上 下
71 / 71
エピローグ 世界を耕した少年

エピローグ. 農業機器は世界を救う

しおりを挟む
「バオア、お茶が入ったのにゃ」

「うん、休憩にするよ」

 僕が世界樹の森に追放されてから20年が経過した。
 僕もすっかり大人になり、背もだいぶ伸びている。
 伸びたのは背くらいで顔つきなんかはあまり変わってないらしいけどね。

「ふう。クーオ、世界樹の村の作物はまだたくさん売れているようで安心しているよ」

「当然ですニャ。世界の不作が終わったとはいえ出来の良し悪しはありますニャ。そこが安定して高い世界樹の村の作物は信用も高いのですニャ」

「あまり高く売りすぎないようにね。この村ではほとんどお金が必要ないんだから」

「わかっていますニャ。でも、この村の作物を安く売りすぎると他の場所で採れた作物が売れなくなりますニャ。何事も適切な価格というのはありますニャ」

 うーん、クーオの商売欲が勝っているだけのような気もするけど……。
 まあ、村の作物がよく売れているようなら問題ないか。

 この20年の間に世界は大きく変わった。
 まず、作物の不作を招いていた邪神の木をすべて取り除いたことで作物が昔のように取れるようになり、飢餓で苦しむ人もだいぶ減った。
 次に、人間族国家が解体されたんだ。
 僕たちがこっそり邪神の木を伐採したけど人間族国家は戦争をやめず、どんどん食糧事情が悪化していった。
 それに反発した民衆が王家や貴族などを倒し新たな国家が誕生、それらの国は短命種こそ神に愛された種族であるという宗教をも打倒したようだ。
 周辺国家との間で停戦条約も取り交わされ、戦争が終わったことで農地を耕す男手も戻ってきた。
 これによって人間族の大地でも少しずつ食糧事情は改善していったらしい。
 最後に一番大きな変化は、ケットシー製の『農業機器』が開発され世界中に売り出されるようになったことだ。
 ケットシー族を初めとする妖精族の技術を結集して作った『農業機器』は、僕のスキルで召喚される『農業機器』より多少劣るものの人力で農業を行うより断然楽で効率的である。
 これが世界中に広まることで農作業が楽になり、また新規農地の開拓がスムーズに進むこととなった。
 まだ生産台数の関係で各国の王家や有力貴族しか持っていないようだが、それらは積極的に使われて新たな土地を開拓しているらしい。
 そうして広まった畑でより多くの作物が育てられ国も民も豊かになっていっているようだ。

 世界中を襲っていた不作の影響もあり、いまの世界では各国の協力態勢が出来ている。
 そう簡単に戦争が起こらない時代が来たんだ。
 そうなってくると人々が次に欲するのは『生活の豊かさ』らしい。
 それを求めて世界樹の村の作物を買い求める人々が多いようなのだ。
 世界樹の村も大量生産の体制が整っているので需要を満たせるだけの供給はあるのだが、お金の使い道にはどの集落も困っている。
 本当に贅沢な話なのだが。

「……そういえば、バオア。新しい『農業機器』が増えたと言っていませんでしたかにゃ?」

「ああ、増えたよ、ホーフーン。ただ、ねぇ……」

「なんにゃ?」

「『大型水耕栽培基地』なんだよ。作れる作物が増えるみたいなんだけど、代わりに『小型水耕栽培基地』を消さなくちゃいけないらしくて」

「それがどうかしたのかにゃ?」

「小型水耕栽培基地を消すには中にあるものや魔石を変換したエネルギーを全部消費しなければいけないんだ」

「にゃんと……」

「……数年先、かな」

 うん、貯蔵する分には困らないだろうと思って魔石をいっぱい溜め込んでおいたんだ。
 それがこんな形で足を引っ張るとは……。

 なにはともあれ、世界は平和になった。
 この平和がいつまで続くかわからないけど、世俗から隔離された世界樹の森は静かで過ごしやすい。
 こんな日々がずっと続けばいいな。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

無銘
2023.09.18 無銘

米作をする種族が移住してきたという事は、そろそろ田植え機とかも登場するんでしょうか

あきさけ
2023.09.18 あきさけ

米作をするので出てきているのではないでしょうか。
作中では書きませんでしたが。

解除
nori
2023.09.17 nori

このまま移民が増えたら森が無くなってしまいそう

あきさけ
2023.09.17 あきさけ

なくなるほど移民が増えるかな?

解除

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

なぜ身分制度の恩恵を受けていて、平等こそ理想だと罵るのか?

紫月夜宵
ファンタジー
相変わらずn番煎じのファンタジーというか軽いざまぁ系。 悪役令嬢の逆ざまぁとか虐げられていた方が正当に自分を守って、相手をやり込める話好きなんですよね。 今回は悪役令嬢は出てきません。 ただ愚か者達が自分のしでかした事に対する罰を受けているだけです。 仕出かした内容はご想像にお任せします。 問題を起こした後からのものです。 基本的に軽いざまぁ?程度しかないです。 ざまぁ と言ってもお仕置き程度で、拷問だとか瀕死だとか人死にだとか物騒なものは出てきません。 平等とは本当に幸せなのか? それが今回の命題ですかね。 生まれが高貴だったとしても、何の功績もなければただの子供ですよね。 生まれがラッキーだっただけの。 似たような話はいっぱいでしょうが、オマージュと思って下さい。 なんちゃってファンタジーです。 時折書きたくなる愚かな者のざまぁ系です。 設定ガバガバの状態なので、適当にフィルターかけて読んで頂けると有り難いです。 読んだ後のクレームは受け付けませんので、ご了承下さい。 上記の事が大丈夫でしたらどうぞ。 別のサイトにも投稿中。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

[完結:1話 1分読書]幼馴染を勇者に寝取られた不遇職の躍進

無責任
ファンタジー
<毎日更新 1分読書> 愛する幼馴染を失った不遇職の少年の物語 ユキムラは神託により不遇職となってしまう。 愛するエリスは、聖女となり、勇者のもとに行く事に・・・。 引き裂かれた関係をもがき苦しむ少年、少女の物語である。 アルファポリス版は、各ページに人物紹介などはありません。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 この物語の世界は、15歳が成年となる世界観の為、現実の日本社会とは異なる部分もあります。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。