34 / 49
本編
フードファイトセット【餃子とウーロン】
しおりを挟む
「メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシ」
「……今度はラーメンか」
「イエス。れっつふーどふぁいと!」
懲りずに大食いに挑戦したいらしい。
「私は豚骨味噌牛筋大盛り、ネギトッピングね」
「ニンニクラーメンチャーシュー抜きでお願いします」
「あいよ」
無駄に忙しい。
特にアリスのラーメンは固めに麺を茹で、スープを濃い目に、大量の野菜を盛り、すりおろしニンニクと背脂をこれでもかとぶっかける。
「いただきマス」
猛然と食い始める。
最初はチャーシュー。
後半になると脂がきつくなるので最初に始末しようというのだろう。
次は麺だ。
時間が経つほど麺はスープを吸って伸びる。
不味くなる上に量も多くなるので最悪だ。
麺を固めにしたのは少しでも伸びにくくするためだろう。
バリカタやハリガネレベルにすると噛む回数が増える上に消化に悪い。
少し固めなのが無難だろう。
ただここで麺を食べるのは間違いとはいえないが、正しいともいえない。
「あうち!」
まず出来立てのラーメンは麺もスープも熱い。
「ふーふー」
冷ましながら食べていると無駄に時間を使ってしまう。
そこでアリスが取った手は、
「ダブルソード!」
まさかの二刀流。
右手では普通に麺をすすり、同時に左手でも箸で麺を上げて外気にさらしていた。
右手で食べた後は左手で、そして左手で食べている時は右手で麺を冷ます。
効率のよい食べ方のように思えるが、この麺の量では二刀流でもどんどん麺が伸びていく。
アリスもそれに気づいたのだろう。
すかさず第二の手を打った。
「脱出(えくそだす)!」
アリスはどんぶりから麺をすくいだし、皿に分けた。
賢いやり方だ。
つけ麺のようにスープにひたしながら食べる。
これなら熱さに悩まされることもないし、麺が吸う水分も格段に減る。
しかしこれでも完璧とはいえない。
やるなら最初から麺・スープ・野菜を分けておくべきだった。
店が注文に応じてくれるか微妙だが、先に野菜とスープだけを持ってきてもらい、野菜が減ったら麺を茹でてもらう。
それが理想だろう。
なぜなら大食いの基本は最初に野菜を食べることだからだ。
野菜は脂を吸収してくれるので、最初に胃に敷き詰めておいた方がいい。
米やパン、麺などの炭水化物を取ると血糖値が上がって満腹中枢が刺激される。
特にラーメンはすすりながら食べるので空気も吸いこんでしまう。
おまけに胃の中でも水分を吸って膨れるから、炭水化物を食べる時は一気に食べきるのがコツなのだ。
時間制限と麺が伸びるという事実に意識を囚われ、大食いのセオリーを見失ってしまった形だ。
そして案の定、
「……参りまシタ」
「毎度あり」
いつものようにうちの店に大量出資してくれた。
これで少しは赤字が減るだろう。
「この金でブタダブルラーメンヤサイマシニンニクアブラカラメでも食うか」
「普通のラーメンないの?」
「お前が作ったメニューだよ」
それから数日後。
「リベンジ!」
またしてもアリスが大食いリベンジにやってきた。
なぜこれに関しては学習能力がないのだろう。
3大欲求のなせる業だろうか?
「今日は何にするんだ?」
「餃子(チャオズ)とウーロンをぷりーず!」
「あいよ」
フライパンいっぱいに餃子を並べ、水溶き片栗粉を流してジュワッと蒸し、大量の羽根付き餃子をパリッと焼き上げる。
「これはうちの特製ラー油だ」
「びゅりほ」
アリスが口笛を吹き、早速タレにラー油を混ぜて餃子に戦いを挑む。
「あうち!?」
「焼きたてだからな」
熱さは大食いの天敵。
しかもうちでやっているのは正確には『早食い』。
量との勝負の前に時間との勝負だ。
1つ1つ冷ましながら食べていると、後半時間に追われ地獄を見るだろう。
しかも焼きたてを食べ続けるのなら、定期的に口を冷やす必要がある。
そうすると大量の水を飲むことになり、腹が膨れてしまう。
「ハラキリ!」
アリスは食べるのを辞め、箸で餃子を裂き始めた。
賢明な判断だ。
中身を空気に触れさせ、同時に一口で食べやすいサイズに調節。
そしてまだ冷えてない餃子には直接タレをぶっかけ、力技で熱を冷ました。
だが、
「あうち!?」
再びアリスが悲鳴を上げた。
「最初の一口で火傷したな? うちのラー油は辛くて傷口に染みるだろ?」
「ぐぬぬ!」
火傷したのは口の右側なのか、アリスは左側を膨らませながら餃子を食べ始めた。
口全体を使えないのは痛い。
だが手を緩めるつもりはない。
「3皿目だ」
「ほわい!?」
餃子の中身が目に見えて増えている。
「反則じゃないぞ。なぜなら今までの餃子は小さめに包んでたからな。差分をここに持ってきてるだけだ」
「うー」
途中から量を増やす店はたまにある。
大食いに慣れている人間ほど食べるペースを計算しており、今までと違う量が出てくるとペースを乱されてしまう。
それでもアリスは冷静に餃子を小さく裂き、噛む回数を少なく、ウーロン茶は最小限に留めてマイペースで食べ続けた。
早食いでは箸を止めてはいけない。
止まっていても血糖値は刻一刻と上がり続けて満腹中枢が刺激され、これまで食べたものも胃で膨らんでしまう。
そうこうしている内に30分経過、
「……参りまシタ」
やはり最初の火傷が痛かった。
あれさえなければ結果は変わっていたかもしれない。
「3000円な」
「うぅ……」
「さて、天津飯(テンシンハン)でも作るか……」
余った餃子は店員(スタッフ)が美味しくいただきました。
「……今度はラーメンか」
「イエス。れっつふーどふぁいと!」
懲りずに大食いに挑戦したいらしい。
「私は豚骨味噌牛筋大盛り、ネギトッピングね」
「ニンニクラーメンチャーシュー抜きでお願いします」
「あいよ」
無駄に忙しい。
特にアリスのラーメンは固めに麺を茹で、スープを濃い目に、大量の野菜を盛り、すりおろしニンニクと背脂をこれでもかとぶっかける。
「いただきマス」
猛然と食い始める。
最初はチャーシュー。
後半になると脂がきつくなるので最初に始末しようというのだろう。
次は麺だ。
時間が経つほど麺はスープを吸って伸びる。
不味くなる上に量も多くなるので最悪だ。
麺を固めにしたのは少しでも伸びにくくするためだろう。
バリカタやハリガネレベルにすると噛む回数が増える上に消化に悪い。
少し固めなのが無難だろう。
ただここで麺を食べるのは間違いとはいえないが、正しいともいえない。
「あうち!」
まず出来立てのラーメンは麺もスープも熱い。
「ふーふー」
冷ましながら食べていると無駄に時間を使ってしまう。
そこでアリスが取った手は、
「ダブルソード!」
まさかの二刀流。
右手では普通に麺をすすり、同時に左手でも箸で麺を上げて外気にさらしていた。
右手で食べた後は左手で、そして左手で食べている時は右手で麺を冷ます。
効率のよい食べ方のように思えるが、この麺の量では二刀流でもどんどん麺が伸びていく。
アリスもそれに気づいたのだろう。
すかさず第二の手を打った。
「脱出(えくそだす)!」
アリスはどんぶりから麺をすくいだし、皿に分けた。
賢いやり方だ。
つけ麺のようにスープにひたしながら食べる。
これなら熱さに悩まされることもないし、麺が吸う水分も格段に減る。
しかしこれでも完璧とはいえない。
やるなら最初から麺・スープ・野菜を分けておくべきだった。
店が注文に応じてくれるか微妙だが、先に野菜とスープだけを持ってきてもらい、野菜が減ったら麺を茹でてもらう。
それが理想だろう。
なぜなら大食いの基本は最初に野菜を食べることだからだ。
野菜は脂を吸収してくれるので、最初に胃に敷き詰めておいた方がいい。
米やパン、麺などの炭水化物を取ると血糖値が上がって満腹中枢が刺激される。
特にラーメンはすすりながら食べるので空気も吸いこんでしまう。
おまけに胃の中でも水分を吸って膨れるから、炭水化物を食べる時は一気に食べきるのがコツなのだ。
時間制限と麺が伸びるという事実に意識を囚われ、大食いのセオリーを見失ってしまった形だ。
そして案の定、
「……参りまシタ」
「毎度あり」
いつものようにうちの店に大量出資してくれた。
これで少しは赤字が減るだろう。
「この金でブタダブルラーメンヤサイマシニンニクアブラカラメでも食うか」
「普通のラーメンないの?」
「お前が作ったメニューだよ」
それから数日後。
「リベンジ!」
またしてもアリスが大食いリベンジにやってきた。
なぜこれに関しては学習能力がないのだろう。
3大欲求のなせる業だろうか?
「今日は何にするんだ?」
「餃子(チャオズ)とウーロンをぷりーず!」
「あいよ」
フライパンいっぱいに餃子を並べ、水溶き片栗粉を流してジュワッと蒸し、大量の羽根付き餃子をパリッと焼き上げる。
「これはうちの特製ラー油だ」
「びゅりほ」
アリスが口笛を吹き、早速タレにラー油を混ぜて餃子に戦いを挑む。
「あうち!?」
「焼きたてだからな」
熱さは大食いの天敵。
しかもうちでやっているのは正確には『早食い』。
量との勝負の前に時間との勝負だ。
1つ1つ冷ましながら食べていると、後半時間に追われ地獄を見るだろう。
しかも焼きたてを食べ続けるのなら、定期的に口を冷やす必要がある。
そうすると大量の水を飲むことになり、腹が膨れてしまう。
「ハラキリ!」
アリスは食べるのを辞め、箸で餃子を裂き始めた。
賢明な判断だ。
中身を空気に触れさせ、同時に一口で食べやすいサイズに調節。
そしてまだ冷えてない餃子には直接タレをぶっかけ、力技で熱を冷ました。
だが、
「あうち!?」
再びアリスが悲鳴を上げた。
「最初の一口で火傷したな? うちのラー油は辛くて傷口に染みるだろ?」
「ぐぬぬ!」
火傷したのは口の右側なのか、アリスは左側を膨らませながら餃子を食べ始めた。
口全体を使えないのは痛い。
だが手を緩めるつもりはない。
「3皿目だ」
「ほわい!?」
餃子の中身が目に見えて増えている。
「反則じゃないぞ。なぜなら今までの餃子は小さめに包んでたからな。差分をここに持ってきてるだけだ」
「うー」
途中から量を増やす店はたまにある。
大食いに慣れている人間ほど食べるペースを計算しており、今までと違う量が出てくるとペースを乱されてしまう。
それでもアリスは冷静に餃子を小さく裂き、噛む回数を少なく、ウーロン茶は最小限に留めてマイペースで食べ続けた。
早食いでは箸を止めてはいけない。
止まっていても血糖値は刻一刻と上がり続けて満腹中枢が刺激され、これまで食べたものも胃で膨らんでしまう。
そうこうしている内に30分経過、
「……参りまシタ」
やはり最初の火傷が痛かった。
あれさえなければ結果は変わっていたかもしれない。
「3000円な」
「うぅ……」
「さて、天津飯(テンシンハン)でも作るか……」
余った餃子は店員(スタッフ)が美味しくいただきました。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる