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SIDE 隊長
しおりを挟む「僕達はまず嘘の情報を流した。買い物に出て、人の多い所でわざと僕を一人にしてもらって僕は独り言を言った。『あーあ。せっかく記憶喪失のフリをして潜り込んだのに、晶ってば溺愛しすぎて武器を手に入れる時間もないよ。愛用の銃さえあればな。でも隊長と連絡する手段もないし。困ったなー』ってね?勿論近くで晶達が見張ってくれてたけどね。」
シエルのその言葉は部下が報告した言葉と全く同じだ
「そして次に貴方達が、セイ達を攫って来るであろうここに、仕掛けを施しました。廃屋ですからね、使える部屋は限られている。晶の右腕が一人でここへ来て調べてくれました。」
右腕…?そんな報告…
「おや?晶に右腕が居るなんて思ってなかったんですか?これ程の男に、右腕がいない訳ないじゃないですか」
龍洞静流の馬鹿にした言い方に怒りがつのる
「でね?その右腕は榊って言うんですが、榊が言うんですよ。ダンスホールしか使えない様に手を入れときましたって。
本当晶の右腕だけあって有能な男です。」
まさか、地下の逃げ道を崩したのも、他の部屋の床が抜けたり異臭が酷かったのは、そいつが?
「心当たりあるみたいですね?榊のおかげで貴方にセイ達を人質にされない為の小細工をこの部屋の窓の向こうに取り付けました。
凄い光だったでしょう?」
あの光…やはりこいつが………
「まぁ、設置したのは私の兄弟…あぁ、貴方じゃないですよ勿論。吾妻穂高っていう最高の兄弟が駆けつけてくれましてね。合図を送るとスイッチを押してくれる事になってたんです。」
「じゃあ……何故あの時お前達は平気だったんだ!!」
「ああ。これをかけましたから。」
懐から出されたのはペタンとしたサングラス
「これ、特殊な素材で出来てるですけど、閃光弾とか使う時にかけると目を保護し普通に周りを見る事ができる物なんですよ。光が漏れて目に入らないように設計されててね。
近々他国の軍に売る予定の物なんです。」
「そんな物、シエルもそこの2人も持ってなかったぞ!!」
「気づかなかっただけでしょう?僕のここ、3人分ちゃーんと入れといたもの。あれ?もしかしてまだ気づいてない?僕が目を覚ましてからずーっと演技してた事やセイ君も旬君もとっくに目を覚ましていた事。」
シエルは、上着の袖を指さしながら首を傾げる
首を傾げたいのはこっちだ!演技だと!?
「わかってないんだね。まず僕は起こされる前からとっくに起きてたんだよ。そして起こされた時に起きたふりをした。
あんたに聞かれることは全て予想済みだったから、しず君が用意したセリフを喋るだけだった。
先ずはあんたに信用させて武器を確保する必要があったからね。
案の定、あんたは銃を渡してきた。
暴発や何か仕込まれてたら困るから直ぐに解体し点検した。
そしたらあんた、しず君を撃ち殺せって言ったよね?
そう言うのも予想してたから、妹の話を出した。
俺があんたに鎖に繋がれたままボコられた日、あんたは僕の目の前で妹を犯し生きたまま足の爪を剥がし、皮を剥ぎ、その肉に食らいつき血をすすった…
僕はショックから次の日には妹が殺された記憶を失った。
あんたは僕と再開してその記憶がどうなってるか気になってたはずだ。
だからわざと妹の話をしたんだ。本当は死んでるって知ってるんだけど…あんたには油断してて貰わないといけなかったからね。
まるで呼吸するみたいに嘘を平気でつくあんたには虫酸が走るよ。」
妹の記憶を思い出していたなんて……ただ橘晶達に絆されただけなら形勢逆転できたのに…クソっ……
「それから、あんたが今後の事を相談してくるのを待ったんだ。あんたは俺を自分のブレーンだと思ってるからね。
案の定、あんたはセイ君の体の一部を送りつけるか、犯されてる姿を撮って送りつけるかどっちが良いか聞いてきた。
馬鹿だよね。麒麟会会長が伴侶や仲間を攫われて部屋でじっとしてるなんてありえないのに。
どこに送りつけるつもりだよって感じ。
だからしず君が書いたセリフ通りに喋った。テレビ電話で何故恨んでるのか話し、僕が裏切り者だと教えろと。
あんたの恨みの理由なんてどうでも良かったんだ。ただ、僕達が無事なのと部屋の状況をしず君達に知らせる為にテレビ電話をかけさせた。
そして自然に僕がセイ君と旬君の側に行く為でもある。
その時のやり取り覚えてる?
あの時に、情報を流してたんだよ?」
シエルはクスクス笑う
あの電話のやり取りもこいつ等のシナリオだったと言うのか?
「まず最初の『大丈夫か?怪我は?』は3人の安否確認。
『記憶を失っていたというのは嘘か?』は、あんたが妹を失った時の記憶が無いままだと信じたか?と言う事を聞いてたんだ。だから『私には大切な人が待っているので貴方方を殺して帰らないといけないんです。』と答えたんだよ。
それから『あなたの大切なセイさんは、画像ではなくあなたの目の前で殺して差し上げますので早く来てください。』は、拳銃を手に入れた事とドア付近に寝かされた事を見せる為だった。」
まさか……あの会話にそんな意味があったなんて………
「でね?『光一さんも、旬さんに、痛い思いをさせずに死なせてあげたかったら早く来てください。』って言ったのは、旬君も無事、僕が守れる範囲に囲ったよーって伝えたんだ。
因みに、最後の地図も『届いたら急いでくださいね?』は地図が届いたらそれが突入の合図だよって意味だったんだ。
セイ君と旬君にはサングラスを渡した後だったからね。
しず君がこう言えば相手はこう考えこう言うだろうって脚本作ってくれたんだけど、全くその通りに進んでいってなかなか面白かったよ。」
「…じゃあ……最初から……ここに向かってきてたのか…?」
「ええ。念の為、3人にGPSを仕込み連れ去られて行く道を確認し、気づかれない程度の距離を保ち尾行しました。まぁ目的地が読んでた通りの場所で良かったですよ。」
「GPSは全て捨てたはずだ!!」
「いいえ?GPSはあなた達には取り出せません。」
龍洞静流はニヤッと笑い、抱きしめていた橘セイの下半身に手を伸ばした
「恋人や伴侶である者だけが触れることが許される所につけてありますから。」
「ちょっ…静流………」
顔を赤くしその手を止める橘セイは男にしては色気がある
「これでわかったでしょ?あ、因みに貴方が部下につけさせた盗聴器の存在は知ってましたよ。と言うか、侵入させてあげて盗聴器を付けさせてあげたんです。
監視カメラで一部始終見てましたから。
今日の会話もわざと盗聴器に向かって話してたんです。
セイ達が攫われたあと、乗ってきた車が使えなくなるのは予想の範囲内でしたから、近くに別の車も待機させてました。」
そんな……本当に最初から………コイツの掌で転がされてたと言うのか……
「会長、部下は全て穂高さんと警察に引き渡しました。警察は引き上げるそうです。穂高さんはこの廃屋にあった武器を車に積んだら一度こちらに来るそうです」
さっきの怖い顔をした男が部屋に入って来て龍洞静流に報告している
「わかった。種明かしは終わったからそろそろ始末するんだけど、穂高もするか聞いといて?」
「わかりました。失礼します。」
男は一礼して去っていった
「さて、貴方の部下は日本の警察に任せることにしたんですが、貴方は……私の仲間を傷つけた。」
穏やかだった空気が一転し肌に突き刺さる冷たい空気に何が起こったかわからなかった
俺に目線を合わせた龍洞静流の目は、仄暗く獲物を仕留めようとしている獣のようで、殺気に満ち溢れている
その視線だけで心臓が縮み上がる
「待て……まだ………傷つけてないだろ?……かすり傷一つ……ついてないじゃないか!!」
止めろ………俺を殺すのか?…………止めろ…………!!
「璃一は長い間妹を人質に取られ、殺しを強要された。そして妹を人間のする事とは思えないやり方で殺され、璃一自身も瀕死の怪我を負わされた。
セイは昔救った子供をお前の汚い欲の為に汚され殺された。お前に汚され殺される為に救った訳じゃないのにな。
旬だって、始めてスタンガンなんて使われた。実行犯が下手すぎて、スタンガンが当たった所火傷してるじゃねーか。何がかすり傷一つ付いてないだ。」
口調や纏う空気の鋭さに恐怖が湧く
「そんなの……そんなの知るか!!この世界はなぁ、弱肉強食なんだよ!弱ければ強い奴に捕食されるんだ!」
「へぇ??じゃあ弱い奴が悪いんだ?」
シエルがジッとこちらを見ながら首を傾げた
「…そうだ」
「そっかぁ……ねぇしず君、この人にチャンスをあげない??」
「チャンス?」
龍洞静流は驚いたような顔をする
打ち合わせのセリフってわけでは無いのか……
「この人と僕の一対一の真剣勝負。勝ったほうが負けた方を好きにできる。」
「璃一!!」
橘晶は眉間にシワを寄せ、まるで鬼のような顔をしている
「晶、僕……コイツだけは許せないんだ………でも簡単に死んでほしくもない…」
「璃一………お前の我儘は今回の件だけしか聞かない。これからの一生、お前には我儘を言わせないがそれでも良いな?」
「晶……うん、二度と我儘言わない。」
「わかった。静流、少しの間璃一の好きな様にさせてやってくれ。」
「仕方ないなぁ…今回だけだよ?最後は晶、お前が殺れ。」
「ああ。」
勝ったら……好きにできる……シエルに勝てば、俺は逃げる事ができる……
俺はそんな事を考えていて、橘晶と龍洞静流の会話を聞いていなかった
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