裏切りの蜜は甘く 【完結】

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悪魔の宴

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この日の天気は雲一つない快晴

総会の会場に選ばれたのは山奥にある龍洞静流が所有している別荘と言うには大き過ぎる洋館

鬱蒼と茂った木々が洋館をより一層重々しく見せている

普段全く使われていないはずが何処もかしこも新築の様に綺麗なままである

招かれた者達には一人一室与えられこの洋館に一泊する予定となっている

まず館に着くと全ての持ち物検査が行われた

X線検査は勿論、金属探知機や検査犬をも用いた徹底ぶりであった

拳銃やナイフ、危険ドラッグなどすべて押収された後部屋へ案内された

部屋はとてもシンプルでまるでビジネスホテルのようであった

ただビジネスホテルよりも広くクローゼットや小さめのキッチンも設備されていた

総会は15時からの予定だがそれまでは一度部屋に入れば館の中であろうと外に出てはいけないと説明を受けていた

14時45分

呼びに来た麒麟会の組員によって会場へと案内された





会場は地下にありまるでコンサートホールの様に舞台と客席に分かれており、舞台の両側の壁には大きめのスクリーンが設置されていた

舞台は幕が降ろされたままで中の様子は伺えないが、会場の至る所に麒麟会の組員が指定された席に座る招待客を監視している

今回の総会は今までと違ったものになる事は、場所の変更が伝えられた際に皆が分かっていたことである

だが通常の総会とどう違うのか迄知るものは居なかった



通常の総会では年間予定を話し合ったり、問題提議や会長の判断を仰ぐなど、事前に書類を提出した上でそれに乗っ取り進められるが今回は書類の提出が無く、その時点でも何が行われようとしているのか一同は戦々恐々としていた



麒麟会のトップに立つ龍洞静流が普段と違う事をしようとしている



それだけで、ここに集まる者達が恐怖を抱くのは十分な理由であったのだ




会場のドアが閉められ照明が落とされる






緊張が会場全体に広がり肌がビリビリとする感覚に東日本の大きな組の組長であるのにも関わらず震える者も居た


大きなブザー音が響き幕が上がる


舞台には医療ドラマでよく見る手術着を着た男達とベッドに寝かされた男

男には酸素マスクがつけられ生体情報モニタまで準備されている

男達の背後には大きなスクリーンがありベッドに寝かされている男が映し出されている

天井から吊り下げられたカメラ映像がそのまま映し出されているのだろう


右端にソファが並べられそこに会長の龍洞静流と茶髪の青年と橘組から抜けたはずの橘晶が座っている

その後ろにボディーガードの花房光一と誰も見た事もないまだ少年と言える風貌の男の子

司会席にはいつも通り喜多川旬が座っている



『お待たせ致しました。総会を始めます。』


喜多川の言葉で総会は始まった


まず初めに、西日本で起こった吾妻会の解散についての報告が行われた

吾妻会の解散については龍洞会長が噛んでいて、今後西と東が力を合わせ海外勢力に対抗する事となった

その為龍洞会長が新たに西のトップとなった吾妻穂高と再度五分の盃を交わし共に歩んでいくという誓いをこの総会で執り行うという

舞台袖から盃の入った杯を持ち現れたのは吾妻穂高である

吾妻穂高が会長を務める【鸞鳥会】といい、その名の由来は中国の麒麟に唯一対抗できる生き物として鸞鳥が出てくる所からつけられたらしい



『この度【鸞鳥会】の会長の職に付くこととなりました吾妻穂高です。吾妻会の解散そして再構築には龍洞会長の助言もあり早くに片付ける事ができました。
現在日本に他国勢が水面下で入ってきています。その事も踏まえ以前から協力関係ではありましたが、確固たる絆を結ぶべく盃を交わす事と致しました。
今後は麒麟会と鸞鳥会が手を取り合い補い合いながら他国へ立ち向かいたいと思っております。』


吾妻穂高のスピーチに大きな拍手が贈られる


『盃を交わす前に2人の人物をご紹介致します。龍洞会長の右隣の居られる方ですが、皆様ご存知でしょう。橘組元若頭橘晶さんです。現在龍洞会長直々にスカウトし龍洞財閥および麒麟会の仕事をお手伝い頂いております。
今回、龍洞会長と吾妻会長の希望により橘晶さんには龍洞会長の右腕の地位…すなわち副会長へと就任して頂く事と致しました。
そして五分の盃も一緒に交わして欲しいとの両会長の希望があり、本日3名による盃の儀式を行います。』

司会進行役の喜多川旬の言葉に会場にはどよめきが走る

それはそうであろう
普通五分の盃は対等な立場の者が交わすもので、副会長となる者が交わすものでは無いからだ

だが会場のざわめきは龍洞会長の言葉によって一斉に静まった


『もう一人紹介します。この青年は橘星といい、元は橘晶の従兄弟でしたが訳あって晶と養子縁組を行いました。現在は晶の秘書として龍洞財閥および麒麟会にその頭脳を惜しみなく提供してくれています。
そして晶を通じ知り合った俺達はこの度結婚する運びとなりました。
生涯を一緒に歩んで行きたいと思える最愛の彼にプロポーズも受けて貰え、義父である晶にも結婚の許しを得れましたので本日、皆様にご報告させて頂きます。』


会長のあまりにも突然の結婚報告に参加者は驚き口を開いたまま舞台を見ていた


『皆様、お初お目にかかります。橘星と申します。現在義父である橘副会長と共に、龍洞財閥および麒麟会で停滞していた事業について着手させて頂いております。
私の主な仕事は橘副会長の秘書とハッキング、医師免許がどれ次第GDr.としての任務にも着く予定となっております。
今後は公私共に龍洞静流を支え、より龍洞財閥と麒麟会が発展していく様できる事をしていきたいと考えております。
静流と夫夫となり、お互い支え合う事によって今まで以上に成果や結果を皆様にご提供できると思っております。
どうぞよろしくお願い致します。』


にっこりと笑う橘星は流石龍洞静流の伴侶と言えるだろう

その笑顔は反論を許さない、まるで女王の様な威厳と気品を持ち、見るものを平伏させる力を持っているようだった

そして橘星のスピーチ

停滞していた事業がすごい速さで動き出しているのは周知の事実
そして一定の時から龍洞財閥も麒麟会も業績が上がっている事も周知の事実だった

その数字を叩き出しているのがまだ少年の様なこの青年と副会長であったのだ

副会長の秘書だけでなくハッキングにも精通し医学の知識まで持っている

誰一人として反対意見など言える者は居なかった

確かに自分の息のかかった者を龍洞静流の伴侶にと思わない者はいない
だがどうやっても自分達が推薦できる人物が橘星ほどのスペックを持ってなどいないのだ
橘星よりも龍洞財閥にも麒麟会にも必要な人物を用意出来ない彼等に反対意見など言えるはずがないのだ

会場は大きな拍手で包まれた


その後簡単にではあるが3人の盃の儀が執り行われた


だがこんな和やかな雰囲気はこの時までであった


龍洞静流が用意したこの宴のメインディッシュはこれからなのだ



今後の方針等の話が進み一度休憩を取ったあと、会場は電気が落とされ真っ暗闇となっていた







『それでは本日最後の報告となります。白虎会系第一団体橘組は不正を行い解散した事は先日書面でご報告させて頂きました通りです。
本日は元橘組組長に責任を皆様の前で取っていただく事となりました。
皆様、前方のスクリーンをご覧ください。映っているのは元橘組組長です。
本日はGDr.と橘星さんのご協力の下橘組長が横領した金銭分、臓器を生きたまま取り出し販売する事と致しました。
既に買い手は吾妻会長が準備してくださっておりますので、摘出した臓器は直ぐに買い手のもとへと運ばれます。

そしてもう一件。今回龍洞会長の結婚が決まった際、老師会の方と櫻川財閥の会長と娘さんが婚約破棄を迫って参りました。
老師会の人間が何故櫻川会長と一緒に乗り込んできたのか。
龍洞会長は直様老師会と櫻川財閥の全てを調べるよう朱雀会系第一団体昴組若頭と星さんへ依頼しました。』



GDr.とは麒麟会のお抱え闇医者集団の事である

全員が医師免許と高い技術を持つ集団で、麒麟会の傘下へ医療行為を行ってくれる

しかし、会長からの命が下ればこういった臓器売買の為に執刀する事も少なくないのだ



『続きは俺が説明します。昴組若頭の春人さんと俺はまず櫻川財閥について調べました。
結果、櫻川会長が個人的に海外マフィアと手を組んでいた事が判明しました。日本に密入国しているマフィアの殆どが櫻川会長が手引した者達です。
しかし彼一人でそんな事が出来るのか疑問に思った俺達は櫻川会長と老師会の繋がりを調べました。
その中で、櫻川会長に手を貸して見返りを受けていた者が4名、海外から違法薬物の輸入斡旋をしていた者が5名と販売をしていた者が2名、人身売買が4名。
15名が麒麟会を裏切り続けていた事が判明しました。
中には麒麟会の情報を流していた者も居ます。』



会場は騒然となった


麒麟会の相談役は全員で30名
その半分が裏切り行為を行っていた
ましてや麒麟会の情報を流していたとなると、内容にもよるが麒麟会にとってダメージを受ける事となる


『そこで今回は元橘組橘組長だけでは無く、ついでに裏切り者を一斉に処分してしまおうという事になりました。
皆様、両側に設置されたスクリーンをご覧ください。』



舞台横の壁にあるスクリーンが明るくなり、数人の老人が映し出されている


『この方達が麒麟会を…龍洞静流を裏切った愚か者達です。龍洞静流を裏切った者がどういう末路を辿るのか…本日は皆様にしっかりとその目に、脳に、骨の髄まで焼き付けて頂こうと思いまして解体ショーを行うことと致しました。まずは舞台上のスクリーンをご覧ください。
これからGDr.と橘星さんにより元橘組橘組長を意識のあるまま移植できる臓器の摘出手術を行います。
この様子は別室に拘束している老師会の者も見れるようになっています。
皆様、目を逸らさずしっかりと脳裏に焼き付けてください。
貴方達も裏切ればこうなる末路なんですから。
あぁ、もし嘔吐しそうでしたら椅子の下にエチケットボックスを用意してますのでお使いください。』


喜多川は楽しそうに笑いながら会場を見回す

喜多川から見える前列の者たちの顔は強張り心なしか青ざめている様にも見えた



『では始めます』


手術着を着た老人が、手術着に着替えた橘星を解剖されるのをただ待つしかない男の元へ誘う


『今回摘出するのは腎臓・肝臓・小腸・角膜・最後に心臓です。生かしながらと言う事なので、素早く的確に処理していかなければ臓器が悪くなってしまいます。
第一執刀は私工藤が、第二執刀を星さんにお願いします。
手順は打ち合わせ通りに。』


『……はい。』


『大丈夫です。星さんの執刀技術は見事なものです。普段の勉強の成果を龍洞会長へ見せてあげてください』



橘星は龍洞会長へと振り返ると、龍洞会長はにっこり微笑んで頷く

その笑顔は【お前なら出来る】と物語っており招かれた者達は二人の絆を見せつけられたのだった








「ここ持ち上げてください」

「ガーゼ」

「電気メスください」



着々と臓器を取り出して行くサマを大画面で見せられている者達は、ただただ恐怖に襲われていた


麻酔を打たれてはいるが意識があり自身の体内を見せつけられ臓器を切り取られて行く

橘元組長は目を見開きただただ唸り涙を流すしかなかった

切り取られた臓器は処置をされ直ぐに鸞鳥会の組員が外へ運び出して行く

自分達も裏切れば意識のあるまま体を開かれるのか

会場の客席の恐々とした空気とは違い、舞台上で繰り広げられている会話は実習生に指導しつつも私語を楽しむものだった


「肺は摘出しないんですね?」

「この人煙草吸いまくりで肺が真っ黒だったんだよー」

「あ、写真あるから後で星君も見たら良いよ」

「ぜひ!あ、後で実際に開いてみても良いですか?」

「あ、それ良いね!なかなか見れるもんじゃないし!」

「こっち取れましたー」

「貰いまーす!」



解剖されている男にとってはこの状況こそ一番恐怖を駆り立てられるものはないだろう

生きている人間の臓器を罪悪感も持たずにまるで玩具を解体するかの如く切除していく

できることなら意識を飛ばしてしまいたいがそうもいかない



「摘出終了です。後は角膜と心臓ですね?」

「なかなか早いペースでできたね」

「星君の手際がいいからだよー」

「ありがとうございます、じゃあ消毒して開瞼器つけますね」


目の手術はよく怖いと言われている

何故なら見えている状態で手術を受けるからだ

状態を改善させるならまだしも、健康な角膜を取られる手術なのだからその恐怖は想像しがたいものがある


「さて元組長さん、言い残した事はある?」


橘星は男の猿轡を緩め優しげな笑みを浮かべて尋ねた


「ぁ……た……すけて…………」


緊張からか絶望からなのか口も喉も乾き掠れた小さな声で命乞いする男の声はマイクを通して会場へ響く


「それは無理だよ。貴方がしてきた事を考えたら誰も助けてくれない事くらいわかるでしょ?それに、生きていくのに必要な臓器はもう取っちゃったからね。
角膜を取った後、貴方に繋がった機械を全て停止すれば貴方は直ぐに死んじゃうんだ。
でもさ、自業自得だよね?貴方は自分の為に沢山の命を踏みにじって来たんだもん。
最期くらい人の役に立たないとね?」


橘星はそう言って猿轡を元に戻し男の目元に注射針を挿し込んだ

男は生命維持装置を停められるまでずっと掠れた唸り声を上げ続けていた


解体ショーという名の制裁がくだされ、舞台の上に残ったのは臓器を取り出された男の遺体

GDr.達は別室に捕まっている老師会の面々の手術へ向かった

龍洞静流を裏切った老師会の面々はまさか自分達も臓器を摘出されるなど思ってもいなった

舞台横の壁にあるスクリーンに映し出されているのは、麒麟会の泣き叫びながらも組員に取り押さえられ猿轡をつけられ恐怖に慄く50代~70代の老師会のメンバー15人である


一人一人手術台へ乗せられていく

暴れても直ぐに拘束されて身動きが取れなくなる


『続きまして、裏切り者の処分に移ります。先程星さんから説明があったように、この者達の裏切りは死に値すると判断が下されました。残りの老師会メンバーには既に事情は通達済みで連帯責任として老師会は解散となります。』


眼下に映る光景に会場は水が打ったように静寂に包まれている


『この15人の調査は既に終了しており、拷問をしてまで聞きたい情報もありませんので先程の橘元組長同様、臓器の提供で償って頂きますが、年齢も年齢の為提供できる部分が残念ながら少ないのです。
ですのでそういった方々には、GDr.が現在研究開発を行っている試験薬のモルモットになっていただきます。
この試験薬は狂犬病治療の新薬を開発中できた物で治療する薬では無いのですが……マウス実験をした所、映画に出てくるゾンビの様に近くにいた別のマウスを噛み殺し食べ始めたというものです。
襲われたマウスには狂犬病は移っておらず感染が広がる事は無いとの事です。
今回は臓器提供の者が5名、新薬を既に投与されている者5名と新薬を投与された者から逃げる者が5名、ただし新薬投与の5名中3名は経過観察の為手術台の上で大人しくしてて頂きます。』


多喜川の信じられない発言に会場はざわつき始める


『それでは始めてください』


舞台上のスクリーンには解剖していく様と鎖に繋がれ暴れ回り最早人間とは呼べない醜態を晒す元老師会の面々が映し出されている

舞台横の壁のスクリーンには逃げ惑う男5名と映画に出てくるゾンビのように襲いかかる男2名

まるで映画を見ているようなこの状況だがこれは現実なのだと、現実逃避など許さないと言わんばかりにスピーカーからは叫び声や唸り声が鳴り響く

その音と映像にもう胃も空っぽなのにも関わらず嘔吐する者が多かった













『皆様お疲れ様でした。老師会が無くなり、白虎会のトップが入れ替わる事になりましたので後日、新体制を発表いたします。
現在午後5時を少し回ったところです。夕食は7時半頃から大広間にて立食形式で行いますのでそれまでゆっくりとお休みください』








招かれた者達は知らなかった

まだ宴は続いている事に

やっと地獄の様な総会が終わったと思っていたのに











「さぁ、君の出番だよ。」








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