【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス

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約束とは?

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アイリーンが再び意識を取り戻したのは自宅の2階の自室だった。

目が覚めるとガバッと起き上がる。

アイリーンは辺りを直ぐ様見回した。

「私の……部屋」

間違いなく自分の部屋だった。

時計を確認すると時刻は朝の5時半過ぎ。

「私、一体……」

どうやって帰ってきたのか分からない。

最後の記憶として倒したと思ったショーンに首を絞められて意識を失った事は覚えている。

「ハッ!」

アイリーンは咄嗟に首を絞められた痕がないか鏡で確認する。

首はつるんとしており、何の痕跡もなかった。

「良かった」

もしも首に痕が残っていたら両親を心配させると思ったからだ。

するとふと視線の先にあった机に置き手紙が置いてあることに気付く。

「何これ」

見覚えの無い紙だ。
素早く取って文字に目を通す。

“アイリーンへ。
これを読んでいる頃、俺は戦地に行っている真っ最中だろう。
もう死んでる頃かもしれない。
だが昨日伝えたように無事帰って来ることが出来たら、俺との約束を果たして欲しい。必ずだ”

紙にはこれだけ書いてあった。

「約束?」

いつショーンと約束を交わしたのか。アイリーンは皆目見当がつかない。

記憶を辿ってみるも意識が途切れる寸前までのことしか覚えていない。

確かショーンは

「このじゃじゃ馬女め、人の話は最後まで聞け。
アイリーン今日呼び出したのは俺との……」

そう言われた所までしか覚えていない。

「うーん」

頭を抱えるアイリーン。
しばらく考えていると1つの結論に至った。

「そうか、そうだわ」

恐らくこのセリフの後、約束とされる言葉をショーンが言ったのだろう。

果たしてショーンはアイリーンに何を伝えたがっていたのか。

そう言えば昨日何度も「俺の話を聞け」と言われてきた。

しかし、アイリーンはショーンに秘技ナデシコを仕掛けようと虎視眈々と狙っており、話に聞く耳を持たなかった。

こんなことならば決闘する前にちゃんと聞いておけば良かったと後悔した。

「それにしても……」

もう1つの心残りを思い出す。

アイリーンはまたもショーンに敗れたのだ。

岩をも砕く秘技ナデシコを持ってしてもショーンに勝つことが出来なかった。
技を出した事で体はフラフラになり、あれ以上は戦えなかった。

「もうどうすれば良いの!」

そう言うとコンコンッと部屋をノックする音が聞こえた。
ドア越しに声が聞こえる。

「アイリーン今ちょっと入っても良いかしら」

母だった。

「えっあ!良いけど」

突然の訪問に戸惑うアイリーン。しかし、母はそんなこととは露知らず入ってきた。

「じゃあ入るわね」

母がガチャリとドアノブを開ける。
そして、ベッドに座っていたアイリーンの隣に座る。
すると途端に母は不安そうな顔で聞く。

「昨日、ショーンと何があったの?」

ズバリ聞かれてしまった。
母に聞かれて咄嗟に嘘をつく。

「何もないわよ。ただちょっと会いに行っただけ」

口が裂けてもショーンと死闘を繰り広げていたなんて言えない。
それがバレたあかつきには、また隔離病院送りにされてしまう。
それはなんとしても避けたかった。

「何もないことはないじゃない。ショーンはあなたを抱えてこの家まで来てくれたのよ」

「えーっと、そのー」

言い訳を考えていた。

「何でもお酒を飲みすぎて倒れたそうじゃない」

「えっ?」

この母の発言にはアイリーンも驚いた。
ショーンもアイリーンと同様に嘘をついていたのだ。
アイリーンはこれ幸いにとその嘘に乗っかることにした。

「えーと、あはは!そうなの、飲みすぎちゃって」

決闘していたことは絶対に言えない。

「そうなの。それにしてもあなた二日酔いは大丈夫?頭痛くない?」

「大丈夫よ。お母さん」

「じゃあ、今日もキャベツ農業に精を出してね」

すると母が立ち上がり、そのまま部屋を出ていってしまった。

「行っちゃった……」

手持ち無沙汰になったアイリーン。

「じゃあ行くか」

立ち上がり、ちょっと早いがキャベツ畑の様子を見に行った。

※※※

今日から国境近くで戦争が始まっているとは言え、アイリーンの故郷は平和そのものだった。

いつも通り、キャベツ畑の世話をしていく。

昨日までの戦々恐々とした日々は終わった。

穏やかな時間が流れる。

しばらく仕事をしていると可愛らしい声が聞こえてきた。

「ママー」

2歳くらいの小さな男の子だった。

「どうしたの?マイキー」

「キャベツ沢山ある~」

「そうね、沢山あるわね」

散歩中だろうか。両手を繋いで歩いている。

ふとアイリーンはその親子を眺めた。

「ママーママー青むし」

「きゃっ!マイキー早くそれを元に戻しなさい!ママは虫が大の苦手なの~」

「ちぇ~」

男の子は青虫を放してやった。

「良くできたわね。エライエライ」

頭を撫でられる男の子。

「エヘヘ……」

そうして親子は通りすぎていった。

「子供、か」

ふと、アイリーンも子供について考えた。
アイリーン自身子供は嫌いではない。寧ろ好きな方だ。

しかしながら自分は母親になってはいけないと思っている。

何故ならば、アイリーンには戦場で戦うという夢があったからだ。
その夢のためには妊娠、出産、子育てなど出来ないと思った。

こんな時、自分が女でなければ良かったと心底思う。

男であれば、子を残し殉職することも可能だ。

特に戦時となれば確実に妻を身籠らせてから戦にいくだろう。

その時、何故か知らないがショーンの顔が頭をよぎった。

ショーンもまた戦争に繰り駆り出されている男である。

ショーンも昨日は思い人と熱い夜を過ごしたのだろうか。

その時、胸がチクリと傷んだ。

「私、余計な事しちゃった」

明日、戦場で戦うという騎士に重傷を負わせてしまったのだ。
これはショーンの思い人からしたらどんなに心配させたことだろうか。

アイリーンは溜め息をついた。

「はぁ~私ってば何処までいっても独りよがりね」

アイリーンはそう言うともうこの事は考えないことにした。




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