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第2章:華麗な舞踏会
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司書室に全員が集合すると、ディララさんが微笑んで告げる。
「今日のヴィルマの様子はどうだったかしら、シルビア」
シルビアさんは何故か真っ白に燃え尽きながら応える。
「……何も言う事はないです」
ファビアンさんが楽しそうな笑い声をあげた。
「ハハハ! 聞いたぞ? 一人で百五十冊も修復したんだって?」
私は冷静に訂正を告げる。
「百五十三冊です。あそこにあった魔導書五百冊は、全部頭に入れました。
次に所蔵位置が移動するまでは、目録なしでご案内できますよ」
その場の全員が唖然としていた。
ディララさんが、おずおずと私に尋ねる。
「それは、タイトルや著者を聞かれたら所蔵位置がわかる、ということで合ってるかしら?」
「んー、ちょっと違いますね。中身の質問をされても答えられますよ?
『これこれこういう本を探してるんだけど』ってお客さんが居ても、『それならこの本ですね』とお出しできる訳です」
ディララさんが、何故だか絶句していた。
フランツさんが頬を引きつらせながら私に告げる。
「それを……今日一日で覚えたのかい?」
「違いますよ? 午前中に暗記しただけです。
午後は全て、修復に使いましたから――ああ、その時に記されている術式も、一通り頭に入れてありますけど」
カールステンさんが、困ったように微笑んだ。
「まったく、とんでもない規格外の化け物娘だな、ヴィルマは。
私たちは司書を務められるほどのエリートのつもりだったが、どうやら勘違いだったようだ」
私はカールステンさんを睨み付けながら告げる。
「午後のサブリナさんもいじけてましたけど、こんなものは慣れですよ?
集中力と工夫、そして場数による慣れです!
お父さんだったら、私の倍の速度で修復作業してますからね?
上には上が居ます。私なんてまだまだ未熟なんです」
シルビアさんが、乾いた笑い声をあげた。
「ははは……そんな雲の上の争いなんて聞かされても、実感できないわよ。
しかも今日一日で五百冊把握って、つまり三か月ちょっとあれば図書館の蔵書全てを把握できるってことにならない?」
私は指を顎に当てて考えた。
「うーん、三か月間、所蔵位置が変わらないならそうなるでしょうけど。
なんだかんだ新しい本も入ってきますし、そうなれば書庫行きになる本も出ます。
実際には、半年くらいかかるんじゃないですか?」
ディララさんが、乾いた笑い声をあげて告げる。
「五万冊の蔵書を半年で中身まで把握とか、なんて言っていいかわからないわね……。
でも! 逆に考えればそれだけ重厚なサービスを来館者に施せるということよ!
みんなも自分にできることを自分で考えて、生徒たちに良い読書体験を提供して欲しいの。
そしてヴィルマから盗めるテクニックは盗みなさい! 黙ってやられっぱなしじゃ、先輩の名が泣くわよ?!」
せっかくのディララさんの発破も、フランツさんたちの心にはいまいち届かなかったらしい。
弱々しく応じる声が上がり、ディララさんは苦笑を浮かべていた。
****
司書のみんなが帰宅しても、私は司書室に残ってディララさんとお茶を飲んでいた。
私はなんとなく気まずくて、ぽつりとつぶやく。
「ちょっと張り切って、やり過ぎちゃいましたかね……」
ディララさんは困ったように微笑んだ。
「そんなことないわ。あなたの働きにはとても助けられてる。これは確かよ。
修復担当がサブリナ一人では、一日に数冊を修復するのがやっとだったもの。
それが、あなたが居れば数か月で全体の本を修復できると思うと、とんでもなく頼もしいわ。
……だけど、みんなの士気が心配ね」
私は深いため息をついて応える。
「そ~~~~なんですよねぇ~~~~。
なまじ皆さん優秀な方だから、なおさらショックみたいですね。
第五図書館のサシャみたいに、『自分は落ちこぼれだ』って思ってる人は、別にへこまないみたいです」
このままだと、自信を無くして『司書を辞めます』とか言い出す人が居ても不思議じゃない。
だけど私は普通の人間で、一人でできることには限りがある。
どうしたって物理的に人手が必要な場面は多く存在するんだけど、そういうことを理解してくれるかどうか、なのかなぁ。
ディララさんが紅茶で喉を潤してから、私に告げる。
「こうなったら、明日またヴォルフガング様に出て来てもらうしかないわね。
少し厳しいお灸を据えてもらった方がいいのかもしれない」
「お灸を据えるんですか? 大丈夫ですか? ヴォルフガングさん、優しい顔して厳しい人みたいですけど」
ディララさんがクスリと笑った。
「みたい、じゃなくて、厳しい方よ?
特に能力を持つ人間に対しては、とても厳しい方ね。
耐え切れずに彼の下を去った生徒は、実は結構いるの」
うへぇ、そこまで厳しいの?!
ディララさんが「でもね」と続けた。
「厳しさは期待の表れ。『あなたならできる』という信頼の表れとも言えるわ。
それに応えられた人材は、この国を支えるほどの活躍をして見せることも多いの。
今居る司書五人も、そうやってヴォルフガング様の教えを乗り越えてきた人たちよ」
「じゃあ、簡単に潰されることにはならないんですかね?」
「そうねぇ……そのはずだけど、あなたという超級のモンスターが現れてしまったから、わからないわね」
うーん、乙女をモンスター扱いか。ディララさんも結構きついことを言ってくるなぁ。
私は拳を握ってディララさんに告げる。
「だとしても! この程度の壁でへこたれてたら、伸びるものも伸びないですよ!
私だって、ここに辿り着くまでに何度も挫けかけましたし!
最初から今みたいにできた訳じゃないですから!」
ディララさんが優しい微笑みで私を見つめた。
「そうよね。それをみんなが理解してくれるのが、一番なんだけどね」
しんみりした空気の中でお茶を飲み終わり、私は司書室を辞去した。
****
宿舎に戻り、階段を上っていくと二階からアイリスが声をかけてきた。
「お客様が見えてますよ」
「お客? こんな時間に、誰が来るっていうのよ?」
二階に上り切った私が見たのは、アイリスの後ろで微笑んでいるヴォルフガングさんだった。
え? なんでヴォルフガングさんが、この時間にここに?
困惑する私に、ヴォルフガングさんが告げる。
「すまないね、夕食前に。
明日の夜、学院の大ホールで第二王子主催の舞踏会が開かれる。
君にはそれに参加してもらえないかと、そういう話をしに来たんだ」
私は眉をひそめて応える。
「どういう意味ですか? 平民の私が王子様主催の華やかなパーティーになんて、参加できる訳ないじゃないですか」
ヴォルフガングさんも、困ったように微笑んだ。
「それなんだがね? 君の話題が、どうやら王子の耳に入ったらしい。
初日に何かなかったかな? その日の様子が噂になっているようなんだ」
え、初日って……時空魔導力学の本を探しに来た女子生徒の相手をしたぐらい、だよなぁ?
それだけで噂になるものなの?
私が困惑を増していると、ヴォルフガングさんが優しい微笑みで告げる。
「貴族というのは、噂話が大好きでね。
特に珍しいことがあると、それがすぐに広まってしまう。
平民のヴィルマが生徒ではなく司書として学院に所属するのは、かなり目立つことだからね」
「そりゃそうでしょうけど、だからってどうしろってんですか。
着て行く服もないし、パーティー会場で何をしたらいいのかもわからないですよ?
知り合いがいる訳でもないし、まさか珍獣として見世物になってこい、なんて悪趣味なことは言いませんよね?」
ヴォルフガングさんが私の肩に手を置き、優しく応える。
「私も不本意だが、殿下の命令には逆らえない。
なんとか交渉して、司書全員を参加させる、という条件を取り付けることはできた。
ヴィルマはみんなと協力して、今回の事を乗り切って欲しい。
詳しくは明日、また話をしよう」
ポンポンと私の肩を叩いたヴォルフガングさんは、ゆっくりと階段を降り、宿舎から出て行った。
「今日のヴィルマの様子はどうだったかしら、シルビア」
シルビアさんは何故か真っ白に燃え尽きながら応える。
「……何も言う事はないです」
ファビアンさんが楽しそうな笑い声をあげた。
「ハハハ! 聞いたぞ? 一人で百五十冊も修復したんだって?」
私は冷静に訂正を告げる。
「百五十三冊です。あそこにあった魔導書五百冊は、全部頭に入れました。
次に所蔵位置が移動するまでは、目録なしでご案内できますよ」
その場の全員が唖然としていた。
ディララさんが、おずおずと私に尋ねる。
「それは、タイトルや著者を聞かれたら所蔵位置がわかる、ということで合ってるかしら?」
「んー、ちょっと違いますね。中身の質問をされても答えられますよ?
『これこれこういう本を探してるんだけど』ってお客さんが居ても、『それならこの本ですね』とお出しできる訳です」
ディララさんが、何故だか絶句していた。
フランツさんが頬を引きつらせながら私に告げる。
「それを……今日一日で覚えたのかい?」
「違いますよ? 午前中に暗記しただけです。
午後は全て、修復に使いましたから――ああ、その時に記されている術式も、一通り頭に入れてありますけど」
カールステンさんが、困ったように微笑んだ。
「まったく、とんでもない規格外の化け物娘だな、ヴィルマは。
私たちは司書を務められるほどのエリートのつもりだったが、どうやら勘違いだったようだ」
私はカールステンさんを睨み付けながら告げる。
「午後のサブリナさんもいじけてましたけど、こんなものは慣れですよ?
集中力と工夫、そして場数による慣れです!
お父さんだったら、私の倍の速度で修復作業してますからね?
上には上が居ます。私なんてまだまだ未熟なんです」
シルビアさんが、乾いた笑い声をあげた。
「ははは……そんな雲の上の争いなんて聞かされても、実感できないわよ。
しかも今日一日で五百冊把握って、つまり三か月ちょっとあれば図書館の蔵書全てを把握できるってことにならない?」
私は指を顎に当てて考えた。
「うーん、三か月間、所蔵位置が変わらないならそうなるでしょうけど。
なんだかんだ新しい本も入ってきますし、そうなれば書庫行きになる本も出ます。
実際には、半年くらいかかるんじゃないですか?」
ディララさんが、乾いた笑い声をあげて告げる。
「五万冊の蔵書を半年で中身まで把握とか、なんて言っていいかわからないわね……。
でも! 逆に考えればそれだけ重厚なサービスを来館者に施せるということよ!
みんなも自分にできることを自分で考えて、生徒たちに良い読書体験を提供して欲しいの。
そしてヴィルマから盗めるテクニックは盗みなさい! 黙ってやられっぱなしじゃ、先輩の名が泣くわよ?!」
せっかくのディララさんの発破も、フランツさんたちの心にはいまいち届かなかったらしい。
弱々しく応じる声が上がり、ディララさんは苦笑を浮かべていた。
****
司書のみんなが帰宅しても、私は司書室に残ってディララさんとお茶を飲んでいた。
私はなんとなく気まずくて、ぽつりとつぶやく。
「ちょっと張り切って、やり過ぎちゃいましたかね……」
ディララさんは困ったように微笑んだ。
「そんなことないわ。あなたの働きにはとても助けられてる。これは確かよ。
修復担当がサブリナ一人では、一日に数冊を修復するのがやっとだったもの。
それが、あなたが居れば数か月で全体の本を修復できると思うと、とんでもなく頼もしいわ。
……だけど、みんなの士気が心配ね」
私は深いため息をついて応える。
「そ~~~~なんですよねぇ~~~~。
なまじ皆さん優秀な方だから、なおさらショックみたいですね。
第五図書館のサシャみたいに、『自分は落ちこぼれだ』って思ってる人は、別にへこまないみたいです」
このままだと、自信を無くして『司書を辞めます』とか言い出す人が居ても不思議じゃない。
だけど私は普通の人間で、一人でできることには限りがある。
どうしたって物理的に人手が必要な場面は多く存在するんだけど、そういうことを理解してくれるかどうか、なのかなぁ。
ディララさんが紅茶で喉を潤してから、私に告げる。
「こうなったら、明日またヴォルフガング様に出て来てもらうしかないわね。
少し厳しいお灸を据えてもらった方がいいのかもしれない」
「お灸を据えるんですか? 大丈夫ですか? ヴォルフガングさん、優しい顔して厳しい人みたいですけど」
ディララさんがクスリと笑った。
「みたい、じゃなくて、厳しい方よ?
特に能力を持つ人間に対しては、とても厳しい方ね。
耐え切れずに彼の下を去った生徒は、実は結構いるの」
うへぇ、そこまで厳しいの?!
ディララさんが「でもね」と続けた。
「厳しさは期待の表れ。『あなたならできる』という信頼の表れとも言えるわ。
それに応えられた人材は、この国を支えるほどの活躍をして見せることも多いの。
今居る司書五人も、そうやってヴォルフガング様の教えを乗り越えてきた人たちよ」
「じゃあ、簡単に潰されることにはならないんですかね?」
「そうねぇ……そのはずだけど、あなたという超級のモンスターが現れてしまったから、わからないわね」
うーん、乙女をモンスター扱いか。ディララさんも結構きついことを言ってくるなぁ。
私は拳を握ってディララさんに告げる。
「だとしても! この程度の壁でへこたれてたら、伸びるものも伸びないですよ!
私だって、ここに辿り着くまでに何度も挫けかけましたし!
最初から今みたいにできた訳じゃないですから!」
ディララさんが優しい微笑みで私を見つめた。
「そうよね。それをみんなが理解してくれるのが、一番なんだけどね」
しんみりした空気の中でお茶を飲み終わり、私は司書室を辞去した。
****
宿舎に戻り、階段を上っていくと二階からアイリスが声をかけてきた。
「お客様が見えてますよ」
「お客? こんな時間に、誰が来るっていうのよ?」
二階に上り切った私が見たのは、アイリスの後ろで微笑んでいるヴォルフガングさんだった。
え? なんでヴォルフガングさんが、この時間にここに?
困惑する私に、ヴォルフガングさんが告げる。
「すまないね、夕食前に。
明日の夜、学院の大ホールで第二王子主催の舞踏会が開かれる。
君にはそれに参加してもらえないかと、そういう話をしに来たんだ」
私は眉をひそめて応える。
「どういう意味ですか? 平民の私が王子様主催の華やかなパーティーになんて、参加できる訳ないじゃないですか」
ヴォルフガングさんも、困ったように微笑んだ。
「それなんだがね? 君の話題が、どうやら王子の耳に入ったらしい。
初日に何かなかったかな? その日の様子が噂になっているようなんだ」
え、初日って……時空魔導力学の本を探しに来た女子生徒の相手をしたぐらい、だよなぁ?
それだけで噂になるものなの?
私が困惑を増していると、ヴォルフガングさんが優しい微笑みで告げる。
「貴族というのは、噂話が大好きでね。
特に珍しいことがあると、それがすぐに広まってしまう。
平民のヴィルマが生徒ではなく司書として学院に所属するのは、かなり目立つことだからね」
「そりゃそうでしょうけど、だからってどうしろってんですか。
着て行く服もないし、パーティー会場で何をしたらいいのかもわからないですよ?
知り合いがいる訳でもないし、まさか珍獣として見世物になってこい、なんて悪趣味なことは言いませんよね?」
ヴォルフガングさんが私の肩に手を置き、優しく応える。
「私も不本意だが、殿下の命令には逆らえない。
なんとか交渉して、司書全員を参加させる、という条件を取り付けることはできた。
ヴィルマはみんなと協力して、今回の事を乗り切って欲しい。
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