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第3章:神霊魔術

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 王様が微笑みながら口を開く。

「では次に、お前とアルフレッドが始めたゲームについて、私の見解を述べておこう。
 ――アルフレッドよ、この娘を公妾としたいというのは、間違いないのだな?」

 アルフレッド殿下が、真面目な顔で頷いた。

「はい、間違いありません。父上」

 王様が「ふむ」、と顎に手を置いて考えこんだ。

「だがお前は未婚の身。そしてヴィルヘルミーナは後ろ盾のない平民。
 公妾は政治にかかわることもできる、公的な立場だ。
 そう簡単に許可を出すわけにもいかん。
 ――ならばヴィルヘルミーナよ、お前は魔力を測定しなおしてみよ」

 私はきょとんとしながら王様に応える。

「どういうことです? 私の魔力が関係あるんですか?」

 王様が頷いて応える。

「ヴォルフガングから、お前の魔力測定が不完全だったという話を聞いている。
 そのような曖昧な状態に白黒をつけ、その上で返答をしたい。
 どうかな? 応じられるか?」

「私は司書業を続けられるなら、それで構いませんけども……」

 王様が頷いてヴォルフガングさんを見た。

「ではヴォルフガングよ、お前が彼女の魔力を測定しなおすが良い。
 この場でハッキリとさせてみせよ」

 ヴォルフガングさんが頷き、「心得た」と応えた。




****

 従者たちが、魔力測定器を部屋に運んできた。

 測定器と言っても、手のひらサイズの水晶玉にいくつかの補助パーツが組み込まれた、簡単な魔導具だ。

 私はヴォルフガングさんの指示に従って水晶球を手に持った。

「ではいくよ。目を閉じて、心を落ち着けなさい」

 私が目をつぶると、ヴォルフガングさんの手のひらが私の額に押し付けられた。

 ヴォルフガングさんの手に魔力が集中し、術式が発動していく。

 ……静かだな。なんでみんな、何も言わないんだろう?

 私が疑問に思っていると、戸惑うようなヴォルフガングさんの声が聞こえる。

「……もう目を開けていいよ、ヴィルマ」

 私が目を開けると、王様とアルフレッド殿下、そしてヴォルフガングさんが、驚いた顔をして水晶球を見ていた。

 私も水晶球を見てみるけど、測定前と同じで何の変化もない。

「あの、これってどういうことですか?
 測定対象の魔力に応じて光る魔導具ですよね?」

 ヴォルフガングさんが頷いた。

「その通りだが、魔導具の安全装置が発動しているね。
 ――つまり、測定不能だ」

 ヴォルフガングさんが王様と顔を見合わせて頷いた。

 王様が私に告げる。

「よくわかった。ではヴィルヘルミーナの魔力は引き続き、公式記録で五等級とする。
 アルフレッドの公妾になる話も、ペナルティとして認めよう。
 だが公妾になることが決定した時点で、相応の教育は受けてもらう。
 それで構わないな?」

「私は別に構いませんが……」

 どういうことだろう? なんだか王様たちの表情が真剣だ。

 王様とヴォルフガングさんが立ち上がった。

「私は別室でヴォルフガングと話をしてくる。
 お前たちはこの部屋で、アルフレッドと共に待っているがいい」

「あ、はい。わかりました」

 王様とヴォルフガングさんが部屋から出て行き、私たち三人が部屋に取り残された。




****

 別室に移動したヴォルフガングと国王が、人払いをしてから話し始める。

「ヴォルフガングよ、彼女の魔力をどう見る」

 楽しそうな微笑みでヴォルフガングが応える。

「あれは特等級も測定できる、最上級の魔力測定器。
 それすら安全装置が働くのだから、特等級でも上位に位置する魔力保持者だろう。
 おそらく我が国で最上位の魔力を保有していると見て間違いない」

 国王が頷き、応える。

「目立たないが、彼女は顔立ちにわずかに気品がある。
 どこかの王族の血が彼女に流れていると見て、間違いあるまい。
 お前は何か知っているか?」

「それなんだがね。彼女の祖父もどうやら、魔導の心得があるようだ。
 技量は私と良い勝負だろうと思っている。
 知識がどれほどかは、わからないがね。
 ヴィルマの高い魔導センスは、祖父譲りなのだろう」

 国王が頷いた。

「では彼女の素性は、こちらで早急に調査しておく。
 国際問題になっても厄介だ。可能性は低いが、念のためにな。
 お前は彼女の身辺を守り切り、適切に対処せよ。仔細は任せる」

「引き受けよう。
 ――約束通り、彼女の魔導学院通学義務は免除、ということで構わないね?」

 国王が頷いて応える。

「そのための『公式記録で五等級』だ。
 彼女の魔力を、なるだけ感づかれないように注意せよ。
 尤も、『神霊魔術アニムスルクス』の写本に成功してしまえば、必然的に注目はされようがな」

 ヴォルフガングがフッと笑みをこぼした。

「殿下は彼女の魔力を知っていたのかな?
 正妃として迎えても問題がないだけの素質を持った娘だ。
 彼の審美眼も、捨てたものじゃないね」

 国王が楽しそうに笑みをこぼす。

「フッ、あいつは勘が鋭い。
 良い女を見つけるセンスは抜群だろう。
 今の婚約者も、第二王子妃とするにはもったいない娘だ。
 あいつを立太子させても、面白いかもしれぬな」

「クルト殿下ではなく、アルフレッド殿下をかい?
 まぁ王としての器は、どちらも遜色がない。
 人を見る目はアルフレッド殿下に分があるから、その選択も悪くないだろうがね」

「……写本は成功すると思うか?」

 ヴォルフガングがニヤリと微笑んだ。

「可能性が高くなった、とは感じるね。
 魔導三大奇書の写本――前人未到の偉業を、彼女がこなせるか楽しみだよ」




****

 部屋に残された私は、アルフレッド殿下に尋ねる。

「結局、どういうことになったんですか?」

 殿下はやんわりと微笑み、私に応える。

「父上が我々のゲームを認めてくださった――今言えるのは、それだけだな」

 そっか。まぁ司書を辞めることにならないなら、私はそれでいいんだけど。

 シルビアさんが疲れたようにため息をついた。

「――はぁ。ヴィルマあなた、陛下相手にグイグイ行きすぎよ?
 アルフレッド殿下とは訳が違うの。相手は国王陛下よ? もう少し控えなさい?」

 私は頬をかきながら応える。

「えーっと……そんなにグイグイ言ってました?」

 殿下が楽しそうに笑った。

「ハハハ! 自覚がないのか!
 やはりお前は面白い女だ。
 父上相手に臆することなく言葉を発せる度胸、惚れ直したぞ」

 いや、惚れ直されても困るんだけど……。

「ともかく! これで写本は始められますね!
 きっちりばっちり、この依頼を達成してみせますよ!」

 殿下が私に微笑みながら告げる。

「写本に成功しても、失敗しても、どちらも国益につながる。
 このゲームは私に負けの目がないな」

 私は小首を傾げて尋ねる。

「失敗しても国益になるんですか?」

「お前が私の公妾となるからな。
 お前からは高い教養を感じる。
 教育を受ければ、公妾として国家に貢献することが可能だろう。
 エミリアの負担も、それで軽減してやれる」

 ああ、殿下は結婚した後のエミリアさんのことも考えて公妾とか言い出したのかな?

 公妾は政治的発言力を持った存在、妃の仕事をいくらか肩代わりできる立場だ。

 ただの女好きかと思っていたけど、女性のことを思いやれる人だったのか?

「私も少し、殿下の事を見直しました。
 案外しっかりした人だったんですね」

 殿下がニヤリと微笑んだ。

「これでも国家を背負う覚悟を持って生きている。
 国のためにならぬ言動など、私はせんよ」

 自身満々だなぁ。さすが王子様だ。


 私たちが雑談をしていると、部屋に王様とヴォルフガングさんが戻ってきた。

「待たせたな、では話の続きをするとしよう。
 今日、ヴォルフガングに『神霊魔術アニムスルクス』を預ける。
 ヴィルヘルミーナよ、お前は魔導学院付属図書館で、厳重にそれを管理し、写本せよ。
 これは王家から図書館への正式な依頼とする。
 報酬は……そうだな、望みの魔導書を述べよ。収蔵できるよう、善処しよう」

「はい、承りました!」
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