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第1部 鍛冶の炎、目覚める 第1章 アウラとヘファイストス
3. アウラ、鍛冶の灯火を手に入れる
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ヘファイストスと話をし、とりあえずということで試してみることになった。
コクピットへの乗降口は機体後部、首の後ろあたりにあるらしいのでそこまで飛んでいく。
横の方にある階段を使って上るように指示されたけど、空を飛べる白天使族なら階段を使って上るよりも飛んだ方が早いもんね。
さて、搭乗口とやらはどこにあるのかな?
「ヘファイストス、搭乗口はどこにあるの?」
『少し待ってくれ。いま開放する』
ヘファイストスの返事があったあと、首の真後ろあたりに切れ目が入り扉が左右に開いた。
あそこが搭乗口みたい。
早速行ってみたけど、中にあるのはふたつの水晶球とそれに挟まれたひとつのシートのみ。
あのシートに座ればいいのかな?
「ねえ、あのシートに座ればいいの?」
『そうだ。シートに座り、左右にある水晶球に手をかざして魔力を流してくれ。起動に成功すれば全面に周囲の景色が浮かび上がる』
「了解。それじゃあ、試してみるね」
『よろしく頼む』
ヘファイストスの指示通り私はシートに腰掛け、両手を水晶球に乗せて魔力を流した。
すると、最初の一瞬だけ魔力が弾かれるような感触があったけど、そのあとはスルスルと私の中から魔力が吸い出されていく。
ちょ!?
こんなに魔力を失ったら意識も失っちゃう!?
あ、ダメだこれ。
もう無理……。
********************
『……ター、マスター』
「う、ううん……」
『気がついたか、マスター』
「うん? ヘファイストス? あれ、周囲が明るくなって……」
『無事起動に成功したようだ。これでアウラは我、いや、私ヘファイストスのパートナーであり、マスターとなる』
「え? 起動に成功したの?」
『周囲のモニターが起動しているのがその証拠だ。周囲を見てみるといい』
ヘファイストスに言われて周囲を見渡すと全面が周囲の光景を映し出している。
そして、真っ黒だったヘファイストスの色が赤やオレンジに染まっていた。
なにこれ、かっこいい!
「すごい! さすが魔力切れを起こしただけはある!」
『……その反動でマスターは1週間も眠り続けていたわけだが』
え!?
1週間も寝ていた!?
慌てて体の臭いを確認してみたけど、体も臭くないしお漏らしとかもした様子がない。
これって一体?
『マスターが目覚めるまでの間、マスターは仮死状態になってもらっていた。生命活動が停止していたのだから生理現象は起こらないぞ?』
「……なんであたしの思考が読めるのよ?」
『精神を共有しているパートナーなんだから当然では?』
「その共有、切りなさい」
『それはできない。この共有はマスターの命を守るためのものでもある』
「くっ……じゃあ、普段は思考を読まないように! いいわね!!」
『従おう。ところで私の操縦方法はわかるか? 先に知識の中にすり込んでおいたのだが……』
知識にすり込むとかマナトレーシングフレームって恐ろしいゴーレムね。
いちいち覚えなくて済むのはいいけれど、頭がパンクしないようにしなくちゃ。
ええと、動かし方は……あれ?
「ねえ、動かし方は歩きたい方向や飛びたい方向を考えるだけってなっているけど、あっているの?」
『あっている。私を動かすには私を手足のように動かすことを考え続ければいいのだ』
「そう。それなら簡単ね」
『それほど簡単でもないのだが……』
「そうなの? とりあえず試してみましょう」
『わかった。ハンガーのロックを解除する』
ヘファイストスの宣言で各部を拘束していたロックが解除された。
さて、まずは一歩歩いてみよう……って!?
私が足を踏み出す前にヘファイストスは膝から崩れ落ちてしまった。
なんで!?
『やはりダメだったか』
「ヘファイストス! 納得していないで説明!」
『いまする。私が立つには〝立つこと〟を考えていなければいけない』
「え? そんなの簡単じゃ……」
『膝の感覚、全身のバランス、重心の位置。これらをすべて意識していなければ、立つことすらままならないぞ』
「うっ……」
そうか、あたしは立つことなんて軽く考えていたけど、本当ならそれにもいろいろと考えなくちゃいけないことはあるんだ。
ちょっと甘く見すぎていたかも。
『しばらくは練習が必要だな。幸い食料には事欠かない。この格納庫も走り回れるだけの広さがあるし、生活スペースの清掃はいまさせている。長い目で見て訓練するとしよう』
「はい……」
くっそー!
今日中に立つことだけでもできるようになってやるんだから!!
********************
「よっ、はっ、ほっ!」
『攻撃の回避も自在になったな。これならばもう操縦訓練もいらないだろう』
「……半年以上こもりっきりだからね」
ヘファイストスと出会って半年以上が過ぎた。
その間、ひたすらヘファイストスを使った操縦訓練をしていたんだけど、立てるようになるだけで1週間、歩けるようになるのは1カ月、走り回るには2カ月半、モンスターとの戦いを想定した訓練にはいままでかかったよ。
なお、飛行もできるのでそっちの訓練もしたけど、こっちは半月かからなかった。
ヘファイストスの見立てではあたしが空を飛べる白天使族だということが関係しているそうな。
早く終わったのだからなにも問題ないのだけどね。
「それにしても、ときどき地上に出て太陽や月を見ていたけど、森の中とかはしばらく歩いていないわ」
『それは済まなかった。少し歩いてくるか?』
「いまさらいいわよ。それに、あなたに乗って外に出ることができるんでしょう?」
『ああ。座標転移装置がこの格納庫内にある。一方通行になってしまうが外に出られるぞ』
「了解。準備ができたら出発しましょうか」
『承知した。施設内のすべての物資をかき集めてくる。6時間ほど待っていてくれ』
「6時間……このまま昼寝していていい?」
『構わないぞ。積み込みが終わったら起こす』
「ありがとう。それじゃ、よろしく」
あたしはそのままコクピットのシートで昼寝を始め、ヘファイストスに起こされたときには本当に6時間近く経っていた。
この機体、時計までついているのよね。
便利でいいわ。
「準備は済んだ? 出発しましょう」
『わかった。座標転移装置、起動……む?』
「どうしたの? 故障?」
『いや、転移指定座標の上に多数の建物が建てられている。これでは転移できない』
「転移座標とやらをずらすことは?」
『不可能だ。決まった地点にしか移動できない仕掛けとなっている』
意外と不親切な……。
古代魔法文明の遺産なんだから、もう少し気を利かせなさいよ。
『む。空中には移動できるようだ。移動してすぐに飛行体勢に入れば下にある建物も踏み潰さず済み、問題ないだろう』
「解決方法があるならそれで。飛行は慣れているしね」
『では、その方針で。転移まで3、2,1』
「飛行開始!」
あたしは目の前の景色が変わると同時にヘファイストスを飛行させた。
眼下を見ると確かにたくさんの建物が建てられている。
って言うか、これは街?
「……ここ、街じゃない?」
『そうなのか?』
「そうよ!」
うわぁ、どうしよう!?
街の上にいきなりエンシェントフレームが出現するなんて攻めてきたと考えられても仕方がない案件じゃない!
いきなりお尋ね者はごめんよ!
コクピットへの乗降口は機体後部、首の後ろあたりにあるらしいのでそこまで飛んでいく。
横の方にある階段を使って上るように指示されたけど、空を飛べる白天使族なら階段を使って上るよりも飛んだ方が早いもんね。
さて、搭乗口とやらはどこにあるのかな?
「ヘファイストス、搭乗口はどこにあるの?」
『少し待ってくれ。いま開放する』
ヘファイストスの返事があったあと、首の真後ろあたりに切れ目が入り扉が左右に開いた。
あそこが搭乗口みたい。
早速行ってみたけど、中にあるのはふたつの水晶球とそれに挟まれたひとつのシートのみ。
あのシートに座ればいいのかな?
「ねえ、あのシートに座ればいいの?」
『そうだ。シートに座り、左右にある水晶球に手をかざして魔力を流してくれ。起動に成功すれば全面に周囲の景色が浮かび上がる』
「了解。それじゃあ、試してみるね」
『よろしく頼む』
ヘファイストスの指示通り私はシートに腰掛け、両手を水晶球に乗せて魔力を流した。
すると、最初の一瞬だけ魔力が弾かれるような感触があったけど、そのあとはスルスルと私の中から魔力が吸い出されていく。
ちょ!?
こんなに魔力を失ったら意識も失っちゃう!?
あ、ダメだこれ。
もう無理……。
********************
『……ター、マスター』
「う、ううん……」
『気がついたか、マスター』
「うん? ヘファイストス? あれ、周囲が明るくなって……」
『無事起動に成功したようだ。これでアウラは我、いや、私ヘファイストスのパートナーであり、マスターとなる』
「え? 起動に成功したの?」
『周囲のモニターが起動しているのがその証拠だ。周囲を見てみるといい』
ヘファイストスに言われて周囲を見渡すと全面が周囲の光景を映し出している。
そして、真っ黒だったヘファイストスの色が赤やオレンジに染まっていた。
なにこれ、かっこいい!
「すごい! さすが魔力切れを起こしただけはある!」
『……その反動でマスターは1週間も眠り続けていたわけだが』
え!?
1週間も寝ていた!?
慌てて体の臭いを確認してみたけど、体も臭くないしお漏らしとかもした様子がない。
これって一体?
『マスターが目覚めるまでの間、マスターは仮死状態になってもらっていた。生命活動が停止していたのだから生理現象は起こらないぞ?』
「……なんであたしの思考が読めるのよ?」
『精神を共有しているパートナーなんだから当然では?』
「その共有、切りなさい」
『それはできない。この共有はマスターの命を守るためのものでもある』
「くっ……じゃあ、普段は思考を読まないように! いいわね!!」
『従おう。ところで私の操縦方法はわかるか? 先に知識の中にすり込んでおいたのだが……』
知識にすり込むとかマナトレーシングフレームって恐ろしいゴーレムね。
いちいち覚えなくて済むのはいいけれど、頭がパンクしないようにしなくちゃ。
ええと、動かし方は……あれ?
「ねえ、動かし方は歩きたい方向や飛びたい方向を考えるだけってなっているけど、あっているの?」
『あっている。私を動かすには私を手足のように動かすことを考え続ければいいのだ』
「そう。それなら簡単ね」
『それほど簡単でもないのだが……』
「そうなの? とりあえず試してみましょう」
『わかった。ハンガーのロックを解除する』
ヘファイストスの宣言で各部を拘束していたロックが解除された。
さて、まずは一歩歩いてみよう……って!?
私が足を踏み出す前にヘファイストスは膝から崩れ落ちてしまった。
なんで!?
『やはりダメだったか』
「ヘファイストス! 納得していないで説明!」
『いまする。私が立つには〝立つこと〟を考えていなければいけない』
「え? そんなの簡単じゃ……」
『膝の感覚、全身のバランス、重心の位置。これらをすべて意識していなければ、立つことすらままならないぞ』
「うっ……」
そうか、あたしは立つことなんて軽く考えていたけど、本当ならそれにもいろいろと考えなくちゃいけないことはあるんだ。
ちょっと甘く見すぎていたかも。
『しばらくは練習が必要だな。幸い食料には事欠かない。この格納庫も走り回れるだけの広さがあるし、生活スペースの清掃はいまさせている。長い目で見て訓練するとしよう』
「はい……」
くっそー!
今日中に立つことだけでもできるようになってやるんだから!!
********************
「よっ、はっ、ほっ!」
『攻撃の回避も自在になったな。これならばもう操縦訓練もいらないだろう』
「……半年以上こもりっきりだからね」
ヘファイストスと出会って半年以上が過ぎた。
その間、ひたすらヘファイストスを使った操縦訓練をしていたんだけど、立てるようになるだけで1週間、歩けるようになるのは1カ月、走り回るには2カ月半、モンスターとの戦いを想定した訓練にはいままでかかったよ。
なお、飛行もできるのでそっちの訓練もしたけど、こっちは半月かからなかった。
ヘファイストスの見立てではあたしが空を飛べる白天使族だということが関係しているそうな。
早く終わったのだからなにも問題ないのだけどね。
「それにしても、ときどき地上に出て太陽や月を見ていたけど、森の中とかはしばらく歩いていないわ」
『それは済まなかった。少し歩いてくるか?』
「いまさらいいわよ。それに、あなたに乗って外に出ることができるんでしょう?」
『ああ。座標転移装置がこの格納庫内にある。一方通行になってしまうが外に出られるぞ』
「了解。準備ができたら出発しましょうか」
『承知した。施設内のすべての物資をかき集めてくる。6時間ほど待っていてくれ』
「6時間……このまま昼寝していていい?」
『構わないぞ。積み込みが終わったら起こす』
「ありがとう。それじゃ、よろしく」
あたしはそのままコクピットのシートで昼寝を始め、ヘファイストスに起こされたときには本当に6時間近く経っていた。
この機体、時計までついているのよね。
便利でいいわ。
「準備は済んだ? 出発しましょう」
『わかった。座標転移装置、起動……む?』
「どうしたの? 故障?」
『いや、転移指定座標の上に多数の建物が建てられている。これでは転移できない』
「転移座標とやらをずらすことは?」
『不可能だ。決まった地点にしか移動できない仕掛けとなっている』
意外と不親切な……。
古代魔法文明の遺産なんだから、もう少し気を利かせなさいよ。
『む。空中には移動できるようだ。移動してすぐに飛行体勢に入れば下にある建物も踏み潰さず済み、問題ないだろう』
「解決方法があるならそれで。飛行は慣れているしね」
『では、その方針で。転移まで3、2,1』
「飛行開始!」
あたしは目の前の景色が変わると同時にヘファイストスを飛行させた。
眼下を見ると確かにたくさんの建物が建てられている。
って言うか、これは街?
「……ここ、街じゃない?」
『そうなのか?』
「そうよ!」
うわぁ、どうしよう!?
街の上にいきなりエンシェントフレームが出現するなんて攻めてきたと考えられても仕方がない案件じゃない!
いきなりお尋ね者はごめんよ!
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