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 それからも俺たちは飲んで話してと楽しい時間を過ごしていった。食事の席は既に片付けられており、机の上は酒とツマミに変わっている。フリッツと今日の夜勤のデニスには控え室に下がってもらった。飲んでる横で素面の人に世話を焼かれるのはどうにも落ち着かないからだ。
 俺はと言うと飲みすぎない、と決めていたのに案の定飲みすぎて立派な酔っぱらいになっていた。そして俺が酔っぱらうということは、隣のエドガーにベタベタ引っ付いて甘えるということだ。
「ねぇエドガー、教えてほしいことがあるんだ」
 最初は腕に抱き付く程度だったものが、嫌がらず俺の好きにさせてくれるエドガーに徐々に大胆になっていく。逞しい腰に腕を回したり、厚い胸元に擦り寄ったり。今は太ももの上に乗り上げ、背中をエドガーの胸に預けてもたれ掛かっている。
 首を捻って見上げれば、こちらも立派な酔っぱらいのエドガーが琥珀の目をとろんと蕩けさせて微笑んでくれた。

「今日神殿に行くまでの道すがら、たくさんの人が街中でキスしてたんだけど何でか知ってる?」
「ああ、知っているとも。今日はキスの日だからな、愛する者とキスをするとその愛が永遠に続くと信じられている。いわば恋人やパートナーとデートをしたり愛を確かめ合う日だな。普段は恥ずかしがって愛情を表せない者も今日という日は大胆になると聞いたぞ。まあ独り身には関係のない話だが」
 どこの世界にも独り身に厳しい習慣ってのはあるんだな。
「へぇ、そんな日だったんだ。街中でディープキスしてるのを見た時はめちゃくちゃ驚いたけど、一年に一度位なら仕方ないか」
「ん?キスの日は毎月あるぞ?」
「は?」
「キスの日は毎月あるんだ」
 当たり前のようにエドガーが言う。毎月あるのが当たり前なんだったらその反応が当然なんだけれど、地球で言うバレンタインデーのように一年に一度だと俺が勝手に勘違いしていただけだ。

「そ、そうなんだ。やっぱりメアが絡んでるのか?」
「ああ、メア神は愛しあう者たちに殊更祝福を与えてくださるからな。毎月キスの日の翌日は仕事にならない者が多く出るんだ、どうしてだか分かるか?」
 そう質問してエドガーがニヤリと笑う。俺はというとアルコールで回らない頭で考えてみたのだが答えらしきものは一向に出てこない。
「・・・分からない。教えて、エドガー」
 エドガーが身を屈めて俺の耳元で答えを告げる。
「それはな、セックスをし過ぎるからだ。恋人たちがキスだけで満足出来るはずがないだろう」
 低く艶のある声が流れ込んでくる。耳朶を擽る吐息と発せられた内容に思わずぞくりと背筋を震わせてしまった。
「彰には少々刺激が強かったかな?」

 一転おどけた調子でカラカラと笑うエドガー。子ども扱いしてからかっているのが丸分かりの様子にムッとする。
「ははは、怒るな冗談だ。ほら飲め飲め」
 ちょっとだけ怒っていたのに、大きな手で頭を撫でられると体の力が抜けてどうでも良くなってしまう。注がれた酒をごくごく飲み干し無言でおかわりを要求すると、エドガーは片手で頭を撫でながら、もう片手で器用に注いでくれた。
「エドガーの手、おっきくて好きだなあ。もっと俺のこと撫でて良いよ」
 酒でふわふわになっている俺は、自分からエドガーの手に頭を擦り付けていく。
「んん″っ!そうか、彰がそう言うならずっと撫でていてやろう。手が疲れたなんて言ってられないな」
 デレデレに相好を崩して俺を見るエドガー。だがもっと甘えたい俺はその言葉に心配になってしまう。
「エドガー疲れた?仕事が忙しいのに俺のこと撫でて疲れちゃった?」
 くるりと膝の上で反転してエドガーに向き直る。
「手、痛いのか?なら俺が癒してあげるからもっと撫でて、ね?」

 頭の上に置かれた手を取って、手のひらに、指先に、手首にとキスをしていく。俺のキスには癒しの効果があるんだから、こうやってキスすれば疲れも痛みも取れるはずだ。
 ちゅ、ちゅと音を立てて唇を落とす。指先に真新しい切り傷を見付けた俺は、両手でエドガーの大きな手を持ってパクリと咥えた。傷口を探り、そこに舌を這わせてチュウと吸い上げる。
 そうして暫くちゅうちゅう吸ってからゆっくり咥内から指を引き抜けば、傷跡は殆ど治っていた。
「良かったぁ、治ってる。俺のキスに癒しの効果があるってメアが言ったんだ、だからエドガーの疲れをもっともっと癒してあげるね」
 エドガーの腰を跨いでソファに膝立ちになり首に腕を回す。これから何をしようとしているのかなんて、自分のことなのに酔っぱらいの俺には分かっていない。それでも癒してあげなきゃ、という思いだけが大きく膨らんでいく。そうだよエドガーが疲れているなら、俺が癒してあげなくちゃ。
 驚きに固まっているエドガーの唇に視線を落とす。ああ、なんて美味しそうなんだろうか。
 早くあそこから癒してあげないと。あの肉厚で大ぶりな唇を割り開いて、俺の唇からメアに貰った癒しの力をエドガーに注いであげないと。

 ふに、と唇同士が触れ合った。思ったよりも柔らかい感触が楽しくて何度も合わせてしまう。だが触れ合うだけで満足する訳もなく、俺は唇を開いてエドガーの唇を食んでいく。
 大きなエドガーの大きな唇を端から端まで余すところなく食み終わると、次は舌で堪能することにした。ぺろりと舐めればビクと大きく体を震わせるエドガー。ふふ、可愛い。
 ペロペロと犬のように唇を舐め回しても動かずに、耐えるように目を瞑っている。これじゃ癒してるのか虐めてるのか分からないじゃないか。俺は癒したいんだ、虐めたい訳じゃない。
「ねえ、エドガー目を開けて。そして唇も開けて、ね?」
 ツンツンと舌先で唇を突いてやれば、恐る恐る目が開けられる。琥珀色の綺麗な瞳は今やすっかり情欲に塗れていた。
「ほら、いい子だから口も開いて」
 ゴクリ、喉を大きく動かして唾を飲み込む音がする。
「いい子だから、エドガー俺の言うこと聞いて」
 ゆっくりと固く閉じていた唇が開かれ、咥内に隠れていた舌が唾液に濡れてぬめっているのが見える。ああ、それだけで興奮してしまう。
「ん、いい子。いい子にはご褒美あげなきゃね」
 頬へ両手を添えて上を向かせると、欲情しきった琥珀の瞳に映るのは同じく欲情しきった俺だった。
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