上 下
48 / 78
第3部 アウラ領、開発中 第1章 アウラ邸の食糧事情

48. 研究者エドアルド

しおりを挟む
 3人娘のことはフェデラーに丸投げした。
 クスイに紹介状を書いてそれを持っていってもらうらしい。
 帰り道はヘファイストスが乗せていってくれるから、少なくとも身分証明にはなるだろう。
 ヘファイストス、よろしくね。

「さて、女の子たちもヘファイストスに乗っていったし、あたしたちも本来の目的を果たしましょうか」

「そういたしましょう。農業研究所の先生に会うのでしたな。名前は確か……」

「エドアルドだよ、フェデラー。まずは農業研究所に向かおう」

 あたしたちは魔導車にまた乗り込み、農業研究所という場所を目指す。
 場所は街外れの方らしいから、ちょっと離れているかな?
 やがて農業研究所が見えてきたけど、結構大きな建物かな。

「あれが農業研究所だね」

「そのようですな。さすがは農業都市、立派な建物でございます」

「あたいも驚いたよ。さて、そのエドアルドって学者先生には会えるのかねぇ」

 駐車場で車を降りて受付で面会申し込みをしたんだけど断られてしまった。
 あたしが名誉伯爵のエンブレムを出しても一緒だから意地でもあわせてはくれないらしい。
 理由を聞いても教えてくれないし、ケチ。

 会えなかったので仕方がないから魔導車に戻り、フェデラーとシーナさんと今後の話し合いだ。

「どうしよう。会えなかったわけだけど」

「そうですな。それにしてもここまで頑なに会わせないとは」

「研究内容を明かしたくないっていうのもあるんだろうけどねぇ。それにしても、ここまで頑固だとはなにかあるのか」

「わからないけど……自宅の場所も聞いているし、行ってみる?」

「そうですな。そうしてみましょう」

「いれば儲けものだね」

 次の行動基準が決まったので研究者先生の自宅へと向かう。
 いるといいんだけどなぁ。
 エドアルドという研究者の家に着いたんだけど、なんというかこぢんまりとしている。
 小さな家に畑が広がっているのはシーナさんの家に似ているかも。

「いい感じの家だねぇ。エドアルドって先生も期待が持てるかもよ」

 シーナさんもこの家は気になっているみたい。
 ともかく家にいってみようか。
 フェデラーが家のドアをノックして声をかけてみた。

「失礼いたします。エドアルド様はご在宅ですか?」

 声をかけたけど反応はない。
 念のためもう一度声をかけてみたんだけど応答はなかった。
 やっぱり留守なのかな?
 そう考えて帰ろうとすると、家の裏にある畑からひとりの男性エルフがやってきた。

「うん? あんたら俺になにか用か?」

「失礼。あなたがエドアルド様ですかな?」

「ああ。俺がエドアルドだ。あんたらは?」

「私はフェデラー。こちらにおられるアウラ名誉伯爵の従者でございます」

「アウラ名誉伯爵? 確かミラーシア湖を譲り受けた伯爵様だったな。そんなお貴族様がなんの用だ?」

 あら、あたしのことも知っていたんだ。
 じゃあ、話は早いかも。

「初めまして、エドアルドさん。あたしがアウラよ。単刀直入に用件を言うけれど、あなたのことを雇いたいの。仕事はおいしいお野菜の研究。賃金はフェデラーと相談。どう?」

「ふむ。野菜の研究か。それは俺のやり方でやってもいいのか?」

「構わないわよ。こっちのシーナさんも好きなように新しい野菜の研究をしているもの」

「なるほど……条件面を詳しく聞こう」

 あら、意外と乗り気。
 家にいることもそうだし、ちょっと話を聞いてみましょう。
 家の中に案内されるとリビングにもたくさんの研究資料が置いてあった。
 本当に研究熱心な人なんだ。

「すまないな、座る場所も狭くってよ」

「気にしないで。でも、これだけの研究をひとりでしているの?」

「ああ、しているな。もう何年も家でだけ研究をしている」

「研究所の職員でしょ? なんで?」

「研究所の椅子なんてもうずっと座ってないよ。行ったってなんの仕事もない。どうせ、なにもできないなら家で研究した方が楽だろう?」

 なるほど、干されているって話は本当だったわけ。
 これなら引き抜きも楽そう。

「それで、どんな仕事をしてほしいんだ?」

「さっきも言ったけどお野菜の研究よ。やり方は任せるわ。基本的にミラーシア湖の守護者である水龍が手を貸してくれているから野菜も数日で採れるわよ」

「野菜が数日で採れる? 植物魔法でも使っているのか?」

「違うみたいよ。自然な育ち方を数日に圧縮しているみたい」

「そいつはすごい。その水龍っていうのは何者だ?」

「霊獣って言うのは聞いたけど……それ以上は知らないわ。気にならないし、気にしても仕方がないし」

「そいつもそうか。それで、本当に好きなように研究していいのか?」

「構わないわよ。シーナさんも好きなようにやっているもの」

「……本当か?」

 エドアルドさんも疑り深いね。
 シーナさんも乗り気で答えてくれるけど。

「そうだね。あたいも好きなようにやらせてもらっているよ。普通に花同士の受粉で品種改良も許してもらえているし、それでうまい野菜もできている。あたいはシェフも兼ねているけど、野菜研究も本当に楽しいさ」

「ほう。俺と同じ方法の品種改良法か。本当に雇ってもらえるならありがたいな」

「雇うって言っているじゃない。条件は相談だけど」

「よし、研究所に未練はないし雇ってもらおう。フェデラーって言ったか。条件について話をしようや」

「かしこまりました。条件についてですが……」

 よし、フェデラーとの話し合いまで持ち込めた。
 これで雇うこともできそう。
 新しい研究員もゲットだね!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

処理中です...