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6話 銅の短剣

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 銅の短剣は、ラットダンジョンをクリアした者にしか手にする事ができないクリア報酬である。
 この報酬を手に入れる事で、やっと駆け出しの冒険者と名乗れるようになるみたいな風潮があるらしく、冒険者の中でも第一関門と言われている。
 
 そんな物を、この僕が今持っている。
 誰が予想できるのだろうか。自分でもいまだに信じられない。

 家に帰り落ち着きを取り戻した僕は、銅の短剣を自分の前に出し眺めていた。
 深く考えれば考えるほど、嬉しさと同時にレドルンドに対するプレッシャーも感じてきてしまい小刻みに手が震えていた。

 でも、この銅の短剣があれば魔物と戦う事ができる。
 頑張ってレベルを上げれば、周りから怪しまれずに胸を張って銅の短剣を持ち歩けるようになるかもしれない。

 僕は、銅の短剣を奪われたり、変な噂を流されるよりも、またレドルンド達に怪しまれ頭を蹴られるのが一番怖かった。
 だからといって、せっかく手に入れた銅の短剣を手放すわけには行かない。
 銅の短剣は、武器屋に持って行けば5000ヴェリンほどで買い取ってもらえる。
 だが、これからのダンジョン攻略に必要になることはほぼ確実だし、一本しか無い以上売るという判断はまだ出来ない。
 もし、この短剣を使って今よりも速くダンジョンを攻略する事が出来たらプラスになる事間違いなしだろう。
 移動するという事しか分かってないスキルの情報も得やすくなるかもしれない。

 そう思い、手に入れた短剣はダンジョンで使う事にした。

 そうと決まれば、明日からまたラットダンジョン攻略を攻略しよう。

 ――――――――――――

 翌日……

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 僕は、大量のコアトルに追いかけ回されていた。

 コアトルのスピードが速すぎて、僕の短剣が全く当たらない!

 一体のコアトルに対し短剣を振った結果、全く当てることができず、攻撃的になったコアトルが仲間を呼び出し今この状況になっている。

 ダメだ!
 このままじゃ前と同じく僕の体力が先に尽きるだろう。
 スキルを使って、場所を移動しないと。

「透視」

 僕はスキルを発動に表示された数字を、走りながら見渡す。

「何処でもいい! 2、4、1、7、5」

 数字を言った瞬間、コアトルを置き去りにし、壁をすり抜けダンジョン内を移動する。
 無事コアトルから逃げ切る事ができた僕は、大きくため息をついた。

 危なかった。やっぱりコアトルを短剣で倒すなんて無茶すぎた。
 スピードが速くて、僕の遅い短剣なんて余裕で交わされていた。
 レドルンドのパーティーにいた時も、コアトル相手には魔法を使って倒していた。
 たしかに、こんなすばしっこいやつは幅広い攻撃魔法などで戦った方が倒しやすい。

 ただ、魔法を覚えるのにもレベルが必要だ。
 今の僕は、ダンジョンはクリア出来ているものの、道中の魔物も倒してなければボスも倒していない。
 レベルを上げる手段が今のところないのだ。

 こうなったら、短剣で戦う事ができる魔物を探すために他のダンジョンに行くしかなさそうだな。

 僕はスキルを使い、サッと銅の短剣を手に入れダンジョンをクリアした。
 銅の短剣を服の中に隠し、そのまま武器屋まで急いだ。
 明らかに周りからの視線は感じたが、そんなことよりもダンジョンをクリアできるようになった自分が嬉しくて何も気にならなかった。

 笑みを抑える事ができず、下を向きながら武器屋まで走った。

 武器屋に入るのは、何気に初めてかもしれない。  
 パーティーに入っていた頃も、僕には武器を買う価値も無いと言われ、武器屋に行く際には、 中にさえ入れてもらえなかった。
 あの時、外に一人で待っている僕の事を、煽るように見てきた他の冒険者の目をいまだに覚えている。

 だが、そのおかげで僕は武器屋の主人に顔は覚えられていなかった。

 僕は、銅の短剣を武器屋の主人に渡す。

「おぉ。銅の短剣か。8000ヴェリンで買い取らせてもらってるよ」
「8000ヴェリン?!」

 主人の口から出た大金に僕は驚きを隠す事ができなかった。
 急に大きな声を出した僕を、少し驚いたような顔で主人は見ていた。

「お、おぉ。今、ラットダンジョンにコアトルが大量発生していてな。すばしっこくてめんどくさいコアトルから避けるために、なかなかダンジョンに行きたがらないんだよ。その影響で報酬の金額も上がっているってわけだ」

 あの大量に襲ってきたコアトルは、そうゆう事だったのか。

 僕は、なんだかスッキリした。
 主人から8000ヴェリンを受け取り、無理矢理巾着の中に詰め込んだ。
 店の外に出た後、はち切れそうなほどパンパンな巾着を見てニヤケが止まらなかった。

 それもそのはず。一度にこんな大金を手に入れた事なんて今まで一度も無い。
 これだけあれば、僕一人なら十分暮らしていける。
 つまり、ダンジョン攻略とレベル上げに専念できるようになるというわけだ。

「よっしゃ!」

 僕は片手で軽くガッツポーズをし、次なるダンジョンに向けて行動し始めた。


 ――――――――――――

 ヴィリー・ルート 15才 男
 レベル:1
 MP:10
 攻撃力:30
 防御力:30
 素早さ:30
 スキル:透視
 装備:銅の短剣

 ――――――――――――
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