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暗黒大陸編 3巻

暗黒大陸編 3-2

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《三十七日目》/《百三■七■目》

 今日も実験である。
 詳細は省くが、狂人は狂人だったと言っておこう。
 喰わず、眠らず、休まず動き続けるタフさと集中力については素直に感心するが、倫理観が消滅したとしか表現できない事を嬉々ききとして行うのだから。
 素体となる捕虜とは顔見知りだろうに、そんな事は一切気にせず手術している。
 まあ、それを見て特に何も思わない俺が言うのも可笑おかしいか。
 モルモットを見る科学者も、こんな気持ちなのかもしれない。


《三十八日目》/《百三■八■目》

 狂人の助手を務め、捕虜を材料にした技術取得を始めて早数日。
 基本的で安全なモノはもちろん、全ての捕虜を使い潰す事と引き換えに、危険性の高めな手術技法も【電脳書庫】に記録できた。
 また、その課程で、この世界にいる獣人や魔人などの人型生物の内部構造などについても、多く知る事ができた。
 今回の一件で得た物はかなり多かった。
 正直に言えば、狂人の使い道は他にもあるが、しかしそろそろ切り上げ時だ。
 狂人は狂人らしく、油断すると何かしでかす危うさがある。
 今は新しい試みに興味が向けられているが、いつ気分が変わるかも分からない。
 一定の成果を得た今、その処理は確実にしなければならない。
 だから最後にひと働きしてもらうべく、【弁舌】や【洗脳話術】などのアビリティの組み合わせで納得させた狂人と俺は、手術台に寝かされた被救助者の一人である男性の左右に立っていた。
 これから行うのは、蟻人少年ら被救助者達の再改造手術である。
 そもそも、一度改造手術を受けた者を完全に元に戻す事はほぼ不可能だ。紙を折ったら折り目がつくように、肉体を元に戻そうとしても、どうしたって何かしらの痕跡は残される。
 それに、改造手術で精神が壊れていたら、肉体が元に戻ったとしても、手術前の状態になったとはとても言えない。
 だから今回の再改造手術は、彼らを元の身体に戻す事ではなく、バランス調整とかメンテナンスが主な目的だった。
 これまでは、改造手術に失敗したら、そのまま放置、あるいは破棄されるだけだった。狂人達の目的からすれば、失敗による不具合や欠点をいちいち治すよりも、また新品を使った方が色々と楽だからだ。
 しかし、治す事で得られる知識もある。そこから発展する技術もある。
 そんな事を狂人に言って聞かせると、今は新しい視点からのアプローチが刺激になっていた事もあって、意欲的に働いてくれた。
 調整にかかる時間はバラバラだ。短時間で終わる場合もあれば、内臓をいじる必要があったりなどで数時間かかる事もあった。
 現在、一時的とはいえ俺の庇護下にある被救助者達の数は、約七十名。
 本当はもっといたが、既に回復不可能な状態になっていたり、深い絶望から自殺を選択する者もいたりと、当初から減ってこの程度の数に収まっている。
 また、この中には調整の必要が無い成功例――商品価値が高く待遇が良かった者達――も含むので、実際に再改造をする数は多少減るが、それでも時間は必要だ。
 改造手術で医療系の能力を与えられた者達にも手伝ってもらうものの、今日一日は手術室から動く事はできそうにない。


《三十九日目》/《百三■九■目》

 何だかんだと徹夜で改造手術をし続け、夕方頃にはほぼ完了した。
 いちじるしくバランスを崩した内部構造によって致命的な欠陥を持っていた者も回復し、移植された異形な器官は本人が不必要だと判断したら取り除いた。
 様々なパターンの調整を終えた結果、被救助者達は全員が改造手術を受ける以前よりも優れた肉体を持つに至った。
 五感はえ、生命力のみなぎる肉体に、豊富な魔力。今や彼らは弱者ではなく強者の部類になった。
 とはいえ、内心は複雑だろう。
 得たモノは大きいが、それは自分の意思とは関係なく与えられたのだから。奪われたモノも、失われたモノも多い。
 それに精神的な問題が全て解消された訳でもないし、その他の問題もまだあるが、最後まで俺が面倒を見る事はできない。
 俺には俺の目的があるのだから。
 蟻人少年達が今度どうやって生きていくのか、それは本人達で決めてもらうしかない。
 そして、役割を終えた狂人は丸ごと喰った。
 狂人も自分が生き残る事はできないと悟っていたのか、俺に伝えられた技術や思想などが次代に繋がる事を祈る、なんて言い残した。
 その願いが叶うかはさて置き。


[能力名【狂気の思想】のラーニング完了]
[能力名【鬼才のひらめき】のラーニング完了]


 これらのアビリティが狂人からラーニングできたが、新しい発想が得られやすくなる【鬼才の閃き】はともかく、【狂気の思想】は用途が限定的で、特殊な使い方をする必要がある。普段は狂人のような存在を理解しやすくなる程度にしか役立ちそうにない。 
 使い道に困るアビリティがまた一つ増えてしまった。
 どうせラーニングするなら使いやすいアビリティがいいのに、と意味のない愚痴ぐちこぼれた。


《四十日目》/《百四■■目》

 蟻人少年達には、大雑把に二つの選択肢があった。
 出ていくか、残るかである。
 帰れる場所が残っているのであれば、出ていけばいい。
 帰る場所がないのなら、残ればいい。
 帰りたくとも帰れないなど、複雑な事情が色々あったりするので、簡単に判断できない者もいるだろうが、分かりやすい選択肢を用意してやった結果、それぞれがそれぞれの選択をした。
 まだ太陽が昇ったばかりの早朝。
 調節を終えた被救助者達の一部が《自由商都セクトリアード》を出発した。
 彼・彼女達が目指すのはそれぞれの故郷、あるいは親戚が暮らす場所である。
 その数は約三十名。
 安全の為、向かう方向が同じ者同士で幾つかの集団を形成し、しっかりとした足取りで去って行った。
 もちろん、ただ放り出した訳ではない。
 十分な額の路銀と、道中の安全の為に一人につき十体の蜂ゴーレムとそれを操作するピアスを配給している。
 この蜂ゴーレムは悪用防止のセーフティを施したもので、毒は補充できないし、壊れれば自壊する。襲ってきた相手を撃退するのならともかく、悪用すればそれ相応の罰が下される、という事をしっかり説明しておいた。
 その上で、最悪何かあった場合はここに戻ってくればどうにかしてやる、と言って送り出したのだ。俺の役割は十分果たしたと判断していいだろう。
 そして、出ていかずにここに残った約四十名は、《朱酒槍ドランクランス商会》本店の従業員として雇う事になった。
 残る事を選んだのは、蟻人少年をはじめ、調整によって再生する肉袋だった状態から正気を取り戻した青年や、《イア・デパルドス》への襲撃にも参加した戦闘要員の男女などだ。
 年齢層としては、蟻人少年のように幼くて誰かの庇護が必要な者、あるいは年老いて帰る場所のない者が多い。中には肉袋青年のように一人で生きていけそうな者もいるが、色々と思うところがあるのだろう。
 個人個人が何を思っているのかはさて置き、とりあえず資金は潤沢じゅんたくだ。出ていった者達に十分な路銀を渡した上で、まだ余っている。余裕を持って《朱酒槍ドランクランス商会》を運営できる下地がある訳だ。
 そして、当面の事業内容はゴーレム半装軌車ハーフトラックである【ゴーレムクラート】を改造・量産した【ゴーレムトラック】を使った運搬業とする予定だ。
 まず大前提として、十分な教育を受けていて頭脳労働を任せられる従業員が非常に少ない。実際、文字を書けて、計算ができるのは、教育の賜物たまものなのだ。
 煩雑な事務処理を任せられるまで教育するには時間がかかりすぎるし、数少ない教育済みの従業員にばかり作業が集中しては問題が多すぎる。
 しかし、従業員は全員が改造手術を受け、子供でも成人以上の膂力りょりょくがあった。
 例えば蟻人少年なら荷入りの【ゴーレムトラック】でもかつげるだろう。
 そうなると、商人の出入りが激しく商品が大量に行き交う《自由商都セクトリアード》において、単純労働であり、かつ需要の大きい運搬業を選択するのは自然な事だった。
 大量運送できる【ゴーレムトラック】に、優れた身体能力によって積み下ろしを普通よりも効率的に行える従業員。
 情報収集時の際に築いたコネにより、初仕事は既に受注済みで、明日から早速取り掛かる。
 ほとんどぶっつけ本番になるが、少しでも経験を積んでおく為、今日一日は積み下ろし方や運び方、【ゴーレムトラック】の運転などを色々教えていった。
 付け焼き刃なので問題も出てくるだろうが、最低限のやり方は伝授できただろう。
 蟻人少年達も従業員としてやる気が出てきているのは良い事だ。トラウマが残っている者も多いものの、打ち込める何かがある方が気分もまぎれると思われる。
 明日に向けて、今日一日は皆頑張っていた。


 さて、これで、出ていった者に対しても残った者に対しても、十分面倒を見たと言える段階に来たのではないだろうか。
 そんな訳で、夜になると主要なメンバーを集めて宣言した。
 手厚い保護はここまでとする、と。
 俺がずっと支える事はできないから、生活が一変していく今が良い機会だろう。
 今後の運営は、色んな条件から考えて、肉袋青年に引き継ぐ事にする。
 肉袋青年は、数少ない頭脳労働を任せられる従業員であり、その中でも最も頭が良く、かつ人望もある。後任として申し分ない。
 俺を会長とするなら、肉袋青年は雇われ社長といったところか。
 トップをいきなり任せられた肉袋青年は困惑していた。
 恩人である俺が任せるのだからその期待に応えたいが、事業に失敗して損失を与えたら、と思うと戦々恐々らしい。
 しかし、事業に失敗しようが、生きていれば次がある。
 資金はタップリあるので、多少の失敗などどうにでもなるし、まだまだ稼ぐ手段はある。大きな失敗があっても責任と後始末は受け持つから気軽に頑張れ、とエールを送った。
 大きな利益が出るなら最良。
 利益が出なくても、次に繋がるコネとかが出来るのであれば良し。
 駄目なら他にもある裏組織を潰して再起するので良し。
 そう、何も問題ない。
 ここまで気楽に仕事ができる事なんて、中々無いのではなかろうか。
 一応、遠隔通信の手段は残しておき、ここでの拠点の維持を肉袋青年や蟻人少年達に任せる準備を着々と進めつつ、俺は次なる目標へと意識を向けた。
 俺の失われた記憶。
 それを取り戻す手段はまだ分からないが、一つ重要なキーワードがあった。
【エリアレイドボス】。
 大陸に七体存在する超常の存在。
 その存在を知った時から強く興味を惹かれていたが、その内の一体――古代守護呪恩宝王〝ファブニリプガン〟の存在を知った際に、ある種の確信を得た。
 気がついた時に近くにあった祭壇を喰ったら、【宝王の祭壇】という『宝王』の名が付くアビリティをラーニングできた。だから、あの祭壇は〝ファブニリプガン〟由来のモノだったのだ。
 そもそも何故あそこにいたのかは思い出せない。
 しかしだからこそ、何か関係があるのは間違いない。
 思い出すには〝ファブニリプガン〟に会えればいいのだが、あそこにはそれらしき存在はいなかった。
 もしかしたら、記憶を失う前の俺が〝ファブニリプガン〟を殺したのかもしれない。
 そうなると、やはり他の【エリアレイドボス】に会う必要があるだろう。
 だから俺は、現在地から最も近い【エリアレイドボス】の内の一体――古代爆雷制調天帝〝アストラキウム〟に会いに行こうと思う。
 きっと、穏やかな話にはならないだろう。
 だけどこれは必要な事に違いない。何となく、そう思う。
 そう、決して『喰ってみたい』なんて欲望を抱いている訳ではない。
 これは早く記憶を思い出す為に必要な事であって、そのついでに美味しい思いができるのなら最良だろう。
 色々と思うところはありつつ、準備はとどこおりなく進んでいった。


《四十一日目》/《百四■一■目》

 出立する準備を色々と進めつつ、最初の仕事を見届けるべく今日の現場に同行する。
 朝食を食べ終え、仕事を始める人が増える時間帯。
 十トンのアルミバントラックをモデルにした二台の【ゴーレムトラック】が、従業員数名と俺を乗せ、舗装ほそうされた道路を走行する。
 練習も兼ねているので、【ゴーレムトラック】を運転するのは、肉袋青年と、戦闘要員の男性だ。
 俺は肉袋青年が運転する先頭車両に乗車し、教官のように適宜てきぎアドバイスをしていく。
 初心者である肉袋青年は非常に緊張しているらしく、身体は無駄な力が入ってガチガチだ。視線がせわしなく動き、ハンドルを握る手にはギュッと力が込められているのが分かった。
 見ている方が心配になるほどの緊張具合だが、乗車経験自体がとぼしい事に加え、運転に不慣れだから仕方ない。
 それに、道路を自由に行き交う荷車はもちろん、歩行者にも注意が必要だ。
 下手に衝突事故でも起こそうものなら、頑丈で重いこちらはともかく、相手側の被害が大変な事になるのは明白。運が良くて軽傷、悪ければ即死もあり得る。
 しかし一応、走行時の安全性は【ゴーレムトラック】自体の性能と機能で確保してあった。
 自動運転で運転手が居眠りしていても問題なく進む事ができ、進行ルート上に飛び出しがあっても自動的に緊急停車する。
 そうでなければ、まともに練習もしていない初心者に運転させる訳がない。
 だから、今の肉袋青年のように過度に周囲に気を配る必要はないのだが、安全運転の心がけは事故を起こさない為の基本中の基本である。各種安全機能については、まだ黙っておく事にしようと思う。
 そんな訳で、必要以上に慎重な肉袋青年による運転の先頭車両と、似たような状況にある後続車両は、時速三十キロ程度の低速で進んでいった。
 移動中、道行く人々の視線が集まってくるのを感じた。
 その原因は、【ゴーレムトラック】のサイドパネルに、新興商会《朱酒槍ドランクランス商会》の広告を載せているからだろう。
 他の荷車とは明らかに外観が異なる【ゴーレムトラック】は注目のまとなので、移動するだけで大きな宣伝効果があった。
 広告を見た人から後日仕事が来ればもうけものだろう。
 宣伝と練習を兼ねて少し大回りしながらも、予定の時間より少し早く、待ち合わせ場所に到着した。
 そこは、都市外に繋がる正門近くにあるちょっとした広場だ。ここは待ち合わせ場所としてよく使われるので、周囲には同じように時間を潰している者も多い。
 従業員達とコミュニケーションをとりながら数分ほど待っていると、白い狼のような騎獣に乗り、複数の護衛を引き連れた二頭牽きの箱馬車が二台、広場に入ってきた。
 どちらもそこまで珍しくはないデザインの馬車だが、作りは頑丈そうであり、牽引するのは質の良さそうなゴーレムホースだ。
 馬力もあって疲れ知らずのゴーレムホースは結構高価な品であり、ある程度以上の財力を持つ者が乗っている事を示している。
 先頭の馬車の側面には、宝石と眼鏡と金槌かなづちの紋様が刻まれていた。
 その事から、これが今回の取引相手を紹介してくれた《リグナドロー宝石店》のモノだと分かった。
 そして後続の馬車の紋様はそれとは違う。つまり、今日の取引相手である《アドーラアドラ鉱物店》の馬車なのだろう。
【ゴーレムトラック】は大きくて目立つし、商会の広告も載せているので、二台の馬車は真っ直ぐこちらに来た。
 そしてすぐ側に来ると、まずは《リグナドロー宝石店》の馬車から、店長とその秘書が降りてくる。
 店長達と軽く挨拶を交わす間に、《アドーラアドラ鉱物店》の馬車の扉が開いた。
 出てきたのは、体格の良いおおかみ獣人だった。
 太く大きい上半身は灰色の体毛に覆われ、下半身には何かの革製のズボンを穿いている。腰にはナイフが吊り下げられているが、観察した限り徒手空拳を得意とする感じなので、戦闘用ではなく解体などの雑用で使うのだろうか。
 まさに狼のような頭部にある鋭い双眸は真っ直ぐに俺を見つめ、こちらを細部まで観察してくるが、しかし敵意は感じられない。
 恐らくは護衛役なのだろうこの狼獣人は、数秒ほど俺と対峙した後、馬車の出入り口の脇に移動した。
 次に出てきたのは一人の女性だ。
 動きやすそうな乗馬服に似た服装と、やや鋭い目つきから、気が強そうな印象を受ける。
 しかしそんな印象とは裏腹に社交的な性格であるらしく、ほがらかな笑顔と共に簡単に自己紹介を終えた。
 この女性は、《リグナドロー宝石店》が宝石を仕入れる重要な取引相手の一人であり、複数の迷宮鉱山を運営する《アドーラアドラ鉱物店》の三代目女商会長であった。
《アドーラアドラ鉱物店》は《自由商都セクトリアード》でも老舗しにせの部類で、七つの有力な商家――【七大商家】とも関係を持つ大きな商会だ。
 新興商会である《朱酒槍ドランクランス商会》としては最初の仕事からかなりの大物相手になるが、ここで上手くいけば今後が楽になる。
 挨拶もそこそこに、早速仕事に取り掛かる事にした。
 今回の仕事は、《アドーラアドラ鉱物店》が運営する迷宮鉱山へ産出した資源を受け取りに行って、持ち帰る事だ。
 帰りは荷台一杯に資源を積み込む事になるが、その前にまず、店長と女商会長達が乗ってきた馬車二台を荷台に載せた。
 単純に【ゴーレムトラック】で運んだ方が早いからだが、どういう風に載せて、運ぶ事ができるかを見せる意味もある。
 ゴーレムホースや馬車は、荷台で動かないように固定していく。
【ゴーレムトラック】の大きさは、馬車を二台載せてもまだ余裕がある。それを女商会長と店長――店長は紹介を終えたら帰る予定だったのに、好奇心からか同行する事になってしまった――が視察した後、全員で運転席がある前面のキャビンに移動した。
 キャビンには五、六人くらいなら余裕を持って乗れるスペースがある。キャビンの上部にあるルーフも使えば更に数名乗れる。
 先頭車両には俺と肉袋青年と店長と女商会長の四人が乗り、従業員達と御者二人は少し窮屈になるが後続車両に詰め込み、出発した。
 周囲の流れに沿って正門まで移動し、何の滞りも無く外に出る。
 騎獣に乗った護衛が周囲を警戒しながらついてくるが、それを気にする事なく【ゴーレムトラック】は徐々に速度を上げていった。
 肉袋青年達も多少慣れてきたのに加え、周囲の荷馬車や歩行者の数が減った事が、精神的なゆとりに繋がった。
 時速四十、五十、六十キロと速度を上げながら街道を進み、途中からは女商会長が保有する迷宮鉱山に向かう山道を登っていく。
 山道はやや蛇行していて、傾斜もキツいが、対向車もいないし幅も広い。
 それに、《アドーラアドラ鉱物店》が長年採掘してきただけあって、コンクリートのような何かで舗装されていて、何もされていない道よりはるかに走りやすかった。
 護衛を置き去りにするように山道を進み、一時間もしないうちに到着した迷宮鉱山は、山の中腹にポッカリと開いた大穴だった。
 そのすぐ近くには、堅牢な石壁と深い空堀に囲われた建物がある。
 これは鉱山夫達の拠点であり、物資集積場でもあるそうだ。
 中に入るには、丸太で作られたような跳ね橋を渡り、不可思議な紋様を浮かべた城門をくぐる必要がある。
 見張り番がこちらの接近を強く警戒していたが、女商会長が窓を開けて犬笛のような何かを吹くと、問題なく建物の中に通された。


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