上 下
68 / 78
第4部 浅はかな戦争 第1章 戦争の始まり

68. アウラ領、3年経って

しおりを挟む
 あたしがアウラ領の領主になってから3年が経過した。
 その間にレイキ以外にも街は造ったし、いくつかの施策も行っている。
 一番大きなものは、隣の男爵家と共同研究を行っている、鍛冶魔法の再習得かな?
 あたし以外に鍛冶魔法を使える人は誰もいない。
 これを通常金属くらいなら素質次第で扱えるようにするのが研究課題だ。
 ヘファイストスも賛成してくれているし、あたしも鉄を精製するのに駆り出されずにすむから大助かりなんだよね。
 いまのところ何人かがある程度できる程度でしかないんだけど、お隣の男爵家からすれば大きな発展らしい。
 そっちの男爵家には鉄鉱石をメインとした鉱山があったんだけど、いままで冶金、つまり金属を精製してインゴットなどに変える能力が未発達だったようだ。
 実際、共同研究を始める前に鍛冶場を確認させてもらったんだけど、かなり質の悪い鉄しか作れていなかったものね。
 いまじゃ毎日少量とはいえど上質な鋼が生産されており、装備も充実し始めているのだとか。
 その男爵家と知り合いになったのも、魔物退治の救援依頼があたしのところに来た事だったし、早く体制を整えてもらいたいところだね。

 ともかく、そんなわけで領地の運営は順調。
 口を出したがっている貴族はいろいろといるらしいけど、あたしの後ろ盾は女王陛下でありエリスであり王家である。
 どれかひとつなら隙もできそうなところだけど、王家一丸となってあたしの味方だから隙ができないらしいんだ。
 それに叙爵のきっかけとなった妖精太陽銀と妖精月銀の献上のおかげで国の中枢部からも覚えがよく、あたしの領地で栽培された美味しい野菜は王家の実験栽培場でも栽培され、国内全土に展開できないか模索中。
 つまり、あたしの領地とは手を組んでいた方が美味しいって国は思っているわけなんだよね。
 だからこそ、他の貴族も一枚からみたいんだろうけど、なかなか隙もない。
 そんな状況がずっと続いている。
 あたしとしては国に納める税と領地の安定、家のみんなの安全が確保されていれば割とどうでもいいんだけどさ。

 そんな感じで叙爵から3年間はそれなりに苦労しながらも平穏無事に暮らしていた。
 問題が起きたのは3年目の冬が終わろうとしたときだ。
 ある日、王家からひとりの使者がやってきたんだよね。
 あたしが王家に献上した高速飛行型エンシェントフレームに乗っての特急便で。

「なんですって! リードアロー王国が攻め込んできた!?」

「はい。宣戦布告もないまま国境線を越え国境警備部隊を襲撃、これを撃破して進軍中とのことです」

「それって何日前の情報?」

「およそ10日前の情報になります。現在は王配殿下、第一王子殿下が主力部隊を伴い出撃し、各地の貴族部隊を集め救援に向かっている最中です」

 くっ、あの国、遂に仕掛けてきたわね。
 去年あたりから戦争に備えているんじゃないかって女王陛下が警戒していたけど、本当に仕掛けてくるだなんてバカじゃないの!?

「わかったわ。あたしもすぐに出撃を……」

「お待ちください、アウラ名誉伯爵」

「なに? あたしに加勢を求めに来たんじゃないの?」

「加勢はお願いしたいのですが、その前にアウラ名誉伯爵の領地の防備を固めてから来るようにとの女王陛下からのご命令です。ミラーシア湖防衛部隊もいますが、それが守れるのは各街が手一杯でしょう」

「なるほど。この館は守り切れないだろうという判断ね」

「そういう判断だと思われます」

「わかったわ。この館を守れるような手配をしてから援軍に向かうと女王陛下に伝えてちょうだい。なるべく早く駆けつけるわ」

「かしこまりました。よろしくお願いいたします」

 あたしに伝令を終えた兵士はエンシェントフレームに乗って帰っていった。
 さて、これからどうするかが問題よね。

「ねえ、ヘファイストス。自律型のエンシェントフレームって作れないの?」

『自律型? 自動思考による戦闘用機動兵か?』

「うーん、そうなるかな。作れる?」

『いや、作れない。過去の大戦でそれらを作った際、敵に支配を奪われて大きな損害が出たと記録にある。私にはそれらを作るための権限を与えられていない』

「あたしが命令しても……ダメなのよね」

『申し訳ないがそうなる』

「となると、困ったときのフェデラーとクスイ頼みか」

『あのふたりならば扱いやすいエンシェントフレームを用意することで、数日もあれば戦闘機動もできるようになるだろう。あのふたりの説得を頼む。私はエンシェントフレームの用意に取りかかる』

「そっちは任せたわ」

 さて、機体の方はヘファイストスに任せておけばいいとして、フェデラーとクスイをどうやって説得しよう。
 そう考えていたんだけど、ふたりを呼んで話をしたら簡単に話がまとまっちゃった。
 ふたりともエンシェントフレームに乗れるんだって。

「フェデラーもクスイもエンシェントフレームに乗れたんだね……」

「申し訳ございません。話す必要もないかと思い」

「はい。アウラ家ではアウラお嬢様がご自身でマナトレーシングフレームを扱うため、私どもの出番はないものだとばかり」

「いいえ。乗れるんだったら話は早いわ。ふたりとも、ヘファイストスのところに行って好みのエンシェントフレームをオーダーしてきて。ヘファイストスならどんなエンシェントフレームだってオーダーメイドで作ってくれるから」

「ほほ。オーダーメイドのエンシェントフレームとは。そのようなものを持てるだけでも自慢の品ですな」

「ええ。ですが、それを預かるということは決死の覚悟で家を守らねばならないと言う事。油断は出来ませんよ、フェデラー」

「もちろんですよ、クスイ。お嬢様、これにて失礼させていただきます」

「ええ。ふたりとも、他にもオーダーがあったらヘファイストスに伝えておいて。可能な範囲で対応するから」

「はい。それでは」

 ふたりは部屋を出ていってその足でヘファイストスの元を訪れ、それぞれの好みにあったエンシェントフレームをお願いしたようだ。
 また、それとは別に汎用型のエンシェントフレームを10機用意してもらうらしい。
 館に勤めている者たちの中で適性がある人を乗せて守りに当たらせるんだって。
 構わないけど無茶はさせないでね。
 これらの準備も2週間で完了しあたしは国の救援に向かえるようになった。
 さて、礼儀知らずの国はとっちめてやろうじゃないの!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

処理中です...