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第1部 鍛冶の炎、目覚める 第4章 第一王女 エリクシール = マナストリア

18. 装備完成

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 エリクシール殿下の装備作りだけど1日では終わらず2日かけることになった。
 1日目でできたのはレイピアと短剣だけだったんだよね。
 色の変わるペンも貸したし、鎧やライフル、ドレスのデザインを考えてきてくれるということなのでそれを期待しよう。
 ちなみに、エリクシール殿下たちが帰ったあとはヘファイストスと一緒に魔導銃の作成練習だったよ。
 今の時代で使われている魔導銃とヘファイストスが知っている魔導銃は仕組みが異なるみたいでそれを覚えるのにちょっと苦労した。
 覚えるために私用のライフルにハンドガン、ショットガン、キャノン、マシンガン、ミニガンといろいろ作らされたからね。
 装備は充実したけれど、どこで使うのよ、これ……。

 日が明けて翌日、朝早くからエリクシール殿下一行がやってきて早速装備作りとなった。
 昨日護衛やメイドたちとともに考えた装備のデザインはとても素晴らしく、短剣も鎧もドレスもそれに見合った造りなったよ。
 まあ、ドレスは色違いやデザイン違いで何十着も作ったし、途中からお互いに慣れてきたというのもあるんだけどさ。

「はあ、この装備たち素晴らしいです。短剣も装飾品のように気品がありますし、鎧だってこのまま式典に参列できます。ドレスなんて身の安全のためにと着替えさせていただきましたが、着るときの手間もさほどかからず動きやすい造りになっているだなんて」

 エリクシール殿下も今日作った装備には大満足のようだね。
 ライフルは結構無骨なデザインになったんだけど、袖の中に隠しておけるような大きさのピストルも作ったし、護身用としてはこっちがメインなんだろう。
 ピストルのデザインは優雅な色使いだったからね。

「それにしても、このドレスは本当に素晴らしいです。試しに1着を護衛の騎士に切らせて見ましたが傷どころかシワすら付きませんでした。打ち付けたときの音もしなかったということは衝撃も吸収されたのでしょう。それを何十着も作っていただけるだなんて申し訳ない限りです」

「気にしないでください、エリクシール殿下。あたしとしては余り物の妖精銀関係を使っただけですから」

「そうはおっしゃいましても、本来妖精銀はとても高値なんですよ? 剣や鎧には妖精太陽銀と妖精月銀を惜しみなく使わせていただきました。我が王家ですらこのような豪華な装備は作れません。まして、金属を柔軟な布に変える技術などございませんし」

「あーそれ。あたしも鍛冶魔法でできるんですけど原理はよくわからないんですよ。ヘファイストス、説明できる?」

 あたしとしても金属が布になる理由は知りたい。
 ヘファイストスが教えても構わないというのならいま教えてもらおう。

『構わない。まずは金属を布を織る時と同じように糸にする。このとき普通に糸にしただけでは金属の硬さが残ってしまうので特殊なエンチャントを施すのだ。そのあとは布を織るだけだな』

 ふーん。
 言葉に表すと簡単そうだけど、実際にやるとなると難しそう。
 そもそも、金属を糸にするのだってどうやればいいんだろうね?

「金属を糸にですか……」

 エリクシール殿下はまだ気になるみたい。
 これ以上のことをヘファイストスは話してくれるのかな?

『我やアウラは鍛冶魔法で済ませているから問題なく作れる。鍛冶魔法なしで作るには難しいだろうな。糸の細さまで金属を引き延ばし、なおかつ均一な細さで切れないようにするのは難しかろう』

「はい。素人ですが想像もつきません」

『我の時代でも鍛冶魔法なしで作る場合、錬金術師が金属を糸に加工しエンチャントをかけていた。鍛冶師が関わるのは鉱石を純粋な金属に変えるところまでだな』

「なるほど、そういう手段が……」

『我も作業を実際に見たことがあるが、錬金術師でも繊細な作業だ。太さが均一でなければならず、なおかつ切れるようではいけない。我やアウラは鍛冶魔法で糸を5本撚り合わせて作っているが、錬金術師たちは3本で作っていたな』

「そんな工夫もしていたんですね。気付きませんでした」

『知的好奇心を持つことはいいことだ。秘匿することは話せないが、それ以外ならば話せる範囲で話そう。ほかになにが知りたい?』

「では、私のドレスの下着となっている胸当てと胴回りのパーツについて……」

 おやおや、ヘファイストスもエリクシール殿下が大分気に入ったようで。
 エリクシール殿下の質問に対してヘファイストスがどんどん答えていく。
 ドレスの胸当てはあたしの下着と同じ物らしいけれど、エリクシール殿下の胸って……本当にささやかなものだから少しでも強調するための工夫がなされているらしい。
 あと、胴回りのパーツは不意打ちされたときに腹部を守るためのものだって。
 そのあともエリクシール殿下はヘファイストスにたくさんの質問をしていき、ヘファイストスも答えられる範囲内で答えていった。
 ヘファイストスが隠したいことってあたしの装備に使われている素材やヘファイストスの時代にあった素材、武器の情報、モンスターの情報みたいだね。
 あたしには気前よく魔導銃の作り方を教えてくれたけど、それはパイロットの特権なのかな?
 結局、ふたりの話は昼頃まで続き、エリクシール殿下はとても満足げな表情を浮かべていた。

「ああ、古代の知識とはこれほど優れていたのですね。私もマナトレーシングフレームに乗っていますが、古代文明の知識を聞いても生産技術などは詳しく知らないそうですので」

『我は後方支援用に作られた機械兵だからな。前線の情報よりも兵站の情報の方が多い』

「それでこれほどの知識が……この知識を私が聞いた分しか持ち帰ることができないことが残念です」

『ふむ……アウラ、提案があるのだが』

「なに?」

『次の目的地だが、エリクシールの国ではダメだろうか?』

「エリクシール殿下の? そこまで気に入ったの?」

『国を導くものが軍を支える情報に耳を傾けるとは珍しい。正直、気に入った』

 ふむ、ヘファイストスがそこまで個人のことを気に入るだなんて驚きだね。
 でも、次の目的地も決まっていないし、いい加減この国も危険そうだから離れる算段はつけておいた方がいいか。

「わかった。次の目的地はマナストリア聖華国ね」

「本当ですか? いらしていただけるので?」

「よく考えたら今回の依頼って報酬を決めていないもの。そっちの国元に帰ってからゆっくり決めましょう?」

「ああ、そうでした。報酬については必ずお支払いいたします。その証として、これを受け取ってください」

 エリクシール殿下は耳につけていたイヤリングを外すと、あたしに手渡してくれた。
 これってどういう意味があるんだろう?

「それは私が成人の儀式でいただいたイヤリングです。それがあれば身分証になるでしょう」

「そんな大切なもの預かっていいんですか?」

「はい。アウラ様にはぜひ私の国に来ていただきたいのです。私もすてきなお友達が増えそうですし」

「お友達?」

 あたしとエリクシール殿下が?
 さすがにそれは腰が引けるかも……。

「うふふ。いまはまだお知り合いということで。いずれはお友達になりましょう?」

 エリクシール殿下って意外と押しが強いかも。
 あたしも行くときは覚悟しておかないといけないかなぁ。
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