42 / 78
第3部 アウラ領、開発中 第1章 アウラ邸の食糧事情
42. 街に入るだけでもひと騒動
しおりを挟む
ミラーシア湖からしばらく北に行ったところに見えてきた街。
あそこがシャムネ伯爵領アグリーノの街かな?
「ねえ、あれがアグリーノの街?」
「ああ、そうだよ。前に人を使わせたときは門前払いされたが、今回はどうでるかね」
「お嬢様は名誉貴族といえども伯爵です。門前払いなどすれば、その者たちの首が物理的に飛びます」
「フェデラー、怖いこと言わないでよ……」
「冗談ではございませんよ、お嬢様」
「そういうことだ。外での言動には気をつけな、アウラ」
あたし、そんなにすごい権力を持っちゃったんだ。
気を付けよう……。
そんな決意を決めている間も魔導車は門へと近づいていき、やがて門の前へとたどり着いた。
そして予想通り一悶着起きたんだ。
うん、予想していたよ。
「なに? アウラ名誉伯爵の魔導車だと? そんな嘘が通るとでも思っているのか!」
「嘘ではございませんよ? 現にこの車にはアウラ様もご乗車いただいております。それでも道を譲りませんか?」
ついて早々フェデラーと門衛の激しいやりとりが始まった。
フェデラーもあたしが同乗しているからこそ一歩も退かない構えだね。
「道を譲るもなにもアウラ名誉伯爵など知らぬ!」
「これだから田舎者は……紋章官を呼んできなさい。この街にも代官か紋章官くらいいるでしょう? 紋章官がいなくとも代官が最新の紋章一覧を持っているはずです。アウラ様が名誉伯爵として登録されたのは1か月以上前。最新版の紋章一覧を持っていなければここの領主の恥となりますな」
「なにを……言わせておけば!」
「呼んでくる気はございませんか。それならば力尽くでも通りますが、いかがですかな?」
「堂々と門破りを宣言するか!?」
「アウラ様はエンシェントフレーム、それもマナトレーシングフレーム持ち。このような街ひとつ滅ぼすのに一晩もかかりません。同じ国に所属する者同士、争ってもなにも生み出しませんが?」
「うっ……だが、このようなくだらないことで代官様のお手を煩わせる訳には……」
ああ、代官を呼んでくると代官に迷惑がかかるから呼んで来たくなかったんだ。
じゃあ、あたしが出ていけば解決だね。
あたしが先に出ていけば、代官の手を煩わせるよりも激しい叱責が待っているはずだもの。
そのあとのことまでは知ーらない。
「なんだ、騒々しい」
「はっ! これは代官様!」
あ、先に代官が来ちゃった。
残念。
「それで、この騒ぎはなんだ?」
「は、はい! この者たちが自分たちはアウラ名誉伯爵家の者なのでここを通せと騒ぎ立てておりまして」
「アウラ名誉伯爵家? 本当か?」
「それは私には……」
「ふむ。そこの青年、本当かね」
「本当でございますとも。紋章をご覧になりますか」
「見せてもらおうか。その上で偽りだった場合には容赦せぬ」
「かしこまりました。アウラ様、こちらに」
やっとあたしの出番か、長かったー。
フェデラーにドアを開けてもらい、魔導車から降りるとマジックバッグから我が家のエンブレムを取り出して代官に渡す。
「はい、どうぞ」
「……ずいぶん気軽な。まて、いま紋章辞典で調べる」
代官は紋章辞典を開いて調べ始めたけれど、本当にあたしのエンブレムって載っているんだろうか?
いろいろ調べて紋章辞典を閉じた代官の顔はとてもいらだっていた。
「ええい! 伯爵位どころか子爵位にも男爵位にも載っておらぬではないか!」
代官は怒りにまかせたままあたしのエンブレムを地面に投げつけた。
あーあ、いいのかな、そんなことをして。
「……いいのですかな、そのような無礼を働いて?」
「なんだと!?」
「アウラ様は名誉伯爵。伯爵位の一覧には載っておりません」
「なに?」
「アウラ様のエンブレムは伯爵位一覧の前のページに載っております。確認なさい」
フェデラーに指摘され慌てた様子で紋章辞典を確認する代官。
そしてあたしのエンブレムを発見したのか、顔を青ざめさせていた。
「さて、あなたの働いた行為の意味はおわかりですかな?」
「あ、ああ、いや、これは……」
「名誉伯爵のエンブレムを地面に投げつける蛮行、許されるものではございません」
「あ、いや」
「この件は女王陛下にすぐさま報告させていただきます。衛兵、この者を牢につなぎ止めておきなさい」
「え、しかし……」
「この者を逃がせばこの街の衛兵すべてに連帯責任で罰が及びますよ。それがいやならば早く捕まえなさい!」
「は、はい!」
慌てて代官を捕縛する衛兵と抵抗せずに捕縛される代官。
どうなっているんだろう?
フェデラーは気にせず地面に投げつけられたエンブレムを拾い上げ、汚れを落としてからあたしに返してくるし。
「さて、邪魔者どもはいなくなりました。街に入りましょう」
「あ、うん。でも、いいの、あれ?」
「構いません。それから、明日以降で構いませんので女王陛下に親書をお渡し願います。あの者の処罰をしていただかねば」
「あ、いいけど……そういうのって直接女王陛下に渡していいの?」
「普通はできませんな。お嬢様だからこそできる技です」
「いいのかな、それって……」
「気にすることはありません。それでは入りましょう」
「あ、うん……」
あたしは引っかかるものがありつつも魔導車の中に戻る。
あの代官、処刑されたりしないよね?
大丈夫だよね?
あそこがシャムネ伯爵領アグリーノの街かな?
「ねえ、あれがアグリーノの街?」
「ああ、そうだよ。前に人を使わせたときは門前払いされたが、今回はどうでるかね」
「お嬢様は名誉貴族といえども伯爵です。門前払いなどすれば、その者たちの首が物理的に飛びます」
「フェデラー、怖いこと言わないでよ……」
「冗談ではございませんよ、お嬢様」
「そういうことだ。外での言動には気をつけな、アウラ」
あたし、そんなにすごい権力を持っちゃったんだ。
気を付けよう……。
そんな決意を決めている間も魔導車は門へと近づいていき、やがて門の前へとたどり着いた。
そして予想通り一悶着起きたんだ。
うん、予想していたよ。
「なに? アウラ名誉伯爵の魔導車だと? そんな嘘が通るとでも思っているのか!」
「嘘ではございませんよ? 現にこの車にはアウラ様もご乗車いただいております。それでも道を譲りませんか?」
ついて早々フェデラーと門衛の激しいやりとりが始まった。
フェデラーもあたしが同乗しているからこそ一歩も退かない構えだね。
「道を譲るもなにもアウラ名誉伯爵など知らぬ!」
「これだから田舎者は……紋章官を呼んできなさい。この街にも代官か紋章官くらいいるでしょう? 紋章官がいなくとも代官が最新の紋章一覧を持っているはずです。アウラ様が名誉伯爵として登録されたのは1か月以上前。最新版の紋章一覧を持っていなければここの領主の恥となりますな」
「なにを……言わせておけば!」
「呼んでくる気はございませんか。それならば力尽くでも通りますが、いかがですかな?」
「堂々と門破りを宣言するか!?」
「アウラ様はエンシェントフレーム、それもマナトレーシングフレーム持ち。このような街ひとつ滅ぼすのに一晩もかかりません。同じ国に所属する者同士、争ってもなにも生み出しませんが?」
「うっ……だが、このようなくだらないことで代官様のお手を煩わせる訳には……」
ああ、代官を呼んでくると代官に迷惑がかかるから呼んで来たくなかったんだ。
じゃあ、あたしが出ていけば解決だね。
あたしが先に出ていけば、代官の手を煩わせるよりも激しい叱責が待っているはずだもの。
そのあとのことまでは知ーらない。
「なんだ、騒々しい」
「はっ! これは代官様!」
あ、先に代官が来ちゃった。
残念。
「それで、この騒ぎはなんだ?」
「は、はい! この者たちが自分たちはアウラ名誉伯爵家の者なのでここを通せと騒ぎ立てておりまして」
「アウラ名誉伯爵家? 本当か?」
「それは私には……」
「ふむ。そこの青年、本当かね」
「本当でございますとも。紋章をご覧になりますか」
「見せてもらおうか。その上で偽りだった場合には容赦せぬ」
「かしこまりました。アウラ様、こちらに」
やっとあたしの出番か、長かったー。
フェデラーにドアを開けてもらい、魔導車から降りるとマジックバッグから我が家のエンブレムを取り出して代官に渡す。
「はい、どうぞ」
「……ずいぶん気軽な。まて、いま紋章辞典で調べる」
代官は紋章辞典を開いて調べ始めたけれど、本当にあたしのエンブレムって載っているんだろうか?
いろいろ調べて紋章辞典を閉じた代官の顔はとてもいらだっていた。
「ええい! 伯爵位どころか子爵位にも男爵位にも載っておらぬではないか!」
代官は怒りにまかせたままあたしのエンブレムを地面に投げつけた。
あーあ、いいのかな、そんなことをして。
「……いいのですかな、そのような無礼を働いて?」
「なんだと!?」
「アウラ様は名誉伯爵。伯爵位の一覧には載っておりません」
「なに?」
「アウラ様のエンブレムは伯爵位一覧の前のページに載っております。確認なさい」
フェデラーに指摘され慌てた様子で紋章辞典を確認する代官。
そしてあたしのエンブレムを発見したのか、顔を青ざめさせていた。
「さて、あなたの働いた行為の意味はおわかりですかな?」
「あ、ああ、いや、これは……」
「名誉伯爵のエンブレムを地面に投げつける蛮行、許されるものではございません」
「あ、いや」
「この件は女王陛下にすぐさま報告させていただきます。衛兵、この者を牢につなぎ止めておきなさい」
「え、しかし……」
「この者を逃がせばこの街の衛兵すべてに連帯責任で罰が及びますよ。それがいやならば早く捕まえなさい!」
「は、はい!」
慌てて代官を捕縛する衛兵と抵抗せずに捕縛される代官。
どうなっているんだろう?
フェデラーは気にせず地面に投げつけられたエンブレムを拾い上げ、汚れを落としてからあたしに返してくるし。
「さて、邪魔者どもはいなくなりました。街に入りましょう」
「あ、うん。でも、いいの、あれ?」
「構いません。それから、明日以降で構いませんので女王陛下に親書をお渡し願います。あの者の処罰をしていただかねば」
「あ、いいけど……そういうのって直接女王陛下に渡していいの?」
「普通はできませんな。お嬢様だからこそできる技です」
「いいのかな、それって……」
「気にすることはありません。それでは入りましょう」
「あ、うん……」
あたしは引っかかるものがありつつも魔導車の中に戻る。
あの代官、処刑されたりしないよね?
大丈夫だよね?
0
お気に入りに追加
172
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる