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第3部 〝ペットテイマー〟、〝オークの砦〟を攻める 第1章 〝オークの砦〟偵察
75. 夏の始まり
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遂にアイリーンの街にも夏がやってきた。
私としては去年と同じ夏を過ごしたかったんだけど、そうもいかない。
今年の夏の2月目、〝オークの砦〟を攻めるからだ。
末端である私はどの程度攻めるのか聞いていないけれど、狩るオークの数は百や二百じゃないだろう。
そのためにドラマリーンの街からも応援を呼んでいるのだから。
「……うん、今日も〝オークの砦〟に異常はないね」
『じゃのう。しかし、キントキを使って早朝と夕方の2回偵察か。サンドロックも警戒し始めたな』
「それだけオーク側も戦力が再度整い始めていると考えているんだよ。あれから3カ月が過ぎるんだもの」
『確かに。追撃戦でどれほどのダメージを与えられたかにもよるが、戦力を再度整えてはいるのだろう』
「サンドロックさんは秋まで待つと再度攻められると読んでいるしね。さて、オークに見つかる前に帰ろうか」
『それがよい。いくら装備が新しくなったとはいえ、油断は禁物じゃ』
「わかってるよ。じゃあ、キントキ。アイリーンの街までよろしく」
『うん、任せて』
キントキの走る速度に《疾風迅雷》が重ねがけされれば、〝オークの砦〟とアイリーンの街の間も1時間ちょっとで済む。
歩きだと2日程度はかかるのにね。
「シズク、ご苦労さん」
「あ、衛兵さん」
「その様子だと異常はなかったようだな」
「はい。異常ありませんでした」
「わかった。非常通用路を使って街に入れ。すぐに冒険者ギルドに報告だ」
「毎日すみません」
「こちらこそ、朝日が昇る前から偵察に出てもらっているんだ。それくらいの融通は利かせないとな」
うん、私が出かけているのは朝日が昇る前。
朝日が昇り始めて空が明るくなり始めた頃には〝オークの砦〟でオークを待ち構えている。
いままで番兵以外の姿を見かけたことはないけれど、念のためにね。
この時間の街中はまだ活動を始めていないのでキントキでゆっくり走り抜けても平気。
そして、冒険者ギルドまで到着したらそのままギルドマスタールームまで行ってサンドロックさんに報告だ。
「サンドロックさん、今朝の偵察、終わりました」
「ご苦労。その様子だと変わった動きはなかったようだな」
「はい。いつも通り見張りのオーク兵が立っているだけです」
「見張りのオーク兵か。そいつらも鋼の鎧を着ているんだよな?」
「着ていましたね。私の目で見る限り、普通のオークに見えるんですが」
「つまり、いまのオークどもはそこまで装備の質が高まっている証拠だ。やつら、どこからそんな大量の鉄鉱石を集めてやがる?」
「それは、ちょっと……」
私に聞かれてもなぁ。
空から偵察すればなにかわかるかもしれないけれど、まだ禁止されているし。
下手に見つかったら私が危険だし、オークの侵攻が早まりかねないからって。
「ああ、単なる独り言だ。シズクに聞いたわけじゃない。本音を言えばそっちも調べてもらいたいが、あてがないんじゃ探りようもない」
「はい。すみません、経験不足で」
「毎朝と夕暮れ時の偵察だけでも十分に役立ってるさ。普通なら、〝オークの砦〟に偵察を出しても、その日の情報がすぐわかることなんてあり得ないからな」
「それならいいんですが」
「シズクは気にしすぎだ。俺の防具だけじゃなく、デイビッドの防具分の素材まで提供してもらえるのによ」
はい、私の着ている革鎧の素材、つまり特殊変異個体の素材をデイビッド教官にも売ることにした。
費用はデイビット教官の蓄えだけだと厳しいらしいので、とりあえず、あるとき払いの借金ということにしている。
私がお金を持ちすぎてもよくないし、デイビッド教官も最前線で戦うことを考えればあった方がいいはずなんだ。
使い道もなくしまっておくよりも数倍いいし。
「デイビッドも〝オリハルコンを砕ける革鎧〟ってことで、さすがにビビってたぞ? 普通そんな頑丈な革鎧なんてできやしないからな? それも自己修復能力付きの」
「それは私ではなくアダムさんとリヴァさんに文句を言ってください。あのふたりの腕前の結果なんですから」
「ったく。まあ、デイビッドも無茶をしなきゃいけない場面は多くなるはずだ。あいつもオリハルコンの剣と盾をケウナコウから下賜されちゃいるが、それだけだと不安があったからな。盾も革でコーティングするそうだし、守りは万全になるだろう」
「サンドロックさんとデイビッド教官が倒れたら士気が一気に落ちますからね。そこは注意してください」
「わかってるよ。で、街にも大量のキラーヴァイパーとヴェノムヴァイパーの皮を売ってもらったがいいのか?」
「私の手元で腐らせておくのももったいないですよね?」
うん、ドラマリーンで狩ってきたキラーヴァイパーとヴェノムヴァイパーの皮も、冒険者ギルドを通して街にある武具屋に売ってもらった。
この街に増援できた冒険者はみんな金貨10枚を支給されているし、この街の冒険者にも支度金として同額の金貨が配布された。
でも、それだけだとこの街ではあまりいい装備が手に入りにくいから、私が大量に狩ってきたキラーヴァイパーとヴェノムヴァイパーの皮を使った革鎧を売ってもらうことにしたんだよね。
基本的にこの街に拠点のある一定以上の腕前を持った武具屋にしか売らず、粗悪品を作ったり他の街へ皮を転売したりしたら、領主様直々にそのお店をお取り潰しにするっていうことにして。
実際、皮を冒険者ギルドに売ったのはまだ2週間前なのに、もう3軒の武具屋が潰されたそうだから人の欲って怖いよね。
ともかく、この街で配布したお金をこの街で回収するかたちにはなっちゃったけど、ドラマリーンの街でもなかなか手に入らないキラーヴァイパーとヴェノムヴァイパーの合成革を使った革鎧が手に入るっていうことで、各武具屋は大忙しらしいね。
それに伴って、添付薬や合成革を作るための接着剤を作るために錬金術師も大忙しになっちゃって、メイナお姉ちゃんにも文句を言われちゃった……。
「お前のおかげで、並大抵の金属鎧より頑丈な革鎧が大量に作れそうなのは事実だが、それでもどこまでオークの装備に対抗できるかねぇ」
「一応、キラーブルの骨も売り出しているんですよね?」
「売ってはいるが武具屋どもは買っていかねぇ。キラーブルの骨から強化板を作るっていう発想か技術がないんだろう」
「大丈夫ですか、それ?」
「正直、あまり大丈夫とは言えないが、一般冒険者にはそれで頑張ってもらうしかないな。隠密行動部隊には、デイビッドの装備一式ができ次第アダムの手で武器と防具を作ってもらう」
「それ、開戦まで間に合いますか?」
「計算上は間に合う。間に合わない可能性があるとすれば……」
「オーク軍が先に行動を始めた場合、ですか」
「そいつも視野に入れなくちゃいけねぇ。先手を打たれ、また大軍勢相手の防衛戦になったら戦いやすさはともかく、街全体の士気に関わるからな」
「難しいですね」
「ああ、難しい。だからこそ、お前に無理を言って早朝と夕暮れ時の2回も偵察に行ってもらってるんだがな」
「私は気にしていないのでへっちゃらです。街の一員として街を守るためですから。他にもお手伝いできることがあればいいんですけど……」
うーん、これ以上は難しいよねぇ。
できることと言えば、ウルフの狩猟数を増やして干し肉の材料を増やすくらいかな。
でもそうなると、今度は塩の量が問題になってくるし……。
難しい。
「とりあえず、シズクはあまり難しいことを考えるな。早朝と夕暮れ時の偵察、それから日中のウルフ狩り。それだけで街に十分貢献できている。追加でやってほしいことがあったらこっちで指示するから心配するな。あと……」
「オークレンジャーと交戦になったら、仲間が狙われない限りできる範囲で倒せ、ですよね?」
「ああ。難しいことを言っているが、こっちの動きはまだ気取られたくはない。オークスカウトも見つけたら始末してくれ」
「わかりました。今朝の確認事項はこれくらいでしょうか?」
「そうなるな。あまり遅くなって姉と妹を心配させるのもまずいだろ。夕方も偵察をよろしく頼む」
「はい。それでは、また夕方に」
これが夏になってからの私の日課。
メイナお姉ちゃんには心配をかけているけれど、私だってできることは全部やりたいからね。
もっと役に立ちたいけれど、できることなんてこれくらいだからなぁ。
他にもお手伝いできればいいのに。
私としては去年と同じ夏を過ごしたかったんだけど、そうもいかない。
今年の夏の2月目、〝オークの砦〟を攻めるからだ。
末端である私はどの程度攻めるのか聞いていないけれど、狩るオークの数は百や二百じゃないだろう。
そのためにドラマリーンの街からも応援を呼んでいるのだから。
「……うん、今日も〝オークの砦〟に異常はないね」
『じゃのう。しかし、キントキを使って早朝と夕方の2回偵察か。サンドロックも警戒し始めたな』
「それだけオーク側も戦力が再度整い始めていると考えているんだよ。あれから3カ月が過ぎるんだもの」
『確かに。追撃戦でどれほどのダメージを与えられたかにもよるが、戦力を再度整えてはいるのだろう』
「サンドロックさんは秋まで待つと再度攻められると読んでいるしね。さて、オークに見つかる前に帰ろうか」
『それがよい。いくら装備が新しくなったとはいえ、油断は禁物じゃ』
「わかってるよ。じゃあ、キントキ。アイリーンの街までよろしく」
『うん、任せて』
キントキの走る速度に《疾風迅雷》が重ねがけされれば、〝オークの砦〟とアイリーンの街の間も1時間ちょっとで済む。
歩きだと2日程度はかかるのにね。
「シズク、ご苦労さん」
「あ、衛兵さん」
「その様子だと異常はなかったようだな」
「はい。異常ありませんでした」
「わかった。非常通用路を使って街に入れ。すぐに冒険者ギルドに報告だ」
「毎日すみません」
「こちらこそ、朝日が昇る前から偵察に出てもらっているんだ。それくらいの融通は利かせないとな」
うん、私が出かけているのは朝日が昇る前。
朝日が昇り始めて空が明るくなり始めた頃には〝オークの砦〟でオークを待ち構えている。
いままで番兵以外の姿を見かけたことはないけれど、念のためにね。
この時間の街中はまだ活動を始めていないのでキントキでゆっくり走り抜けても平気。
そして、冒険者ギルドまで到着したらそのままギルドマスタールームまで行ってサンドロックさんに報告だ。
「サンドロックさん、今朝の偵察、終わりました」
「ご苦労。その様子だと変わった動きはなかったようだな」
「はい。いつも通り見張りのオーク兵が立っているだけです」
「見張りのオーク兵か。そいつらも鋼の鎧を着ているんだよな?」
「着ていましたね。私の目で見る限り、普通のオークに見えるんですが」
「つまり、いまのオークどもはそこまで装備の質が高まっている証拠だ。やつら、どこからそんな大量の鉄鉱石を集めてやがる?」
「それは、ちょっと……」
私に聞かれてもなぁ。
空から偵察すればなにかわかるかもしれないけれど、まだ禁止されているし。
下手に見つかったら私が危険だし、オークの侵攻が早まりかねないからって。
「ああ、単なる独り言だ。シズクに聞いたわけじゃない。本音を言えばそっちも調べてもらいたいが、あてがないんじゃ探りようもない」
「はい。すみません、経験不足で」
「毎朝と夕暮れ時の偵察だけでも十分に役立ってるさ。普通なら、〝オークの砦〟に偵察を出しても、その日の情報がすぐわかることなんてあり得ないからな」
「それならいいんですが」
「シズクは気にしすぎだ。俺の防具だけじゃなく、デイビッドの防具分の素材まで提供してもらえるのによ」
はい、私の着ている革鎧の素材、つまり特殊変異個体の素材をデイビッド教官にも売ることにした。
費用はデイビット教官の蓄えだけだと厳しいらしいので、とりあえず、あるとき払いの借金ということにしている。
私がお金を持ちすぎてもよくないし、デイビッド教官も最前線で戦うことを考えればあった方がいいはずなんだ。
使い道もなくしまっておくよりも数倍いいし。
「デイビッドも〝オリハルコンを砕ける革鎧〟ってことで、さすがにビビってたぞ? 普通そんな頑丈な革鎧なんてできやしないからな? それも自己修復能力付きの」
「それは私ではなくアダムさんとリヴァさんに文句を言ってください。あのふたりの腕前の結果なんですから」
「ったく。まあ、デイビッドも無茶をしなきゃいけない場面は多くなるはずだ。あいつもオリハルコンの剣と盾をケウナコウから下賜されちゃいるが、それだけだと不安があったからな。盾も革でコーティングするそうだし、守りは万全になるだろう」
「サンドロックさんとデイビッド教官が倒れたら士気が一気に落ちますからね。そこは注意してください」
「わかってるよ。で、街にも大量のキラーヴァイパーとヴェノムヴァイパーの皮を売ってもらったがいいのか?」
「私の手元で腐らせておくのももったいないですよね?」
うん、ドラマリーンで狩ってきたキラーヴァイパーとヴェノムヴァイパーの皮も、冒険者ギルドを通して街にある武具屋に売ってもらった。
この街に増援できた冒険者はみんな金貨10枚を支給されているし、この街の冒険者にも支度金として同額の金貨が配布された。
でも、それだけだとこの街ではあまりいい装備が手に入りにくいから、私が大量に狩ってきたキラーヴァイパーとヴェノムヴァイパーの皮を使った革鎧を売ってもらうことにしたんだよね。
基本的にこの街に拠点のある一定以上の腕前を持った武具屋にしか売らず、粗悪品を作ったり他の街へ皮を転売したりしたら、領主様直々にそのお店をお取り潰しにするっていうことにして。
実際、皮を冒険者ギルドに売ったのはまだ2週間前なのに、もう3軒の武具屋が潰されたそうだから人の欲って怖いよね。
ともかく、この街で配布したお金をこの街で回収するかたちにはなっちゃったけど、ドラマリーンの街でもなかなか手に入らないキラーヴァイパーとヴェノムヴァイパーの合成革を使った革鎧が手に入るっていうことで、各武具屋は大忙しらしいね。
それに伴って、添付薬や合成革を作るための接着剤を作るために錬金術師も大忙しになっちゃって、メイナお姉ちゃんにも文句を言われちゃった……。
「お前のおかげで、並大抵の金属鎧より頑丈な革鎧が大量に作れそうなのは事実だが、それでもどこまでオークの装備に対抗できるかねぇ」
「一応、キラーブルの骨も売り出しているんですよね?」
「売ってはいるが武具屋どもは買っていかねぇ。キラーブルの骨から強化板を作るっていう発想か技術がないんだろう」
「大丈夫ですか、それ?」
「正直、あまり大丈夫とは言えないが、一般冒険者にはそれで頑張ってもらうしかないな。隠密行動部隊には、デイビッドの装備一式ができ次第アダムの手で武器と防具を作ってもらう」
「それ、開戦まで間に合いますか?」
「計算上は間に合う。間に合わない可能性があるとすれば……」
「オーク軍が先に行動を始めた場合、ですか」
「そいつも視野に入れなくちゃいけねぇ。先手を打たれ、また大軍勢相手の防衛戦になったら戦いやすさはともかく、街全体の士気に関わるからな」
「難しいですね」
「ああ、難しい。だからこそ、お前に無理を言って早朝と夕暮れ時の2回も偵察に行ってもらってるんだがな」
「私は気にしていないのでへっちゃらです。街の一員として街を守るためですから。他にもお手伝いできることがあればいいんですけど……」
うーん、これ以上は難しいよねぇ。
できることと言えば、ウルフの狩猟数を増やして干し肉の材料を増やすくらいかな。
でもそうなると、今度は塩の量が問題になってくるし……。
難しい。
「とりあえず、シズクはあまり難しいことを考えるな。早朝と夕暮れ時の偵察、それから日中のウルフ狩り。それだけで街に十分貢献できている。追加でやってほしいことがあったらこっちで指示するから心配するな。あと……」
「オークレンジャーと交戦になったら、仲間が狙われない限りできる範囲で倒せ、ですよね?」
「ああ。難しいことを言っているが、こっちの動きはまだ気取られたくはない。オークスカウトも見つけたら始末してくれ」
「わかりました。今朝の確認事項はこれくらいでしょうか?」
「そうなるな。あまり遅くなって姉と妹を心配させるのもまずいだろ。夕方も偵察をよろしく頼む」
「はい。それでは、また夕方に」
これが夏になってからの私の日課。
メイナお姉ちゃんには心配をかけているけれど、私だってできることは全部やりたいからね。
もっと役に立ちたいけれど、できることなんてこれくらいだからなぁ。
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