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第1部 鍛冶の炎、目覚める 第4章 第一王女 エリクシール = マナストリア

17. エリクシールの想いと装備

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 あたしに質問されて口ごもってしまったエリクシール殿下だけど、しばらくして重い口を開いてくれた。

「……私には力が必要なのです。二度と悲劇を繰り返さないためにも」

「悲劇?」

 あたしにはよくわからないから思わず聞き返してしまう。
 それもエリクシール殿下は承知の上だったようで、きちんと説明してくれた。

「はい、悲劇です。アウラ様は私がこの国の王から求婚され断ったことはご存じですか?」

「ええと、はい。事実なんですね」

「事実です。あの男、本当に見境のない。私はあの男からの求婚を断り、関税の件も含めこれ以上不埒な真似をするならば国交を途絶すると言い残して立ち去りました」

 うわぁ、そこまでこじれていたんだ。
 この国の新しい王様ってそこまでバカなの?

「その翌日です。私とともにこの国を訪れていたメイドたち10名が帰らぬ人となって発見されたのは」

「それって……」

「はい、暗殺です。その翌日、さらに翌日も暗殺が行われ、1週間後私が狙われた時点で賊を捕らえることができましたが、それまでの間に50人以上が殺害されました」

「犯人はわかったんですか?」

「私を狙った賊と同じ手の者だそうです。つまり、この国の暗部の者だと。私を怯えさせ、不利な条件での交渉を迫ろうとしていたのでしょう。1週間で私の暗殺に切り替わるあたり、この国の頭脳は短気なようですが」

 エリクシール殿下を怯えさせるためだけにそれだけの人を殺したのか。
 本当に救えない国だね。
 あれ、でも……。

「あの、エリクシール殿下。それと装備を強くすることはまた別の問題では?」

「……別の問題なのはわかっております。ですが、私が暗殺されそうになった時も私をかばい犠牲になった者がいます。せめて、かばわれなくとも自分の身を守れるくらいの強さはほしいのです」

「うーん……」

「それではダメでしょうか?」

「……ヘファイストス?」

 困ったな。
 エリクシール殿下の気持ちもわかる。
 ただ、強い装備を持ったからといって解決する問題でもないし。
 強い装備を持ったことで安易に危険に身をかざしてもいけない。
 国のお姫様なんだから守られることも役目のひとつだもの。

『作ってやってはどうだ? 我の時代では王族だろうと装備を持ち前線で戦うものだった。実際に使うかどうかはともかく、身の安全を考え、よい装備を調えておくという心構えは素晴らしい』

「そういう考え方もありか……」

 装備を持ったら使いたくなるものだけど、そこは自分や周りの人が押さえてもらわないといけないかな。
 よし、決めた!

「わかりました。装備一式作りましょう」

「本当ですか! ありがとうございます!」

「ただ、実際に使う機会はあまりなしにしてください。いい装備は作れますけど、王族が実戦に出てもいいものじゃないでしょうから」

「それは承知しております。それで、先ほど言った装備は作れますか?」

 レイピアに短剣、マジックライフル、魔法鎧、ドレスか。
 レイピア、短剣、魔法鎧は私がなんとかなるし、マジックライフルとドレスは最悪ヘファイストス頼みかな。

「ヘファイストスの協力があれば大丈夫だと思います。まずはレイピアから作りましょう。スペックは強い方がいいんですよね?」

「はい!」

 強い方がいい、か。
 恐ろしく強い装備になるけどいいのかな?

「それで、アウラ様。装飾はどこまで細かくできますか?」

「イメージが細かければどこまでも。作り直しもできるはずですし、試してみましょう」

「よろしくお願いいたします」

 妖精太陽銀と妖精月銀を取り出して早速レイピア作りを始める。
 妖精太陽銀は淡く金色に、妖精月銀は淡く青色に輝いているからこの時点でコントラストが素晴らしい。
 エリクシール殿下も山となった妖精太陽銀と妖精月銀を見るのは初めてらしく、お供の人たちと一緒に目を丸くしていたよ。
 さて、こうしてレイピア作りが始まったわけだけど……。

「……違います。これじゃありません」

「うーん、うまくいきませんね」

「まさか、これだけの妖精太陽銀と妖精月銀があるとは思いもよらず。純妖精太陽銀と純妖精月銀を使った装備となると想像するだけでも大変です」

 そう、イメージがうまく伝わってこなくてレイピアを作る段階からかなり失敗を重ねていた。
 エリクシール殿下も妖精銀に混ぜられる程度の量しかないと考えていたみたいで、山と積まれた妖精太陽銀と妖精月銀を使った装備を考えるのに一苦労だったみたいなんだ。
 さて、どうしたものか。

「困りました。儀礼用の装飾剣と訓練用の剣しか触ったことがないので、実際に自分が持つ剣となるとイメージが湧かず……」

「うーん。絵にでもしてみましょうか」

「絵に?」

「はい。前に古代遺跡から面白いペンを発掘していたんですよ」

 あたしが取り出したのは細い棒の先が黒くなっている物。
 これだけだとなんだかわからないだろうけど、あたしが手に持ち別の色を思い描くと先の色もそれにあわせて変わった。
 エリクシール殿下はこれにビックリしているね。

「アウラ様、これは?」

「うーん。インクの色を変えられるペン、かな。これを持って自分のほしい色を念じるとその色が出るようになるんです。これを使ってレイピアの大まかなデザインを決めましょう」

「はい!」

 あたしはバッグの中から紙も取り出してエリクシール殿下に渡す。
 エリクシール殿下はロマネや護衛の騎士たちの武器を参考にしていろいろ考えているみたい。
 何度も描いては別のものを、また描いては別のものをとやっているうちにおおよそのデザインは決まったようだ。
 1時間経っちゃったけど。

「お待たせいたしました。今度こそ大丈夫です!」

「気負わなくても大丈夫ですよ、エリクシール殿下。焦らずにひとつひとつ作っていきましょう」

「はい!」

 そして再開したレイピア作り。
 今度こそイメージが鮮明に伝わってきた。
 もちろん、できあがりも細かい装飾が施された素晴らしい逸品になったよ。

「できました。これでいいですか?」

「はい! あの、どの程度の物なら切ることができますか?」

「魔銀程度ならスパスパ切れます。妖精銀って魔銀鉱や聖銀鉱よりも硬いですか?」

「ああ、いえ。魔力が流れていない妖精銀は魔銀鉱よりも柔らかいです。しかし、魔銀ですら物ともしませんか」

「もちろん命晶核は使っていますし、自己再生のエンチャントも組み込みました。刃が欠けたり罅が入ったり折れたりしても時間が経てば元通りです。ちなみに、直るのは柄側からです」

「それは恐ろしいです。ちなみに、試し切りってできますか?」

「聖銀鉱の山でいいですか? その剣に魔力を込めながら全力で突いちゃっても大丈夫ですから。多分貫通はしないはずです。多分……」

「ええと?」

「まあ、試してください。それでは聖銀鉱の山を置きますね」

 あたしが聖銀鉱の山を取り出して駐機場に置くとエリクシール殿下を始め、これを見たことが無い人は唖然としていたよ。
 並みのゴーレム程度の山を貫通するかしないかってどれだけ強力な武器なんだって話だよね。

「あの、これって本当に大丈夫なんですか、アウラ様?」

「大丈夫ですよ。勢い余って攻撃の余波が向こう側まで貫通しないかを警戒しているくらいです」

「ええと……そんなにすごい武器なんですか?」

「試してみればわかります」

「は、はい。では……やぁ!」

 エリクシール殿下がレイピアに魔力を込めて突きを放つと、魔力を受け取ったレイピアが魔法の刃を展開し、魔力の矢を作り出して聖銀鉱の山を貫いた。
 ……貫通したけど周りに被害は出なかったから問題なし!

「あの、アウラ様。このレイピア、エンシェントフレームを倒すこともできませんか?」

「できるかもしれません。ですので、使う時は加減を考えてください」

「はい……」

 うーん、やっぱり強すぎたかな。
 でも、強い方がいいってオーダーだし、そこは慣れてもらおう。
 個人認証もかけたからエリクシール殿下にしか使えない武器になっているし。
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