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本編
クトゥルフ将棋セット【ピザとジンジャエール】
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「墓地の駒使って召喚したい」
「なんだそのTCG」
「駒の有効活用よ」
死んだ駒を使って強い駒を召喚する。
トレーディングカードゲームのような発想だ。
「もちろん使えるのは相手から奪った駒だけね」
「そりゃそうだ」
相手にやられた駒で召喚できたら破綻する。
「墓地の駒をたくさん使えば使うほど強くなるわよ」
「将棋でいうなら駒1個で歩、2個で金銀桂香飛車角、3個で古将棋の駒を召喚できたりするわけだな」
「そうそう。エクストラ召喚!」
少し変則的なだけで、持ち駒制度と大差はない。
能力持ちの駒を召喚するのに駒が3個必要だから、ゲームバランスも崩壊していないはず。
実際に駒を並べて指してみる。
「……将棋なのにゲームが進むごとに駒が少なくなっていくな」
「盤上の駒もだんだんランクダウンしていくわね」
古将棋の駒を召喚するには3枚の駒がいる。
つまり徐々に盤上の駒の数が減っていくわけだ(普通の将棋だと相手から奪った駒を打ち合うので、盤上の駒の数はあまり減らない)。
たとえ相手の飛車角や古将棋の駒を取っても、1枚では歩しか召喚できない。
お互いに駒を取り合って召喚をしていると、だんだん駒が弱くなっていく。
古将棋の駒があるし、駒の数が減っていくので詰まなくなることはないが……。
「んー、数よりレベルで管理したほうがいいのかも」
「そうだな」
少しルールを変えてみる。
歩がレベル1、古将棋が3、それ以外が2だ。
個数ではなくレベルで管理すれば、レベル3の駒でそのままレベル3を召喚できるし、レベル1+レベル2でレベル3を召喚できる。
強い駒は強いまま、個数よりも短い手数でレベル3を召喚できるのがいい。
レベル2+レベル2でレベル3を召喚という使い方でもしない限り、盤上の駒が弱体化していくこともないわけだ。
「召喚だからファンタジー系だな」
「クトゥルフものも召喚でいけるわよ」
「そういえばそうだな。じゃあクトゥルフ将棋でいこう」
一般人=探索者(サーチャー)の駒は他のゲームで使ってるものを流用できる。
どこにでもいる普通の高校生
どこにでもいる普通の高校生
アイドル
ニート
サラリーマン
コック
科学者
自衛官
問題はどのクリーチャーを採用するかだ。
種類が多いのでどうしても迷ってしまう。
「代表的なのはクトゥルフ、ダゴン、ハスター、ニャルラトホテプ、シュブ=ニグラス、アトラク=ナクアあたりか」
「それはレベル3でしょ。レベル1と2はどうするの?」
「グール、ナイトゴーント、シャンタク鳥のイメージだな。ただ人間を生贄にして召喚する以上、レベルが同じでも神話生物の駒のほうが性能がいい」
レベル1のグールは広将棋の歩のように、前後左右に1マス動ける。
レベル2のナイトゴーントはチェスのナイト、シャンタク鳥はクイーンだ。
グール
クトゥルフ
ニャルラトホテプ
ダゴン
アトラク=ナクア
シュブ=ニグラス
「『アイドルプロモーター』みたいに、すでに盤上にいる駒は召喚できないようにしたほうがよさそう」
「やるならレベル3だな」
クトゥルフが盤上に何匹もいるのはさすがにおかしい。
召喚がメインのゲームなので、強いモンスターは唯一無二の存在にしたほうがいいだろう。
レベル1・2のグール、ナイトゴーント、シャンタク鳥は盤上に何匹でも召喚できる。
問題はグールだ。
グールは左右に動けるので、将棋の『二歩』のルールを採用するべきか迷う。
グールがすでにいる筋(縦列)にはグールを持ち駒として打てない、あるいはその列へ移動できない。
もしくは持ち駒としては移動できないが、その筋へ移動することはできる。
面倒なのでこれは選択ルールにしたほうがいいだろう。
「あれ、このメンバーならレベル4も設定できるんじゃない?」
「そういえばレベル3のメンバーには下位種族がいるな」
クトゥルフの神話生物には『奉仕種族』や『落とし子』と呼ばれる下位種族がいる。
力や体の大きさが違うだけで、姿形は上位種族とほぼ同じだ(成長して体が大きくなれば上位種族と見分けがつかない)。
クトゥルフなら『星の落とし子』、ダゴンなら『深きもの』、シュブ=ニグラスなら『黒い仔山羊(こやぎ)』、アトラク=ナクアなら『レンの蜘蛛』。
姿形が同じなので、イラストはレベル3とレベル4の両方で使えるわけだ。
ニャルラトホテプは千の顔を持つ神であり、無数の化身が存在する。
面白いのは『複数の化身が同じ場所に同時に存在』したり、『化身が化身に殺される』こともあるということだ。
奉仕種族や落とし子ではないが、ニャルラトホテプもレベル3と4で同じイラストを使っても問題ないだろう。
ただレベル4にもなると能力的にかなりインフレするため、選択ルールにするしかさそうだ。
「……なんかつまみながらルールまとめよう。でも今から作るのは面倒だな」
「なら召喚する?」
「は?」
「出前よ。ピザとジンジャエールでいい?」
「なんだその組み合わせ」
「『12人の怒れる日本人』」
「……また古いものを」
陪審制を題材にした映画だ。
日本が裁判員裁判を導入する前に撮られた映画で、名作『12人の優しい男』のオマージュである。
陪審制と裁判員裁判は微妙に違うらしいのだが、何が違うのかはよくわからない。
特にジンジャエールは作中で重要な意味を持つ(しょうもないネタなのであまり期待しないほうがいい。あのしょうもなさが個人的には大好きだが)。
ピザを片手に観るにはちょうどいい映画だ。
とりあえずハーフ&ハーフを2枚注文し、2人でシェアしながらルールを整備。
いい感じにバランスが取れてきたところでテストプレイしてみる。
「王手」
「詰まないわよ」
「それはどうかな」
「え」
「レベル3の駒をグール3枚に置き換える」
「ええ!?」
「グール1枚とシャンタク鳥1枚に置き換えてもいいな」
戦(いくさ)は数だ。
高レベル1枚で攻めるよりも、あえてレベルを下げたほうが手数が増えて攻撃が繋がることもある。
玉を追い詰める終盤は特にそうだ。
歩を笑うものは歩に泣く。
「さらにこういうこともできるぞ」
「は?」
レベル3の『進行方向にいる駒を敵味方関係なく皆殺しにする』ニャルラトホテプで味方を殺し、その駒たちをハスターと交換する。
「死体を使って儀式をしてるんだから、とうぜん味方の死体でも召喚できる。いあ、いあ、はすたー!」
「ぎゃー!?」
わざと味方を殺すのも戦術の内なのだ。
「なんだそのTCG」
「駒の有効活用よ」
死んだ駒を使って強い駒を召喚する。
トレーディングカードゲームのような発想だ。
「もちろん使えるのは相手から奪った駒だけね」
「そりゃそうだ」
相手にやられた駒で召喚できたら破綻する。
「墓地の駒をたくさん使えば使うほど強くなるわよ」
「将棋でいうなら駒1個で歩、2個で金銀桂香飛車角、3個で古将棋の駒を召喚できたりするわけだな」
「そうそう。エクストラ召喚!」
少し変則的なだけで、持ち駒制度と大差はない。
能力持ちの駒を召喚するのに駒が3個必要だから、ゲームバランスも崩壊していないはず。
実際に駒を並べて指してみる。
「……将棋なのにゲームが進むごとに駒が少なくなっていくな」
「盤上の駒もだんだんランクダウンしていくわね」
古将棋の駒を召喚するには3枚の駒がいる。
つまり徐々に盤上の駒の数が減っていくわけだ(普通の将棋だと相手から奪った駒を打ち合うので、盤上の駒の数はあまり減らない)。
たとえ相手の飛車角や古将棋の駒を取っても、1枚では歩しか召喚できない。
お互いに駒を取り合って召喚をしていると、だんだん駒が弱くなっていく。
古将棋の駒があるし、駒の数が減っていくので詰まなくなることはないが……。
「んー、数よりレベルで管理したほうがいいのかも」
「そうだな」
少しルールを変えてみる。
歩がレベル1、古将棋が3、それ以外が2だ。
個数ではなくレベルで管理すれば、レベル3の駒でそのままレベル3を召喚できるし、レベル1+レベル2でレベル3を召喚できる。
強い駒は強いまま、個数よりも短い手数でレベル3を召喚できるのがいい。
レベル2+レベル2でレベル3を召喚という使い方でもしない限り、盤上の駒が弱体化していくこともないわけだ。
「召喚だからファンタジー系だな」
「クトゥルフものも召喚でいけるわよ」
「そういえばそうだな。じゃあクトゥルフ将棋でいこう」
一般人=探索者(サーチャー)の駒は他のゲームで使ってるものを流用できる。
どこにでもいる普通の高校生
どこにでもいる普通の高校生
アイドル
ニート
サラリーマン
コック
科学者
自衛官
問題はどのクリーチャーを採用するかだ。
種類が多いのでどうしても迷ってしまう。
「代表的なのはクトゥルフ、ダゴン、ハスター、ニャルラトホテプ、シュブ=ニグラス、アトラク=ナクアあたりか」
「それはレベル3でしょ。レベル1と2はどうするの?」
「グール、ナイトゴーント、シャンタク鳥のイメージだな。ただ人間を生贄にして召喚する以上、レベルが同じでも神話生物の駒のほうが性能がいい」
レベル1のグールは広将棋の歩のように、前後左右に1マス動ける。
レベル2のナイトゴーントはチェスのナイト、シャンタク鳥はクイーンだ。
グール
クトゥルフ
ニャルラトホテプ
ダゴン
アトラク=ナクア
シュブ=ニグラス
「『アイドルプロモーター』みたいに、すでに盤上にいる駒は召喚できないようにしたほうがよさそう」
「やるならレベル3だな」
クトゥルフが盤上に何匹もいるのはさすがにおかしい。
召喚がメインのゲームなので、強いモンスターは唯一無二の存在にしたほうがいいだろう。
レベル1・2のグール、ナイトゴーント、シャンタク鳥は盤上に何匹でも召喚できる。
問題はグールだ。
グールは左右に動けるので、将棋の『二歩』のルールを採用するべきか迷う。
グールがすでにいる筋(縦列)にはグールを持ち駒として打てない、あるいはその列へ移動できない。
もしくは持ち駒としては移動できないが、その筋へ移動することはできる。
面倒なのでこれは選択ルールにしたほうがいいだろう。
「あれ、このメンバーならレベル4も設定できるんじゃない?」
「そういえばレベル3のメンバーには下位種族がいるな」
クトゥルフの神話生物には『奉仕種族』や『落とし子』と呼ばれる下位種族がいる。
力や体の大きさが違うだけで、姿形は上位種族とほぼ同じだ(成長して体が大きくなれば上位種族と見分けがつかない)。
クトゥルフなら『星の落とし子』、ダゴンなら『深きもの』、シュブ=ニグラスなら『黒い仔山羊(こやぎ)』、アトラク=ナクアなら『レンの蜘蛛』。
姿形が同じなので、イラストはレベル3とレベル4の両方で使えるわけだ。
ニャルラトホテプは千の顔を持つ神であり、無数の化身が存在する。
面白いのは『複数の化身が同じ場所に同時に存在』したり、『化身が化身に殺される』こともあるということだ。
奉仕種族や落とし子ではないが、ニャルラトホテプもレベル3と4で同じイラストを使っても問題ないだろう。
ただレベル4にもなると能力的にかなりインフレするため、選択ルールにするしかさそうだ。
「……なんかつまみながらルールまとめよう。でも今から作るのは面倒だな」
「なら召喚する?」
「は?」
「出前よ。ピザとジンジャエールでいい?」
「なんだその組み合わせ」
「『12人の怒れる日本人』」
「……また古いものを」
陪審制を題材にした映画だ。
日本が裁判員裁判を導入する前に撮られた映画で、名作『12人の優しい男』のオマージュである。
陪審制と裁判員裁判は微妙に違うらしいのだが、何が違うのかはよくわからない。
特にジンジャエールは作中で重要な意味を持つ(しょうもないネタなのであまり期待しないほうがいい。あのしょうもなさが個人的には大好きだが)。
ピザを片手に観るにはちょうどいい映画だ。
とりあえずハーフ&ハーフを2枚注文し、2人でシェアしながらルールを整備。
いい感じにバランスが取れてきたところでテストプレイしてみる。
「王手」
「詰まないわよ」
「それはどうかな」
「え」
「レベル3の駒をグール3枚に置き換える」
「ええ!?」
「グール1枚とシャンタク鳥1枚に置き換えてもいいな」
戦(いくさ)は数だ。
高レベル1枚で攻めるよりも、あえてレベルを下げたほうが手数が増えて攻撃が繋がることもある。
玉を追い詰める終盤は特にそうだ。
歩を笑うものは歩に泣く。
「さらにこういうこともできるぞ」
「は?」
レベル3の『進行方向にいる駒を敵味方関係なく皆殺しにする』ニャルラトホテプで味方を殺し、その駒たちをハスターと交換する。
「死体を使って儀式をしてるんだから、とうぜん味方の死体でも召喚できる。いあ、いあ、はすたー!」
「ぎゃー!?」
わざと味方を殺すのも戦術の内なのだ。
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