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叶さんの自宅へ帰り、シャワーを浴びた後ソファに腰掛ける

叶さんが紅茶を入れてくれて、僕の隣に座った

2人で台本を読む


舞台は架空の海底遺跡『インペリオ』

戦の神に愛されていると言われたジュノーザ王によって小国を統一され、インペリオ帝国が建国した

海に囲まれた大陸はそれほど大きくは無かったが資源に恵まれ、友好国との貿易が盛んだった

インペリオ帝国は他のどの国よりも強く、そして高度な文明を持っていた

その国の防衛の要とされた主人公のジェイドは、戦が殆どない帝国で軍の指揮官を勤める一方、この帝国の姫ラーニャの護衛騎士を勤めていた

強く芯があり優しいジェイドに、ラーニャが思いを寄せる事は必然とも言えた

いつしか2人は愛し合うようになる

皇帝もそんな2人を認め、帝国は順風満帆であった

しかし彼らが結婚式を上げる1月程前から、地震が度々起こるようになる

結婚式が近づくにつれ地震の回数は増えていく

国民の中では、神が結婚を反対しているのではないかと囁かれる始める


ラーニャは結婚を辞めるべきなのか思い悩む

そんな時、神官のヴェルサが接触してくる

ヴェルサは神の言葉を聞く力があるとされる人物でラーニャはこの地震が神が結婚を反対しているからなのか、自分達はどうすればいいのかとヴェルサに相談する

ヴェルサは、神はこの結婚を反対などしていないと言い、不安に駆られる国民とラーニャの為に神は結婚に反対していないと広める


そして王族にだけこの帝国は姫の結婚式の後、海の中に沈むとも話した……

何故結婚式の後、正式には7日後の夕方、この帝国が海に沈むのかヴェルサは語らず、ヴェルサは姿を消してしまった

他国に逃げるにしても、帝国の国民全てを7日で逃がすことなど出来なかった

そして国民を文明が発達していない他国へ逃がしても、上手く生活する事など出来ず、ましてや膨大な人数を受け入れてくれる所など無い

友好国へ手紙を出しても返事が来るまでに6日はかかってしまう

皇帝は国民に、何も知らせない事に決めた





物語は結婚式の7日前から始まる



「ーーー彼方、そろそろ寝るぞ。」

ハッとして顔を上げる

大分集中して読んでいたようだ
しかしまだ半分も読んでいない


「あ……今何時ですか?」

「もう12時だ。明日は休みだけど休める内に休まないと、稽古が始まれば体力も削られるし、寝る時間も削られる。」

「……分かりました。」

まだもう少し読みたいけど、無理はしないよう約束させられている

2人でベッドに入り、『インペリオ』について少し話をする

「何処まで読めた?」

「まだ…半分も読めてません。」

「だよな、3 時間分の台本だし普通の台本と違って幕事に小説が書いてあるから読むだけで時間がかかる」

そう、この台本には脚本の元となった小説が所々書かれている

場面が分かりやすくなってはあるがなにぶん台本がぶ厚く読むのに時間がかかる

「明日は1日読み込まないとな。明後日から読み合わせが始まるから大体のイメージを掴んでおかないと。」

「ん……そう…ですね………」

叶さんと寝る時、いつも後ろから抱えられた体制で寝る

僕の寝相が悪いのと、朝になったら僕が叶さんに巻き付いて寝ている事が分かりそれなら最初からこの体制で寝る事になった

叶さんに抱えられていると、直ぐに睡魔が襲ってくる

この前叶さんに「のび太君みたいだな」と笑われた


「おやすみ」

フフッと笑う声が聞こえ、体に巻きついた腕に力が入った気がした
















「では今日から読み合わせを始めます。今日はまず1幕を読み合わせしますが、1度通してから情報共有等を行います。」

始まった読み合わせは初めから事細かに説明が入り、役者と演出家、舞台監督達の擦り合わせが行われた


それからは毎日が怒涛の忙しさだった


けど皆が結束し、アドバイスを送り合い話し合い、いい物が作れている実感がある


足の怪我も癒えリハビリも終わった

ただ怪我が治った今も僕は叶さんの家でお世話になっている

僕はつい台本にのめり込むと時間を忘れ食事や睡眠を忘れてしまうという事が今回発覚してしまった

1人で生活させたら直ぐに倒れてしまうと頼さんに言われ、最初は頼さん宅に居候する話が持ち上がった

しかし頼さんは志乃さんと結婚していて2人で住んでいる

そんな所にお邪魔するのは気が引けた

すると叶さんがこのまま家に居といて良いと言ってくれ、事務所からも僕が一人暮らしするよりは叶さん宅に居候する方が良いと言われ、居候を継続する事となった


舞台の公演日は12月20日~1月20日まで
全34公演を予定していて、場所は東京と大阪と福岡だ

映画の公開が12月25日

映画の完成披露試写会での挨拶は公開日の1週間前、12月18日に行われる

それに加え公開日に初日舞台挨拶があり、25日は午前中は舞台へ出演、午後~夜は初日舞台挨拶とタイトな予定になっている

ただどちらかと言うと、完成披露試写会が行われる前の方がタイトなスケジュールだ

雑誌のインタビューや撮影、映画の告知の為に番組への出演等稽古の合間を縫って叶さんとともに仕事をしている

初めての事尽くしで、叶さんにフォローしてもらいながら何とかこなしている

そして今日も女性雑誌の映画のインタビューと撮影だ………

しかも今回は『華月』と『咲夜』の絡みの写真を別冊の付録にするらしく、何枚もポーズをかえ撮影が行われる

密着する身体にいくら仕事と言えど恥ずかし過ぎる

必死に羞恥心を隠し、撮影に挑むも撮影が終わる頃にはくたくたになってしまった




そんな充実した毎日にストップをかけたのは、PEPの事務所に平野さん宛に届いた小包だった

まずうちの事務所所属では無い平野さん宛にうちの事務所に小包が届いた事から、スタッフが不審に思い、平野さんのマネージャーに相談した

マネージャーさんは直ぐにそれを警察へと持ち込んだ

何でも、『インペリオ』への出演が決まってからストーカー被害にあっているらしく警察に相談しているのだとか

何事も無ければ良いが…と思っていたが、小包の中身は脅迫文と猫の死骸だったらしい

脅迫文には、『公演を中止しなければ出演者の誰かが猫のようになる』と書かれていた

明らかな殺害予告に、警察の動きは早かった

この件はマスコミにも報道された為だ

平野さんに送られた今までの郵便物や、自宅付近の防犯カメラからストーカーは特定された

しかし何処へ雲隠れしたのか、現在警察は足取りを追っている



そして追い打ちをかけるように公演迄後1ヶ月という所で僕と叶さんが同棲していると週刊誌にすっぱ抜かれてしまったのだ

平野さんさんのストーカー問題が解決していない中のスキャンダルに、世間から注目を集めた

叶さんは、この業界に入ってから特別親しくしている同業者が居なかった事から、特に面白おかしく記事が書かれてしまっている

どうしよう………

頼さん達からは、事務所で今後どうするか話し合うから叶さんと家に居るよう言われた

マスコミが押し寄せてくる事が予想でき急遽、『インペリオ』に関わる者は休みとなった

グループLINEで皆に謝罪すると、『気にすんな!』とか『何ヶ月ぶりの休みだろう!めちゃ嬉しい!』とか『寝倒すぞー!』とか、返事が返ってきた

皆優しい……細井さんの件があった後は誰を信じて良いか分からなかったけど、このカンパニーの人達は信じれる気がする



「彼方、志乃が夜迎えに来るって。」


叶さんからそう告げられたのは、週刊誌にすっぱ抜かれた2日後だった

頼さんが運転する車に乗り事務所へ向かう

マスコミだらけだと思ったが誰も居なかった





「会議の結果、記者会見を行う事にした。包み隠さず、何故彼方が現在響と暮らしているのか話そうと思っている。」

事務所に着いた僕達はそう告げられた

「細井に拉致された事やその後の事も全てだ。警察からは捜査中として公表しないで欲しいと言われたが、此方としては細井を未だ逮捕できていない警察のケツに火をつける為にも全てを話そうと思う。
彼方に嫌がらせをしていた者は既に解雇され、ファンクラブではその時に報告済みだ。」

「永、全てを離すって事は、彼方にマスコミの前に出てあの時の事を話させるって事か?」

叶さんが社長を睨みつける

「……そうだ。我々が話すより、当事者の彼方が話す事によって世間は此方の味方につくだろう。
彼方には辛い事をさせる事はわかっているが、世間が味方につけば細井の情報も入ってきやすいと考えた。細井がまだ捕まらない為逃げているのか、未だに彼方を狙ってい隠れているのか分からない。
うちとしては早く細井を逮捕して貰いたい、その為には世間を巻き込まないと警察はその内捜査本部を解散するだろう。既に縮小されているからな。」

叶さんは難しい顔をして黙り込んでしまった

マスコミに全てを話す…

あの日の出来事だけじゃなく、いじめの事も……

「相田君は基本的に記者からの質問には答えなくても構いません。事件についての詳細は私達が話します。相田君には、相田君の身に起こった事だけを話して貰いたいんです」

僕の身に起こった事か……

「大野さん、記者会見は俺も出るんだろう?」

「勿論です。正直メインは貴方になります。今まで自分の懐に入れる者など居なかった響君が相田君と共に暮らしているのですから、何故響君が相田君を住まわせているのかなど記者からも質問が出ると思います。
記事には相田君を恋人として書かれています。
例え恋人ではなくても、マスコミは響君が同性愛者ではないかと勘ぐっています。」

「それで?事務所的にはどうしたい訳?」

叶さんは社長を見る

「PEPは恋愛自由だ。俺達が商品として扱ってるのは『俳優』としての叶響であって、プライベートのお前じゃない。プライベートで同性と付き合った所で『俳優』叶響の価値は下がらない。
ちなみにお前のファンからは、黄色い声が飛んでるぞ。」

「…黄色い声?」

「これですよ」

志乃さんが見せてきたのは#響 BL #叶 同棲愛 等とタグ付けされた呟きだ

『あの叶響が!!同棲愛!!』
『同じ女に奪われるなら可愛い男に奪われた方がいい』
『響のカッコ良さは同性をも虜にしたか』
『恋人君のお顔が見たい!!是非共演してイチャついてくれ!』

等の書き込みがされている

「「………………」」

僕も叶さんも言葉を失う

「最近、不倫やらおしどり夫婦の離婚やらで芸能界が大騒ぎだったでしょう?けどこの間、男性アイドルの2人が交際を発表したじゃないですか。あの記者会見で、若い層だけじゃなくて年配層にも同性愛が受け入れられてきているようなんですよ。今は差別する者の方が非難されつつありますからね。」

「へぇ………なるほどね。」

そう言って、また叶さんは口を閉ざした






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