爵夫人が口を開く。

「意見を述べても構いませんか」

 国王が「構わん。述べよ」と応えた。

「ヴィルヘルミーナ王女は我が図書館で才能を発揮して頂くのが一番でしょう。
 彼女の手元にはエテルナ王国の国宝『異界文書マギア・エクストラ』もあります。
 あるいはラーズ王なら、あの魔導書の意味をご存じかもしれません」

 国王が「ふむ」、と考えこんだ。

「それは考慮に入れておこう。
 だが司書では、防衛力の育成に直接関わることには繋がるまい。
 なんとか彼女を口説き落とし、我が国の防衛力強化に貢献してもらうのだ」
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