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第一章 僕たちの出会いとスキル〝農業機器〟
1. スキルを授かり樹海へ追放
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「バオア、そなたのスキルは『農業機器』じゃ!」
神官様から告げられたスキル名は聞いたことのないスキルだった。
僕、バオアも10歳になったため神殿でスキル授与の祝福を受けている。
ここで授かるスキルは今後の将来を決めるといってもいい。
例えば、『剣術』スキルなら剣の腕前が伸びやすくなるし、『料理』スキルならおいしい料理を作りやすくなるといった具合だ。
スキルの発現もいままでの生活様式に沿ったものが出やすい。
農家なら『農業』スキルや『牧畜』スキルなどだ。
先ほど例に挙げた『剣術』スキルは、剣の稽古を熱心にやっていると授かりやすいことになる。
授かるスキルはひとりひとつまでなので僕のスキルは『農業機器』で決まりだ。
でも、農業機器ってなんだろう?
……というか、こんなスキルを授かって帰ったら家族になんと言われるか。
あの家には帰りたくないけど、帰りの馬車は神殿の前で待ち構えている。
きっと、僕が授かったスキルのことも聞いているだろうし、諦めて帰ろう。
ああ、気が重い……。
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「ばっかもーん! なんというスキルを授かって帰ってくるか!?」
大きな怒鳴り声を上げながら父に殴り飛ばされた。
ドワーフだというのにまったく鍛え上げられていない父の拳はたいして痛くないけれど、それでも弾き飛ばされて床に転がる。
口の中も少し切れたのか血の味がするな。
「貴様はそれでもタシュム家の人間か! ……ああ、いや。しょせん貴様は妾腹だったな」
よく言うよ。
妾腹っていうことは自分が母さんに手を出したくせに。
母さんはエルフでこの家の使用人だったらしい。
そんな母さんは父に無理矢理手篭めにされて僕を身ごもったそうだ。
身ごもったことを確信したときこの家から逃げ出し遠くの街で生活を始めたようだが、父の放った追っ手に見つかってしまったらしい。
その後、僕はなぜか父の子として育てられ、母さんはどうなったのかわからない。
あの陰険な父のことだ、見せしめとして殺しているだろう。
僕には仇を討つこともできないけれど……。
「まったく。妾腹の子供なんて育てるからこういうことになるのですわ」
「ふん! 戦闘系のスキルでも覚えれば国軍に、伯爵様に売り払うつもりだったのだ! それを『農業機器』などというわけのわからぬスキルを覚えてきおって!」
そんなことを言う父のスキルだって『裁縫』だし、母のスキルだって『料理』のはず。
ふたりとも一切役に立ってないじゃないか。
スキルを生かさず男爵という地位にかまけて毎日豪遊しているだけのくせに。
「本当にお前は役立たずだったな。少しは俺たちを見倣え」
そういう長兄のスキルは『測量』だ。
だが、長兄が測量に出ているところなんて見たことがない。
毎日屋敷で放蕩三昧だろうに。
「はっ! 『農業機器』だかなんだか知らねぇが、俺の『斧術』の相手にはならないか!」
次兄のスキルは『斧術』、家族の中で一番役に立っている。
実際、自警団を率いて魔物の討伐に行くところをちょくちょく見かけた。
でも、その斧の主な獲物は僕で、次が自警団の団員、最後が魔物なのは屋敷では有名である。
タシュム家は男爵ではあるが、決して裕福な貴族とは言えない。
先祖代々続いてきた土地でもなく、二百数十年前に隣接しているエルフの国から奪い取った土地を治めている辺境貴族だ。
街の人たちもエルフがわりと多く、ドワーフの方が少ない。
更にここ数年は麦の生育状況も悪く税収も減っているという噂だ。
10歳の僕の耳にすら入ってくるのだからこの噂は本当なのだろう。
あの父がなにか手を打っているとは思えないし、家族も豪遊を控えようとしない。
はっきり言って、使用人たちすらからも嫌われている家族だ。
早く縁を切りたいところだけど、まだ10歳の僕では難しいだろう。
どうしたものか……。
「そうだ! バオア、お前に『闇の樹海』での開拓作業を命じる!」
「え?」
この父はなんて言った?
『闇の樹海』と言えば、この領地の外れにある先が見えないほどの大森林じゃないか。
そんなところの開拓なんて出来るはずがない!
「あなた! 素晴らしい考えですわ!」
「そうだろう、そうだろう! 農業系スキルがあればひとりでも十分に開拓できるだろうからな!」
いやらしい笑みを浮かべながら父と母が大声で笑い合う。
ああ、これは開拓という名の厄介払いだな……。
「そうと決まれば、おい! この役立たずをさっさと気絶させろ!」
「おう、父上!」
父の命令を受けた次兄が僕の頭を思いっきりぶん殴る。
僕の体は床を転がり、意識を失ってしまった。
ああ、最後まで最低な家族だったよ……。
神官様から告げられたスキル名は聞いたことのないスキルだった。
僕、バオアも10歳になったため神殿でスキル授与の祝福を受けている。
ここで授かるスキルは今後の将来を決めるといってもいい。
例えば、『剣術』スキルなら剣の腕前が伸びやすくなるし、『料理』スキルならおいしい料理を作りやすくなるといった具合だ。
スキルの発現もいままでの生活様式に沿ったものが出やすい。
農家なら『農業』スキルや『牧畜』スキルなどだ。
先ほど例に挙げた『剣術』スキルは、剣の稽古を熱心にやっていると授かりやすいことになる。
授かるスキルはひとりひとつまでなので僕のスキルは『農業機器』で決まりだ。
でも、農業機器ってなんだろう?
……というか、こんなスキルを授かって帰ったら家族になんと言われるか。
あの家には帰りたくないけど、帰りの馬車は神殿の前で待ち構えている。
きっと、僕が授かったスキルのことも聞いているだろうし、諦めて帰ろう。
ああ、気が重い……。
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「ばっかもーん! なんというスキルを授かって帰ってくるか!?」
大きな怒鳴り声を上げながら父に殴り飛ばされた。
ドワーフだというのにまったく鍛え上げられていない父の拳はたいして痛くないけれど、それでも弾き飛ばされて床に転がる。
口の中も少し切れたのか血の味がするな。
「貴様はそれでもタシュム家の人間か! ……ああ、いや。しょせん貴様は妾腹だったな」
よく言うよ。
妾腹っていうことは自分が母さんに手を出したくせに。
母さんはエルフでこの家の使用人だったらしい。
そんな母さんは父に無理矢理手篭めにされて僕を身ごもったそうだ。
身ごもったことを確信したときこの家から逃げ出し遠くの街で生活を始めたようだが、父の放った追っ手に見つかってしまったらしい。
その後、僕はなぜか父の子として育てられ、母さんはどうなったのかわからない。
あの陰険な父のことだ、見せしめとして殺しているだろう。
僕には仇を討つこともできないけれど……。
「まったく。妾腹の子供なんて育てるからこういうことになるのですわ」
「ふん! 戦闘系のスキルでも覚えれば国軍に、伯爵様に売り払うつもりだったのだ! それを『農業機器』などというわけのわからぬスキルを覚えてきおって!」
そんなことを言う父のスキルだって『裁縫』だし、母のスキルだって『料理』のはず。
ふたりとも一切役に立ってないじゃないか。
スキルを生かさず男爵という地位にかまけて毎日豪遊しているだけのくせに。
「本当にお前は役立たずだったな。少しは俺たちを見倣え」
そういう長兄のスキルは『測量』だ。
だが、長兄が測量に出ているところなんて見たことがない。
毎日屋敷で放蕩三昧だろうに。
「はっ! 『農業機器』だかなんだか知らねぇが、俺の『斧術』の相手にはならないか!」
次兄のスキルは『斧術』、家族の中で一番役に立っている。
実際、自警団を率いて魔物の討伐に行くところをちょくちょく見かけた。
でも、その斧の主な獲物は僕で、次が自警団の団員、最後が魔物なのは屋敷では有名である。
タシュム家は男爵ではあるが、決して裕福な貴族とは言えない。
先祖代々続いてきた土地でもなく、二百数十年前に隣接しているエルフの国から奪い取った土地を治めている辺境貴族だ。
街の人たちもエルフがわりと多く、ドワーフの方が少ない。
更にここ数年は麦の生育状況も悪く税収も減っているという噂だ。
10歳の僕の耳にすら入ってくるのだからこの噂は本当なのだろう。
あの父がなにか手を打っているとは思えないし、家族も豪遊を控えようとしない。
はっきり言って、使用人たちすらからも嫌われている家族だ。
早く縁を切りたいところだけど、まだ10歳の僕では難しいだろう。
どうしたものか……。
「そうだ! バオア、お前に『闇の樹海』での開拓作業を命じる!」
「え?」
この父はなんて言った?
『闇の樹海』と言えば、この領地の外れにある先が見えないほどの大森林じゃないか。
そんなところの開拓なんて出来るはずがない!
「あなた! 素晴らしい考えですわ!」
「そうだろう、そうだろう! 農業系スキルがあればひとりでも十分に開拓できるだろうからな!」
いやらしい笑みを浮かべながら父と母が大声で笑い合う。
ああ、これは開拓という名の厄介払いだな……。
「そうと決まれば、おい! この役立たずをさっさと気絶させろ!」
「おう、父上!」
父の命令を受けた次兄が僕の頭を思いっきりぶん殴る。
僕の体は床を転がり、意識を失ってしまった。
ああ、最後まで最低な家族だったよ……。
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