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SIDE 姐
しおりを挟む昨日楽しい日帰り旅行から帰ってくると、門の前には知らないスーツ姿のガタイの良い男が数人いた
うちの組員じゃないのは分かり警戒していると、麒麟会の会長直属の部下だと名乗った
何故麒麟会の会長の部下がこんな所に?と思っていると、会長が私に話がある為来ていると言う
麒麟会の会長と言えば容姿端麗、頭脳明晰、財閥のトップでもありとても紳士的だという、全てを兼ね揃えた男
そんな男が私に会いに来ている
直ぐに会うのかと思いきや、私が誰にも言わず旅行に行っていた為予定が狂ったらしくて明日の夜に会うらしい
今日は橘組に泊まり色々と組長や若頭と話す事があるらしい
多分矢沢組の事だろう
矢沢も私に意見なんてしなければ標的になる事なんて無かったのに、馬鹿な男だ
自室へ戻る際、会長が泊まるので麒麟会の組員が屋敷内の護衛にあたり、外をうちの組員が見回ると聞かされた
うちの組員は皆出払っているらしい
私も明日の夜呼ばれるまでは自室に居るよう言われた
スマホも何故か取り上げられたのに、へやから勝手に出れば、会長を狙った者として処分されると脅された
部屋からも出れない、組員を部屋に呼ぶ事も出来ない
これなら一泊してくるんだった
次の日の夜22時を過ぎた頃やっと麒麟会の組員が呼びに来た
通されたのは応接室
部屋に入ると真正面に少し彫りの深い切れ長の瞳を持った海外俳優のような美男子が座っている
その隣に何故か憎くてたまらないセイが腰を抱かれ座り、セイを挟むように晶が座っている
その晶の後ろには要、美男子の後ろには短髪のガタイの良い強面な男
右側のソファーにはマッチョなイケメンがタバコをふかしながらこちらを見ていて、その後ろに昨日玄関で待っていた麒麟会の組員
左側には眼鏡をかけた仕事の出来そうなサラリーマン風の男が座っている
どの男を見ても独特のオーラを放っている
あのセイでさえ…一番オーラを発しているのは正面に座る美男子だ
美しい容姿ながら人を寄せ付けない、逆に人を恐怖に陥れそうな雰囲気が出ている
そのせいかこの場がピリピリとした空気になっている
この人が会長で間違いないだろう
「そこにお座りください」
優しい口調でサラリーマン風の男が言う
その言葉に素直に従った
「まずは紹介します。貴女の正面に居る方が麒麟会の会長で右側にいる方が関西吾妻会、吾妻組の若頭です。失礼のないように。貴女の事は存じておりますので挨拶は結構です。貴女はこちらが聞く事に素直に、簡潔に答えてください。」
先程と違い冷たい眼差し、冷たい口調で話す男に私は少し焦り始めた
まるで今からまるで尋問を開始するといった口調なのだ
「貴女は現在ホストクラブを5店舗経営なさっているそうですが、経営状況はいかがですか?」
「えっ………今は……あまり思わしくありません」
突然店のことを聞かれ動揺してしまう
「2年ほど前から経営が悪化しましたよね?何故ですか?」
「それは…売上の良かったホスト達が辞めてしまって…」
「何故辞めたのですか?」
「そっ…それは……」
本当の事など言えず、どう答えようかと考えていると、正面から深いため息を吐いた音が聞こえた
「旬、30分だ。それ以上は待たない。」
会長が眼鏡の男にそう言うと、旬と呼ばれた眼鏡の男は困った様な顔をする
「会長、流石に全てを30分では無理です。」
「一問一答。答えなかったり嘘を付けば爪を1枚ずつ剥がしてやれ。全部で20枚あるんだし、後から生えてくるから問題ない。」
会長が口を開いたと思ったら怖い事を言う
「はぁ………聞きました?会長の命令には私は逆らえませんので、無駄に隠そうとせず素直に話しなさい。私達は何も知らずここにいる訳ではない。
貴女が隠そうとしても、嘘をついても分かるんですよ。真実を知ってますから。
今聞いているのは確認の為です。」
そう言い、眼鏡の男はアタッシュケースからニッパーのようなものを取り出した
「さぁ、答えてください。何故ホスト達は辞めたのですか?」
「……私の経営方針についてこれないと言って………」
「経営方針とは?」
「…客に貢がせて、持ち金以上に使わせて借金を作らせ風俗で稼がせる。その方が客も、風俗まで落ちたのだから…と通うのを辞めたりしないので………」
「それは今の経営方針でしょう。のらりくらりされると、30分で終わりません。ちゃんと答えなさい。」
「……答えています」
「は?」
私がそう言うと、眼鏡の男の表情が変わった
ヤバい!!そう思った時には遅かった
「ぃやあああぁぁああ"ぁ"ぁぁあ"あ"!!!!」
無表情で私の左指の爪をニッパーで剥いだ
「私は答えろと言ったんです。口応えしろとは言ってません。貴女は売上の良いホストに身体の関係を迫り、ホストの客の前で自分を優先させた。それだけで無くホストが気に入っていた客を借金地獄へ陥らせ、風俗へ落とした。
それに嫌気がさしたホスト達は店を次々に辞めていった。
辞めてからも尚も付き纏っていたそうですね?」
痛みと恐怖に震えながら首を立てに振る
「本当は潰れていても可笑しくない経営状態なのに今まだ5店舗経営なさっていらっしゃる。どこからお金が?」
「…主…主人から貰って…私が客として通ってます…」
「組長はどうやってお金を手に入れてるんでしょう?麒麟会への上納金を横領し、傘下からの上納金の着服ですか?」
ヤバい…本当に全部知ってるんだ…………
「は…はい……」
「それはいつから?」
「本格的にし始めたのは2年…前だったかと……」
「横領、着服したお金は何に使ってました?」
質問は止まることがない
「私の……店の補填と………組長の愛人達への生活費……それから…矢沢組を陥れる為に雇った外人に払うと聞きました…」
「その外人とは?」
「詳しい事は聞かされてません…私が矢沢を懲らしめたいって言ったら、佐山が任せろって……佐山と主人が話し合ったみたいで……
」
「ではその外人とは会ったことありますか?」
「ありません、佐山が関わるなと…あ、その時に佐山は関わって大丈夫なのかと聞いたら、元上司だから俺は大丈夫だと言ってました…」
「元上司?佐山は組長が拾ってきたんですよね?」
「はい、5年前に紹介をされて…………確か、死んだ知り合いの息子で身寄りが無いから面倒を見るって…」
「そうですか。では次の質問です。今回矢沢組の資産を全て麒麟会へ上納するという話でしたが、何故束から1万づつ抜き取ったんですか?」
「そ…それは……………」
言い淀むと、眼鏡の男はニッパーに手をかける
「お金が足りないと!!」
慌てて答える
「お金が足りない?」
「はい…佐山が、元上司に渡すお金が足りないから主人の目を盗んで1枚ずつ抜けと……」
「…貴女は佐山と特別な関係だったようですね。ではお金が抜かれていた事は組長は知らなかったんですね。
そのお金はもう佐山に渡したんですか?」
「いえ、私の部屋の隠し金庫の中に……あれは佐山にも開けれません。」
「そうですか。」
そう言うと眼鏡の男は会長へ視線を飛ばす
会長はゆっくりと頷いた
「では次の質問です。貴女はずっとセイ君に対して酷い扱いをしてきましたね。それは何故ですか?」
突然セイについて聞かれ怒りが込み上げてくる
「何故……?憎いからに決まってるでしょう?」
「憎いからと言って性奴隷にしても良いなどよく言えますね?」
は?性奴隷??
「そんな事言ってません!」
私が声を張り上げると、眼鏡の男はチラッと会長を見る
会長は「…嘘じゃないようだ」と言い溜息を吐いた
「ではなぜ憎いのですか?彼がここに来たのは5歳の時。5歳の子供が貴女に何をしたって言うんです?」
「やったのはセイじゃないわ。セイの母親よ。」
「セイ君の母親?」
「そうよ。セイの母親は私の実の姉よ。本当はこの組に嫁いで来るのは姉のはずだった…でも、姉は絶対に嫌だと言って私に押し付けた…………私には結婚を約束した人が居たのに……私の婚約者だった人は私と駆け落ちをする直前、姉に殺されたわ。
両親は姉をとても可愛がっていたから、姉の代理を立てて警察に出頭させた。婚約者を失いどん底に居た私は今の主人と結婚しなければならなくなった………」
眼の前が次第に歪んでくる
「主人は心に傷を負った私にとても気を使ってくれたわ。噂は嘘だったのだと思った…だから次第に心を通わせるようになった。そして晶が産まれた…あの時はまだ幸せだった………でも、またあの女が私の幸せを壊したのよ。」
「…何があったんです?」
「あの女がいつの間にかこっそりと主人に近づいて居たわ。主人は私の姉と知っていたのに…姉がした事を知っているのに姉に心を動かされて行った……そして………」
今思い出しても吐き気がする………
「私が気づいて事務所へ向かったら、地下であの女と主人と龍崎がお楽しみの真っ最中よ。あの女、私の顔を見て言ったわ『あんたに譲ってやった立場返してもらうわ。この二人もその方が良いって』って……二人は私が居る事にも気づかず行為を続け、後から駆けつけたお義父様とお義父様が連れてきた組員に捕らえられた…
そこから主人は沢山の愛人を囲うようになり、私は主人を受け入れる事ができなかった………」
爪を剥がれた指よりも心が痛い
もう何十年も経ったのに……
「その女に、俺はそんなにも似てますか?」
凛とした声に顔を上げるとセイと目が合う
「………その金色の目があの女と同じよ。お祖母様がイギリスの方でね、私達はクォーターだったの。姉はお祖母様の目を受け継いだ…貴方のその目を見る度に姉を思い出して……」
「それは恐怖だったでしょうね。いつもその女に見張られているみたいで。」
セイの言葉に私の涙腺は崩壊した
ボロボロ泣く私に、セイは言葉を続ける
「昔一度だけ、俺が高熱を出した夜貴女は一人で俺の部屋に来ましたよね」
私は素直に頷いた
姉と同じ瞳を持つ憎き子供だったけど、高熱に魘されていると聞き、晶も居なかったので様子を見に行った
「貴女は朝方まで寝ずの看病をしてくれました。兄ちゃんが居なくて心細くて、このまま死ぬのかなって思っていた時、貴女が来てくれて、汗を拭いて着替えさせてくれたり小さな氷を口に含ませてくれたり、魘されると頭を撫でてくれました。そして……『ごめんね…ごめんなさい、セイ』って貴女は泣いていた。」
ええ、そう。あの時セイはずっと目を瞑っていた
金色の瞳は見えなくて、姉を思い出さずにすんだ。眼の前に居るのはただただ小さな子が熱に苦しんでいるのだと、私に出来る事をしてあげたいと思ったのだ
「最初は夢だと思いました。でも朝起きて部屋の中に貴女の愛用の香水の匂いがしたから、夢じゃないってわかりました。
それから貴女の事を観察する様になった。それで分かったんです、貴女は俺を通して誰かに怯えその人を憎んでいるのだと。
組長や龍崎は貴女に異常な迄に気を使い貴女は何か問題を起こす度に彼等の反応を確認していた。」
「えぇ……セイの言う通りよ。でも何をしても彼等は私を咎めなかった。貴方に折檻を加えても…あの人が愛した女の子供なのに…自分の子供が殺されかけているのにあの人は私を問い詰めることもせず、自分も冷たくあしらった……セイ…今更なのは理解しています。貴方へのこれまでの仕打ち本当にごめんなさい。
許してくれとは言いません。貴方が望む処罰をしてください。殺してくれても構わない。
きっと会長も貴方が頼む事なら何でもしてくれるわ。」
「え??」
セイは驚いた顔をする
こんな顔初めて見たわね…同じ瞳を持ってても、似てるのは目の色だけで姉とは全く似てない……本当に愚かなことをしたわ………
「会長がセイを見る目…私を見る婚約者だった彼と同じ目をしてるわ。愛しくてたまらない、この人の為にどんな事でもしてやりたいって強い意思が感じられる。それに……セイ、貴方も彼が愛しくて堪らなかったあの頃の私と同じ顔をしてる。この世の誰よりも幸せだって思ってる時の顔。」
私がそう言ってフフッと笑うと、セイも私に笑みを見せてくれた
ああ…この子の笑顔は何て綺麗なんだろう……
この後、私の処分については保留となり私は部屋へ戻される事となった
私の部屋の隠し金庫に入れていたお金を引き取りに、晶とセイ、会長と会長のボディーガードが取りに来た
そしてセイがわざわざ私の指の手当をしてくれた
会長はそんなセイに溜息を吐いていたが…
この2人に会うのは最後かもしれない
そう思い畳に手を付き頭を下げた
「どんな理由であれセイを傷つけ、2人を離れ離れにさせてごめんなさい。
晶、私にとって貴方は私が幸せだった頃の証なの……必ず晶とセイは幸せになってね。
……こんな母親でごめんなさい。」
「……怖かったんだろ。セイの瞳が。それに自分が煽ったと言っても暴走しセイを殺そうとする組員達から、セイの命を守るには海外へ逃がす他アンタにはできなかった。
どうにも引っかかってたんだ。セイをどこにやったのか問い詰めた時、親父や他の組員は本当にどこの国に居るかさえ知らないみたいだった。
あれは、組員がセイを殺しに海外まで行くのを阻止する為誰にも知られない様にしてたんだろ?」
晶はジッと私を見た
「……そうよ。セイがあの女じゃないって分かってはいる、だから酷い事をしちゃいけない。この子だってあの女の犠牲者なんだって思うのに…あの女と同じ目を見ると恐怖心が襲ってきて…排除しなきゃって……大切な晶まで奪われてしまうって………」
「君………カウンセリング受けなかったの?」
「「え??」」
呆れた様な顔で私を見る会長に、晶と私の声が重なった
「婚約者が殺された時も、組長達が地下で戯れてた時も、君の心は深く傷ついたはずだ。晶達から聞いた君の行動と言動、君の話しを聞いただけで判断は難しいが、君はパーソナリティー障害と適応障害を併発してる可能性があると思う。
明日うちの医師を派遣するから診察を受けなさい。」
会長の言葉に私は開いた口が塞がらない
私が精神障害を起こしているというの?
「会長、母さん……いや、姐さんは病気なんですか?」
「多分ね。晶、本気で愛した者を殺され、殺したのは自分の兄弟で、自分の親でもある親が兄弟だけを庇って、自分は傷も癒えぬ内に無理矢理結婚させられて正気を保てる人っていないと思わない?
この人、下手したら晶が産まれる前から患ってるよ。
心の病気は怖いからね。早くカウンセリングを受けて治療すべきだ。
今日はゆっくり寝て明日医師に診てもらいましょう。」
会長はそう言って、部屋を出ていく
セイは私に一礼してからその背を追いかけた
「……母さん………もし病気だったんだとしても、俺は母さんがセイにした事は許せない。……けど……あの時本当に辛かったけど…セイを海外に逃がしてくれた事、今は感謝してる。ありがとう。」
私は何も言えなかった
感謝される事ではない
自分が蒔いた種だったんだから
私はその夜泣きつかれて眠った
あの幸せな日々を夢に見ながら……
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