辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女ノヴァ ~魔力0の捨てられ少女はかわいいモフモフ聖獣とともにこの地では珍しい錬金術で幸せをつかみ取ります~

あきさけ

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第一部 辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女 第五章 お薬は誰にでも売ります

27. お薬はみんなのために使います

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 変な人はまだ何かを叫び続けている。
 一体なにが言いたいんだろう?
 よくわかんない。

「ノヴァ、スピカ婆さん、無事か!?」

「ええい、厄介なことになりよって!」

 またドアが乱暴に開いたと思ったら今度はアーテルさんとヴェルクさんがやってきた。
 ドアが壊れたらどうしよう。
 わたしが魔法で直しちゃってもいいのかな?
 こっそりやる分には構わないよね?
 うん、そうしよう。

「おやおや、アーテル、ヴェルク。そんなに慌ててどうしたんだい?」

「どうしたもこうしたもあるか! この家の周りを兵士が取り囲んでいるんだぞ!」

「俺らも無理矢理割って入って突破してきた。一体なんの騒ぎだ?」

 アーテルさんたちが慌てているから外を見てみたら、本当にスピカさんのお店の周りにたくさんの人がいた。
 どうしてこんなことになっているんだろう?

「ふん、小煩い平民どもがまたふたりほど増えたか」

「なに?」

「なんだと?」

「貴様ら、この私、ミモト子爵の前で頭が高いぞ。ひざまずけ」

 変な人は偉そうに命令するけど、誰も従わない。
 当然だよね、誰もあの人の命令を聞く理由がないもん。

「貴様ら! ひざまずけ!!」

「あん? なんでそんなことしなくちゃならないんだ?」

「ミモト子爵なんて名前も知らねぇぞ。外の連中だって旗を掲げてないし、せいぜいどこかから駆り出されてきた寄せ集めだろ。いいところ宮廷貴族様じゃねぇのか?」

「ああ、なるほど。それなら俺が名前を知らない理由もわかります、ヴェルクさん」

「お前さんはここいら一帯のお貴族様の名前を知っているから便利だ。で、そこの自称子爵様はなんの用だ?」

「自称、子爵……ふざけるな!? わたしは国王陛下から子爵位を直接賜っているのだぞ!」

 あ、変な人が怒った。
 誰も動じてないけど、変な人の顔が真っ赤だ。
 大丈夫かな?

「ええい、お前たちは大人しくその錬金術士の小娘を差し出せばよいのだ! そうすれば、私がこの国の発展のため、存分に使ってやる!」

 ん?
 この変な人が使うの?
 国じゃなく?

「おう、ミモトっつったか? お前、錬金術士を国の命令で連れて行くために来たんじゃないのかよ?」

「そんなわけがあるか! 私の優秀な部下が、この街に市井の錬金術士が残っていると教えてくれたのだ! ならばその錬金術師を使い、さらなる富と名声を得て上級貴族に上がるのが私の使命! 天が私に与えてくれた好機なのだよ!」

 うーん、言っていることがよくわからない。
 国が錬金術士を集めているというのは聞いたけど、それとは違うのかな?
 それに変な人の使命がどうとか好機がどうとかよくわからないことばかり言ってる。
 アーテルさんを見ても首をすくめるだけで説明してくれないし、ヴェルクさんは首を横に振っている。
 スピカさんは……頭が痛そうにしているね。
 この人ってそんなに偉いんだろうか。
 この国ってこんな変な人が偉くって大丈夫なのかな?

「そういうわけだ、錬金術士の小娘。お前はさっさと私の元に来い。そして、私のためだけに腕を振るうのだ。それがお前の将来なのだからな」

 む、変な人が変なことを言い始めた。
 わたしのことはわたしが決めるの!

「嫌です。わたしは一人前の錬金術士だもん、自分のことは自分で決めます!」

「何をバカな! 錬金術士などただの道具だ! お前は私に黙って使われていればいい!」

「嫌です! わたしは自分でお薬を作るんです! そして、わたしのお薬はみんなのために使うんです!」

「バカなことを言うな! 錬金術士は権力者のためのものだ!」

「わたしは誰のものでもありません! わたしの好きなように生きるんです!」

 そこまで言ったら変な人も黙り込んだ。
 ようやくわかってくれたのかな?

「く、くくく。ここまでコケにされるとは思わなかったわ、このゴミクズどもが!」

「お、ようやく本性を現したようだな」

「平民を何とも思っておらぬ、中央の一代貴族らしいセリフだな。で、どうするつもりだ?」

「こうするのだ!」

 変な人はアーテルさんを押しのけて店の外へと駆け出していった。
 そして、外で待っていた人たちにこう命令したんだ。

「あの店の中にいる者どもを小娘以外全員始末しろ! 小娘だけは捕まえるのだ!」

 周りにいた人たちがその命令を聞いて武器を取りだした。
 あ、そんなことしたら危ないよ。

「にゃおう!」

「なんだ!?」

「シシ!?」

 シシが赤い炎を全身から噴き出し始めた。
 でも、その炎はお店の中のものを全然燃やさない。
 シシは準備が整うとドアの外目掛けて飛び出していく。
 最初はお店の中から小さな炎の玉が出てきただけと思っていたらしい外の人たちだけど、シシがぶつかっていってからはその認識を変えたみたい。
 シシが炎の爪や牙で外の人たちの剣や鎧を切り飛ばし始めたからね。
 炎の爪が振るわれるたびに剣が宙を舞い、炎の牙は鎧を焼きながら肉を焼く。
 初めはお店の方に向かってこようとしていた人たちも、シシが飛び込んだことで混乱して何もできなくなっちゃったみたい。
 それに、あの牙には多分……。

「ええい、なんの騒ぎだ! 道を空けろ!」

 シシによってお店を取り囲んでいた人たちが倒されていく中、外側から別の人たちがやってきた。
 おそろいの鎧を身に着けていて、旗も持っている。
 あの変な人の仲間かな?
 シシも警戒して飛びかかろうとしているし、どうすればいいんだろう?

「わー、待て、シシ! あいつらは敵じゃない!」

「にゃう?」

 あとから来た人たちの旗を見て、アーテルさんが慌ててシシを止めにいった。
 シシもアーテルさんの慌てぶりを見て様子を見ることにしたようだけど、なんなんだろう?

「こいつらは俺の父さんの軍だ。先触れがこの街に来たんだろう」

 アーテルさんのお父さん。
 それって偉い人なのかな?
 敵じゃないみたいだし、シシには大人しくしていてもらおっと。
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