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第五章 暗黒大陸 古代の遺産編

三百七十一日目~四百四十日目、【暗黒大陸】時間軸変更のサイドストーリー

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 【≪アードラ=デンディス≫の長老【グド=ラグ】視点:三日目】
 定期的に行われる呼吸浮上。
 強靭な深海モンスターを阻む境界を生み出す“光域真珠”に太陽光を浴びせて魔力を補充する大切なこの時に、非常に珍しい事に地上人の来客があった。
 儂らが暮らすのは白陸鯨“ファスティトケロン”の背中にある、“変幻珊瑚”で造られた街≪アードラ=デンディス≫じゃ。

 普段は海中に没し、儂ら魚人や人魚など水中で暮らす種族しかおらん。
 というか、それ以外の種族は基本的に住めんし来れん。水圧に耐えれんし、呼吸もできんからじゃ。
 今回はたまたま近くを航行している時に見かけ、地上人の客人達は興味本位でやってきたようじゃ。
 大いなる海原で出会うなど、確率としては非常に稀じゃった。

 長年生きる儂の記憶でも、片手で数えられるくらい珍しい事じゃ。
 
 そんな珍事に、民達は興味津々で客人達をもてなしておる。
 善人ならばそれでよし。有益な相手になるやもしれん。
 悪人だとしても問題は無い。例え悪人で悪事を働くような輩でも、ここは深く広い海の上じゃ。
 しばらくすれば再び海中に戻り、地上人達は儂等に手を出せなくなる。
 また荒々しい海中での生存競争で民達の実力が高い事もあって、暴れられても抵抗できる。
 最悪でも、船を船底から沈めればいいだけじゃ。
 そういう心の余裕があったからこそ、歓待する事に問題なかったのじゃな。

 それでも何かあった時に問題になると考え、何かあっても換えの効く老骨が直接話す事にした。

 周辺海域屈指の腕前を持つ戦士長シャルトガを護衛として一人連れ、儂が向かうとそこに居たのは民達と談笑しつつ交流する、予想よりも途方もなく強い地上人達じゃった。 

 その中でもオバ朗という頭目の存在感は極めて強く、若いころに見た海王獣オルティオスカよりも儂の目には大きく見えた。
 護衛のシャルトガも似たような連想をしたのか、緊張気味じゃ。

 下手すれば≪アードラ=デンディス≫は壊滅する。
 例え海中に潜っても、儂等を殲滅するだけの実力はあるじゃろう。

 そう考え、緊張しつつも笑みを浮かべる。
 今のところ場の雰囲気としては悪くない。
 客人達も初めての光景に興奮しているようで、不快感は感じていないじゃろう。
 儂は和やかに微笑んで、気を取り直して近づいた。

 視界の隅では物々交換で地上の品を得ている民達がいる。
 折角の機会じゃ。
 歓待し、友好を深めておけば何か利益になるじゃろう。
 地上の真新しい品は中々手に入らんからのぉ。


 ・代表として交渉する人の精神力。
 ・笑顔の裏には打算もある。
 ・グド=ラグは強力な縁を手に入れた。


 【とある武闘派砂賊【カッチェーラ】の頭視点:二十日目】
 縄張りに獲物が入った、と部下から報告があった。
 男女の二人組で、男は牛頭鬼、女は鬼人らしい。
 身体も普通より大きく、よく鍛えられ、武装も充実している。そして徒歩で進む獲物の他には誰もいないと聞いて、ほくそ笑む。

 俺達の縄張りは砂漠だ。
 それも特に細かい流砂が広がる場所であり、ここでは沈む砂に足を取られ、硬い地面の時とは違って動きが大きく制限される。

 それを知らずに徒歩で向かう馬鹿は格好の獲物だった。
 恐らくは【神代ダンジョン】を攻略しに行くつもりの腕自慢なんだろうが、そんな猛者を俺達は獲物にしている。

 【神代ダンジョン】に挑むくらいも猛者は、獲物としてみれば中々に旨味がある。
 武装は充実しているし、捕まえて奴隷にすれば使い道は多岐に及ぶ。

 その価値だけ手強いが、そんな輩を相手にするのも色々と方法がある。
 数を揃え、装備を用意し、不意を打ち、抜け出せない罠にかける。
 それだけで戦力差は大抵覆る。
 個の力には限界がある。個の力で敵わなくても、戦力差など数で補えばいい。

 それが俺の方針だ。

 元々、俺は今のように砂賊の頭を務める前までは、とある都市国家の戦士長として働いていた経験があった。
 都市国家は【神代ダンジョン】を抱えていたこともあって戦力が充実し、様々な面で周辺の都市国家よりも頭一つ飛び出していた。
 そんな中で、戦士長まで上り詰めた俺は【神代ダンジョン】に挑めるくらいの実力があった。
 自分は周囲でも有数の戦力だと自負し、事実として他の都市国家との戦争では大いに暴れ回ったものだ。
 【神代ダンジョン】で手に入れた魔剣を片手に、幾つもの首を刎ねている。 

 そうして都市国家は戦争で連勝し、その結果調子に乗ってしまったのだろう。
 都市国家を治めていた上層部はより利益を得ようと暴走し、遂に周囲の都市国家は団結した。
 そして幾つかの都市国家の戦力が結集して出来上がった連合軍は戦争を仕掛けてきた。

 連合軍との戦場で私は無数の敵を殺したが、それでも数の暴力の前に押され、僅かな部下と共に逃げるしかなかった。
 その時に私は個の力の限界を悟る。

 桁違いに個の力が強い存在は居る。それこそ戦況を一変させるような怪物だっている。
 しかしその数は少なく、私はそうではなかった。

 だから出来る限り有利な状況を用意し、数で押し殺す事にしている。
 それを基本方針として動いた結果、これまで何十人もの獲物を狩った。中には私よりも強い存在が居たが、そんな存在も屍を私の前に晒したのだ。
 その度にやはり数の力は大きいのだと認識を深めていく。

 今回は嫌な予感もするので最初から生け捕りにするつもりはない。
 十全に用意を重ね、一度入れば抜けだせない蟻地獄に叩き込んで殺してやろう。
 たった二鬼だけでここまでくるとは大した度胸だが、せいぜい身包みを剥がせてもらおうか。


 ・ミノ吉くん達の糧になりました。
 ・【神代ダンジョン】から生還できる程度には強い砂賊メンバー全滅。
 ・溜め込んだ財宝は回収済み。
 ・個の力の限界を感じ、集団で動くものの、最後は個の力で蹂躙された愚者のありふれた末路。


 【人造ダンジョン攻略を終えた名家の少年視点:四十五日目】
 今日僕は、過去の名工によって造られた【人造ダンジョン】――【刻命の洞骨工房】に初めて足を踏み入れた。
 僕の名前はゲージュ=カクールイ。
 都市国家≪サープントロア≫の中枢で働き、周辺の氏族を六つ纏めてきた歴史ある名家カルークイ家の後継者である。

 今回は僕の実戦経験の蓄積と趣味を兼ね、許嫁のエーシェ=フージョと共にまだ見ぬ美術品を求めてここに潜った。

 【刻命の洞骨工房】で出て来るダンジョンモンスターはゴーレム系が多い。
 その他には洞窟などに生息する種もいるが、基本的に相手にするゴーレム対策は刃物よりも打撃系が有効だ。
 そこで愛剣とは別に、今回はウォーハンマー型のマジックアイテムを用意した。
 【砕身の戦鎚】というマジックアイテムで、打撃の衝撃を強化する効果がある。これで対象が硬いほど破壊しやすくなり、ゴーレム相手だと簡単に砕く事が出来る。
 前衛として僕は【砕身の戦鎚】を振るい、後衛のエーシェは【魔術師】として援護してくれる。
 僕の護衛騎士カッサスとエーシェの護衛騎士ベロニアは僕達を補助するように立ち回ってくれるので、危険はあるけど、それでも僕達を中心とした攻略が続いた。
 ドロップアイテムは使用人のゴッサムが運んでくれるから、戦闘後の移動でも疲労は少なかった。

 そうこうしつつ、何とか僕達はダンジョンボスがいる最深部に到着した。
 美しい芸術品のような扉を開けると、そこには百数十年前に活躍した、稀代の【彫刻家】であり【錬金術師】や【芸術家】でもあったアルネグマ・アルコマシーアの人格を映しとったアルネグマ・ゴーレムが居た。
 
 アルネグマ・ゴーレムは何かを作っていた。
 新作の芸術品だろう。僕はアルネグマの作品が大好きで、始めてここまで来れた興奮に心が躍った。
 それはエーシェも同じで、僕達は許嫁であり、アルネグマ作品を愛する同士でもある。

 興奮した僕達はしばらく作品が作られている様子を眺めつつ、暫くして本題に入る。
 ここまで来ると、材料と引き換えに、それに見合う作品を持ち帰る事が可能なのだ。
 今日ここに来るために用意した材料はどれも一級品で、それに見合うだけの作品となると相応に素晴らしいものだった。
 アルネグマ・ゴーレムも材料を気に入ってくれたのか、普段は隠している作品も何点か見せてくれた。
 それにまた興奮した僕達だったけど、見た物全てを持ち帰る事は出来ない。

 アルネグマ・ゴーレムを倒して持ち帰る事なんて考えられないし、そもそもアルネグマ・ゴーレムはそんな乱暴な考えをした不埒モノをこれまで全て返り討ちしている程の猛者なのだ。
 暴力で訴えるものは、暴力で諫められるという事だろう。

 ともあれ、それから悩みに悩んだ僕達だったけど、最終的には納得した品を持ち帰る事が出来た。
 帰り道はアルネグマ・ゴーレムが出口近くまで見送り役のゴーレムを用意してくれたので、特に戦闘も無く帰る事が出来た。
 戦闘があれば、折角の作品が壊れてしまうかもしれないからだそうだ。

 ありがたいと思いつつ、エーシェと興奮のまま話し続けた。

 僕が選んだのは、荒々しい砂海を泳ぐモンスターを描いた絵だ。
 まるで絵の中から飛び出てきそうなほどの迫力と独特の筆使いに興奮を隠せない。

 エーシェが選んだのは、生き生きとした男女の石像だ。
 今にも動き出しそうなほど生命力を感じさせる石像で、エーシェはうっとりと撫でていた。

 それぞれを交換しながら意見を交わし、気が付けば出入り口付近まで到着していた。
 ここから先は外が近く、油断はここまでだ。
 外には持ち帰った作品を奪おうと蛮族が居る可能性もあるから気を抜けない。

 幸せだった時間を名残惜しく思いつつも、屋敷に帰ればもっとゆったりとした時間が待っていると意識を変える。
 そうして意識を切り替えた僕達は外に向かい、そこに見知らぬ集団が居た。
 賊かと警戒したのは一瞬で、陽気に声をかけられた。

 黒い鬼人だった。

 悪人には見えなかったけど警戒を解けない僕に変わり、護衛騎士カッサスが前に出て話をし始めた。
 その間にベロニアがまるで僕達を守るように前に出る。
 護衛騎士二人は元凄腕の【冒険者】だった。【神代ダンジョン】に潜れるくらい強い筈だけど、冷や汗を流しつつとても真剣な表情で集団を見つめている。
 こんな反応は初めてで、鬼人やその他のヒト達も恐ろしく強いのだろうか。

 もし何かあればエーシェだけでも守らないと、そう思っていたけど特にそんな事はなかった。
 どうやら旅の途中で【刻命の洞骨工房】を発見し、興味本位で近づいたら僕達が出てきたから声をかけたらしい。
 確かに、【刻命の洞骨工房】の外側は頭蓋骨にしか見えない岩だ。
 興味を惹かれるのは当然だろうと納得した。

 それに話してみると悪い人ではないと感じ、僕達が持ち帰った作品がどんなものなのか見たいと言われた。
 ここで少し警戒するけど、僕程度が警戒したところで意味はないと思った。
 すぐそばで見た鬼人の身体は鍛えられ、筋肉が凄いのだ。僕なんかと比べるどころか、カッサスよりも更に凄い。
 殺そうとか思っていたら、とっくに僕は死んでいるだろう。
 だから好きな作品を他人に自慢するように、色々と喋った。喋りすぎて不快に思われないように注意しつつ、それでも情熱が十分伝わるように語ると、鬼人――オバ朗さんはお礼だといって食材を取り出した。
 
 何でも竜肉らしい。それもヒト一人分はある巨大な塊だ。
 とんでもない高級品であり、そうそう食べられるものでもないのに、何でもないように渡してくる。しかも竜肉を持ち帰られるように小箱型のアイテムボックスまでつけてくれた。
 そしてオバ朗さん達は空に消えていった。空飛ぶ船と言う、あの【太陽王】を彷彿とさせるとんでもないシロモノに乗って。

 竜肉もそうだが、移動手段が空を飛ぶ船という事に驚き、大空のような世界の広さを肌で感じた。
 ただただ凄いな、と心から思う。

 それから屋敷に帰った僕達は竜肉を食べ、エーシェと作品を熱く語った。
 また創作意欲を掻き立てられ、僕達はそれぞれ作品を作った。
 僕は絵を、エーシェは石像を。
 タイトルは……


 ・少年少女の衝撃の出会い
 ・世界の広さを感じ、それぞれの世界/認識が広がった
 ・将来二人は周囲が羨むほど仲が良く、子沢山の夫婦となる
 ・そしてそれぞれ有名な【芸術家】となり、多くの作品が生み出される
 ・中でもテーマに多かったのは……


 【微睡む覇王視点:六十四日日目】

 緩やかに過ぎる時間が余は好きだ。
 寝床で最も高い場所に頭を乗せ、日々微睡んで流れる時間が余は好きだ。
 流れる雲の形が刻一刻と変わり、空に輝く星を見るのが余は好きだ。

 長い時の中、余はただ眺めていた。

 変わらぬ自身、変わる世界。

 境界の外では世代交代を繰り返しながら発展したり衰退したりしているようだ。
 以前は無かった構造体が見えたり、見えなくなったり。

 ただ悠然と流れる時の中で、時折変化は訪れる。

 その中でも、此度の変化は余が経験した事の無いほど劇的なものだった。

 それはとても小さかった。
 余と比べれば蟲のような小ささだ。

 しかし激烈な毒を持つ毒蟲達だった。
 油断すればその毒は余を殺すだろう。
 余は動かずとも意識は蟲達に向けられる。

 しばらく蟲達は周辺の探索を続けていた。
 どうやら蟲達にとっては価値ある物を回収しているらしい。
 ならばそれが終わるまで、余は待とう。

 余は古代絶界蛇龍覇王“ミルガルオルム”

 蟲達と相対する時は、余の全力を持って蹴散らしてくれようぞ。


 ・被害者その一
 ・覇王らしく堂々と存在していた
 ・ただ、あのような結末になるとは誰が思っただろうか……



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