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8巻
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家族の戦いをじっと見守っていた俺だが、〝怒りの荒くれ者〟との戦闘が終わった直後、丁度死角にあった横道からやってきた〝イシリッド〟の魔術がオーロに直撃した時は、心底どうなるかと心配させられた。
酷く辛そうにしていたので思わず手助けしようとしたが、流石は俺の子とでも言えばいいのか、オーロは複数の精神系【状態異常】に精神力だけで打ち勝つという偉業をやってみせたのだった。
予想以上に成長しているのだなと感心する間に、復活したオーロが撃ち放った魔弾によって、圧倒的な破壊が周囲に振りまかれた。
その余波に巻き込まれたアルジェントが吹き飛ばされる、なんてハプニングがあったが、まあ、そういう事もあるだろう。
その攻撃も流石に〝イシリッド〟を倒すまでには至らなかったが、吹き飛ばしてそれなりのダメージを負わせた。
そして衝撃でふらつく隙を赤髪ショートが逃すはずもなく、死角から接近し、頸部を一瞬で両断して仕留める事に成功する。
こいつの蛸足は結構美味しいので、即座に【異空間収納能力】に収納するのも忘れない。
戦闘後には少し反省会を開いてから、子供達に対して良くやったと褒める。ダメなところもあったが、全体的には悪くなかっただろう。
今日はそんな感じで、子供達優先で攻略していった。
《三百七日目》
もう少しでオーロとアルジェントのレベルが〝100〟に到達するらしい。
それならば、と今日も船底近くの区画でウロウロする予定としたところ、昨日一日見学していたオプシーがオーロ達の戦いに感化されたらしく、私も参加したいと言い始めた。
戦闘本能が強いのは【鬼】の血が濃い証拠だ。いつかはそう言うだろうな、とは思っていた。
しかしオプシーはまだ幼い。
俺の血が流れているからか通常の鬼人種と比べれば確かに成長は早く、もう自力で歩き回れる程度にはなっているとはいえ、それでもここで戦うのなんて不可能だ。
一応軽く訓練はしてきたが、オーロ達よりは成長が緩やかなので身体はまだ出来ておらず、本格的な戦闘に耐えられるとは思えない。
そもそも【神代ダンジョン】が初陣なんてのは馬鹿げている……のだが。
オプシーが持つ二柱の加護、つまり【宝石の神】と【冥獣の亜神】の恩恵が、その問題をクリアさせてしまった。
オプシーは【宝石の神の加護】によって、魔力を一時的に宝石へと変換する能力を秘めている。【使徒鬼・亜種】として、子供でありながら豊富な魔力を内包するオプシーは、最大で五〇キロもの宝石に変換が可能だ。ただし一定時間が経過すると魔力に再変換されて霧散してしまうが、それはそれとして。
そうして得た五〇キロの宝石は、オプシーが持つもう一つの恩恵、【冥獣の亜神の加護】による能力の一つを行使する事により、【冥獣】に変形させられる。つまり、宝石を使ったある種のゴーレムだ。
二種の【加護】によって誕生した、狼とも獅子とも虎とも思えるような造形の、鋼玉製の二頭の【宝石冥獣】――分かりやすいように一頭は紅玉、もう一頭は蒼玉で出来ている――はオプシーの代わりとして戦闘に参加していった。
実際に戦闘させて分かった事だが、宝石冥獣は全身各部位が兵器と同義だった。
鋭い牙を高速回転させてドリルのようにしたり、尻尾の毛一つ一つを針金のように尖らせたり、四肢を刃に変えたりして、敵を撫で削り、切り裂く事が可能なのだ。
最初は損害度外視で、オーロ達の壁になればそれでいいと思っていた。しかし研磨剤としても使用されるくらい堅固なコランダム製だけあって、半端な攻撃は受け付けない宝石冥獣は、時にダンジョンモンスターを狩猟するなど予想以上に活躍し、ここでも通用する強さを証明した。
ちなみに、宝石への変換には相性というものがあるらしく、オプシーが最も適していたのは黒曜石だった。これなら長時間変換しておけるし、ある程度の損傷は魔力を追加する事で即座に再生できる。
しかし今回は戦闘が目的であり、宝石冥獣の役割は壁役であるからして、割れやすい黒曜石は適していない。むしろハッキリ言って脆い為、弱パンチとかでも破壊されかねない。鋭利になりやすいので攻撃には役立つのだが。
その為、今回は相性が良くも悪くもないコランダムを選択したのだが、そう悪い選択ではなかったようだ。
そして戦うのが面白いのか、オプシーは楽しそうにケラケラと笑い、どんどん強さを増していった。
レベルが上昇し、魔力が増加し、熟練度が上がると、より多くの宝石を変換できるようになった。従える宝石冥獣達も当初の二頭より増え、それを組織的に運用できるようにもなっていく。
初めての指揮にしては的確なので、多分、俺が持つ【群友統括】や【軍勢統括】といった類のアビリティが遺伝しているに違いない。
なんだか将来、大量の宝石に囲まれて様々な色合いの宝石冥獣を侍らす女王様になりそうだな、と思ったり思わなかったりするが。
まあ、そんな感じで。
子供達のレベルを上げられるだけ上げた後、ダンジョンボスが居るだろう区画に近い安全地帯の宿で、最後の休息をとる。
柔らかいベッドで横になり、明日に備えて早く寝ようとして――
[世界詩篇〔黒蝕鬼物語〕【鬼乱十八戦将】であるオーロが【存在進化】しました]
[条件〝1〟【存在進化】クリアに伴い、称号【金砲姫】が贈られます]
[世界詩篇〔黒蝕鬼物語〕【鬼乱十八戦将】であるアルジェントが【存在進化】しました]
[条件〝1〟【存在進化】クリアに伴い、称号【銀槍王】が贈られます]
どうやら子供達のうち二鬼が【存在進化】したらしい。
どんな風になったのか楽しみにしながら、ゆっくりと意識を沈ませる。
明日は、いい日になりそうだ。
《三百八日目》
昨日【存在進化】したオーロとアルジェントは、共に【半人武鬼・亜種】という種族になったそうだ。
外見的な大きな変化は、身体が成長した事と、片手に一つだけあった鬼珠が両手と胸の中心に生じて三つに増えた事くらいだろうか。
だが、確実に強さを増したのは、漏れ出る魔力から容易く分かった。
本人達に以前との差異を聞くと、まず【亜種】になる条件の一つでもある【加護】として、オーロが【金の神の加護】と【魔砲の亜神の加護】、アルジェントが【銀の神の加護】と【魔槍の亜神の加護】を得たらしい。
【金の神】と【銀の神】の【加護】は非常に酷似しており、金または銀を使用したマジックアイテムなどの効果向上、【宝石の神の加護】のように魔力を一時的に金や銀に変換可能、などの恩恵を得られる。
【魔砲の亜神の加護】は魔砲を使用した時に効果を発揮し、【魔槍の亜神の加護】は槍を使用した時に効果を発揮する。
全体的に大幅な向上を果たした戦闘能力を早速試したい、と二人は言っていたが、とりあえず朝食を優先した。
腹が減っては戦はできぬというし、何よりまだ準備が整っていない。
二鬼の身体は急激に大きくなった。オーロは一八〇センチを少し超えたくらい、アルジェントは二メートル近い。その影響で服が小さくなってしまったので、母親である姉妹さん達が、もしもの事があればこれを渡して、と以前渡してくれた服を渡す。
朝食を終えた後でそれに着替えさせると、幸いサイズはピッタリだったらしく、進化した二人の動きを阻害する事は無いようだ。
これが腹を痛めて生んだ母の愛情なのか、と感心しつつ、武装のサイズ調整なども済ませ、確認の意味も兼ねてその辺のダンジョンモンスターと戦闘させてみた。
そして初戦から、【存在進化】によって向上した実力が発揮された。
あれほど苦戦した〝怒りの荒くれ者〟を、オーロ達はそれぞれ単鬼で討伐できるようになったし、鬼珠を解放した時に出現する弓や槍はより強力な能力を秘めたモノになり、戦技の一つ一つの威力も大幅に向上していたのである。
午前中はオプシーも加えた子供達を好きなように戦わせ、昼飯を食べてからダンジョンボスを目指した。
そもそも近くまで来ていた事もあり、そこまで迷う事なくボス部屋の前まで到着する。
場所は船首に最も近く、最上階から一つ下の階にある船橋だ。
巨大な【アンブラッセム・ポントス号】のブリッジだけあって、そこには非常に大きな空間が広がっていた。左右はもちろん、前方後方まで見えるような開放感のある構造で、海図を広げるのに良さそうな大きさの机や操舵輪など、航海に必要な数々の器具も揃えられている。
これまでのボス部屋と比べれば障害物が非常に多く、決して戦いやすいとは言えない、広い空間でありながら、逆に狭苦しさも感じられる場所であった。
そんなボス部屋に居たダンジョンボス〝黒き海の大提督〟は、黒い軍服を筋骨隆々の肉体に纏う、鯱頭の獣人だ。
身長は三メートルをやや超える程度で、尾鰭があるなど、各部位に鯱の特徴が見受けられる。鯱特有の目のような白い模様もあって、その下にある本当の目は爛々と戦意に輝き、何処か愛らしさが感じられる姿からは想像できない程に好戦的だ。携えている生体武器であろうサーベル型の長剣からは強い魔力が感じられ、相当の業物と推察できる。
大海の何処かに彼等鯱系の獣人の国があるらしく、鮫系の魚人と並んで勢力を広めている種族として知られている。その戦闘能力は、海中は当然として、地上でも油断はできない程高いと言われていた。
だがそんな情報は気にせず、最初から全力で叩き潰すべく、対面したと同時に俺は動いた。
まず【撃滅の三歩】――三歩歩く間の攻撃力を増大させる希少能力を発動させ、一歩目で前方に跳躍し、障害物を跳び越えながら間合いを詰める。
数十メートル程の距離は一瞬で消失し、それに反応した〝黒き海の大提督〟が迎撃態勢を取るべく腰にあるサーベル型長剣へ手を伸ばす。
しかし、奴が抜剣するよりも早く、俺は【無音の破突】や【蜂の一刺し】など攻撃系・強化系アビリティを複数発動させた上で朱槍を突き出した。
普通の相手ならば、朱槍の性能とアビリティの重複発動による威力向上によって、手応えらしい手応えもなく貫通するところだが、流石は【神】級のダンジョンボスと言うべきか。
軍服は見かけに反して高い防御力を有していたし、外皮は分厚くしなやかで斬り難く、強靭な筋肉や骨格は【知恵ある蛇/竜・龍】や【巨人】にも劣らぬ程密度が高い。
それ故に、〝黒き海の大提督〟の肉体にはまるで巨大な金属塊を突き刺すような重い手応えがあった。生半可な攻撃では外皮すら傷つけられないだろう。
それでも、朱槍を止めるには足りなかった。
真正面から突き刺さり、背中から突き出た朱槍の穂先には、まだ脈打つ心臓があった。
できる限り綺麗な形のまま仕留めたかったので、そのまま死んでくれれば最良だったのだが、流石にその程度で死ぬ存在ではないらしい。
〝黒き海の大提督〟は心臓を抉られたにもかかわらず、痛がる素振りも見せずに、柄を握ったサーベルを間合いに入った俺に向けて抜き放った。
その抜剣速度は音が後から聞こえてくる程だったが、凶刃が身体を切り裂く前に俺はあえて二歩目を踏み出す事で身体が密着する距離まで近づく。そして四本ある銀腕のうちの二本で〝黒き海の大提督〟の両腕を完全に拘束。
サーベルは俺の脇腹に触れているが、もはやそれ以上動かす事は叶わない。
そうした後で、深々と突き刺さったままの朱槍を放して自由になった残りの手を、相手の両脇腹に添え、両側から圧縮するように力を込める。
その際、特殊な身体運用法で脚部から発生させた力をねじ込むと共に、【黒覇鬼王の金剛撃滅】や【黒覇鬼王の蹂躙暴虐】など、手持ちの中で特に強力な攻撃系アビリティも発動させた。
すると〝黒き海の大提督〟の肉体強度など無関係のように掌はめり込み、激しい雷撃が全身を駆け巡り、筋肉や骨や血管や内臓など一切が潰れていく感触が伝わってくる。
まるで車に轢かれた蛙か、あるいは絞った雑巾か。
左右からの力が加えられた事で上下に伸びていく肉体。二本の銀腕で両腕を拘束して動けなくしていた事と、〝黒き海の大提督〟の肉体がこれでも千切れないくらい頑丈だった事により、何だか可哀想なくらいの圧壊具合を見せている。
グチャグチャになった内容物が上下に分かれて、歪に膨らんでいく。目は充血し、耳鼻から血が漏れ出し、足下には血溜まりが出来ていた。
致命傷である、とひと目で分かってしまう程の損壊。
だが、それでもまだギリギリ死んでいない。
普通なら何十回も死んでいるのではないだろうか、と思ってしまう悲惨な状態だが、それでも目に見える速度で再生が行われるのだから恐ろしいものだ。
その光景は、丁度映像を逆再生させたような感じである。ここまで破壊されても復活するのは正直、生物としてどうなんだろうか。
などと自分を棚上げして見ていたら、〝黒き海の大提督〟は最後の反撃とばかりに、まだ無事だった頭部を懸命に動かして噛み付いてきた。
がばりと開かれた口の中には白く輝く牙が整然と並び、俺の頭部を容易に丸呑みできる程巨大だ。
が、それに合わせて、最後の三歩目を踏み出すと同時に頭突きを食らわせる。
頭部攻撃時に効果を発揮する【頭突き】や【石頭】に加え、【雷滅の斬角】や【双角乱舞】など五本角による斬撃も強化された雷電迸る一撃は、〝黒き海の大提督〟の身体を縦に切り裂いた。
流石にそこから再生する事はなく、これで絶命したようだ。血は蒸発して血煙となり、肉が焼けて香ばしい匂いを発している。
思わずひと齧りしてしまったのだが、噛んだ途端、衝撃が身体を突き抜ける。
野性味溢れる風味ながら、濃厚で味わい深い。大海を泳ぐのに必要な、柔軟かつ力強い肉だからこその旨味なのだろうか。
〝灼誕竜女帝〟を彷彿させるそれに、思わず次の肉片に手を伸ばして咀嚼したところで我に返り、残りは【異空間収納能力】に回収する。
一鬼で食い尽くしてしまった場合の皆の反応が怖かったのだ。
[ダンジョンボス〝黒き海の大提督〟の討伐に成功しました]
[達成者一行には初回討伐ボーナスとして宝箱【鯱肉林】が贈られました]
[攻略後特典として、ワープゲートの使用が解禁されます]
[ワープゲートは攻略者のみ適用となりますので、ご注意ください]
[詩篇覚醒者/主要人物による神迷詩篇攻略の為、【船舶の神】の神力の一部が徴収されました]
[神力徴収は徴収主が大神だった為、質の劣る神の神力は弾かれました]
[弾かれた神力の一部が規定により、物質化します]
[夜天童子一行は【船舶神之操舵輪】を手に入れた!!]
[特殊能力【迷宮略奪・鬼哭異界】の効果により、制覇済み迷宮を手に入れる事ができるようになりました]
[条件適合により、【アンブラッセム・ポントス号】を略奪可能です。略奪しますか?
《YES》 《NO》]
当然《YES》を選択した。
手に入れた【船舶神之操舵輪】は、円に三本の直線を重ねた一般的なデザインの黄金製操舵輪にしか見えない。
これが一体どのような能力を秘めているのか調べたり、新たに入手した迷宮内部の調整をしたりなど、色々雑務をこなしてから外に出る。
思いの外時間を使ってしまったようで、丁度夕暮れ時だった。
茜色に染まる大海は、思わず見蕩れる程の絶景だった。
《三百九日目》
〝黒き海の大提督〟が、もし〝灼誕竜女帝〟のような巨体だったらもう少し手こずったのだろうな、と昨日を振り返りつつ、俺達は早朝から【アンブラッセム・ポントス号】改め【アンブラッセム・パラベラム号】が見える港にやってきていた。
というのも、別大陸に行っていた武装船団が到着したという情報を、宿泊していた街の高級宿で入手したからである。
以前にもサラッと説明したが、ここ迷宮都市《ドゥル・ガ・ヴァライア》では調教された海洋モンスターが牽引・護衛する大型武装船団によって、別大陸との貿易が行われている。
だが大海での航海は非常に大きな危険を伴う為、いくら防備に万全を期しても全滅する時は全滅してしまう。
聞いた話では、この世界には〝島喰い〟とあだ名される程巨大なモンスターや、〝魔海域の絶対者〟と呼ばれる数キロにも及ぶ体長を誇る超巨大モンスターが実在しているそうだ。
鮫系の魚人や鯱系の獣人達でも手を出せない、そんな危険なモンスターが数多く存在する大海を渡る武装船舶は、全滅のリスクを軽減すべく、幾つかのグループに分かれて航行している。
その内の一つが、今日無事に到着した訳だ。到着初日という、別大陸産の珍しい品や人材が揃っているこの機会を逃す事などできるはずもない。
意気揚々とやってきた俺達は、魔法金属で補強された二〇〇メートル級の武装船舶を見物しつつ、早速荷下ろしされて開かれていた港の市場で、掘り出し物がないか探して回る。
貿易品は多種多様だ。
未知の技法で造られた魔法合金やマジックアイテムをはじめ、向こうの迷宮から産出されたドロップアイテム、コチラには無い有益な植物の種や家畜、変わった形状の衣服や美しい焼き物、特殊な加工が施された宝石や貴金属、はたまた重犯罪者に【隷属の首輪】を装着させた奴隷や調教されたモンスター、などなど。
そうした幅広い貿易品だけでなく、未知の冒険を求めてやってきた【冒険者】や世界各地を放浪している【吟遊詩人】など別大陸人もいたりするが、その説明は省くとして。
初日だけあって品数は豊富なようだが、それに比例するように貿易品を求めて集まった商人の数も多い。
暑苦しいまでの熱気に満ち、ある種の殺気まで放たれている空間の中で、俺達はやる気に漲る商人達をよそに、短時間で的確に選りすぐりの物品を購入していった。
手段は簡単だ。
【空間識覚】【並速思考】【道具上位鑑定】、それに【物品鑑定】も重複発動させて、片っ端から並べられた貿易品の詳細なデータを取得し、必要な物を選別しただけである。
資金は十分過ぎる程あるし、【買値三〇%減少】によって面倒な値引き交渉を省く事ができる為、短時間で売買が成立したのも大きな要因と言えるだろう。
高額な品も含めて纏め買いしたので上客と思われたのか、秘蔵の品も引っ張り出してきてくれて、普通では中々買えない品を得られたのは運が良かった。
流石にボッタクリ過ぎだったり、偽装していたり、商品を渡す時に偽物にすり変えようとしたりなんて悪知恵を働かせる悪徳商人も居るには居た。そんな相手には裏で色々とさせてもらったが、大半はそういう事もなかったので、思っていたより欲しい物を確保できた。
それでも昼過ぎまではかかってしまった。大体は皆で見て回ったので、それ以降は自由行動にした。
すると早速、オーロがアルジェントを連れて気の赴くままに行こうとしたところで、オプシーが二鬼についていきたいと言い出した。
オーロは即座にそれを了承し、アルジェントとそれぞれ一番下の妹の手を握り、何処に行こうかと楽しそうに話しながら離れていく。
ここでしか買えないような品は数多いから、子供達だけで巡るのはいい経験になるだろう。子供達全員が居ればなお良かったと思うも、それはまたの機会に。
そして大丈夫だとは思いつつも一応、保険として分体を貼り付けておいた。既に十分な強さがあるし、何かあってもある程度の距離なら俺達が文字通り飛んでいけるとはいえ、心配なものは心配なのだ。
まあ、結局は杞憂に終わった。それならそれが一番良い。
ちなみに復讐者達はある程度楽しんだ後で沖合に錨泊している【アンブラッセム・パラベラム号】まで行ってダンジョンモンスター相手に戦闘を重ね、俺はカナ美ちゃんと赤髪ショートを連れて観光に出かけた。
とてもいい一日だった。
家族の戦いをじっと見守っていた俺だが、〝怒りの荒くれ者〟との戦闘が終わった直後、丁度死角にあった横道からやってきた〝イシリッド〟の魔術がオーロに直撃した時は、心底どうなるかと心配させられた。
酷く辛そうにしていたので思わず手助けしようとしたが、流石は俺の子とでも言えばいいのか、オーロは複数の精神系【状態異常】に精神力だけで打ち勝つという偉業をやってみせたのだった。
予想以上に成長しているのだなと感心する間に、復活したオーロが撃ち放った魔弾によって、圧倒的な破壊が周囲に振りまかれた。
その余波に巻き込まれたアルジェントが吹き飛ばされる、なんてハプニングがあったが、まあ、そういう事もあるだろう。
その攻撃も流石に〝イシリッド〟を倒すまでには至らなかったが、吹き飛ばしてそれなりのダメージを負わせた。
そして衝撃でふらつく隙を赤髪ショートが逃すはずもなく、死角から接近し、頸部を一瞬で両断して仕留める事に成功する。
こいつの蛸足は結構美味しいので、即座に【異空間収納能力】に収納するのも忘れない。
戦闘後には少し反省会を開いてから、子供達に対して良くやったと褒める。ダメなところもあったが、全体的には悪くなかっただろう。
今日はそんな感じで、子供達優先で攻略していった。
《三百七日目》
もう少しでオーロとアルジェントのレベルが〝100〟に到達するらしい。
それならば、と今日も船底近くの区画でウロウロする予定としたところ、昨日一日見学していたオプシーがオーロ達の戦いに感化されたらしく、私も参加したいと言い始めた。
戦闘本能が強いのは【鬼】の血が濃い証拠だ。いつかはそう言うだろうな、とは思っていた。
しかしオプシーはまだ幼い。
俺の血が流れているからか通常の鬼人種と比べれば確かに成長は早く、もう自力で歩き回れる程度にはなっているとはいえ、それでもここで戦うのなんて不可能だ。
一応軽く訓練はしてきたが、オーロ達よりは成長が緩やかなので身体はまだ出来ておらず、本格的な戦闘に耐えられるとは思えない。
そもそも【神代ダンジョン】が初陣なんてのは馬鹿げている……のだが。
オプシーが持つ二柱の加護、つまり【宝石の神】と【冥獣の亜神】の恩恵が、その問題をクリアさせてしまった。
オプシーは【宝石の神の加護】によって、魔力を一時的に宝石へと変換する能力を秘めている。【使徒鬼・亜種】として、子供でありながら豊富な魔力を内包するオプシーは、最大で五〇キロもの宝石に変換が可能だ。ただし一定時間が経過すると魔力に再変換されて霧散してしまうが、それはそれとして。
そうして得た五〇キロの宝石は、オプシーが持つもう一つの恩恵、【冥獣の亜神の加護】による能力の一つを行使する事により、【冥獣】に変形させられる。つまり、宝石を使ったある種のゴーレムだ。
二種の【加護】によって誕生した、狼とも獅子とも虎とも思えるような造形の、鋼玉製の二頭の【宝石冥獣】――分かりやすいように一頭は紅玉、もう一頭は蒼玉で出来ている――はオプシーの代わりとして戦闘に参加していった。
実際に戦闘させて分かった事だが、宝石冥獣は全身各部位が兵器と同義だった。
鋭い牙を高速回転させてドリルのようにしたり、尻尾の毛一つ一つを針金のように尖らせたり、四肢を刃に変えたりして、敵を撫で削り、切り裂く事が可能なのだ。
最初は損害度外視で、オーロ達の壁になればそれでいいと思っていた。しかし研磨剤としても使用されるくらい堅固なコランダム製だけあって、半端な攻撃は受け付けない宝石冥獣は、時にダンジョンモンスターを狩猟するなど予想以上に活躍し、ここでも通用する強さを証明した。
ちなみに、宝石への変換には相性というものがあるらしく、オプシーが最も適していたのは黒曜石だった。これなら長時間変換しておけるし、ある程度の損傷は魔力を追加する事で即座に再生できる。
しかし今回は戦闘が目的であり、宝石冥獣の役割は壁役であるからして、割れやすい黒曜石は適していない。むしろハッキリ言って脆い為、弱パンチとかでも破壊されかねない。鋭利になりやすいので攻撃には役立つのだが。
その為、今回は相性が良くも悪くもないコランダムを選択したのだが、そう悪い選択ではなかったようだ。
そして戦うのが面白いのか、オプシーは楽しそうにケラケラと笑い、どんどん強さを増していった。
レベルが上昇し、魔力が増加し、熟練度が上がると、より多くの宝石を変換できるようになった。従える宝石冥獣達も当初の二頭より増え、それを組織的に運用できるようにもなっていく。
初めての指揮にしては的確なので、多分、俺が持つ【群友統括】や【軍勢統括】といった類のアビリティが遺伝しているに違いない。
なんだか将来、大量の宝石に囲まれて様々な色合いの宝石冥獣を侍らす女王様になりそうだな、と思ったり思わなかったりするが。
まあ、そんな感じで。
子供達のレベルを上げられるだけ上げた後、ダンジョンボスが居るだろう区画に近い安全地帯の宿で、最後の休息をとる。
柔らかいベッドで横になり、明日に備えて早く寝ようとして――
[世界詩篇〔黒蝕鬼物語〕【鬼乱十八戦将】であるオーロが【存在進化】しました]
[条件〝1〟【存在進化】クリアに伴い、称号【金砲姫】が贈られます]
[世界詩篇〔黒蝕鬼物語〕【鬼乱十八戦将】であるアルジェントが【存在進化】しました]
[条件〝1〟【存在進化】クリアに伴い、称号【銀槍王】が贈られます]
どうやら子供達のうち二鬼が【存在進化】したらしい。
どんな風になったのか楽しみにしながら、ゆっくりと意識を沈ませる。
明日は、いい日になりそうだ。
《三百八日目》
昨日【存在進化】したオーロとアルジェントは、共に【半人武鬼・亜種】という種族になったそうだ。
外見的な大きな変化は、身体が成長した事と、片手に一つだけあった鬼珠が両手と胸の中心に生じて三つに増えた事くらいだろうか。
だが、確実に強さを増したのは、漏れ出る魔力から容易く分かった。
本人達に以前との差異を聞くと、まず【亜種】になる条件の一つでもある【加護】として、オーロが【金の神の加護】と【魔砲の亜神の加護】、アルジェントが【銀の神の加護】と【魔槍の亜神の加護】を得たらしい。
【金の神】と【銀の神】の【加護】は非常に酷似しており、金または銀を使用したマジックアイテムなどの効果向上、【宝石の神の加護】のように魔力を一時的に金や銀に変換可能、などの恩恵を得られる。
【魔砲の亜神の加護】は魔砲を使用した時に効果を発揮し、【魔槍の亜神の加護】は槍を使用した時に効果を発揮する。
全体的に大幅な向上を果たした戦闘能力を早速試したい、と二人は言っていたが、とりあえず朝食を優先した。
腹が減っては戦はできぬというし、何よりまだ準備が整っていない。
二鬼の身体は急激に大きくなった。オーロは一八〇センチを少し超えたくらい、アルジェントは二メートル近い。その影響で服が小さくなってしまったので、母親である姉妹さん達が、もしもの事があればこれを渡して、と以前渡してくれた服を渡す。
朝食を終えた後でそれに着替えさせると、幸いサイズはピッタリだったらしく、進化した二人の動きを阻害する事は無いようだ。
これが腹を痛めて生んだ母の愛情なのか、と感心しつつ、武装のサイズ調整なども済ませ、確認の意味も兼ねてその辺のダンジョンモンスターと戦闘させてみた。
そして初戦から、【存在進化】によって向上した実力が発揮された。
あれほど苦戦した〝怒りの荒くれ者〟を、オーロ達はそれぞれ単鬼で討伐できるようになったし、鬼珠を解放した時に出現する弓や槍はより強力な能力を秘めたモノになり、戦技の一つ一つの威力も大幅に向上していたのである。
午前中はオプシーも加えた子供達を好きなように戦わせ、昼飯を食べてからダンジョンボスを目指した。
そもそも近くまで来ていた事もあり、そこまで迷う事なくボス部屋の前まで到着する。
場所は船首に最も近く、最上階から一つ下の階にある船橋だ。
巨大な【アンブラッセム・ポントス号】のブリッジだけあって、そこには非常に大きな空間が広がっていた。左右はもちろん、前方後方まで見えるような開放感のある構造で、海図を広げるのに良さそうな大きさの机や操舵輪など、航海に必要な数々の器具も揃えられている。
これまでのボス部屋と比べれば障害物が非常に多く、決して戦いやすいとは言えない、広い空間でありながら、逆に狭苦しさも感じられる場所であった。
そんなボス部屋に居たダンジョンボス〝黒き海の大提督〟は、黒い軍服を筋骨隆々の肉体に纏う、鯱頭の獣人だ。
身長は三メートルをやや超える程度で、尾鰭があるなど、各部位に鯱の特徴が見受けられる。鯱特有の目のような白い模様もあって、その下にある本当の目は爛々と戦意に輝き、何処か愛らしさが感じられる姿からは想像できない程に好戦的だ。携えている生体武器であろうサーベル型の長剣からは強い魔力が感じられ、相当の業物と推察できる。
大海の何処かに彼等鯱系の獣人の国があるらしく、鮫系の魚人と並んで勢力を広めている種族として知られている。その戦闘能力は、海中は当然として、地上でも油断はできない程高いと言われていた。
だがそんな情報は気にせず、最初から全力で叩き潰すべく、対面したと同時に俺は動いた。
まず【撃滅の三歩】――三歩歩く間の攻撃力を増大させる希少能力を発動させ、一歩目で前方に跳躍し、障害物を跳び越えながら間合いを詰める。
数十メートル程の距離は一瞬で消失し、それに反応した〝黒き海の大提督〟が迎撃態勢を取るべく腰にあるサーベル型長剣へ手を伸ばす。
しかし、奴が抜剣するよりも早く、俺は【無音の破突】や【蜂の一刺し】など攻撃系・強化系アビリティを複数発動させた上で朱槍を突き出した。
普通の相手ならば、朱槍の性能とアビリティの重複発動による威力向上によって、手応えらしい手応えもなく貫通するところだが、流石は【神】級のダンジョンボスと言うべきか。
軍服は見かけに反して高い防御力を有していたし、外皮は分厚くしなやかで斬り難く、強靭な筋肉や骨格は【知恵ある蛇/竜・龍】や【巨人】にも劣らぬ程密度が高い。
それ故に、〝黒き海の大提督〟の肉体にはまるで巨大な金属塊を突き刺すような重い手応えがあった。生半可な攻撃では外皮すら傷つけられないだろう。
それでも、朱槍を止めるには足りなかった。
真正面から突き刺さり、背中から突き出た朱槍の穂先には、まだ脈打つ心臓があった。
できる限り綺麗な形のまま仕留めたかったので、そのまま死んでくれれば最良だったのだが、流石にその程度で死ぬ存在ではないらしい。
〝黒き海の大提督〟は心臓を抉られたにもかかわらず、痛がる素振りも見せずに、柄を握ったサーベルを間合いに入った俺に向けて抜き放った。
その抜剣速度は音が後から聞こえてくる程だったが、凶刃が身体を切り裂く前に俺はあえて二歩目を踏み出す事で身体が密着する距離まで近づく。そして四本ある銀腕のうちの二本で〝黒き海の大提督〟の両腕を完全に拘束。
サーベルは俺の脇腹に触れているが、もはやそれ以上動かす事は叶わない。
そうした後で、深々と突き刺さったままの朱槍を放して自由になった残りの手を、相手の両脇腹に添え、両側から圧縮するように力を込める。
その際、特殊な身体運用法で脚部から発生させた力をねじ込むと共に、【黒覇鬼王の金剛撃滅】や【黒覇鬼王の蹂躙暴虐】など、手持ちの中で特に強力な攻撃系アビリティも発動させた。
すると〝黒き海の大提督〟の肉体強度など無関係のように掌はめり込み、激しい雷撃が全身を駆け巡り、筋肉や骨や血管や内臓など一切が潰れていく感触が伝わってくる。
まるで車に轢かれた蛙か、あるいは絞った雑巾か。
左右からの力が加えられた事で上下に伸びていく肉体。二本の銀腕で両腕を拘束して動けなくしていた事と、〝黒き海の大提督〟の肉体がこれでも千切れないくらい頑丈だった事により、何だか可哀想なくらいの圧壊具合を見せている。
グチャグチャになった内容物が上下に分かれて、歪に膨らんでいく。目は充血し、耳鼻から血が漏れ出し、足下には血溜まりが出来ていた。
致命傷である、とひと目で分かってしまう程の損壊。
だが、それでもまだギリギリ死んでいない。
普通なら何十回も死んでいるのではないだろうか、と思ってしまう悲惨な状態だが、それでも目に見える速度で再生が行われるのだから恐ろしいものだ。
その光景は、丁度映像を逆再生させたような感じである。ここまで破壊されても復活するのは正直、生物としてどうなんだろうか。
などと自分を棚上げして見ていたら、〝黒き海の大提督〟は最後の反撃とばかりに、まだ無事だった頭部を懸命に動かして噛み付いてきた。
がばりと開かれた口の中には白く輝く牙が整然と並び、俺の頭部を容易に丸呑みできる程巨大だ。
が、それに合わせて、最後の三歩目を踏み出すと同時に頭突きを食らわせる。
頭部攻撃時に効果を発揮する【頭突き】や【石頭】に加え、【雷滅の斬角】や【双角乱舞】など五本角による斬撃も強化された雷電迸る一撃は、〝黒き海の大提督〟の身体を縦に切り裂いた。
流石にそこから再生する事はなく、これで絶命したようだ。血は蒸発して血煙となり、肉が焼けて香ばしい匂いを発している。
思わずひと齧りしてしまったのだが、噛んだ途端、衝撃が身体を突き抜ける。
野性味溢れる風味ながら、濃厚で味わい深い。大海を泳ぐのに必要な、柔軟かつ力強い肉だからこその旨味なのだろうか。
〝灼誕竜女帝〟を彷彿させるそれに、思わず次の肉片に手を伸ばして咀嚼したところで我に返り、残りは【異空間収納能力】に回収する。
一鬼で食い尽くしてしまった場合の皆の反応が怖かったのだ。
[ダンジョンボス〝黒き海の大提督〟の討伐に成功しました]
[達成者一行には初回討伐ボーナスとして宝箱【鯱肉林】が贈られました]
[攻略後特典として、ワープゲートの使用が解禁されます]
[ワープゲートは攻略者のみ適用となりますので、ご注意ください]
[詩篇覚醒者/主要人物による神迷詩篇攻略の為、【船舶の神】の神力の一部が徴収されました]
[神力徴収は徴収主が大神だった為、質の劣る神の神力は弾かれました]
[弾かれた神力の一部が規定により、物質化します]
[夜天童子一行は【船舶神之操舵輪】を手に入れた!!]
[特殊能力【迷宮略奪・鬼哭異界】の効果により、制覇済み迷宮を手に入れる事ができるようになりました]
[条件適合により、【アンブラッセム・ポントス号】を略奪可能です。略奪しますか?
《YES》 《NO》]
当然《YES》を選択した。
手に入れた【船舶神之操舵輪】は、円に三本の直線を重ねた一般的なデザインの黄金製操舵輪にしか見えない。
これが一体どのような能力を秘めているのか調べたり、新たに入手した迷宮内部の調整をしたりなど、色々雑務をこなしてから外に出る。
思いの外時間を使ってしまったようで、丁度夕暮れ時だった。
茜色に染まる大海は、思わず見蕩れる程の絶景だった。
《三百九日目》
〝黒き海の大提督〟が、もし〝灼誕竜女帝〟のような巨体だったらもう少し手こずったのだろうな、と昨日を振り返りつつ、俺達は早朝から【アンブラッセム・ポントス号】改め【アンブラッセム・パラベラム号】が見える港にやってきていた。
というのも、別大陸に行っていた武装船団が到着したという情報を、宿泊していた街の高級宿で入手したからである。
以前にもサラッと説明したが、ここ迷宮都市《ドゥル・ガ・ヴァライア》では調教された海洋モンスターが牽引・護衛する大型武装船団によって、別大陸との貿易が行われている。
だが大海での航海は非常に大きな危険を伴う為、いくら防備に万全を期しても全滅する時は全滅してしまう。
聞いた話では、この世界には〝島喰い〟とあだ名される程巨大なモンスターや、〝魔海域の絶対者〟と呼ばれる数キロにも及ぶ体長を誇る超巨大モンスターが実在しているそうだ。
鮫系の魚人や鯱系の獣人達でも手を出せない、そんな危険なモンスターが数多く存在する大海を渡る武装船舶は、全滅のリスクを軽減すべく、幾つかのグループに分かれて航行している。
その内の一つが、今日無事に到着した訳だ。到着初日という、別大陸産の珍しい品や人材が揃っているこの機会を逃す事などできるはずもない。
意気揚々とやってきた俺達は、魔法金属で補強された二〇〇メートル級の武装船舶を見物しつつ、早速荷下ろしされて開かれていた港の市場で、掘り出し物がないか探して回る。
貿易品は多種多様だ。
未知の技法で造られた魔法合金やマジックアイテムをはじめ、向こうの迷宮から産出されたドロップアイテム、コチラには無い有益な植物の種や家畜、変わった形状の衣服や美しい焼き物、特殊な加工が施された宝石や貴金属、はたまた重犯罪者に【隷属の首輪】を装着させた奴隷や調教されたモンスター、などなど。
そうした幅広い貿易品だけでなく、未知の冒険を求めてやってきた【冒険者】や世界各地を放浪している【吟遊詩人】など別大陸人もいたりするが、その説明は省くとして。
初日だけあって品数は豊富なようだが、それに比例するように貿易品を求めて集まった商人の数も多い。
暑苦しいまでの熱気に満ち、ある種の殺気まで放たれている空間の中で、俺達はやる気に漲る商人達をよそに、短時間で的確に選りすぐりの物品を購入していった。
手段は簡単だ。
【空間識覚】【並速思考】【道具上位鑑定】、それに【物品鑑定】も重複発動させて、片っ端から並べられた貿易品の詳細なデータを取得し、必要な物を選別しただけである。
資金は十分過ぎる程あるし、【買値三〇%減少】によって面倒な値引き交渉を省く事ができる為、短時間で売買が成立したのも大きな要因と言えるだろう。
高額な品も含めて纏め買いしたので上客と思われたのか、秘蔵の品も引っ張り出してきてくれて、普通では中々買えない品を得られたのは運が良かった。
流石にボッタクリ過ぎだったり、偽装していたり、商品を渡す時に偽物にすり変えようとしたりなんて悪知恵を働かせる悪徳商人も居るには居た。そんな相手には裏で色々とさせてもらったが、大半はそういう事もなかったので、思っていたより欲しい物を確保できた。
それでも昼過ぎまではかかってしまった。大体は皆で見て回ったので、それ以降は自由行動にした。
すると早速、オーロがアルジェントを連れて気の赴くままに行こうとしたところで、オプシーが二鬼についていきたいと言い出した。
オーロは即座にそれを了承し、アルジェントとそれぞれ一番下の妹の手を握り、何処に行こうかと楽しそうに話しながら離れていく。
ここでしか買えないような品は数多いから、子供達だけで巡るのはいい経験になるだろう。子供達全員が居ればなお良かったと思うも、それはまたの機会に。
そして大丈夫だとは思いつつも一応、保険として分体を貼り付けておいた。既に十分な強さがあるし、何かあってもある程度の距離なら俺達が文字通り飛んでいけるとはいえ、心配なものは心配なのだ。
まあ、結局は杞憂に終わった。それならそれが一番良い。
ちなみに復讐者達はある程度楽しんだ後で沖合に錨泊している【アンブラッセム・パラベラム号】まで行ってダンジョンモンスター相手に戦闘を重ね、俺はカナ美ちゃんと赤髪ショートを連れて観光に出かけた。
とてもいい一日だった。
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