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第一章 生誕の森 黒き獣編

一日目~六十日目のサイドストーリー

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不定期更新です。
 誤字脱字報告してくれるとありがたいです。
 感想、評価どしどしください。
 あと主人公の成長は非常に早いです。 

 ■

書籍化に伴い、サイドストーリーを掲載しております

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【同僚である霧壺真弓視点:前世】
 アイツと初めて出会ったのは、惑星アンドレアスでとある要人警護についた時だった。

 要人はとある国の王女様で、異星人だけど同性である私から見ても綺麗な女性なんだけど、色んな事情があって、愛国同盟とかいう下賤なテロリスト共に命を狙われていた。
 テロリスト共の思考回路なんて理解できないけど、ともかく王女様を守る為、同性として色んな場所まで着いて行ける私は、襲いかかって来るテロリストを排除する盾としての役割を任されていた訳よ。

 【念動能力者】である私からすれば、大抵のモノは即座に無力化できる。
 戦車の砲弾だろうが、宇宙船のレーザーだろうが、ほぼ完璧にね。

 だからこそ盾に抜擢された訳だけど、襲いかかって来るテロリストに対して受け身ばかりでは埒が明かない。

 そこで、守るのではなく攻め滅ぼす事を目的とした剣が、アイツ――伴杭彼方だった。

 最新の強化パワードスーツを装備し、徹甲杭弾アーマーパイルを打ち出す歩兵用レールガンを始め、各種兵装を充実させたアイツの力は、理不尽そのモノだったと言えるわね。
 敵の行動を【未来予知】したり、敵の死角に【瞬間移動】したり、戦車の砲撃を真正面から受け止めたり、口から宇宙船の主砲を放ったり、敵の脳から記憶を抜きだして情報を集めたりと、それはもうやりたい放題だった訳よ。

 最初に王女様を狙っていた愛国同盟とかいうテロリストは一日で末端まで殲滅され、ついでとばかりに幾つかの組織が惑星アンドレアスから消滅した。
 警護、という枠を超えた大掃除だったでしょうね。

 実は裏で繋がっていた大物政治家とか、有名人とか、悪事の秘密とか、秘密裏に進行していた大事件とかも一気に明るみに出たんだから。
 アフターフォローはしっかりしたけど、やり過ぎよね。よくやり過ぎちゃう私が言うのもなんだけど。

 まあ、そんな訳で、衝撃的だったアイツとの出会いも、今になったら懐かしいわね。
 行動力があり過ぎるとか、欠点もチラホラあったりするけど、顔は好みだし。波長が合う、って言うのかな?
 酒飲みに行った時とか、楽しいのよね。

 今度、ちょっとした休暇もあるし、どこかに誘ってみようかな?
 でも、取りあえず今は、一緒に酒を飲みに行きましょうかね。アイツ、酒に誘えばホイホイついてくるしね。

 あー。楽しみね。


・伴杭時代の同僚であり、よくチームを組んでいた。
・過去に色々あったり? なかったり?
・本編にはもう出てこない可能性極大。


【ピッケル担いだ獲物オーク視点:十三日目】
 ブヒヒ、ブヒヒ。
 愛用のピッケルを担いで、仕事場までの道のりを歩いて行くブヒー。
 集落から出発する時、大を出したくなったので、藪で力んでいたら他の同族は先にいってしまったブヒー。
 さっさと行かないとリーダーにどやされるブヒが、面倒だブヒ。
 仕事場が山の方にあるのがいけないんだブヒ。
 はぁー、嫌だブヒなー。
 怒られるだろうブヒなー。
 あー、どうにかならないブヒかなー。

 ん? 何か藪が動いた……ブキャァアアアアアアアッ!
 目がッ、目に石がッ。痛ッアアアアアアアアア!
 な、何だブヒ? 残った左目で周囲を見回すと、ゴブリンが突っ込んできているのが見えたブヒッ!
 しかも盾なんか持って、武装しているブヒッ!

 アア、アアアアアアッ! ゴブリンの分際で、生意気何だブヒッ!

 持ってたピッケルを思い切り叩きつけると、盾で防がれてしまったブヒ。
 生意気にも、木の盾を甲殻で補強しているんだブヒッ。なら追撃で仕留めて……ブキャァアアアアアアアアア!
 ピッケルを持ってた右手の甲に、また激痛が走ったブヒッ。よく見れば、雌のゴブリンが道具を使って投げつけてきた石だブヒッ。目もコイツがやったブヒか!?
 な、舐め……ギャアアアアアアアアアッ!
 盾を持っていたゴブリンが、棍棒を膝に叩きけやがったブヒッ。
 ほ、骨が、骨が折れてるブヒよおおおおおッ。痛みで地面を転がるブヒが、どうにもならないブヒ。

 に、逃げ……ギャッ!
 ま、また別のゴブリンが、這いつくばってたオデの上に乗っかってきて……。
 ギィイイイイイイイイイイ!
 このままじゃヤバいブ……ピギャッ。ブキャッ。ギゥ……。
 背中から異物が刺し込まれ、内臓が掻き混ぜられるブヒ。ああ、いや、だ……死にたく、ない、ブヒィ……



・初めての豚肉。その価値プライスレス。
・大森林の中で、単独行動時は細心の注意を。
・ピッケル、ゲットだぜ!


【オークリーダー視点:二十六日目】
 最近、同族達が何者かによって狩られている。
 生き死にはこの世の常だ。
 俺もいつ死ぬかは分からない。
 だが、長として同族を殺されて何もせぬ訳にはいかない。

 そう思い、ここ最近は採掘場で仕事に従事する労働衆には必ず集団で行動させてきたし、我も戦士衆を率いて巡回していた。
 だが、監視の目は完全ではなく、労働衆が狩られる事があった。

 腹立たしい。実に腹立たしい事態だ。

 敵は何者だろうか。
 もしや、エルフか? いや、敵対せぬように、奴等の生活圏には極力近づかない様に徹底してきた。
 昔から友好的ではないにせよ、敵対はしていない。今更俺達をどうこうしよう、と思うだろうか。

 あるいは、コボルドか? いや、それも違うだろう。
 確かにコボルド達なら、徒党を組めば労働衆には荷が重いやもしれぬ。
 だが、それなら相応の数が必要であり、敵対すれば奴らも俺達によって殺されると知っている筈だ。
 何か強力なリーダーでも得たのだろうか? 【存在進化】すれば、それもあるやもしれぬが、まだ情報が足りぬ。

 ならば、人間か? 奴等は何処にでもやって来る。
 同族同士で飽きる事無く殺し合う癖に、俺達の住処まで欲する強欲な肉塊共ならば、それもあり得るだろう。
 特に、肉欲の対象としてエルフ共を見ている事もあり、大森林に入って来た人間共が労働衆と遭遇し、殺した可能性はあるだろう。

 うーむ、どれも情報が足りぬ。
 どうにか出来ぬか、この事態を。
 大森林の外とのやり取りもあり、あまりゴタゴタしたくはないのだがな……。

 そう悩んでいると、俄かに外が騒がしくなってきた。
 何だッ!? そう吠えると、敵襲ッ! ゴブリン共の襲撃だッ! と返って来た。

 ゴブリン共だと!? 馬鹿な、何故弱小なゴブリン共がッ。

 疑問は尽きぬが、既に戦闘は始まっていた。
 戦士衆はそれなりの数居り、労働衆も採掘の為のピッケルを持っている。
 最低限の武器はあり、ならば生来頑強な肉体を持つ俺達が有利、な筈だったのだが、そこで見たのはまるで蜘蛛の糸のような何かに絡め取られた戦士衆が、棒に角を取り付けただけの粗末な槍を持つゴブリン達に、滅多刺しにされている場面だった。

 それを見た瞬間、頭が沸騰する程の怒りを覚えた。

 ブゥオオオオオオオオオオオオ!

 咆哮を上げ、ハルバードを振るってゴブリン共を薙ぎ払う。
 数体ほど弾き飛ばしていると、小癪な事に、盾を持つ、ホブゴブリンが俺の攻撃を受け止める為に前に出た。
 無論、力任せにそのホブゴブリンを弾き飛ばす。武装したとて、ホブゴブリンだとて、俺の力の前ではまだまだ弱者よッ。
 このまま生意気なゴブリン共を引き肉にしてくれるッ!

 そして怒りのまま戦っていると、黒い肌のホブゴブリンが出てきた。
 明らかに、コイツが敵の頭だ。
 ビリビリと感じる威圧感。ただモノではない。だから先手必勝とばかりに攻めかかり、その指先から出た糸に全身が絡め取られた。
 ブヒッ! コイツが、コイツが先程戦士衆を封じた元凶かッ。

 糸を引きちぎろうとハルバードを振るい、暴れるが、糸は次々と放たれた。
 矢も全身に突き刺さり、激痛が走り、血が流れる。

 状況は、絶望的だ。同族に指示を飛ばすが、既に戦況は傾いている。
 今更挽回はできないだろう。
 だが、それでも、長として最後まで戦わねばならぬ。

 その一心で暴れに暴れ、最後には黒いホブゴブリンの得物によって心臓を貫かれる。
 せめて、とばかりに手を伸ばすが、呆気なく振り払われる。
 ここ、までか。

 俺の意識は、そこで途絶えた。


・有能だったが相手が悪かったオークリーダー。
・強くて知恵も回り、正面から普通に戦えばオークが勝利していた。
・レベル的にも素質的にも、【存在進化】出来た個体である。


【調子に乗ったハインドベアー視点:三十九日目】
 目の上のタンコブだった、アイツが狩られた。
 クママママ、良い気味だクマー。
 ちょーーーーと炎を吐けて、ちょーーーーと赤い体毛がオシャレで、ちょーーーーと良い体格をしていて、ちょーーーーと雌にモテていたからって大きな顔をしやがってクマー。

 これからは、俺の時代だクマー。
 狩りまくって、強くなって、ここを支配してやるんだクマー。

 お、良い所にぞろぞろ得物が来たクマー。
 ちょっと武装して、オーガとかも居るみたいだクマが、これでも俺はアイツに次ぐ強さがあるんだクマ。
 つまり、余裕って事クマ。

 なら、ちょいと糧にしてやるかクマーな。


・強さは自称。
・レッドベアーが死んだので、トップを目指したところでクマ狩りに会う。
・慎重さ、臆病さ、それこそが自然界では生き残る力だったのか……。


【オークに殺された【魔獣飼い】の青年視点:五十三日目】
 俺は、小さな農村で生まれた、農民の子だ。
 三人兄弟の長男として生まれ、下には弟達がいる。

 一般的な数の家族と共に過ごしてきた農村での生活は、他と比べればそこそこ恵まれていた方だと思う。
 危険なモンスターも周囲には居らず、近くにはそこそこの規模の町がある。
 治安もそれなりによく、農作物もそれなりに採る事が出来た。

 裕福ではないが、貧乏でも無い。
 幼い頃から続く、あまり変化の無い日々。

 それに、鬱屈とした思いがあったのは間違いない。
 だから、気紛れに死にかけのホーンラビットを育て、素質があったのか手に入れた【職業】――【魔物飼いモンスターテイマー】を切っ掛けに、農村を出て、冒険者になる事を決めた。
 出稼ぎ、という事で許可は降り、助けて最初の≪使い魔≫にしたホーンラビットのベルを連れて外の世界に出た俺は、これまで色々な事を経験した。

 ホーンラビットのベルは、役に立った。
 その後もヨロイタヌキなど数匹≪使い魔≫にする事になったが、最初から居るベルはそこそこレベルが高く、もしかしたら【存在進化】出来るだけの素質があったかもしれない。

 だが、死んだ。他の皆も殺された。

 ある日、大森林の浅い場所からとある植物を採取する、という依頼を受けた。
 大森林は俺のような、そこそこ珍しい【職業】を持っているから何とかやりくり出来ているような下位の冒険者が挑むのは、危険な場所だとは知っていた。
 しかし、色々な事が積み重なって、金が欲しかった俺は受けてしまったのだ。
 浅い場所なら、大丈夫だろう、そう思って。

 それが、失敗だった。

 採取中、オークに襲われた。
 不意打ちで、ベルが真っ先に殺された。
 その後も≪使い魔≫達が襲いかかったが、俺のレベルが低かった事もあり、≪使い魔≫に出来るのはそこまで強いモンスターではない。
 オークの方が強く、抗う事が限界だった。

 ああ、くそ。こんな事になるくらいなら、依頼を受けなければよかったのに。
 あるいはもっと先に、冒険者などにはならず、あの変わり映えのない農村で、≪使い魔≫達と共に何か新しい事を模索しておけばよかったのに、と。

 後悔しても、既に遅かった。

 脳天に、オークが振り下ろしたピッケルが突き刺さる。


・平和、という幸せを理解できなかった青年。
・≪使い魔≫達を使った大道芸を見せモノにすればそれなりに幸せだったかも。
・残された家族は、元気に生活しています。




【???視点 おまけ】
 【時間軸:???】


  そこは薄暗い一室だった。
  明りは壁に埋め込まれた巨大スクリーンから発生している微光しかなく、巨大スクリーンには次々と文字と映像が表示されては消えていく。
  明暗は激しく切り替わり、やや目に悪い。
  そしてそれを静かに眺めるのは、椅子に腰かけた誰かだけ。

  【プロジェクト【■■■■】が第三フェーズに移行しました】
  【それに伴い能力抑制機能リミッターが解除されます】
  【ESP【■■能力】の能力全開放を開始……解放を確認】
  【対象者Kの■■■■――】
  【WA軸上の――――】
  【重要人物PAは――――】
  【――――】

  表示される全てを椅子に座った誰かは見続け、時折「うーむ」などと唸り、考え込むような仕草をする。

  部屋に居る誰かの正体は誰にも分からない。
  体型や顔どころか、男であるのか、少女であるのか、老人であるのか、老婆であるのか、それ等全てが分からない。
  座った誰かの正体を理解できないように、部屋全体に不可思議の何かが張り巡らされている故に。

 「さてさてさて、どうなる事やら」

  と、正体不明の誰かは言った。
  パンパン、と手を叩く度に、カチンカチン、と少々甲高い音が鳴る。金属のように硬い何かが衝突する音に似ているだろうか。

 「楽しみだねぇ」

  延々と流れる情報を見ながら、全てを知る誰かは楽しそうで。
  コレから始まる物語りを、傍観者として見続ける事となり。

  全ては誰かの意思によって始まった。




  これは、物語りの裏の裏の、誰かのお話し。
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