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第四章 救聖戦線 世界の宿敵放浪編
二百八十一日目~三百三十一日目のサイドストーリー
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【とある蟻系甲虫人中級攻略者視点:二百八十二日目】
俺ッチの名前はアントラ・センクー。
小さな農村に生まれたが、十年前に仲間と共に若さにまかせて村を飛び出し、今は【薔薇の亜神】様が創造しなすった【青薔薇の庭園守】に潜る一端の攻略者として暮らしている。
と軽く言えば苦労しなかったように聞こえるかもしれんが、当然そうじゃない。
農民から危険な迷宮に挑む攻略者になった場合、大半はすぐに命を落とす。
そうでなくとも、一旗立てようと迷宮都市にやってきて、何も成せずに死ぬ奴はかなり多い。
俺ッチもそんな奴等は大勢見てきたし、最初に村から一緒に出てきた仲間も失っているから、それは他人事ではない。
何かが違っていれば、俺ッチもそうなっていただろうさ。
だが蟻系の甲虫人である俺ッチは種族的に力持ちで、自重の数倍の重量でも普通に持ち運ぶ事ができた。
流石に同じ蟻系の甲蟲人のように十数倍以上の重量はキツいが、それでもかなりの力持ちだ。
力だけなら大鬼よりも強く、巨鬼に迫る自信がある。
試したことはねーけどな。
その他にも防具代わりになる甲殻を部分的に備えるなど種族的な特徴もあって、甲殻で守りながら、特に技術が必要ない鉄塊みたいな棍棒を得物として振るい、俺ッチは攻略者に成り立ての頃からダンジョンモンスターを打っ叩いてミンチにしてきた。
防御も大切だが、やっぱ、力ってのは大事だよな。
一撃で形勢逆転、てのでこれまで何度も命を拾ってきたしよ。
まあ、それでも色々と失敗は多かったけどな。
とまあ、そんなこんなで別れあり苦労あり笑いありの攻略者人生十年な訳だが、レベルが“一〇〇”になっても俺ッチは【存在進化】は出来なかった。
生まれたままの、甲虫人のままだ。
残念と言えばそりゃ残念だが、その分努力したことで戦闘技術が向上し、今じゃ大半のダンジョンモンスターは相手にできる。
馬鹿みたいに強いのは除外してだがな。
月日が流れ個人的な強さが増す一方で、長年組んできたパーティもまたデカくなった。
冒険者組合≪壁砕闘虫≫と言えば、今じゃそこそこ名が知れている。
上には上が居るが、クランとしちゃあそこそこの実績と信頼があり、迷宮攻略のついでに馴染みの商会からの指定依頼をよく受けている。
実績を積み上げ信頼を得るのは大変だが、その分だけ指定依頼が舞い込むようになる。
安定した収入があるのは、生活する上では重要だ。
そんな訳で信頼を保つ為、今日もその指定依頼を達成すべく俺ッチ達は≪青薔薇の庭園守≫の広大な敷地を数日かけて巡り、大量のドロップアイテムを回収していた。
今回は“薔薇蜥蜴”というダンジョンモンスターの狩りが主な目的だった。
やや奥地に生息し、数メルトル程の大きさがあるローズリザードはそこそこ強いダンジョンモンスターだ。
とはいえ、俺ッチ達にとっては手頃な獲物である。
仲間達がローズリザードの手足を削って足止めし、出来た隙を見逃さずに俺ッチが相棒を振り下ろして頭部を粉砕する。
重量のある得物を俺ッチの膂力で叩きつければ、ローズリザード程度では即死ってなもんよ。
これまで幾度となく狩ってきただけに、ある程度出来上がったパターンで、ローズリザード達を手早く屠っていった。
ただ香水の原料の一つとして重宝されるローズリザードの薔薇尾はドロップアイテムとして出る確率がやや低く、一本とるためにかなりの数を狩る必要がある。
その分だけ一本一本が高額で売れるので、揃えるには相応の数を倒す必要があるものの、それでも十分な見返りを期待できる商品の一つだ。
そして狩りを始め、何十体目だろうか。
分からなくなるほど繰り返しローズリザードを叩き潰し、薔薇尾を必要な量よりも多めに集め終え、そろそろ他のドロップアイテムを採りに行こうかと言っている時、唐突に心身が凍りそうなほど恐ろしい咆吼が轟いた。
それは近くにあるブルステラ庭園区から聞こえたので、あそこを支配する“赤薔薇亜龍”の咆哮だ、とすぐに分かった。
俺ッチ達は直接遭遇した事は無いが、この咆哮は聞き覚えがあるので間違いない。
というのも、各地に点在する石碑の一つに、“赤薔薇亜龍”を倒せ、というのモノがある。
迷宮の最奥に居るとされる迷宮主を倒し、完全攻略を至上命題としたクランなどは、時たま石碑に従って“赤薔薇亜龍”に手を出す事がある。
以前も近くに居た時に挑戦したクランがあり、しばらくして逃げてきた奴等から詳しい話を聞いた。
この咆吼は、その時に聞いたのと同じだ。
そして咆吼が聞こえた事から、十中八九、今回もどこかのクランが挑戦したのだろう。
俺ッチ達のクランは完全攻略を諦め、日々の安定した稼ぎを目的にしている。
夢を追わずに現実的な判断をしたクランだと俺ッチは思っているが、攻略を目指すクランのあり方は嫌いでは無い。
――俺ッチだって攻略してやる、そう息巻いていた頃もあるのだから。
だが現実は優しくない。
攻略を目指した者も次第に俺ッチのように妥協していく。そうせざるを得ないし、それが出来なければダンジョンモンスターの餌になるだけだ。
ブルステラ庭園区から移動する事のない“赤薔薇亜龍”は、手を出さない限りは襲ってこない。
しかし襲われればその桁外れの生命力で様々な攻撃に耐え、多彩な攻撃で攻略者達を狩り尽す怪物だ。
一度暴れれば死ぬまで止まることは無く、だから恐らく、今回も攻略者側が死んでお仕舞いだろう。
咆哮一つでそこまで考え、俺ッチ達はブルステラ庭園区にまで移動した。
当然、戦う為ではない。情報を収集する為だ。
安全の為に日々情報は仕入れているが、実際に生を見た事は無かった。
この機会を逃すのは惜しい、そう思って見にいった訳だが、思いもよらぬ光景を目の当たりにする。
ブルステラ庭園区の支配者である筈の“赤薔薇亜龍”が、一方的に蹂躙されていたのだ。
相手にするは、ただ一鬼。
しかしその一鬼を見た瞬間、矮小な自身を認識させられた。
十年間、危険な迷宮に挑む攻略者として生き抜いてきた。これほどの長さを現役で過ごす者は意外と少なく、それなりの古株である。
だがそんな些細な実績などゴミである、と戦う姿だけで俺ッチに刻み込んだ黒い鬼。
四つの銀腕は神々しく、槍捌きは見惚れる程洗練されていた。
理解不能な異能を振りまき、自身の数十倍もありそうな巨躯の“赤薔薇亜龍”を翻弄し、そしてあっと言う間に解体した。
その光景はあまりにも強烈で、心が震えた。
そして本来なら迷宮に喰われる筈の死骸を何処かに消し、目標を達したとばかりにさっさと去っていく鬼とその仲間達を見送りながら、俺ッチ達は改めて思った。
この世にはあれ程の強者が居る。
見ただけで錆ついた心を震わせる、【神】の綴る【英勇譚】がある。
だからこそ、俺ッチのような奴等にとって、やはり日常は大切なのだと思った。
世界にはあんな化物が居る。ひれ伏し、通り過ぎるのを待つしかない存在が居る。
それを理解しただけに、別世界の事を体感しただけに、何気ない日常は時として金塊よりも大切なのだと。
やはり、俺ッチ達は農民の子だ。攻略者、などと息巻いていても、頂上の存在を見れば足が踏み出せない。
だから日常を守るためにも、俺ッチ達は残りの依頼された品を誠心誠意集める。
俺ッチ達には相応の分がある。
見上げ過ぎても、倒れてしまうだけだろう。
そうだ、今度の休暇は、村に帰ってみよう。
仕送りはしてっけど、この十年帰ってないからな。
嫁と子供も連れていけば、お袋達も喜んでくれるかねぇ。
・冷静に現実を受け止め、日常を過ごす事になる。
・堅実に生きる、攻略者で一般市民な蟻人。
・無茶せず、自分の身の丈にあった仕事をこなす、普通の存在。
【再就職先を見つけた魔人ディーラー視点:二百九十七日目】
先日、解雇になった。
仕事を失ったが、まあ、それはいい。
その気になれば、再就職先はすぐに見つけられるだろう。
それに以前の雇い主は気に入らない奴だったが、金払いは良かった。貯金は数年遊んで暮らせる額がある。
しばらく不自由する事なく暮らしていける。
だが、私はピリピリとした駆け引きが無ければ心が干乾びる因果な賭博中毒者である。
賭け事を止める事など出来るはずがない。
カジノディーラーになったのもそれ故だ。
魔人なので【職業】ではないが、長年の努力で磨いた技と培った経験だけで、これまでも刺激的なゲームを幾度となく繰り広げてきた。
だから今後を思えば、貯金の金額など、賭博に負ければ消し飛ぶ泡沫のようなものである。
心の片隅では趣味と実益を兼ねる就職先を探さねばと考えるが、これまでは仕事ばかりだったのでしばらく自由にしようと思い、フラフラと都市を出歩いている。
すると、他のカジノの奴等から声を掛けられる。
どうやら私がクビになった、という情報が出回っているらしい。
声をかけてくるのは、『雇いたいんだが、どうかね』と言ってくれる経営者も居れば、『負けたってなぁ、グレンディ。腕が衰えたんじゃないか?』などと挑発してくる奴も居る。
その他にも色々居て、それらに適当に答えながら歩いていると、気がつけば脚は自然と【賭場の聖地】に向いていた。
私がディーラーになる切っ掛けを得た、思い出深い【神代ダンジョン】。
以前と比べ外装がやや違うような気がしつつも、その奥へ。
最深部にまで私は行けるので、迷わず向かう。
ここには、解雇されるまで来ていなかった。
恐らく数年は経過していただろう。ここ数日は毎日通っているが、ふと思う。
ここに来ようと思ったのは、何故だろうか。
少し考えて、やはり解雇の原因である鬼だろうと確信した。
カジノに唐突に現れ、私を完膚無きまでに叩き潰した黒鬼。
私のプライドは砕かれ、大量のチップが一日で持っていかれたあの日のゲーム。
黒鬼はイカサマをしていた訳では無い。黒鬼がやろうと思えば出来た、そう私の【直感】は囁いているが、そんな小細工が無くとも黒鬼は私を遙かに上回っていたのだ。
単純な引きの強さ。駆け引きの絶妙さ。
そして相手のイカサマを見過ごさない眼力。
基本的な部分で勝てなかった私は、あっさりと負けたのだ。しかもただ負けたわけでは無く、カードを入れ替えるイカサマをしたのに気が付きながら見過ごされ、それでいて負けたのだ。
何がどうなったのか分からない。
私にミスは無かった。だが負けたのだ。
その衝撃から立ち上がれず、自信を失ったから私はここに居るのだろう。
我ながら馬鹿みたいだ、情けない。などと思いながらも、結局私はカードを握っていた。
今回はディーラーとしてではなく、客として。
数ゲームほど楽しんだが、やはりギャンブルは良い。萎えた心身が潤うようだ。
自分なりに次の仕事までの時間を満喫していると、何故か例の黒鬼と出会った。
しかもその家族らしき者達と一緒にである。
最深部まで黒鬼が来ているのはともかく、その家族まで伴うとなるとどれ程荒稼ぎしたのだろうか。
脳内で思考し、頬が引き攣る。
動揺していると、話しかけられたのでしばし会話した。
話してみると、なかなかどうして面白い。そして現状を言ってみると、スカウトされてしまった。
どうやらこことは違う場所で賭場を開いているらしく、そこでディーラーとして働かないか、との事だ。
しばし悩み、了承した。
その方が面白そうだったし、【直感】もそう言っていたからだ。
時間があればまた勝負をしよう、と約束し、イヤーカフスを受け取った。
中々の逸品だ、と思いながら装着し、そして秘密を知る。
その常識外れな内容に、私は何時の間にか笑っていた。
・ある意味人生という賭博に勝った魔人。
・賭博場≪カジノ・バカララ≫の名ディーラーとしてエルフなどから恐れられる。
・独身だったが、拠点にて恋人を得た。
・今後の出番はきっとある、多分、恐らく。
【主婦会のマダム人魚視点:三百五日目】
太陽が昇るよりも早く、普段通りに漁に出掛けた旦那様を見送りました。
その後はさっと化粧をしてから、まだ五歳になったばかりの子供を連れて、【藻女の深き恵みの洞窟】に出かけます。
私達が暮らしている迷宮都市≪ドゥル・ガ・ヴァライア≫では、都市中に水路が張り巡らされているので、私達のような人魚や魚人にとっては暮らしやすいです。
スイスイスイ、と七色の鱗が自慢の尾で水路を優雅に泳ぎます。
イヴァンも私を真似て、旦那様に似た黒鱗が鮮やかな尾を使って泳ぎます。
日々成長していく我が子に、思わず笑みを浮かべます。
しばらくすると、途中で私と同じく子供を連れた友人達と合流しましたので、お喋りしながら迷宮の中へ。
出入り口から少しだけ奥にあるサンゴテーブルが多い区画に来て、そこでゆっくりと寛ぎます。
ここは安全で快適に、友人達と楽しくお喋りしながら朝食をとる事ができますから、皆私と同じく旦那様を見送った後にやってくるのです。
ここでは子供達は放っておいても勝手に遊びますし、“甘身エビ”など天然のおやつも多くありますからね。
幼少の頃から色々体験しておくのは成長した時にきっと糧になってくれるでしょう。
それに出入り口付近はともかく、奥に行くと危険ですけど、その場合は攻略者ではない子供達の前にだけ現れる“トオセンボウ”というダンジョンモンスターさんが子供達を止めて下さるので、心配ありません。
また子供を狙う誘拐犯などが居た場合には“警邏魚群”さんが助けてくれますから、ゆっくりしたい時にも助かります。
ここは私達のように子供を育てている母親からすれば、少しの時間ですがふっと気を抜ける場所ですね。
いつもありがとうございます、【海藻の神】様。
なんて【祈り】を捧げていると、普段見掛けない、変わったヒトがいるではありませんか。
あれは、水鬼、でしょうか? 水中で暮らす事が可能な水鬼は知り合いに居ますが、それにしては黒いですし、私達人魚や魚人よりも速く泳いでします。
水鬼やその近親種はそこまで速くは泳げないはずです。
だと言うのに、その黒鬼さんはそれはもう、龍魚よりも速く泳ぐのです。
大海の支配者である海龍にすら並び、あるいは追い抜きそうなほどの速度です。
これまで見た事もない方なのですが、その行動がまた凄いのです。
大漁です、大漁なのです。
キラキラと輝く金の網。それを使って泳いでいる魚を捕まえ、時には貝や海藻なども見つけていきます。
高速で繰り返される漁はある種の見世物のようで、嬉々とした表情の黒鬼さんはとても幸せそうでした。
つまみ食いしては美味しそうに悶えていたので、きっと食べるのが好きなんですね。
見ていると私も食べたくなり、今日の晩御飯が決まりました。
そしてあっという間に何処かに行ってしまった黒鬼さんを話のネタに盛り上がります。
その合間合間に口に運ぶのは先ほど黒鬼さんが美味しそうに食べていた“サンライトフィッシュ”や“海宝牡蠣”などで、食べるとその美味しさから思わず笑みがこぼれます。
そしてしばらくしてから、私達は協力して仕事をこなします。
と言っても、近くにある食材を集めるだけですけどね。
そして集めた食材を地上まで運び、海洋商会≪ディープウェイズ≫や海鮮食堂≪海女の羽衣≫などに卸します。
ここ【藻女の深き恵みの洞窟】は水中にあるので、挑戦するのはやはり私達のような人魚や魚人が基本になります。
水中でも活動できる他の種族や、水中で呼吸できる魔法薬などを使う場合もありますが、それ等は少数になります。
水中で活動できないヒト達にとって、ココの食材を簡単に得るには、私達のような存在を雇った方が良いと言う事ですね。
量が無くても利益は十分出ますから、私達にとっては簡単で、そこそこの収入を得られる美味しい仕事です。
昼過ぎには仕事が終わるので、後は各自の家に戻ります。
掃除洗濯など、家事もありますからね。まだまだやる事は沢山あります。
私はイヴァンの手を握り、帰路を泳ぎます。
イヴァンは黒鬼さんの話をよくしました。
旦那様が帰ってきたら、今日の事を話そうね。そう言って笑いあいました。
・子育ては周囲の環境によって楽だったり辛かったりするそうな。
・子持ちの奥様でも簡単に安定して稼げる仕事あります。
・天然のガードマンもいる【藻女の深き恵みの洞窟】に、ぜひ行ってみよう。
【小ボスラッシュに挑戦するとある信者で団員な狂信鬼視点:三百二十九日目】
我が神に捧げる、眼前の供物――狼や犬を彷彿とさせる異形の四足獣“ブラッドイーター”が、猛然と襲いかかってくる。
ブラッドイーターはハインドベアーなどよりも大きく、そして強い。
鋭い爪や背面の触手など、気を抜けば我も殺しうるだけの力がある。
瞬く間に距離を詰めたブラッドイーターは牙を剥き、触手は鞭のように荒れ狂う。
ブラッドイーターは全体的に優れた種であり、上位種には階層ボスである“リザルデッド・ブラッドイーター・ポチ”などが存在している。
そんなブラッドイーターは、だからこそ、供物として相応しいのである。
歓喜に震え、祈祷の声を発し。
右手には【鮮血啜りの赤鎌】を。
左手には【臓腑喰いの黒鎌】を。
数多の供物を解体した二振りの得物にて、すれ違いざまに供物を刻む。
手足の腱を切断し、腹部を縦に切り裂いた。
その際、鮮血は赤鎌がジュルルルと啜り、臓腑は黒鎌がジャグジャグと喰らう。
するとどうなるか。当然のようにブラッドイーターの巨躯は地面に転がった。
手足を斬られ、開腹されれば普通は死ぬ。だがブラッドイーターの優れた再生能力からすれば、数十秒もすれば復活する程度のダメージだ。
しかし当然、回復させるなど悠長な事はしない。
転がった供物に高速で接近し、更に得物を振るい続けた。
強靭な毛皮を刈り取り、屈強な肉を削ぎ落し、堅牢な骨は避けて関節を切り裂く。
忙しなく動く耳を削ぎ、獲物を見つける鼻を削ぎ、手足の鋭い爪を指ごと切り落とす。
活路を見出そうとする眼球をくり抜き、凶器にもなりえる舌を引っこ抜き、生を残そうといきり起つ目障りな陰茎を斬り取る。
そして全身の血は一斬り毎に啜られ、胴体に詰まった内臓は一斬り毎に喰われていった。
刻む毎に悶える供物を、更に更に攻め立てる。苦悶の声一つとてそれは供物になり得るのだ。一片たりとも無駄にはしない。
さあ、我が神に【祈り】を捧げよ。
さあ、我が神に【信仰】を捧げよ。
さすれば汝は救済される。
さすれば汝は祝福される。
さすれば汝は赦免される。
おお、おお。天上に到達せし偉大なる我が神よ。
我が命は御身の為に。我が生は御身の為に。我が全は御身の為に。
供物を捧げよ。供物を捧げよ。
更なる供物を捧げよ。上質なる供物を捧げよ。
来る【聖戦】こそ我が神の供物を多く見つけられる事だろう。
それはなんと素晴らしい事か。それはなんと素晴らしい事か。
解体し、供物として完成したブラッドイーターの前で跪く。
手を組み、瞼を閉ざし、頭を垂れ、一身に【祈り】を捧げる。
おお、おお。
我が神よ。万象を喰らい、統べる我が神よ。
我等が末を身守りたまえ。
・鬼神が近くに存在し、ある意味振り切れた奴がなった。
・普段は良い奴だが、一度スイッチが入るとかなりヤバい。
・【信仰】により鬼神に【神力】が入るので、何気に重宝されている。
・ただし本編では出番なし。強烈過ぎるので。
【英勇に仕え、死亡フラグを立ててしまった精鋭兵長視点:三百三十一日目】
先日黒竜によって告げられた【聖戦】の日を目前とした今日、私は従軍娼婦カーラの上で汗を流していた。
命を賭した戦争の前にすると、誰だろうと自分の種を残そうとするものだ。
それが、こうまでハッキリと死の予感をさせる戦争の前なら、なおさらだろう。
普段以上に激しくなった行為を終え、簡易ベッドの上で横になっていると『今回は随分と激しかったじゃない』とカーラに言われた。
【職業・娼婦】を始めとした【職業】を複数持つカーラは、行為中に消費される体力が少なくなったり、様々な病気に対して高い耐性を持っている。
普段から鍛えている私でも負ける程タフなカーラにはまだ余裕があるようで、率直に思った事を聞いてきた。
『今回の名誉ある【聖戦】で名を残したと思っている。考えれば考える程、やはり滾ってしまうものさ』などとも考えたが、私の口から出たのは『恐いからさ、死にたくない』そんな情けない言葉だった。
私には分かる。
いや、私以外にも分かっている者はいるだろう。
【聖戦】が始まれば、私程度は道中で果てるに違いない。
それなりの死線を潜りぬけて今日まで生きてきたが、それも終わりが見えている。
背後から迫る死神の鎌。それを連想してしまうほど、濃密な死の気配がすぐそこにある。
だから、カーラを抱いた。恐怖を吹き飛ばしたい、ただその一心で。
震える私に気が付いたのだろうか。
カーラがそっと身を寄せてきた。思えばカーラとも長い付き合いだ。
十代の見習いだった頃、カーラも十代で新人として入ってきた。
それから十数年。色々な事があったものだ。カーラの肩を抱く手に力が入り、より強く胸に抱く。
一糸纏わぬ柔肌の感触は心地よく、その奥から聞こえる拍動は確かに生きているのだと実感させ、安心できた。
『生き残ったら、結婚しないか』
何を思ったのか、私はそんな事を言っていた。
言い終えた後、ハッと我に帰る。
何を言っているのだろうか、私は。
いや、私もいい歳だし、カーラもそう若くは無い。どちらもまだ現役ではあるが、それでもいつまでも続けていくような仕事ではない。
あれこれ考えを巡らせていくと、カーラが一際強く抱きついた。
そして耳元に近づく唇。漏れ出る熱い吐息。
お互いにしか聞こえない程小声で、潤んだ瞳のカーラが発したのは――
・『俺、戦争が終われば結婚するんだ』的死亡フラグ。
・二人の未来に幸あれ。
・ただし現実は無常である。
※ ここから本編とは関係なし。
※ 今後掲載予定の【外伝】の情報をチラッと公開。
※ そこまで重要な情報はない、きっと。
【■■■■視点:■■■■日目】
大森林系の、これまで未確認だった【鬼哭迷宮】の最深部。
死闘を繰り広げてようやく辿り着いたそこには、厳重に封印された巨大な扉があった。
巨大な扉の大きさは十メルトルを超えているだろう。一般的な【巨人】でも入れるように設計しているらしい。
そんな扉の左右には扉と同じくらいの巨大な鬼の像があり、その中央には夜空に輝く北煌七魔星を模したような装飾が施されている。
その周囲には古代文字で何やら書かれているらしく、しばしの間、計測魔導具や撮影魔導具などを使って調査した。
そして調査が一段落した後、道中で手に入れた七つの宝鍵を使って開けた。
開けた先は、むせ返る程の濃密な【神秘】に満ちた、静謐が支配する霊廟だった。
ココがどれほど前から在るのかは分からないが、少なくとも数千年は過ぎている筈だ。だと言うのに、埃や汚れなどは一切見当たらず、清浄そのものだった。
まるで時間が扉を閉じた時点で停止したかのような霊廟は、高い天井から降り注ぐ月光のような優しい光で薄らと照らされていた。
その光景を前にして、恐れ多過ぎて一歩踏み出す勇気がすぐには湧かない。
それでも何とか気合を入れて一歩を踏み出し、霊廟に入る。
するとまるで頭の中の靄が晴れたような不思議な感覚と共に、私はそれにようやく気がついた。
霊廟の最奥には、ただ在るだけで世界を支配しているような雰囲気を漂わせる黄金の棺があったのだ。
扉から最奥までは三百メルトル程の距離があるものの、そんなモノは関係ない。
ただ目を向けただけでその存在が分かるほどの、圧倒的な存在感。
その棺に入れられている者が何者であるにしろ、それは尋常ではない何かなのだろう。
そしてその棺の少し奥に鎮座し、まるで棺を守っているようにして佇んでいる四腕の鬼の像もまた同時に認識した。
鬼の像はまるで生きているような躍動感があり、この距離ですら鼓動を感じられそうだ。
それは錯覚だとは分かっていた。だが、圧倒された。
そして、あれはただの石像ではない、古代の神を祭った神像なのではないか。
神像が溢れ出る【神秘】によって、そう判断するには十分だった。
そうなると、神像に守られた棺には一体何が入れられているのだろうか。
ゴクリ、と唾を飲み込む。
誰も知らない、未知がそこにはあった。
心の奥底から湧き出てくる純粋な恐怖と、それでも尚衰えぬ事なく溢れ出る好奇心。
長年追い求めていた物をようやく見つけたという歓喜、開けてはならないモノを開けたかもしれないという後悔。
その他にも複雑な感情が混ざる、混沌とした思考が巡る。
(入る前に神像を認識できなかったのは、【認識阻害】などがあったからか。それよりもあの神像の造形は……確か、【鬼哭迷宮】から産出された古文書に描かれたモノではないか? ……となれば、棺に入っているのは、まさか!?)
しかしそれを切り替え、私は足を進める。
入り口から最奥まで真っ直ぐ続く道。その左右には一定間隔で整然と並ぶ天井を支える巨大な石柱がある。
外からは分からなかったが、ゆっくりと歩んでいると、石柱と石柱の間に、最奥の神像とはまた違う石像が安置されているのを見つけた。
神像と同じく、大小様々な白銀の棺を守っているように佇む、まるで生きているような石像群だ。
ヒトサイズのモノから、巨人サイズのモノまで、大きさだけでなく種族もバラバラなそれ等が数十体。
神像がある奥に向かうにつれて、より鮮烈な、より強大な、命の息吹を感じられる石像が並んでいる。
私は一歩進む度に、自身が矮小な存在だと感じた。ちっぽけな蟻がヒトの足元を通るように、私は強大な存在の足元を通り過ぎているのだ。
蟻は恐怖などは覚えないだろうが、しかし私は恐怖で押し潰されそうだ。
だが、気を強く保ちながら進むしかない。
これほど多くの感情を抱いたのは、どれほど昔だったろうか。
そう考える余裕すら無く、ただただ無心で足を進める。
そしてようやく、私は神像の前に到達した。
気がつけば石畳に向けていた視線を上げ、神像の足元から顔に向けて上げていく。
近くで見ればよく分かる。神像は生きている。そうとしか思えないほど細部に至るまで彫刻されている。込められた桁外れの【神秘】の量も、そう錯覚させる要因ではあるだろう。
ブルリ、身体が震えた。
恐怖からだろうか。畏怖からだろうか。
それは間違いない。しかし、一番大きいのは安堵だろうか。
まるで母の腕に抱かれていた赤子の頃のように。
あるいは大いなる守護者に背中を優しく押されたような、絶対的な安心感。
知らず知らず、私は跪いた。
手を合わせ、ただ祈る。
大いなる神に、祈るのだ。
俺ッチの名前はアントラ・センクー。
小さな農村に生まれたが、十年前に仲間と共に若さにまかせて村を飛び出し、今は【薔薇の亜神】様が創造しなすった【青薔薇の庭園守】に潜る一端の攻略者として暮らしている。
と軽く言えば苦労しなかったように聞こえるかもしれんが、当然そうじゃない。
農民から危険な迷宮に挑む攻略者になった場合、大半はすぐに命を落とす。
そうでなくとも、一旗立てようと迷宮都市にやってきて、何も成せずに死ぬ奴はかなり多い。
俺ッチもそんな奴等は大勢見てきたし、最初に村から一緒に出てきた仲間も失っているから、それは他人事ではない。
何かが違っていれば、俺ッチもそうなっていただろうさ。
だが蟻系の甲虫人である俺ッチは種族的に力持ちで、自重の数倍の重量でも普通に持ち運ぶ事ができた。
流石に同じ蟻系の甲蟲人のように十数倍以上の重量はキツいが、それでもかなりの力持ちだ。
力だけなら大鬼よりも強く、巨鬼に迫る自信がある。
試したことはねーけどな。
その他にも防具代わりになる甲殻を部分的に備えるなど種族的な特徴もあって、甲殻で守りながら、特に技術が必要ない鉄塊みたいな棍棒を得物として振るい、俺ッチは攻略者に成り立ての頃からダンジョンモンスターを打っ叩いてミンチにしてきた。
防御も大切だが、やっぱ、力ってのは大事だよな。
一撃で形勢逆転、てのでこれまで何度も命を拾ってきたしよ。
まあ、それでも色々と失敗は多かったけどな。
とまあ、そんなこんなで別れあり苦労あり笑いありの攻略者人生十年な訳だが、レベルが“一〇〇”になっても俺ッチは【存在進化】は出来なかった。
生まれたままの、甲虫人のままだ。
残念と言えばそりゃ残念だが、その分努力したことで戦闘技術が向上し、今じゃ大半のダンジョンモンスターは相手にできる。
馬鹿みたいに強いのは除外してだがな。
月日が流れ個人的な強さが増す一方で、長年組んできたパーティもまたデカくなった。
冒険者組合≪壁砕闘虫≫と言えば、今じゃそこそこ名が知れている。
上には上が居るが、クランとしちゃあそこそこの実績と信頼があり、迷宮攻略のついでに馴染みの商会からの指定依頼をよく受けている。
実績を積み上げ信頼を得るのは大変だが、その分だけ指定依頼が舞い込むようになる。
安定した収入があるのは、生活する上では重要だ。
そんな訳で信頼を保つ為、今日もその指定依頼を達成すべく俺ッチ達は≪青薔薇の庭園守≫の広大な敷地を数日かけて巡り、大量のドロップアイテムを回収していた。
今回は“薔薇蜥蜴”というダンジョンモンスターの狩りが主な目的だった。
やや奥地に生息し、数メルトル程の大きさがあるローズリザードはそこそこ強いダンジョンモンスターだ。
とはいえ、俺ッチ達にとっては手頃な獲物である。
仲間達がローズリザードの手足を削って足止めし、出来た隙を見逃さずに俺ッチが相棒を振り下ろして頭部を粉砕する。
重量のある得物を俺ッチの膂力で叩きつければ、ローズリザード程度では即死ってなもんよ。
これまで幾度となく狩ってきただけに、ある程度出来上がったパターンで、ローズリザード達を手早く屠っていった。
ただ香水の原料の一つとして重宝されるローズリザードの薔薇尾はドロップアイテムとして出る確率がやや低く、一本とるためにかなりの数を狩る必要がある。
その分だけ一本一本が高額で売れるので、揃えるには相応の数を倒す必要があるものの、それでも十分な見返りを期待できる商品の一つだ。
そして狩りを始め、何十体目だろうか。
分からなくなるほど繰り返しローズリザードを叩き潰し、薔薇尾を必要な量よりも多めに集め終え、そろそろ他のドロップアイテムを採りに行こうかと言っている時、唐突に心身が凍りそうなほど恐ろしい咆吼が轟いた。
それは近くにあるブルステラ庭園区から聞こえたので、あそこを支配する“赤薔薇亜龍”の咆哮だ、とすぐに分かった。
俺ッチ達は直接遭遇した事は無いが、この咆哮は聞き覚えがあるので間違いない。
というのも、各地に点在する石碑の一つに、“赤薔薇亜龍”を倒せ、というのモノがある。
迷宮の最奥に居るとされる迷宮主を倒し、完全攻略を至上命題としたクランなどは、時たま石碑に従って“赤薔薇亜龍”に手を出す事がある。
以前も近くに居た時に挑戦したクランがあり、しばらくして逃げてきた奴等から詳しい話を聞いた。
この咆吼は、その時に聞いたのと同じだ。
そして咆吼が聞こえた事から、十中八九、今回もどこかのクランが挑戦したのだろう。
俺ッチ達のクランは完全攻略を諦め、日々の安定した稼ぎを目的にしている。
夢を追わずに現実的な判断をしたクランだと俺ッチは思っているが、攻略を目指すクランのあり方は嫌いでは無い。
――俺ッチだって攻略してやる、そう息巻いていた頃もあるのだから。
だが現実は優しくない。
攻略を目指した者も次第に俺ッチのように妥協していく。そうせざるを得ないし、それが出来なければダンジョンモンスターの餌になるだけだ。
ブルステラ庭園区から移動する事のない“赤薔薇亜龍”は、手を出さない限りは襲ってこない。
しかし襲われればその桁外れの生命力で様々な攻撃に耐え、多彩な攻撃で攻略者達を狩り尽す怪物だ。
一度暴れれば死ぬまで止まることは無く、だから恐らく、今回も攻略者側が死んでお仕舞いだろう。
咆哮一つでそこまで考え、俺ッチ達はブルステラ庭園区にまで移動した。
当然、戦う為ではない。情報を収集する為だ。
安全の為に日々情報は仕入れているが、実際に生を見た事は無かった。
この機会を逃すのは惜しい、そう思って見にいった訳だが、思いもよらぬ光景を目の当たりにする。
ブルステラ庭園区の支配者である筈の“赤薔薇亜龍”が、一方的に蹂躙されていたのだ。
相手にするは、ただ一鬼。
しかしその一鬼を見た瞬間、矮小な自身を認識させられた。
十年間、危険な迷宮に挑む攻略者として生き抜いてきた。これほどの長さを現役で過ごす者は意外と少なく、それなりの古株である。
だがそんな些細な実績などゴミである、と戦う姿だけで俺ッチに刻み込んだ黒い鬼。
四つの銀腕は神々しく、槍捌きは見惚れる程洗練されていた。
理解不能な異能を振りまき、自身の数十倍もありそうな巨躯の“赤薔薇亜龍”を翻弄し、そしてあっと言う間に解体した。
その光景はあまりにも強烈で、心が震えた。
そして本来なら迷宮に喰われる筈の死骸を何処かに消し、目標を達したとばかりにさっさと去っていく鬼とその仲間達を見送りながら、俺ッチ達は改めて思った。
この世にはあれ程の強者が居る。
見ただけで錆ついた心を震わせる、【神】の綴る【英勇譚】がある。
だからこそ、俺ッチのような奴等にとって、やはり日常は大切なのだと思った。
世界にはあんな化物が居る。ひれ伏し、通り過ぎるのを待つしかない存在が居る。
それを理解しただけに、別世界の事を体感しただけに、何気ない日常は時として金塊よりも大切なのだと。
やはり、俺ッチ達は農民の子だ。攻略者、などと息巻いていても、頂上の存在を見れば足が踏み出せない。
だから日常を守るためにも、俺ッチ達は残りの依頼された品を誠心誠意集める。
俺ッチ達には相応の分がある。
見上げ過ぎても、倒れてしまうだけだろう。
そうだ、今度の休暇は、村に帰ってみよう。
仕送りはしてっけど、この十年帰ってないからな。
嫁と子供も連れていけば、お袋達も喜んでくれるかねぇ。
・冷静に現実を受け止め、日常を過ごす事になる。
・堅実に生きる、攻略者で一般市民な蟻人。
・無茶せず、自分の身の丈にあった仕事をこなす、普通の存在。
【再就職先を見つけた魔人ディーラー視点:二百九十七日目】
先日、解雇になった。
仕事を失ったが、まあ、それはいい。
その気になれば、再就職先はすぐに見つけられるだろう。
それに以前の雇い主は気に入らない奴だったが、金払いは良かった。貯金は数年遊んで暮らせる額がある。
しばらく不自由する事なく暮らしていける。
だが、私はピリピリとした駆け引きが無ければ心が干乾びる因果な賭博中毒者である。
賭け事を止める事など出来るはずがない。
カジノディーラーになったのもそれ故だ。
魔人なので【職業】ではないが、長年の努力で磨いた技と培った経験だけで、これまでも刺激的なゲームを幾度となく繰り広げてきた。
だから今後を思えば、貯金の金額など、賭博に負ければ消し飛ぶ泡沫のようなものである。
心の片隅では趣味と実益を兼ねる就職先を探さねばと考えるが、これまでは仕事ばかりだったのでしばらく自由にしようと思い、フラフラと都市を出歩いている。
すると、他のカジノの奴等から声を掛けられる。
どうやら私がクビになった、という情報が出回っているらしい。
声をかけてくるのは、『雇いたいんだが、どうかね』と言ってくれる経営者も居れば、『負けたってなぁ、グレンディ。腕が衰えたんじゃないか?』などと挑発してくる奴も居る。
その他にも色々居て、それらに適当に答えながら歩いていると、気がつけば脚は自然と【賭場の聖地】に向いていた。
私がディーラーになる切っ掛けを得た、思い出深い【神代ダンジョン】。
以前と比べ外装がやや違うような気がしつつも、その奥へ。
最深部にまで私は行けるので、迷わず向かう。
ここには、解雇されるまで来ていなかった。
恐らく数年は経過していただろう。ここ数日は毎日通っているが、ふと思う。
ここに来ようと思ったのは、何故だろうか。
少し考えて、やはり解雇の原因である鬼だろうと確信した。
カジノに唐突に現れ、私を完膚無きまでに叩き潰した黒鬼。
私のプライドは砕かれ、大量のチップが一日で持っていかれたあの日のゲーム。
黒鬼はイカサマをしていた訳では無い。黒鬼がやろうと思えば出来た、そう私の【直感】は囁いているが、そんな小細工が無くとも黒鬼は私を遙かに上回っていたのだ。
単純な引きの強さ。駆け引きの絶妙さ。
そして相手のイカサマを見過ごさない眼力。
基本的な部分で勝てなかった私は、あっさりと負けたのだ。しかもただ負けたわけでは無く、カードを入れ替えるイカサマをしたのに気が付きながら見過ごされ、それでいて負けたのだ。
何がどうなったのか分からない。
私にミスは無かった。だが負けたのだ。
その衝撃から立ち上がれず、自信を失ったから私はここに居るのだろう。
我ながら馬鹿みたいだ、情けない。などと思いながらも、結局私はカードを握っていた。
今回はディーラーとしてではなく、客として。
数ゲームほど楽しんだが、やはりギャンブルは良い。萎えた心身が潤うようだ。
自分なりに次の仕事までの時間を満喫していると、何故か例の黒鬼と出会った。
しかもその家族らしき者達と一緒にである。
最深部まで黒鬼が来ているのはともかく、その家族まで伴うとなるとどれ程荒稼ぎしたのだろうか。
脳内で思考し、頬が引き攣る。
動揺していると、話しかけられたのでしばし会話した。
話してみると、なかなかどうして面白い。そして現状を言ってみると、スカウトされてしまった。
どうやらこことは違う場所で賭場を開いているらしく、そこでディーラーとして働かないか、との事だ。
しばし悩み、了承した。
その方が面白そうだったし、【直感】もそう言っていたからだ。
時間があればまた勝負をしよう、と約束し、イヤーカフスを受け取った。
中々の逸品だ、と思いながら装着し、そして秘密を知る。
その常識外れな内容に、私は何時の間にか笑っていた。
・ある意味人生という賭博に勝った魔人。
・賭博場≪カジノ・バカララ≫の名ディーラーとしてエルフなどから恐れられる。
・独身だったが、拠点にて恋人を得た。
・今後の出番はきっとある、多分、恐らく。
【主婦会のマダム人魚視点:三百五日目】
太陽が昇るよりも早く、普段通りに漁に出掛けた旦那様を見送りました。
その後はさっと化粧をしてから、まだ五歳になったばかりの子供を連れて、【藻女の深き恵みの洞窟】に出かけます。
私達が暮らしている迷宮都市≪ドゥル・ガ・ヴァライア≫では、都市中に水路が張り巡らされているので、私達のような人魚や魚人にとっては暮らしやすいです。
スイスイスイ、と七色の鱗が自慢の尾で水路を優雅に泳ぎます。
イヴァンも私を真似て、旦那様に似た黒鱗が鮮やかな尾を使って泳ぎます。
日々成長していく我が子に、思わず笑みを浮かべます。
しばらくすると、途中で私と同じく子供を連れた友人達と合流しましたので、お喋りしながら迷宮の中へ。
出入り口から少しだけ奥にあるサンゴテーブルが多い区画に来て、そこでゆっくりと寛ぎます。
ここは安全で快適に、友人達と楽しくお喋りしながら朝食をとる事ができますから、皆私と同じく旦那様を見送った後にやってくるのです。
ここでは子供達は放っておいても勝手に遊びますし、“甘身エビ”など天然のおやつも多くありますからね。
幼少の頃から色々体験しておくのは成長した時にきっと糧になってくれるでしょう。
それに出入り口付近はともかく、奥に行くと危険ですけど、その場合は攻略者ではない子供達の前にだけ現れる“トオセンボウ”というダンジョンモンスターさんが子供達を止めて下さるので、心配ありません。
また子供を狙う誘拐犯などが居た場合には“警邏魚群”さんが助けてくれますから、ゆっくりしたい時にも助かります。
ここは私達のように子供を育てている母親からすれば、少しの時間ですがふっと気を抜ける場所ですね。
いつもありがとうございます、【海藻の神】様。
なんて【祈り】を捧げていると、普段見掛けない、変わったヒトがいるではありませんか。
あれは、水鬼、でしょうか? 水中で暮らす事が可能な水鬼は知り合いに居ますが、それにしては黒いですし、私達人魚や魚人よりも速く泳いでします。
水鬼やその近親種はそこまで速くは泳げないはずです。
だと言うのに、その黒鬼さんはそれはもう、龍魚よりも速く泳ぐのです。
大海の支配者である海龍にすら並び、あるいは追い抜きそうなほどの速度です。
これまで見た事もない方なのですが、その行動がまた凄いのです。
大漁です、大漁なのです。
キラキラと輝く金の網。それを使って泳いでいる魚を捕まえ、時には貝や海藻なども見つけていきます。
高速で繰り返される漁はある種の見世物のようで、嬉々とした表情の黒鬼さんはとても幸せそうでした。
つまみ食いしては美味しそうに悶えていたので、きっと食べるのが好きなんですね。
見ていると私も食べたくなり、今日の晩御飯が決まりました。
そしてあっという間に何処かに行ってしまった黒鬼さんを話のネタに盛り上がります。
その合間合間に口に運ぶのは先ほど黒鬼さんが美味しそうに食べていた“サンライトフィッシュ”や“海宝牡蠣”などで、食べるとその美味しさから思わず笑みがこぼれます。
そしてしばらくしてから、私達は協力して仕事をこなします。
と言っても、近くにある食材を集めるだけですけどね。
そして集めた食材を地上まで運び、海洋商会≪ディープウェイズ≫や海鮮食堂≪海女の羽衣≫などに卸します。
ここ【藻女の深き恵みの洞窟】は水中にあるので、挑戦するのはやはり私達のような人魚や魚人が基本になります。
水中でも活動できる他の種族や、水中で呼吸できる魔法薬などを使う場合もありますが、それ等は少数になります。
水中で活動できないヒト達にとって、ココの食材を簡単に得るには、私達のような存在を雇った方が良いと言う事ですね。
量が無くても利益は十分出ますから、私達にとっては簡単で、そこそこの収入を得られる美味しい仕事です。
昼過ぎには仕事が終わるので、後は各自の家に戻ります。
掃除洗濯など、家事もありますからね。まだまだやる事は沢山あります。
私はイヴァンの手を握り、帰路を泳ぎます。
イヴァンは黒鬼さんの話をよくしました。
旦那様が帰ってきたら、今日の事を話そうね。そう言って笑いあいました。
・子育ては周囲の環境によって楽だったり辛かったりするそうな。
・子持ちの奥様でも簡単に安定して稼げる仕事あります。
・天然のガードマンもいる【藻女の深き恵みの洞窟】に、ぜひ行ってみよう。
【小ボスラッシュに挑戦するとある信者で団員な狂信鬼視点:三百二十九日目】
我が神に捧げる、眼前の供物――狼や犬を彷彿とさせる異形の四足獣“ブラッドイーター”が、猛然と襲いかかってくる。
ブラッドイーターはハインドベアーなどよりも大きく、そして強い。
鋭い爪や背面の触手など、気を抜けば我も殺しうるだけの力がある。
瞬く間に距離を詰めたブラッドイーターは牙を剥き、触手は鞭のように荒れ狂う。
ブラッドイーターは全体的に優れた種であり、上位種には階層ボスである“リザルデッド・ブラッドイーター・ポチ”などが存在している。
そんなブラッドイーターは、だからこそ、供物として相応しいのである。
歓喜に震え、祈祷の声を発し。
右手には【鮮血啜りの赤鎌】を。
左手には【臓腑喰いの黒鎌】を。
数多の供物を解体した二振りの得物にて、すれ違いざまに供物を刻む。
手足の腱を切断し、腹部を縦に切り裂いた。
その際、鮮血は赤鎌がジュルルルと啜り、臓腑は黒鎌がジャグジャグと喰らう。
するとどうなるか。当然のようにブラッドイーターの巨躯は地面に転がった。
手足を斬られ、開腹されれば普通は死ぬ。だがブラッドイーターの優れた再生能力からすれば、数十秒もすれば復活する程度のダメージだ。
しかし当然、回復させるなど悠長な事はしない。
転がった供物に高速で接近し、更に得物を振るい続けた。
強靭な毛皮を刈り取り、屈強な肉を削ぎ落し、堅牢な骨は避けて関節を切り裂く。
忙しなく動く耳を削ぎ、獲物を見つける鼻を削ぎ、手足の鋭い爪を指ごと切り落とす。
活路を見出そうとする眼球をくり抜き、凶器にもなりえる舌を引っこ抜き、生を残そうといきり起つ目障りな陰茎を斬り取る。
そして全身の血は一斬り毎に啜られ、胴体に詰まった内臓は一斬り毎に喰われていった。
刻む毎に悶える供物を、更に更に攻め立てる。苦悶の声一つとてそれは供物になり得るのだ。一片たりとも無駄にはしない。
さあ、我が神に【祈り】を捧げよ。
さあ、我が神に【信仰】を捧げよ。
さすれば汝は救済される。
さすれば汝は祝福される。
さすれば汝は赦免される。
おお、おお。天上に到達せし偉大なる我が神よ。
我が命は御身の為に。我が生は御身の為に。我が全は御身の為に。
供物を捧げよ。供物を捧げよ。
更なる供物を捧げよ。上質なる供物を捧げよ。
来る【聖戦】こそ我が神の供物を多く見つけられる事だろう。
それはなんと素晴らしい事か。それはなんと素晴らしい事か。
解体し、供物として完成したブラッドイーターの前で跪く。
手を組み、瞼を閉ざし、頭を垂れ、一身に【祈り】を捧げる。
おお、おお。
我が神よ。万象を喰らい、統べる我が神よ。
我等が末を身守りたまえ。
・鬼神が近くに存在し、ある意味振り切れた奴がなった。
・普段は良い奴だが、一度スイッチが入るとかなりヤバい。
・【信仰】により鬼神に【神力】が入るので、何気に重宝されている。
・ただし本編では出番なし。強烈過ぎるので。
【英勇に仕え、死亡フラグを立ててしまった精鋭兵長視点:三百三十一日目】
先日黒竜によって告げられた【聖戦】の日を目前とした今日、私は従軍娼婦カーラの上で汗を流していた。
命を賭した戦争の前にすると、誰だろうと自分の種を残そうとするものだ。
それが、こうまでハッキリと死の予感をさせる戦争の前なら、なおさらだろう。
普段以上に激しくなった行為を終え、簡易ベッドの上で横になっていると『今回は随分と激しかったじゃない』とカーラに言われた。
【職業・娼婦】を始めとした【職業】を複数持つカーラは、行為中に消費される体力が少なくなったり、様々な病気に対して高い耐性を持っている。
普段から鍛えている私でも負ける程タフなカーラにはまだ余裕があるようで、率直に思った事を聞いてきた。
『今回の名誉ある【聖戦】で名を残したと思っている。考えれば考える程、やはり滾ってしまうものさ』などとも考えたが、私の口から出たのは『恐いからさ、死にたくない』そんな情けない言葉だった。
私には分かる。
いや、私以外にも分かっている者はいるだろう。
【聖戦】が始まれば、私程度は道中で果てるに違いない。
それなりの死線を潜りぬけて今日まで生きてきたが、それも終わりが見えている。
背後から迫る死神の鎌。それを連想してしまうほど、濃密な死の気配がすぐそこにある。
だから、カーラを抱いた。恐怖を吹き飛ばしたい、ただその一心で。
震える私に気が付いたのだろうか。
カーラがそっと身を寄せてきた。思えばカーラとも長い付き合いだ。
十代の見習いだった頃、カーラも十代で新人として入ってきた。
それから十数年。色々な事があったものだ。カーラの肩を抱く手に力が入り、より強く胸に抱く。
一糸纏わぬ柔肌の感触は心地よく、その奥から聞こえる拍動は確かに生きているのだと実感させ、安心できた。
『生き残ったら、結婚しないか』
何を思ったのか、私はそんな事を言っていた。
言い終えた後、ハッと我に帰る。
何を言っているのだろうか、私は。
いや、私もいい歳だし、カーラもそう若くは無い。どちらもまだ現役ではあるが、それでもいつまでも続けていくような仕事ではない。
あれこれ考えを巡らせていくと、カーラが一際強く抱きついた。
そして耳元に近づく唇。漏れ出る熱い吐息。
お互いにしか聞こえない程小声で、潤んだ瞳のカーラが発したのは――
・『俺、戦争が終われば結婚するんだ』的死亡フラグ。
・二人の未来に幸あれ。
・ただし現実は無常である。
※ ここから本編とは関係なし。
※ 今後掲載予定の【外伝】の情報をチラッと公開。
※ そこまで重要な情報はない、きっと。
【■■■■視点:■■■■日目】
大森林系の、これまで未確認だった【鬼哭迷宮】の最深部。
死闘を繰り広げてようやく辿り着いたそこには、厳重に封印された巨大な扉があった。
巨大な扉の大きさは十メルトルを超えているだろう。一般的な【巨人】でも入れるように設計しているらしい。
そんな扉の左右には扉と同じくらいの巨大な鬼の像があり、その中央には夜空に輝く北煌七魔星を模したような装飾が施されている。
その周囲には古代文字で何やら書かれているらしく、しばしの間、計測魔導具や撮影魔導具などを使って調査した。
そして調査が一段落した後、道中で手に入れた七つの宝鍵を使って開けた。
開けた先は、むせ返る程の濃密な【神秘】に満ちた、静謐が支配する霊廟だった。
ココがどれほど前から在るのかは分からないが、少なくとも数千年は過ぎている筈だ。だと言うのに、埃や汚れなどは一切見当たらず、清浄そのものだった。
まるで時間が扉を閉じた時点で停止したかのような霊廟は、高い天井から降り注ぐ月光のような優しい光で薄らと照らされていた。
その光景を前にして、恐れ多過ぎて一歩踏み出す勇気がすぐには湧かない。
それでも何とか気合を入れて一歩を踏み出し、霊廟に入る。
するとまるで頭の中の靄が晴れたような不思議な感覚と共に、私はそれにようやく気がついた。
霊廟の最奥には、ただ在るだけで世界を支配しているような雰囲気を漂わせる黄金の棺があったのだ。
扉から最奥までは三百メルトル程の距離があるものの、そんなモノは関係ない。
ただ目を向けただけでその存在が分かるほどの、圧倒的な存在感。
その棺に入れられている者が何者であるにしろ、それは尋常ではない何かなのだろう。
そしてその棺の少し奥に鎮座し、まるで棺を守っているようにして佇んでいる四腕の鬼の像もまた同時に認識した。
鬼の像はまるで生きているような躍動感があり、この距離ですら鼓動を感じられそうだ。
それは錯覚だとは分かっていた。だが、圧倒された。
そして、あれはただの石像ではない、古代の神を祭った神像なのではないか。
神像が溢れ出る【神秘】によって、そう判断するには十分だった。
そうなると、神像に守られた棺には一体何が入れられているのだろうか。
ゴクリ、と唾を飲み込む。
誰も知らない、未知がそこにはあった。
心の奥底から湧き出てくる純粋な恐怖と、それでも尚衰えぬ事なく溢れ出る好奇心。
長年追い求めていた物をようやく見つけたという歓喜、開けてはならないモノを開けたかもしれないという後悔。
その他にも複雑な感情が混ざる、混沌とした思考が巡る。
(入る前に神像を認識できなかったのは、【認識阻害】などがあったからか。それよりもあの神像の造形は……確か、【鬼哭迷宮】から産出された古文書に描かれたモノではないか? ……となれば、棺に入っているのは、まさか!?)
しかしそれを切り替え、私は足を進める。
入り口から最奥まで真っ直ぐ続く道。その左右には一定間隔で整然と並ぶ天井を支える巨大な石柱がある。
外からは分からなかったが、ゆっくりと歩んでいると、石柱と石柱の間に、最奥の神像とはまた違う石像が安置されているのを見つけた。
神像と同じく、大小様々な白銀の棺を守っているように佇む、まるで生きているような石像群だ。
ヒトサイズのモノから、巨人サイズのモノまで、大きさだけでなく種族もバラバラなそれ等が数十体。
神像がある奥に向かうにつれて、より鮮烈な、より強大な、命の息吹を感じられる石像が並んでいる。
私は一歩進む度に、自身が矮小な存在だと感じた。ちっぽけな蟻がヒトの足元を通るように、私は強大な存在の足元を通り過ぎているのだ。
蟻は恐怖などは覚えないだろうが、しかし私は恐怖で押し潰されそうだ。
だが、気を強く保ちながら進むしかない。
これほど多くの感情を抱いたのは、どれほど昔だったろうか。
そう考える余裕すら無く、ただただ無心で足を進める。
そしてようやく、私は神像の前に到達した。
気がつけば石畳に向けていた視線を上げ、神像の足元から顔に向けて上げていく。
近くで見ればよく分かる。神像は生きている。そうとしか思えないほど細部に至るまで彫刻されている。込められた桁外れの【神秘】の量も、そう錯覚させる要因ではあるだろう。
ブルリ、身体が震えた。
恐怖からだろうか。畏怖からだろうか。
それは間違いない。しかし、一番大きいのは安堵だろうか。
まるで母の腕に抱かれていた赤子の頃のように。
あるいは大いなる守護者に背中を優しく押されたような、絶対的な安心感。
知らず知らず、私は跪いた。
手を合わせ、ただ祈る。
大いなる神に、祈るのだ。
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