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叶さんの楽屋に戻ると、頼さんが僕の荷物を大部屋の楽屋から移動させてくれていた

「お帰り。」

志乃さんが水の入ったペットボトルを渡してくれる

有難くそれを受け取り口をつけた

「もうそろそろカメラくるぞ。……彼方、髪乾かさないと風邪ひくぞ?」

頼さんは子供を見るような目で僕を見る

「時間なかったんですもん」

「彼方、こっち来い」

ソファーに座る叶さんに呼ばれ行くと、片手にドライヤーを持っている

家ではよく、ドライヤーをかけるのを面倒くさがる僕の髪を叶さんが乾かしてくれる

つい普段通り、叶さんの足の間に座り背中を預ける


ブオォォォォと暖かい風が流れ始め、優しい手つきで髪をすかれて気持ちがいい

「失礼しまーす!カメラ入りまーす!!」

後ろから大きな声がして振り返ろうとしたけど、まだ乾かし中の為叶さんに頭を抑えられ振り替えれなかった

叶さんは振り返ったのか「お疲れ様です」と返事をしている

「はい、次は皆さんお待ちかねの叶さんと相田さんにインタビューです!が、現在ドライヤー中だったんですね」

「あぁ、もうすぐ終わりますよ」

「わかりました!にしても、本当に仲良いですね」

「ふふふっ、ありがとうございます。」

「いつも乾かしてあげてるんですか?」

「いつもって訳じゃないですけど、家に居る時は大抵ですね。彼方って結構面倒くさがりなんで、風邪ひかないようについお世話しちゃうんですよ。」

頭の上で会話が繰り広げられている


ドライヤーが止まり、櫛で髪をとかれて終了した

「叶さんありがと」

頭を反らしお礼を言うと叶さんは優しい笑みをくれる

「どういたしまして。ほら、彼方も見てくれてる人に挨拶」

「ん。皆さんこんばんは~、相田でーす。」

体勢はそのままに軽く手を振る

「んー…彼方は既に眠くなってるね。」

「え?そうなんですか?」

「こんなゆるゆるな感じの時は大抵眠い時です。」

「大丈夫だよー?ちゃんと起きてる!」

若干ふわふわしてるだけ

「まぁ、初日でしたしね。明日からマチソワが続いて、25日はマチネの後は映画の方のお仕事でしたよね?」

「はい、25日はソワレがないので私達2人は映画の舞台挨拶へ行きます。」

叶さんに持たれたままの僕は、大きな胸に耳をペタリとつけてその会話を聞いていた

体の中で響く叶さんの声がいつもより低く聞こえて心地よい

「なかなかハードスケジュールですね」

「そうですねー、でも他のみんなも結構なハードスケジュールなので、お互い怪我だけは気をつけようっていつも話してますね。」

どんどん瞼が落ちてくる

ダメダメ…今はまだインタビュー中……

必死に目を開けようとするけど思うようにいかない


「……あれ?相田さん寝ちゃいました?」

カメラマンさんの戸惑った声が聞こえる

「ん?あらら……今日は相当緊張してましたから、終わってホッとしたんでしょうね」

クスクス笑う叶さんの声が耳に響いて気持ちがいい

「いやぁ~、貴重な映像、ご馳走様です」

「なんですかそれ」

2人して笑ってる

ちゃんと聞こえてるよ?

聞こえてるけど目が開かないだけ……




次に気づいた時には見知った天井が見えた

……マジであのまま寝ちゃったんだ……最悪だ……やらかした……

横を見ると、叶さんはまだ眠っている

その寝顔をじっと見つめる

切れ長の目は堀が深く瞑っていてもまつ毛が長く、きれいな肌に影を落としている

鼻筋も通っている高い鼻

薄い形のいい唇


……そういえば、映画のラストシーン

台本には【華月】が【咲夜】にキスをし、抱き抱えてその場を退場としか書かれていなかった

僕(【咲夜】)はあの時本当に意識朦朧としてたから知らなかったけど、この唇とキスしたんだ

僕にとってはファーストキス……その相手が叶さん……

ドクンッと心臓が大きく跳ねる

うわぁ……マジか……叶さんとキス……してたんだ……

撮影中、頬や額にキスされる事はあったけど……唇にも……


あの場面を思い出して顔が一気に熱くなる

ヤバい…いつも通りできるかな……

チラッともう一度叶さんの顔を見る

ドキドキドキドキ……心臓が煩い……ダメだ…兎に角落ち着こう



叶さんを起こさないよう、ゆっくりとベットから出た


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