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東方不敗(ひがしかた・まさる)

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本編

ICBM将棋セット【チキンブリトーとコーラ】

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「『戦艦ゲーム』をしましょう」

「映画化されたやつ?」
「あれは海外のゲームですね。日本とはちょっとルールが違います」
「へー」
 『戦艦ゲーム』『軍艦ゲーム』『海戦ゲーム』と名称はいくつかあるが、基本的なルールは変わらないらしい。

「まず5×5マスのボードに、相手に見えないようにB、D、Sの駒を配置します」

「BDS?」
「戦艦(バトルシップ)、駆逐艦(デストロイヤー)、潜水艦(サブマリン)です」


 ABCDE
1□□□□□
2□□□□□
3□□□□□
4□□□□□
5□□□□□

※戦艦ゲームのボード


「相手の船は見えないので、プレイヤーはどこに敵がいるか推理し、『B2』のように場所を指定して攻撃します。直撃したら1ダメージ。各艦の耐久力は戦艦が3、駆逐艦が2、潜水艦が1。すべての艦を沈めたら勝ちです」
「どうやって相手の場所を推理するの?」

「プレイヤーは移動か攻撃、どちらかを選択できます。移動は前後左右に何マスでも動けますが、東西南北どの方向へ何マス動いたか相手に伝えないといけません」

「東へ2マス移動した場合、西の2マスにはいないことがわかるってことか」
「はい。そして攻撃をすると、指定したマスの周囲8マスに『波』が発生します。もしその波の範囲に船がいたのなら、それを相手に伝えないといけません」

「本日天気晴朗なれども波高し!」

 日露戦争の有名な打電だ。
 短い文章の中に必要な情報が全部含まれている。
 もちろんここでいう波は大砲の着弾による波ではない。

 敵の無線(被害報告)を傍受して位置を予測しているイメージだろうか。

「ようするに移動と攻撃ができる『地雷掃除(マインスイープ)』ね」
「そういうことです」
 完全に敵の動きや位置を予測して砲弾を当てた時の爽快感は格別で、慣れたらかなり面白い。

「これと『砲』を組み合わせれば新しいゲームが作れそうだな」

「古将棋の『砲』ですか?」
「はい」


●□●
□砲□
●□●

 斜めに一マスしか動けない駒だが、この駒は行動した後に敵を『射る』ことができる。


●□□□□●□□□□●
□●□□□●□□□●□
□□●□□●□□●□□
□□□●□●□●□□□
□□□□●●●□□□□
●●●●●砲●●●●●
□□□□●●●□□□□
□□□●□●□●□□□
□□●□□●□□●□□
□●□□□●□□□●□
●□□□□●□□□□●

 砲の射程範囲。

 縦・横・斜め八方向、5マス以内にいる駒を『その場から動かずに撃ち殺す』ことができる。
 しかもこの射撃は『自分と狙う相手の間に他の駒がいてもそれを飛び越えられる』。

例 砲─金→王 砲はその場から動かずに、金を越えて王を取れる


「どんなゲーム?」

「戦艦ゲームと同じでボード全体に砲撃が届く」

「強すぎでしょ!」
「だからこうする」
 敵陣に向かって駒を走らせた。

「こういう風に敵陣へ進めば、移動した段まで砲撃が届く」

「なるほど、弾着観測(だんちゃくかんそく)ですね」
「なにそれ」
「戦艦の主砲は水平線の向こうにまで届く。ただ水平線の向こう側は目で見えないから、やみくもに撃っても当たらない」
「だから航空機を飛ばして主砲を撃ちます。そして敵の位置と弾が落ちた場所を観測して味方に報告し、誤差を修正して見えない敵に攻撃を当てる。それを盤上で再現したルールですね」
「難しそう」







□←味方 この段まで砲撃可能

×←敵 味方がいないので届かない(当たらない)


「ただし味方を走らせても……」
 敵陣の駒を動かして、敵陣を観測していた駒を取る。
「次の一手で取られたら大砲は使えない」
「捨て駒作戦はできないのね」
「ああ」
「観測しないと撃てないんですか?」
「目視できる範囲なら撃てます」


□□●□●□●□□
□□□●●●□□□
●●●●砲●●●●
□□□●●●□□□
□□●□●□●□□

※基本攻撃範囲


「いいですね。想像していたよりも設定がちゃんとしていますし、射程距離無限というインパクトもあります」
 ゲーム化したら売れるかもしれない。

「……ただデザインしにくいのが問題ですね。軍艦は細長いので、イラストを縮小すると区別しにくくなりますよ?」

「たしかに」
「どれがどれだかわかんない」
 ゲームの駒として使う場合、イラストを2センチぐらいに縮小する必要がある。
 縮小すると大きさで判断するのも難しい。
 空母はともかく、駆逐艦、軽巡洋艦、重巡洋艦、戦艦、潜水艦を見分けるのは困難だ。
 イラストとしても小さすぎて華がない。
 等身の高いキャラのイラストと同じで、細長いイラストは周囲がスカスカになる。
「細すぎるんなら横に広げればいいじゃない」

「仮にデフォルメして艦種を見分けられるようになっても、これは第二次大戦の船の駒だぞ。他のゲームの駒とデッキを組めない」

「あ、そっか」
「……それが最大の問題ですね」
 基本的に船は海の上しか移動できない。
 人間やモンスターの駒の中に近代的な軍艦が混ざるとデザインも浮いてしまう。
 好きな駒を選んでデッキを構築することを重視するなら、船ではなく人間やモンスターをモチーフにしたほうがいい。

「魔女と使い魔はどう? 空を飛ぶ使い魔で観測して爆裂魔法(エクスプロージョン)!」


魔女


使い魔

「地球は丸い。しかも相手は地平線の向こう側にいるんだぞ。直線的な攻撃は当たらないんじゃないのか?」
「う……」
 大砲の弾のように放物線を描けば当たるだろうが、レーザービームのように直進する攻撃はたぶん当たらないだろう。
 距離が遠いほど地球の丸みの影響を受ける。
 魔女が空を飛んでいるのなら話は別だが。
「ではICBMにしましょう」
「ICBMって大陸間弾道ミサイルですよね?」

「大陸間弾道メテオストライクです」

「メテオのM!?」
 インターコンチネンタルバリスティックメテオストライク。
 ……いろいろな意味で衝撃(インパクト)は絶大だ。
 しかも上からの攻撃なので、どれだけ距離が離れていても問題なく当たる。

 『ICBM将棋』と書くと意味がわからないが……。

「これでいこう」
「異議なし」
 持ち駒制度はなし、敵陣を観測できるのは使い魔だけというルールで落ち着いた。
「もう一種類、使い魔がほしいな。でもただの色違いじゃ味気ない」
「コウモリでいいんじゃないの?」
「そうだな」


コウモリ

 使い魔が飛車で、コウモリが角だ。
 チェスにすると観測できる駒が多すぎるので、将棋ルールにしている。
 使い魔を『眷属(ファミリア)』、コウモリを『従者(サーバント)』と呼んでもいいかもしれない。
 眷属(けんぞく)は魔女と血の契約を交わしていたり、魔女に作られた魔法生物のイメージだ。
 従者は魔女に魔法で操られている生物である。

 眷属は家族や共同体の一員、ペットのようなもので、従者は奴隷のような存在だ。

 従者は野生の小動物を力で操っているだけだから、基本使い捨てである。
 まあ、ゲームそのものには必要のない世界設定なので覚える必要はない。
「じゃあ何かつまみながら一局指してみよう」

「じゃあチキンブリトー!」

「映画でネタにされてるやつだな」
「本編では食べていませんが」
 しかし作中でかなり印象に残るジャンクフードなので、ファンの間では映画放映中にチキンブリトーを食べるのがお約束になっている。
 ブリトーはトルティーヤで具材を巻いた料理のこと。
 チキンをケチャップやタバスコなどで味付けし、トルティーヤは少し厚めのもちもち触感。
 チーズや豆、キャベツなどはお好みで。
 B級映画ならコーラも欠かせないだろう。
 いかにもアメリカンな組み合わせだ。

「たしかチェスって、お互いのキングを向かい合わせるのがチェックメイトのコツなのよね?」

「ああ。このゲームではキングのいる縦列の隣に配置するのが鉄則だな。観測できたら即座にメテオストライク」
「なるほど」
 攻撃だけでなく防御もやばい。

「グッドラック、バトルフェアリー!」

 何のネタかよくわからないことを叫びながら、コウモリが駒の間を縫(ぬ)って飛んできた。
 普通なら取れない位置なのだが、
「メテオストライク」
「え」
「忘れたのか? 目視できる範囲なら魔法を撃てる。つまり迂闊に敵陣へ攻め込むと即死だ」
「ぎゃー!?」


□□●□●□●□□
□□□●●●□□□
●●●●砲●●●●


 特定の範囲内とはいえ、防御面でもかなり強い。
 特に横方向には何マスでも砲撃できるので厄介だ。
 視界の外から仕掛けないとあっという間にやられる。
「観測するなら魔女と同じ段だ」
「あ、砲撃できない!?」


□□□●□●
敵□□□砲□
□□□●□●

※砲は斜めにしか移動できない上に『移動後でないと砲撃できない』
つまり砲がいる段(横列)で観測すれば、砲撃でやられにくくなる

 しかも、
「これで詰みだ」
「え、なんで?」
「魔女は砲と同じ動きしかできないんだぞ」


     B←敵の角
    ●
   ●
P ●
 K
端端端


「ああっ、斜めにしか動けないから味方が邪魔で逃げられない!?」
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