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9巻

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  本編






《三百四十一日目》

【聖戦】当日、普段と変わらず世界をらす太陽がのぼった。
 それに合わせ、俺――オバろうが持つ生産系アビリティの一つ、【大悪魔精製】を使って精製した〝道化師の悪魔ピエロニック・デーモン〟を、使者として送り出す。
 白い顔面に奇奇怪怪ききかいかい化粧けしょうほどこし、大きな赤鼻と過剰かじょうなまでの装飾が付いた衣服をまとう小太りの悪魔は、背中に生えたつばさで羽ばたき、ここ【鬼哭神火山きこくしんかざん】と外界をへだてる【境界圏ボーダープレース】まで飛んでいく。その近くに、《ルーメン聖王国せいおうこく》を中心として結成された人間の連合軍と、《アタラクア魔帝国まていこく》と《エストグラン獣王国じゅうおうこく》の【帝王】達が率いる魔人ミディアンと獣人の同盟軍がそれぞれ、陣を構えていた。
 最初はどちらの陣営も問答無用で撃ち落としてきた。どうやら敵襲だと思われたらしい。
 手が早過ぎるだろ、と思わなくもないが、事情を知らないならば仕方ない、と納得はできた。
 なので、二体目には白旗を持たせて送ったら、今度は攻撃されなかった。
 もっとも、『【世界の宿敵ワールドエネミー】に選ばれしあるじ様は、最奥にて待ってるニョロー。いくつかの試練を越えれば我が主様の下までイケルニョローンパ。我が主様は寛大かんだい御心おこころで待ってられるのだから、お前等は早く殺されにいくべきニャモン』と、ヒトを小馬鹿こばかにしたような口調での伝言を終えた瞬間に惨殺ざんさつされたが。
 とはいえ、この【聖戦】の目的地を示すマジックアイテム【みちびきのコンパス】をドロップしているので、役割は果たしている。
 ともかく、話を聞いた二つの陣営は、早朝から早速侵攻を開始した。
 非戦闘員が全て撤収した事で総数は減っているものの、それでも戦力は豊富だ。最終的に【鬼哭神火山】に足を踏み入れた者達について、名前などをちょっと詳しく説明しておくと――


『連合軍』

《ルーメン聖王国》所属。
白き誕叡なる救世主セイヴァー・ザ・ホワイトバース】アンナリーゼ・ディナ・エインズ・ルーメン、改め『白主はくしゅ』。十代後半の聖王国王女。【神器じんぎ】持ち。ちょっと頭がおかしい、今【聖戦】では最も注意すべき存在。
境界の聖人ボーダー・セイント】イーシェル・ヴォルフシュ・サーズ、改め『界聖かいせい』。聖王国貴族出身。女性でありながら、全身を隠せるほど大きな金属盾の【神器】である【境界神之魂盾ボルダント】を愛用する。
割断の聖人クリベージ・セイント】ウーリア・デュフネス・サーズ、改め『断聖だんせい』。聖王国貴族出身。女性でありながら、身の丈ほどの長さをほこる両手長剣の【神器】である【割断神之魂剣クリベルント】を愛用する。
狩猟しゅりょう勇者ゆうしゃ】にして【枢機卿カーディナル】のラン・ベル、改め『狩勇かりゆう』。三十代前半の美女。弓の【神器】持ち。その仲間五名。
【数式の勇者】にして【枢機卿】のムテージ・ベイドラス・ディノア、改め『数勇かずゆう』。老爺ろうや。【神器】持ち。その仲間四名。
天声てんせいの勇者】ブランドネス・ダイオル・オルケストル、改め『声勇せいゆう』。今はなき小国の音楽一族出身である妙齢みょうれいの女性。【神器】持ち。その仲間四名。
【愛の勇者】ラヴァーズ・アモール、改め『愛勇あいゆう』。褐色かっしょくの美女。【神器】持ち。その仲間六名。
【料理の勇者】セルバンテス・アルバンテス、改め『飯勇めしゆう』。平民出身の中年男性。料理の達人で【神器】持ち。コイツだけはでもりにする予定である。最悪の場合、死体だけでも回収すべし。その仲間五名。
【狂気の勇者】クルトゥク・トィクス・アブトラクフ、改め『狂勇きょうゆう』。聖王国貴族の初老男性。その仲間五名。
円環えんかんの勇者】ウロボレアス・リンデル・バウヘルム、改め『円勇えんゆう』。聖王国貴族の青年。その仲間六名。
【仮面の勇者】ペルソル・マスクレイド、改め『面勇めんゆう』。少数民族出身の青年。その仲間四名。
毒茸どくきのこの勇者】マシュルム・ポインズ、改め『茸勇きのこゆう』。少数民族出身の少年。その仲間五名。
【共振の勇者】ハウリデス・デュノア、改め『共勇きょうゆう』。平民出身の少年。その仲間四名。
星読英雄せいどくえいゆう】にして【枢機卿】のアルドラ・オーブス・エスメラルダ、改め『星英せいえい』。年齢が化物級老婆ろうば。水晶型の【神器】持ち。その配下《星叡せいえい部隊》一〇〇名。
書冊しょさつ英雄】にして【枢機卿】のイムルスカ・ファレス・トードル、改め『書英しょえい』。老爺。書冊型の【神器】持ち。配下は無し。
【探求英雄】ハワーリップス・クィリス・アブトラクフ、改め『探英たんえい』。聖王国貴族の初老男性。狂勇の弟。その配下《禁忌きんき改人かいじん軍》二〇〇〇体。
悪銭あくせん英雄】アクガーネ・タメール・アクドーク、改め『銭英せんえい』。太った中年男性。その配下《金儲け隊》一〇〇〇名。
炎舞えんぶ英雄】リズミオ・トッテルネン、改め『舞英まいゆう』。盲目もうもくの青年。その配下《踊り子紅蓮ぐれん隊》五〇〇名。
鋼殻こうかく英雄】メルディ・ベルナ、改め『鋼英こうえい』。少数民族出身の少女。配下は無し。
魔鳥まちょう英雄】ディノバーノ・エインス、改め『鳥英ちょうえい』。平民出身の少女。その配下《魔鳥黒群こくぐん》一〇〇〇羽。
豊穣ほうじょう英雄】アシュルテ・ムンディボ、改め『豊英ほうえい』。恰幅かっぷくの良い中年女性。その配下《豊穣動樹ほうじょうどうじゅ》一〇〇〇体。
飛魚とびうお英雄】フラフィ・フィフィル、改め『魚英ぎょえい』。島育ちの青年。その配下《飛翔魚群ひしょうぎょぐん》四〇〇体。


《キーリカ帝国》所属。
黒雲こくうんの勇者】クラウドラス・ベルマウストス・グフスタフ、改め『雲勇くもゆう』。中年男性。序列第二位。【神器】持ち。その仲間五名。
雷鳴らいめいの勇者】アルトゥネル・ベアーダ・リッケンバー、改め『雷勇らいゆう』。男装の麗人れいじん。序列第三位。【神器】持ち。その仲間五名。
剛脚ごうきゃくの勇者】アンダーソン・ボーキャク、改め『脚勇きゃくゆう』。青年。【運命略奪フェイト・プランダー】された組。その仲間六名。
斬糸ざんしの勇者】ディオリマス・アイオドス、改め『糸勇いとゆう』。女性。【運命略奪】された組。その仲間三名。
骸蟲がいちゅう英雄】フィリポ・ベルド・ロッカータ、改め『蟲英ちゅうえい』。以前俺が戦って逃がした少年。序列第七位。その配下【魔蟲むちゅう】無数。復讐者ふくしゅうしゃ――【陽光ようこうの勇者】が狙う獲物。
覇狼はろう英雄】ウォルフ・ヴォルフ、改め『狼英ろうえい』。平民出身の中年男性。【運命略奪】された組。その配下《狼化闘軍ろうかとうぐん》五〇〇名。熱鬼ねっきくん達と少し因縁いんねんがあるらしい。
砂牛さぎゅう英雄】ヌー・ウシカ、改め『牛英ぎゅうえい』。【運命略奪】された組。その配下《砂牛蹄群さぎゅうていぐん》六〇〇体。


《シュテルンベルト王国》所属。
岩鉄がんてつの勇者】岩勇いわゆう。頭部に秘密を抱えた男。その仲間四名。俺と友好関係にあるお転婆姫てんばひめとの取り決めにより、今回は【鬼哭きこく賭場とば】にて遊んでいてもらう予定。


 その他小国所属。
【爆発の勇者】ボムル・ボボルル、改め『爆勇ばくゆう』。小国の青年。その仲間五名。
腐浄ふじょうの勇者】キフス=デナ=エルナ、改め『腐勇ふゆう』。妙齢の女性。その仲間四名。何処どこかの誰かと雰囲気が似ている。
雹雨ひょうう英雄】アルララ・ラララ、改め『雹英ひょうえい』。無表情な女性。【神器】持ち。配下無し。


『同盟軍』

《アタラクア魔帝国》所属。
魔帝ミルディオンカイザー】ヒュルトン・ガスクラウド・アタラクア。男性。多分【神器】持ち。要注意人物。少し特殊な魔法を使ってくる。
重黒将ヘルビィ・ブラウド】ゼムラス・ス・スラムゼ、改め『黒将こくしょう』。不定系魔人。性別不明。【六重将セクトス・ヘルビィ】第二席。
重翠将ヘルビィ・ジェリオ】ファルニア=ヤルゥ、改め『翠将すいしょう』。鳥類系魔人。女性。第三席。
重緋将ヘルビィ・スカーダ】バララーク・バラク、改め『緋将ひしょう』。金属系魔人。男性。第四席。
 他、精鋭部隊二〇〇〇名。


《エストグラン獣王国》所属。
獣王ビーストキング】ライオネル・ガウロ・エストグラン。男性。多分【神器】持ち。要注意人物。肉体面では間違いなくトップクラス。
雷豹牙将ボルタ・ビファログ】チチルタ・ラーチラ、改め『豹将ひょうしょう』。【獣牙将ビファログ二牙センファ。ヒョウ系獣人。男性。自由人。
黒斑牙将ブラッチ・ビファログ】ハイエルダ・ダーフス、改め『斑将はんしょう』。四牙フォファ。ハイエナ系獣人。女性。苦労人。
剛猿牙将ゴルリラ・ビファログ】ゴリ・ゴリーラ、改め『猿将えんしょう』。五牙クイファ。ゴリラ系獣人。男性。脳筋のうきん
河馬牙将ヒスポル・ビファログ】ヒポポ・タモス、改め『河将かしょう』。六牙シジファ。カバ系獣人。男性。楽天家。
猟兎牙将ヴォビット・ビファログ】ラビ・トトリ、改め『兎将うしょう』。九牙ヴィファ。ウサギ系獣人。少年に見える老爺。腹黒い。
紅猪牙将カトボル・ビファログ】ブラーヌ・ブル、改め『猪将』。十牙ティグファ。イノシシ系獣人。少女。天然。


 ――となっている。
 主力になるだろう人物はより詳しく説明してみたが、そこまで詳しく覚えなくてもいいだろう。その他の者についても、何となくサラッとで十分だ。
 それを迎え撃つは、俺率いる傭兵団《戦に備えよパラベラム》である。
 さて、こちらに対して前後から侵攻してくる両陣営であるが、やはり【鬼哭神火山】ではその暑さが問題になる。
 何の対策もしていなかったら、数分と経過せずに肉体が燃えて死ぬ事になるだろう。
 専用のアイテムがあればある程度防げる、というのは、俺達自身ここが【フレムス炎竜山えんりゅうざん】だった頃に攻略した事からも証明されているが、流石さすがにこの数だ。
 少数精鋭の同盟軍はともかく、連合軍は全員分を揃えるとなるとそれなりに大変だ。しかも予備などを含め、その数倍は必要になる。
 過酷かこくな【鬼哭神火山】の環境では些細ささいな準備不足ですら致命的になる為、決して無視する事はできない。
 しかし連合軍は『大量のアイテムを用意する』とは別の方法――保険として一応全員に魔法薬を配布してはいるようだが――で解決していた。
 入ってくる前に、【神器】持ちの一人である声勇パーティと、それに追随する共勇パーティ、そして舞英とその配下達が自前の能力を使ったのだ。
 声勇は、多数に影響を与える【英雄】と酷似こくじした結果を出す事ができる性質の能力を持つ、珍しいタイプの【勇者】だ。
 歌声で仲間を増強、あるいは敵の能力を減退させる【吟遊詩人ミンストレル】系の上位職を複数所持し、更に【天声の神】から与えられた【加護】によって大幅に強化されている声勇の歌声には、聴いた者達に様々な影響を及ぼす力がある。
 そんな声勇の心を直接ふるわすようなんだ歌声と、仲間達が持つ打楽器や弦楽器など多彩な楽器によってかなでられたのは、『ディエノスの炎天回路えんてんかいろ』と呼ばれるものだった。
 歌の内容は省略するとして、その効果は味方に対して【高温適応】【平常行動】【炎熱耐性】【身体強化】などを一時的に付加するモノである。
 きらびやかなマイク型【神器】である【天声神之魂声機ヘブンディエス・マイク】との合わせ技により、持続時間は驚異の丸一日。普通なら数分、長くても数十分程度しか持続しない事を思えば、どれだけすさまじいか分かるだろう。
 ただ、効果範囲は歌声が聞こえる距離まで、という制限がある。
 連合軍は不意の奇襲で壊滅かいめつしないように、密集せず少し間隔を空けていた事もあり、この人数だと聞きらす者も出たかもしれないところだが、そこで活躍するのが共勇だった。
【共振の神】の【加護】を持つ共勇は、声勇の歌声と共振――音なので共鳴という方が適切か――し、増幅させて周辺一帯に響かせる。
 ある種のスピーカー、と言えばいいのだろうか。まるでライブのように、熱く激しい歌声と演奏が【鬼哭神火山】外縁部にとどろいていた。
 そしてその演奏の中、舞英とその配下である《踊り子紅蓮隊》五〇〇名は前方に突出し、曲に合わせて舞い踊った。
 すると【鬼哭神火山】のアチコチにあるマグマの噴出や溶岩の流動が、まるで支配されたかの如く、舞英の一挙手一投足いっきょしゅいっとうそく追随ついずいして動き、紅蓮が舞い踊る。
 徐々に盛り上がる声勇の歌声に合わせるように、舞英の踊りも熱く激しくなる。まるで音と一体化したような踊りには、見る者の心にうったえかける力強さがあった。
 そしてそれを見た者達は、【炎舞高揚】【炎舞強身】【炎舞強心】などにより、身体能力や戦意などが大幅に増加する。
 効果持続時間こそ声勇の能力におとるものの、それでも数時間持続する各種の恩恵により、戦力は短時間で倍増した。
 そうして高熱をモノともしなくなった連合軍は、全体の行軍速度も大幅に上昇した事により、破竹はちくの勢いで中心部へと向かってくる。
 時折ダンジョンモンスター達と遭遇そうぐうするも、数の暴力で鎧袖一触がいしゅういっしょくだった。
 直進してくる連合軍は、しくも同盟軍とほぼ同じタイミングで、溶岩壁がある区画にまで到達した。
 対岸に渡る為の橋は無いし、溶岩壁の上には精製竜が巣を作っている為、飛び越える事もできない。
 無事到着したところを見計らい、俺は【鬼哭神火山】の【迷宮主】であった〝灼誕竜女帝アーダーマザー・エンプレスドラゴン〟からラーニングしたアビリティ【迷宮警備員ダンジョン・ニート主任チーフ】を使いながら床ドン。両陣営の進行方向の地面に、石版と、外装を溶岩で加工した【鬼哭門きこくもん】を出現させた。
 連合軍の方の石版には『最も容易な試練である。四人の【英勇えいゆう】とその仲間を戦場にささげよ。さすれば未来への橋がかるであろう』と、同盟軍の方の石版には『最も安易な試練である。三名の【将】と千の兵士を戦場に捧げよ。さすれば未来への橋が架かるであろう』と書かれている。
 しばらく相談した末、連合軍の方は聖王国の面勇と円勇と鳥英、そして帝国の牛英が選ばれて【鬼哭門】を潜り、同盟軍の方は河将と兎将と猪将、そして魔帝が選んだ千名の兵士達が【鬼哭門】を潜った。
 選ばれた者達が全員潜ったところで、ズゴゴゴゴゴッ! という効果音と共にマグマの大河から溶岩製の橋がせり上がる。
 それに合わせて、高熱で赤くかがやく橋の先にある溶岩壁の一部が、まるで巨人に両断されたかのように道を空けた。
 大規模な地形変動はある種の神秘さすら感じさせるのだろう、救聖以外の全員がしばしの間見入っていた。
 ここの演出は少しっていじったところなので、両陣営の反応は俺の苦労に見合うモノだった。頑張がんばった甲斐かいがあったというものだ。
 などという個人的感想はさて置き、出現した橋を渡った両陣営は、更なる侵攻を開始する。
 ちなみに【鬼哭門】を潜った者達は、団員達の為に【鬼哭水きこくすい滝壺たきつぼ】の四十六階に用意した狩猟場に転移し、連合軍同盟軍の区別なく攻撃を受けていた。
 攻撃の内容は実にシンプルだ。
 こしくらいの高さまで水が張ったすりばち状の地形の中心に居て、まだ状況を把握できていない彼等に、その周囲を取り囲む二〇メートルほどの高台から【骨杭射小銃ボーンネイルガン】や様々な系統の【魔法】を一斉に撃ち込むだけだ。
 正面からぶつかっていかず、できるだけ安全に敵をほふる奇襲作戦である。
 短時間で雨霰あめあられと降り注ぐ攻撃は狙い通りにハマり、数秒ごとに敵陣営の被害は拡大していく。
 しかし今回の相手は雑魚ざこではない。
【ネルメアの獅子面ししめん】を取り付けて鋼鉄の獅子獣人のようになった面勇が、円形の特殊な双剣【円月蛇剣えんげつじゃけん】を高速で振るう円勇が、【鳥停ちょうてい魔笛まてき】による旋律せんりつで多種多様な魔鳥を従える鳥英が、【アムルノア牛刀】を持って獰猛どうもうな魔牛達の先陣を走る牛英が、その力を発揮する。
 あるいはヒト一人を丸呑まるのみできそうなほど大きな口が特徴的な河将が、二本の短剣と長く鋭い刃の付いた尾で首を切り落とす戦法を得意とする兎将が、突破力に飛び抜けて優れた猪将が、魔帝国の精鋭達と共に奮闘していた。
 普通なら簡単に圧殺できそうなほどの攻撃量だったのだが、予想以上の立て直しの早さと個々の戦闘能力の高さから、倒せた数は予定よりも若干少ないようだ。
 まあ、まだ始まったばかり。
 保険として鈍鉄騎士どんてつきし秋田犬あきたけん、クマ次郎じろうやクロ三郎さぶろうなど【鬼乱十八戦将きらんじゅうはちせんしょう】も居るので、何とかしてくれるだろう。
 そちらは任せるとして、溶岩壁を越えて進む連合軍と同盟軍の本隊に対し、小手調べとして複数のフィールドボス達をぶつけてみる。
 俺の影響で以前よりも強化されていたものの、流石に戦力差が大きく、あっさりと負けてしまった。
 だが、それにより俺は十分な情報を確保できている。フィールドボス達はちゃんと役割を全うしたと言えるだろう。
 その後も細々こまごまとした戦闘を続けながら進んだ両軍は、しばらくして次なる試練に直面した。
 といっても、少し巨像などを付け加えた豪華版溶岩壁とマグマほりがまたふさがっただけである。
 ここでは、連合軍の方の石版には『縁ある者との試練である。【骸蟲英雄】【覇狼英雄】【岩鉄の勇者】【料理の勇者】とその仲間を戦場に捧げよ。さすれば未来への橋が架かるであろう』とあり、同盟軍の方の石版には『終焉しゅうえんの前の試練である。耐久力に優れた【巨鬼魔像きょきまぞう】を見事粉砕してみせよ。さすれば未来への橋が架かるであろう』とある。
 先程と同じように、指定された連合軍の四人の【英勇】は【鬼哭門】を潜って別の迷宮へと転移していく。
 蟲英はヤル気満々の復讐者達の所に、狼英は熱鬼くんや風鬼ふうきさん達の所に行き、一方で岩勇達は【鬼哭の賭場】にしばらく滞在してもらう予定だ。
 飯勇に関しては、本当は蟲英や狼英のように縁ある者など居ないのだが、ここで確保しておけば後々楽だろう、という事で一足先に俺の下までやってこさせた。
【鬼哭門】から出てきた直後、螺旋らせん火山の山頂で待ち受けていた俺が何者なのかは、飯勇にもひと目で分かったようだ。一瞬だけ取り乱した飯勇だったが、即座に精神を持ち直した。伊達だてに経験を積んでいないらしい。


 黒いコックコート型防具を纏う飯勇は、右手に包丁型【神器】である【料理神之魂包丁クッキング・オーナイ】を、左手に鍋型【神器】である【料理神之魂鍋クッキング・オーバン】を構えた。まるでヒヨコのような丸々とした体躯たいくと人好きのする顔立ちをしているからか、中年男性ながら飯勇には何処か可愛かわいらしさすら感じられる。
 それから、自分のものと似たデザインの白いコックコート型防具を装備した、仲間であり弟子である料理人達に指示を出した。
 即座に体勢を整えるさまには、流石は【神器】持ちのパーティだと感心する。
 それに満足しつつ、朱槍しゅそう――【飢え啜る朱界の極槍ヴラディスグル・ベルイガ】と愛用のハルバードを手に持ち、飯勇を捕らえる為に駆け出すと――


夜天童子やてんどうじの【異教天罰ヘレシー・ネメシス】が発動しました]
[これにより夜天童子は敵対行動/侵攻開始を行った《異教徒ヘレティック詩篇覚醒者エピック・アウェイニング》に対して【終末論エスカトロジー征服戦争コンクエスト・ウォー】の開戦を宣言しました]
[両者の戦いが決着するまで、夜天童子の全能力は【三〇〇%】上昇します]
特殊能力スペシャルスキル【異教天罰】は決着がつき次第解除されます]

 ――復讐者や水勇みずゆうと戦った時と同じように、俺の脳内でアナウンスが流れた。
 飛躍的に向上した身体能力を完璧に制御しつつ、飯勇達へと朱槍とハルバードを繰り出す。
 そして二分も経たず……


[決着がつきました]
[特殊能力【異教天罰】は解除されます]
[夜天童子は《異教徒/詩篇覚醒者》との【終末論・征服戦争】に勝利した為、報酬が与えられます]
[夜天童子は【料理之調理具クッキング・オーゼル】を手に入れた!!]

 生体ならば防御力を無視して切断できる【料理神之魂包丁】と、同じく生体なら防御力を無視していためたりたりできる【料理神之魂鍋】を相手にするのは少々面倒だった。が、それでも朱槍や銀腕で対処できる程度に過ぎない。
 個人的にはその二つよりも、飯勇とその仲間達を殺さずに無力化する事の方がまだ苦労したくらいだ。
 ともあれ、飯勇達は黄金糸でグルグルに拘束された状態で椅子いすに座っている。
 少々反抗的な態度をとられるが、復讐者のように仲間にする為、説得を試みる。
 別にわざわざそんな事をしなくてもいいのだが、気持ちよく仲間になってくれた方が後々の関係が良好になるだろう、と思っての事だ。
 そんな訳で、色々と話してみた。聖王国の暗部についてとか、飯勇達の家族が今どうしているかリアルタイムでの中継とか、本当に色々だ。
 すると、最初は反抗的だった飯勇達も理解できたのだろう、顔が紅潮こうちょうしたかと思えば蒼褪あおざめ、最後には白くなって了承してくれたのだから。


[夜天童子の【運命略奪】が発動しました]
[これにより《詩篇覚醒者/主要人物メインキャスト》であるセルバンテス・アルバンテスの運命が夜天童子の支配下に置かれた為、英勇詩篇〔満腹料理への道標みちしるべ〕は世界詩篇ワールドエピック黒蝕鬼物語こくしょくきものがたり〕に組み込まれます]
[最上位詩篇に組み込まれた為、国家詩篇〔ルーメン〕から英勇詩篇〔満腹料理への道標〕が永久的に削除されました]
[詩篇転載の為、英勇詩篇[満腹料理への道標]の《副要人物サブキャスト》である称号【畜産料理長】【水産料理長】【農産料理長】【甘味料理長】【香辛料理長】保因者の【詩篇能力/特殊能力】は一時凍結されます]
[英勇詩篇〔満腹料理への道標〕の《詩篇覚醒者/主要人物》と《副要人物》の能力解放決定権は、掌握者である夜天童子に一任されました]
[以後、《詩篇覚醒者/主要人物》であるセルバンテス・アルバンテス、ならびに《副要人物》の能力解放は夜天童子の意思によって行われます]


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