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第1部 『神樹の里』 第4章 反転攻勢

25.第一位創造魔法使い ウィシク

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 トマージュだかトメィトだか知りませんがこの男の死体も炎で焼き払い、あとは各所で戦っている幻獣たちと合流して退散です。

 そう考えていたそのとき、僕とリンに向けて2本の首輪が飛んできました。

 その力はなかなか強いものでしたが僕の創造魔法に比べればはるかに劣るもの。

 僕とリンに触れた時点で崩れ落ちます。

「……ふむ。トマージュが殺されただけのことはある。私より強い創造魔法使いがいるとは想像もしなかった」

 暗がりから出てきたのは30代前半程度の男。

 無気味な表情を浮かべ僕たちを見ています。

「お前は誰だ!」

「名乗ってもいいだろう。私はウィシク、この国……いや、元この国の第一位創造魔法使いだ」

「元この国?」

「お前たちが解き放った幻獣たちによって貴族も貴賓席にいた王族たちも皆殺されたよ。こうなってしまっては国の舵取りなどできはしないだろう。この国は内乱状態に陥るはず。国としての体裁など保てるものか」

「それは失礼を」

「心にもない詫びだな。まあ、いい。創造魔法使いだった見習いたちが皆殺しにされていたのもお前たちの仕業か?」

 ……やはりトライとオニキスは創造魔法使いを皆殺しにしましたか。

 覚悟していたとはいえ、気分が重くなります。

「その表情、命じたわけではないようだがお前たちの仕業のようだな。〝強制従属の首輪〟などという危険物を量産させないためにもその芽は潰しておきたいというのが幻獣たちの本音だろう」

「そうなってしまいますね。その方々は後ほど聖魔法で浄化いたしましょう」

「そうしてもらえると助かる。生きて私の前から姿を消せればの話になってしまうが」

「……やっぱり戦いに来たのね!」

「ここまで国を乱されたのだ。最後の奉公くらいはせねば。どちらか一方でも〝強制従属の首輪〟で操れれば共倒れを狙えたが甘くはなかったようだ」

「そんなミス、するわけないでしょうが!」

「そうだろうな。それにしても〝創造魔法〟が扱えるのに〝魔剣術〟まで扱える。お前たちは何者だ?」

「それに答える義理はありませんよ。この問答は時間稼ぎですか?」

「そのような考えもない。確かに魔力を貯め込んでいるのは事実だがお互い様だろう? 単純に戦いを始める前に疑問を聞いておきたかったのだ。殺してしまっては疑問を聞くこともできないからな」

「私たちを殺せるだなんて相当な自信があるようね?」

「無論あるとも。先ほども言ったが私は最上位の創造魔法使いだ。その程度ができなくてどうするというのだ?」

 この男の自信は本物のようです。

 僕たちは神域の契約者と管理者のため不老不死ではありますが、油断していると痛い目にあうでしょう。

 特にリンはかなり頭に血が上っています。

 戦いが始まる前に注意しておくべきですね。

「リン、一度冷静におなりなさい。僕たちでも手こずる相手のようです。怒りに身を任せて単調な動きになればそれこそ相手の狙い通りでしょう」

「う……ごめん」

「そちらの少年は理性的だな。いいコンビだ。話に乗るはずもないが念のためのスカウトだ。私とともに幻獣たちを支配するつもりはないか? 本気になればこの国どころか近隣諸国一帯を支配下に収めることができるぞ?」

「お断りです。断られることがわかっているのに聞かないでください」

「それもそうか。これでも本気だったのだが」

「そもそも、そのような方法で国を支配してもすぐに支配体制が崩れてしまうのでは?」

「それを見るのが面白いのだよ。恐怖支配とそれが崩れたときの戦乱。実に滑稽ではないか」

「……とりあえず、あなたとは一生わかり合えそうにないことはわかりました」

「だろうな。トマージュも私の考えは理解できないと散々抜かしていた。別に理解してもらいたい訳ではないのだがな」

 それならば、無駄にスカウトなどしないでいただきたいのですが……。

 この男にはそれすら無駄な話なんでしょうね。

「そちらの少女もスカウトしたいが無駄だろう。さて、魔力も貯まってきた。そろそろ戦いを始めたいがよろしいか?」

「望むところよ!」

「構いませんよ。ああ、幻獣たちは使わないであげます」

「いい判断だ。幻獣たちを使っても私が〝強制従属の首輪〟で従えるだけだからな。では、行かせてもらう!」

 ウィシクが気合いを入れて魔力を解き放つと僕たちに向けて何本もの石の槍が飛んできました。

 リンはそれをすべて受け止めるつもりだったようですが、嫌な予感がした僕はリンの腕を引っ張り上げて空へと脱出します。

 そして、嫌な予感は的中しており、リンの足をかすめた岩の槍はマインの作った鎧を砕いていました。

「マインの鎧が!?」

「リン、これからは攻撃すべてを回避してください。あの男の攻撃力は半端なものではありません」

「う、うん。わかった」

「ほう。空も飛べるか。では、こちらはどうかな!」

 僕たちの頭上に現れたのは何本もの氷柱の槍。

 僕とリンは炎の壁を張りそのすべてを消し去ります。

「ふむ。防御力も素晴らしいな。だが、いつまで耐えられるかな!?」

 今度は炎の矢が幾本も軌道を変えつつ迫ってきました。

 僕たちはそれらを飛び回りながら回避しますが、矢は僕たちのあとをついて回り水の玉で一本一本消していくのがやっとです。

 この男、本当に手強い!

「この! 私の魔弓を防げるものなら防いでみなさい!」

 リンはウィシクの攻撃が収まったのを見計らい魔弓でウィシクを狙い撃ちにしました。

 ですが、ウィシクは回避しようともせず、リンの放った矢は届く前に消え去ります。

「なんで!?」

「創造魔法で作った障壁だ。なかなか強い魔弓だが……トマージュはこの程度も守れないほど力が弱かったのか。無様だな」

「では、この剣はどうです!?」

 僕は魔剣を取り出し斬りかかりますが結果は同じ。

 見えない壁に阻まれて剣を止められてしまいました。

 その上、おそらくは風の弾丸でしょうが反撃を受けてしまい、ブレストプレートに大きな亀裂が入ってしまいましたよ!?

「シント!?」

「僕はまだ大丈夫です! ですが、魔剣による攻撃すら効かないとは……」

「いやいや、素晴らしい名剣だ。私でなければ切り裂かれていただろう。私を切るには不十分だったようだが」

「この……がはっ!?」

「リン!? くっ!?」

「そちらの少女は直撃したようだが少年は盾で防ぐか。だがその盾も何回防げるかな?」

 見ればリンはブレストプレートを破壊されて大怪我を負いポーションを飲んでいますし、僕の盾にも大きな亀裂が入っています。

 おそらくは見えない風の槍を撃ち込まれたのでしょう。

「さて、次だ」

 ウィシクの宣言通り、今度は電撃が僕たちに迫ってきます。

 僕もリンもぎりぎりでかわしましたが……このままではまずいですね。

 なにか対抗策を考えないと。

「とりあえず手の内はすべて見せたな。では、ここからは複合で行かせてもらおうか」

「まだ、余裕があるの!?」

「本当に早く倒す手段を見つけなければ負けてしまいますね!」

 ウィシクの宣言通り岩の針や氷のつぶて、炎の渦、風の刃、電撃の壁などが次々と僕たちふたりを攻め立てます。

 リンも盾を取り出しかわしきれない攻撃は防いでいますが、その盾もすぐに亀裂まみれになってしまいあと数回使えば砕け落ちるでしょう。

 その間も魔剣ではなく各種魔法を使った攻撃を繰り出しますが、ウィシクはすべて涼しい顔で受け流していました。

 僕たちの攻撃などかわす理由さえないと言った様子です。

 各属性の上位魔法ですら受け止められてしまうのだから始末に負えない。

 一体どのようにすればウィシクの守りを削れるのか……。

「ほれほれ、少年少女。早くせねば死んでしまうぞ?」

「わかっているわよ!」

「次の手段……最終手段ですが仕方がありませんね!」

 僕はウィシクの足元からせり出す岩の槍を放ちました。

 土魔法ではなく創造魔法を使って。

「ッ!?」

「えっ!?」

「今回はかわした!?」

 いままではどんな魔法を使っても涼しい顔をして受け止めるだけだったウィシクが今回は明確に自分から回避しました。

 これはひょっとして……。

「行きますよ!」

 僕は炎の槍を創造魔法で作って放ちます。

 すると、ウィシクはそれも身をひねり回避。

 なるほど、そういうことでしたか。

「シント、なにがどうなっているの?」

「ウィシクの防壁は〝創造魔法〟でないと破れないんですよ。だから、ほかの攻撃では一切歯が立たなかったんです。魔剣だろうと魔法だろうとね」

「……そこまで読み取られてしまったか。では、ここから先は遠慮無用! 今度こそ殺してくれる!」

 ウィシクの宣言通り攻撃が激しくなりましたが、僕も創造魔法の防壁を張ることでそれらを耐えることができるようになりました。

 ただ、一発一発を受け止めるだけでも魔力を大量に消費するために魔力回復用のポーションを大量消費することになりましたが作り置きは大量にあるので問題ありません。

 追加で作っておいて本当によかった。

「くっ……創造魔法の防壁で防がれることが知られてしまうと、そう易々と攻撃が通じる相手ではなくなるか!」

「魔力は大量に消費していますけどね!」

「ほざけ! 私の創造魔法をそれだけしのいでおいて魔力が尽きぬなど人外にも程がある! お主、何者だ!?」

「それに答える必要はありません。こちらからも攻めさせていただきます!」

 僕は創造魔法で可能な限りの魔法を生み出しウィシクを攻め立てました。

 ウィシクもすべてを回避することはかなわず、何発かは受け止めることになってしまい、攻撃の手数も段々と減っていっています。

 魔力回復用のポーションと思われる液体を飲み始めているあたり、かなり厳しくなってきているのでしょう。

 ここが勝負の決め所ですね!

「はぁぁぁぁ!!」

「懲りずに魔剣での攻撃か! 魔力が減っているとはいえどその程度、耐えてみせるぞ!」

 僕はその手に剣を持ちウィシクに斬りかかります。

 ウィシクは防壁を厚く張ったようですが、その防壁と僕の剣は拮抗。

 やがて防壁を切り裂いてウィシクの左腕を切り飛ばすことに成功しました。

 ……致命傷にはほど遠かったですね。

 ウィシクは僕の追撃を避けるためか大きく間合いを取り1本のポーションを飲み干しました。

 すると、切り落としたはずの左腕が生えてきて……欠損回復用のポーションまで待っていたんですね。

「なぜだ!? なぜ、私の防壁を魔剣で切り裂ける!?」

「秘密ですよ。さあ、ここからは近接戦闘の時間です。僕もあまり得意ではありませんが……リンにも手伝ってもらいましょうか」

「呼んだ?」

「呼びました。このダガーを使って戦ってください」

「このダガー……わかった!」

 僕の作りだした武器は単純、〝創造魔法で生み出した魔剣そっくりな武器〟です。

 見た目は魔剣とうり二つに作りましたからウィシクも油断して回避してくれませんでした。

 リンに渡したダガーも創造魔法で魔剣そっくりに作り出したダガー。

 僕たちふたりがかりで接近戦を挑めばウィシクの防壁もすぐに消えてなくなるでしょう。

「なんだ……なんなのだ、お前たちは!?」

「幻獣や精霊、妖精たちを助けにきた田舎者ふたりですよ」

「そうそう。悪いけど、〝強制従属の首輪〟なんて危険物を作れる創造魔法使いを生かしておくことはできないの。逃がさないから死になさい!」

「くっ……こんなところで死んでたまるか!!」

 ウィシクは出入り口に向かい逃げだそうとしましたが、出入り口の前に大量の魔力を使って分厚い鉄の壁を作ってしまいました。

 もちろん、反対側の出口にも。

 魔力消費が大きかったので魔力回復用のポーションを飲む必要がでましたが、大した問題ではないでしょう。

「おのれ……このような壁、すぐにでも!?」

「大量の魔力を使って作った壁です。破壊するにも大量の魔力を必要とするのでは?」

「こんな小僧がここまでの創造魔法使いだと……?」

「国一番の創造魔法使いだからと言って慢心しすぎましたね。大人しく死んでください」

「まだだ! まだ私は諦めないぞ!!」

 ウィシクは最後のあがきとばかりに攻撃魔法を連発してきます。

 ですが、先ほどまでと違い込められている力は微々たるもの。

 わざわざかわさずに障壁で防ぐだけでも魔力の消耗をほとんど感じません。

 やがて、ウィジクの元までたどり着いた僕らふたりはそれぞれの武器による攻撃を開始、ウィジクの障壁をどんどん削り取っていきます。

 ウィジクも最後のあがきとばかりに魔力回復用のポーションを続けて飲みほしていますが、どうやら障壁が削れて行くスピードの方が早い様子。

 障壁が消え去ると僕の剣はウィシクの胸を深く切り裂き、リンのダガーはウィシクの腹に深々と突き刺さりました。

 これで決着ですね。

 回復用のポーションが残っていたとしても僕は何本でも創造魔法で剣を生み出すことができるのですから。

「馬鹿な……こんな子供たちに私が殺される? 私の国の野望は……ここで終わりなのか?」

「幻獣や精霊、妖精たちをもてあそんだ罰です。その命、尽き果てるまで後悔しなさい」

「そうね。あなたに救いなんて与えはしない。あなたの死体は闇魔法で消し去ってあげる。その存在すら残さないほどにね」

「……これが、私の終わり……この30年近くを創造魔法の研究だけに費やしてきた私の終わりなのか?」

「誰にも手を出さなかったのであれば生を全うできたでしょう。怒らせた相手がまずかった。ただそれだけです」

「幻獣どもなど……人間に支配されるだけの……」

 その言葉を最後にウィシクは事切れました。

 リンは宣言通り闇魔法の炎でウィシクの亡骸を取り込み、塵すら残さずその存在をこの世界から抹消しましたね。

 このような存在を残しておきたくないのは僕も一緒なので止めませんでしたが。

『お疲れ様だ。契約者、守護者』

『すまないな、俺たちが戦いに割って入れば足手まといにしかならなかった』

「トライ、オニキス。無事だったのですね?」

『無論だ。この国にいた創造魔法使いの始末もすんでいる。……お前たちは喜ばないだろうがな』

『許せ。〝強制従属の首輪〟の知識はすべて断っておきたかった』

「……仕方のないことだったと諦めます。それよりも亡骸はどうしてありますか?」

『申し訳ないがそのままだ。どうするのだ?』

「僕とリンが行って聖魔法の炎で送り出してあげます。……勝手なのは承知していますが」

「うん。身勝手に殺しておいて、最後だけ弔うだなんて傲慢だけど」

『いや、それでもよかろう。この広間にいる愚か者どもはカエンに焼かせていいか?』

「お願いします。幻獣たちの売買に関与しようとした愚か者ども、わざわざ僕たちが弔う意味もない」

『ではカエンに伝えてくる。場合によってはこの部屋そのものが焼け落ちるだろうが、幻獣たちは避難させるから安心してくれ』

「頼みました。オニキス、創造魔法使いたちの亡骸まで道案内をお願いします」

『心得た。ふたりとも付いてこい』

 オニキスに案内された部屋では子供から年配の方まで100人以上が死んでいました。

 僕とリンは手分けしてその方々すべてを聖魔法で浄化して焼き払っていきます。

 すべての作業が終わったのは夕方になってから。

〝貴族街〟とやらで暴れていたみんなもすでにすべての家々を壊し尽くし焼き払い、がれきと焼け落ちた灰の広がる土地へと変えていました。

〝王城〟を守っていたという兵士たちも全滅し、残されたのは僕とリン、幻獣、精霊、妖精たちのみです。

 僕とリンは転移で帰還することように言われましたがほかのみんなはそれぞれやることが残っているそうです。

 特に今回捕らえられていた者たちを故郷に送り返すための護衛を務めてくれるのだとか。

 僕たちではそんなことはできないですし、ヒト族である以上怖がられてしまう恐れがあります。

 みんなの優しさに甘えて僕とリンは帰るとしましょう。

 それにしても、長かった〝王都〟との戦いもこれで終わりなんですね。

 助けられる範囲だけでも助けられてよかった。
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