辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女ノヴァ ~魔力0の捨てられ少女はかわいいモフモフ聖獣とともにこの地では珍しい錬金術で幸せをつかみ取ります~

あきさけ

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第二部 医学の知識と若木の令嬢 第八章 若木の精霊

84. アストリートたちの新たな生活

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 アストリートさんたちがフルートリオンにやってきて一夜が明けた。
 私とアストリートさん以外はみんな床だったりソファだったりで寝ているので、あまり疲れが取れていないかも。
 でも、今日からは雑貨店も再開しなくちゃいけないし、私はのんびりしてもいられない。
 さて、いつも通り、朝の薬草採取から始めよう!


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
★☆★アストリート


 フルートリオンについて二日目。
 ノヴァ様は今日から雑貨店を再開するということではりきっていました。
 対して私はやることもあまりなく、朝、ニケに起こしてもらったあとは準備を整え朝食となります。
 今日も朝食は二通り用意され、ノヴァ様たちは野菜と果物だけのシンプルな料理のみ。
 居候の私たちの方が肉も使った豪華な食事をしていることは気が引けます。
 ノヴァ様は気にしないでとおっしゃいますが。

 朝食が終わると各自の行動確認となりました。
 ノヴァ様はもちろん雑貨店の運営です。
 仕入れなくちゃいけない雑貨もあるらしく、それらも午後には発注しにいくということでした。
 ローレンは借りている部屋で医学書などの荷ほどきを、ニケは私の服などを荷ほどきしてくれるそうです。
 ヘレネは私の護衛なので私と行動をともにするそうですが、私はどうしましょうか?

「アストリートさんたちはどうするんですか?」

 ノヴァ様に聞かれましたが答えようがありません。
 いまの私はすることがありませんから。

「いえ、特にすることもないので。そうだ、ノヴァ様が錬金術を使っているところを見せていただくことはできますか?」

「構いませんけどたいして面白くもないですよ? いいですか?」

「はい。ぜひ」

「わかりました。それでは、店舗部へ移動しましょう。そちらの奥にある商品倉庫で普段からやってますから」

「承知いたしました。ヘレネもいいですか?」

「はい。アストリート様の指示通りに」

 私はノヴァ様と一緒に店舗部分との境目にある商品倉庫へとやってきました。
 そこには様々な商品が所狭しと並んでいます。
 ですが、あの瓶に入っている液体は一体?

「じゃあ始めます。シシ、準備!」

「にゃおう!」

 シシ様が一吠えすると伏せてなにかを載せる台を作りました。
 これは一体?

「さて、それじゃあ釜をセットして。シシ、温めて!」

「にゃう!」

 台の上には私もすっぽり入ってしまうような巨大な釜が置かれました。
 そして、それをシシ様が必死に温めています。
 これは一体なんでしょう?

「あの、ノヴァ様。これは?」

「ああ。錬金術を行えるように錬金釜を温めているんです」

「錬金釜?」

「錬金術で材料を変換するためのアイテム……といえばいいのかな? 見ていればわかりますよ」

 私たちが話している間も釜は熱せられていき、中には虹の液体が出現しました。
 これは?

「あ、準備が出来たようです。ちょっと離れていてくださいね」

「は、はい」

「では。材料ぽいぽい。元気になーれ。ふっふふのふ~ん!」

「にゃっにゃにゃにゃにゃ~ん」

 ノヴァ様とシシ様が歌いながら草花を釜の中に入れ、釜をかき混ぜると釜の中が光り輝き、中からひとつの瓶に入った液体が飛び出してきました。
 これってあそこに置いてある液体と一緒の物ですよね?
 なんでしょうか、これは。

「うん。今日も傷薬ひとつ完成。さあ、サクサク作っていくぞー!」

「あ、あの、ノヴァ様。それが傷薬ですか?」

「はい。錬金術で作った傷薬ですよ。今日は売れそうだから在庫も多めに用意しなくちゃ」

「ええと、このままここで見学していても大丈夫でしょうか?」

「はい、大丈夫です。お相手をしている時間がありませんが、見ている分には構いませんよ」

「では、もうしばらく見学させていただきます」

「わかりました。材料ぽいぽい。元気になーれ。ふっふふのふ~ん!」

 そのあともノヴァ様は大量に傷薬を作り続け、二百個を超えたあたりで作るのをやめました。
 そろそろ開店準備をしなくてはいけないそうです。

 ノヴァ様は店舗部の方へ行くと閉じきられたままだった窓を開け、外の光を取り込みました。
 それだけで、店舗の中は別世界のように輝き始めます。
 私ではなにに使うかわからないような商品たちばかり。
 雑貨店とはこれほどまでに種類を豊富に扱っているんですね。

「それではお店を開けることにします。奥にいなくても大丈夫ですか?」

「お邪魔でなければ少し見学させていただけると」

「構いませんよ。じゃあ、お店の札を変えてきますね」

 ノヴァ様がお店の入り口を開け、外に出ていきました。
 すると、そこで話し声が聞こえたかと思えば、ノヴァ様がお店に入ってくるときと一緒に、武装した男性や女性たちも一緒に入ってきます。
 ノヴァ様は特に慌てた様子ではないので、この方々は冒険者なのでしょう。
 しかし、この人数は一体?

「ふぃー、久しぶりの『星降る街の雑貨店』だぜ」

「ノヴァちゃんがいない間はこの雑貨店も閉鎖されていたからなぁ」

「皆さん、のんびりしていくのもいいですが、依頼を片付けなくてもいいんですか?」

「数分ぐらいなら大丈夫だよ。少し店の中を見せてくれや」

「構いませんけど、新しい品は仕入れていませんよ? むしろ、旅に出ている間に痛んだ物を捨てたので減っています」

「気にすんなって。お、ロープも相変わらず置いてるな。残りが怪しくなってきたから買っていくか」

「俺は水袋にする。ノヴァちゃんの店で売っている水袋ってなんか違うんだよなぁ」

「ああ、それな。俺もそう思った。俺も買っていこう。前のはいい加減ダメになっているんだ」

 入ってきた冒険者の皆さんは思い思いに店内を物色し、買いたいものを見つけていきます。
 ノヴァ様も手慣れた物で、そんな様子をのんびり眺めていました。

「よし、ノヴァちゃん。これといつもの頼むわ」

「はい。傷薬と毒消しですね? そういえば、私がいない間の傷薬と毒消しってどうしていたんですか?」

「ノヴァちゃんの薬があるうちはそれを使っていた。なくなってからは、ノヴァちゃんが冒険者ギルドに寄贈した薬草の煎じ方を書いた本を元に、応急手当の薬を作ってしのいでいたぜ」

「よかった。あの本も役に立っていたんですね」

「俺は文字が読めなかったから大変だったけどな。文字が読めるやつに教わりながら作ったよ」

「それでも文字がある程度読めるようになったのならいいことですよ。いま傷薬と毒消しを持って来ますから待っていてくださいね」

 ノヴァ様は一度店の奥へと戻って行きました。
 そういえば、傷薬は店頭に並べていませんね。
 店の奥にしまってあるだけなのでしょうか?

「んで、姉ちゃんたちは何者だ? さっきからそっちの姉ちゃんが殺気をガンガンぶつけてきてたまらねぇんだわ」

「え!? やめなさい、ヘレネ!」

「アストリート様、しかし」

「おやめなさい! ノヴァ様のお客様ですよ」

「……わかりました」

「ふむ。見たところ、どっかのお嬢様とその護衛か。護衛のしつけがなってねえぞ。それに、それだけの腕利き護衛が雇えるなんてどっかのお貴族様か?」

 ああ、ヘレネのせいで正体がばれかかってる!?
 余計なことを!

「アストリートさんはお貴族様じゃありませんよ。お貴族様並みの実家ですけど」

「あ、ノヴァ様」

「ふうん、そうなのか?」

「はい。オケストリアムにある大商人の娘です。箱入り娘だったので護衛に守られながらの生活ですね」

「ああ、なるほど。それなら、腕利きの護衛が雇えてもおかしくないわな」

「アストリートさんのお父様も奮発したみたいですね」

「なるほど。じゃあ、そのアストリートって娘にはうかつに近寄らない方がいいか。冒険者どもにも言い聞かせておくよ」

「お願いします。あ、代金をお願いしますね」

「おう。ちょっと待ってくれ」

 冒険者の方とノヴァ様は手慣れた様子で代金のやりとりをして商品の引き渡しまで終えました。
 やはり、ここはノヴァ様の雑貨店なのですね。

「それじゃ、邪魔したな。そうそう」

「はい?」

「そっちの冒険者を装っている姉ちゃん。そんなきれいな構えと殺気の出し方だとすぐに騎士だってばれるぜ、上位冒険者にはな」

 それだけ言い残し、その冒険者の方は立ち去って行きました。
 ノヴァ様によると、あの方はこの街では数少ない四級冒険者、つまり熟練冒険者とのことです。
 やはり、熟練冒険者からすれば、ヘレネは冒険者を装っている騎士だと見分けがつくのですね。
 ヘレネの短気具合もそうですが、注意しなければ。

 その後も、午前中は引っ切りなしにやってくるお客様相手に、ノヴァ様は落ち着いて対応をしていました。
 私よりも年下とは到底思えないですね。
 私も頑張らないと。
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